真・恋姫✝無双 ~真田丸~   作:こば氏

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5話 疑惑と信用の狭間で

この状況に得心は得ていないが、理解は出来た。気持ちが落ち着いた所で先程は尋ね忘れていた、二人の呼び名について聞いてみる事にしよう。

 

「ところで先程から、お二方は違う呼び方をされておりましたが、それは真名と言うものでしょうか?」

 

「なに当たり前の事を聞いているのよ。やはり頭でも打った?いやまさか…でもそれなら真名がないのも……」

 

「詠ちゃん、どうしたの」

 

「月!この男から離れなさい」

 

賈詡殿は私に対しての警戒心を一気に強め、董卓殿に私から離れる様促していた。

私の先程の言動がこの状況を作り出したようだが、彼女が何に思い至ったのかは皆目見当も着かないので、ここは素直に尋ねる事にしよう。

 

「賈詡殿、真名にあまり詳しくないという事はここではそんなにいけない事なのでしょうか?」

 

「いけないも何も、真名は漢民族や漢民族と比較的親交のある民族には必ず付けられる名よ。頭を打って全てを忘れているならまだ安心出来るけど、あんたには真名という言葉の知識だけはある。」

 

「あんた、敵対している若しくはまだ漢民族とは親交の無い異民族なんじゃないの?」

 

「詠ちゃん、いくらなんでもそれは乱暴だよぉ」

 

「そんな事ない、ちょっと頭のおかしな行き倒れを装って私達の生活を調べに来たのかも」

 

望月から聞いた真名の知識が思わぬ方向に話を持っていこうとしていた。確かに大陸の者ましてやこの世界の者ですらない私だが、この二人に害しようなどとは露とも思っていない。これ以上話がこじれる前に止めなければ。

 

「賈詡殿のおっしゃる通り、私はこの国の者ではありません。私が住んでいた所はこの大陸を越えて、更に海を跨いだ日ノ本という国になります。ですが、私もなぜここに居るのか見当もつかず、この国をどうこうしよう等という邪な考えはありません」

 

「口ではなんとでも言えるわ。門の前で倒れていた時も鎧を付けておまけにあんな大きな槍を持っていたのだから少なくとも、そこら辺の兵士よりは武力はありそうだもの」

 

「私としては、信じてほしいとしか今はいう事が出来ません。誠もどかしくはあるのですが」

 

もう二人の良心に訴えかけるしか方法は無い。だがこの様な与太話を信じるという事は自分でもあまりないと思っている。もしこれで囚われる事となっても致し方あるまい。

元々終えたこの命だ。自分が生きると言う目的の為にここの者達を傷つけたいとは思わない。

 

暫く、黙って話を聞いていた董卓殿だが思案していたのが終わったのか口を開いた。

 

「詠ちゃん、私信じてみようと思うの」

 

「なんでよ月!」

 

「だって、仮に間諜だとしたら、お人好し過ぎるもの。嘘なんてつこうと思えば幾らでもつける筈だよ、素性も分からないのだから。真名の件だって態々自分から私達に聞いてきたし」

 

「確かに、それこそお人好しが服を着て歩いているような月に、お人好しと呼ばれるなんて間諜としてはやっていけなそうね。」

 

「へぅ、詠ちゃんそれは酷いよ」

 

そういって賈詡殿は、警戒と多少緩めてくれた。だがその言葉に腑に落ちないといった様子で月殿が頬を膨らませて抗議していた。

 

「月、むくれないの。幸村、一応は月の言葉を信じて投獄する様な事はしないわ。でも、信じてくれた月を裏切ったら絶対に許さない。その時は今投獄されな事を後悔させる様な目に合わせるわよ、忘れないで」

 

「はい、肝に銘じます。信じてくれて感謝致します。董卓殿、賈詡殿」

 

「べっ、別に私はまだ信じた訳じゃないんだからね。勘違いしないで」

 

 

 

「そういえば、幸村さんは真名について知りたかったんですよね」

 

話が一区切り着いた所で、董卓殿は当初の目的である真名について私に教えてくれた。

 

「真名と言うのは、その人個人全てを表す名とも言われます。ですので、本人が許していない者がそれを口にする事は大変無礼で、その事が元で命を奪われても仕方がないとまで言われます」

 

「そうなのですね、私の住む場所でも極々一部では真名という文化があった様なのですが、夫婦の間で交わす特別な名前と窺っておりました。ですが命まで取られるとは言っておりませんでしたので、似ている様で若干の違いがあるようです。恐らく元は大陸の方から日本に渡りそれが広まったと考えるのが妥当の様に思えます」

 

「まぁ、その可能性が一番高そうね。ところで幸村、あんたこれからどうするの?」

 

「正直、分かりません。気付いたらここに居たものですから」

 

国も時代も違うこの地で私に何をなせと言うのだろうか。守るべき真田も倒すべき徳川も無い近しい者も居ないこの世界で……

さすがの私も意気消沈してしまったが、その様子を見て董卓殿が一つの提案をして下された。

 

「幸村さん。良かったらですが、目的が決まるまでここで暮らしませんか?武の心得もあるようですし」

 

「それは……私は願ったりなのですが、宜しいのですか?私自身で言うのもの何ですが、こんな素性も分からない様な男に」

 

「幸村の言うとおりよ。私はそこまで信用できないわよ」

 

「私はあなたを信じると言いました。あそこに貴方が倒れていたのも何かの縁でしょう。困ったときはお互い様とも言います。遠慮なさらず頼って下さい」

 

そう言った董卓殿は性格も、容姿も違うが何処か茶々様と重なって見えた。目的が決まるまで御恩返しも兼ねて董卓殿の世話になる事にしよう。

 

だが、ここまで良くして下さる董卓殿に本当の事を言わずに世話になる事は出来ない。この事を伝える事で気が触れた者として先程の言葉を反故にされても栓無き事だろう。

 

「それでは、お言葉に甘えようと思いますが、その前に話しておきたい事があります。」

 

私は、お二人にこの時代よりずっと先の時代から来た事、そこで天寿を全うした事そしてその時代では二人をはじめこの国の人たちが歴史書として伝わっている事を伝えた。突拍子も無い事に二人は信じられないと言った様子だが、窺っていない二人の字を言い当てると賈詡殿はやはり間諜を疑ってきた。

 

「やっぱ、あんたって間諜じゃないの?でも今ここでそんな事言い出しても疑惑が掛かるだけで、なんの得にもならないし。あぁ、もうこんがらがってきた。まさかこれが狙い!?でも、こんな事ただの嫌がらせにしかならないし、気にするの辞めたらそこまでの話よね」

 

「詠ちゃん……もしかして幸村さん管輅って預言者さんの話に出てくる『天の御使い』なんじゃないの?」

 

「あの胡散臭い預言の?確かあの預言に出てくる御使いは白い布を纏っているって話だけどどこからどう見ても赤一色だったわよ」

 

「へぅ」

 

「なんなのですか?その『天の御使い』と言うのは」

 

「大したことじゃないわ。自称預言者の戯言よ。たしか流星が北の空に流れた時その御使いとか言うのがやってきてこの国に平和をもたらすとか何とか」

 

「月あまり不用意な発言はしないの。義勇軍とかなら良い旗印になるかもしれないけど、太守である月が御使いを保護したという噂が流れたら最悪国家反逆の罪に問われかねないわ。今でさえやっかみを受けているのに」

 

「ごめんなさい。詠ちゃん」

 

叱られた子犬の様に、落ち込む董卓殿。この様に優しい方でも疎まれる事もあるとは驚きだ。

 

「とりあえず、嘘をついている様にも、気が触れている様にも見えないから、さっきあんたの言ってた事は話半分に覚えておくわ。くれぐれも他の者に話しちゃダメよ。最悪、月の責任問題にもなりかね無いのだから」

 

「私の責任とかは気にしなくても全然良いのですが、私もこの話はあまり他の方にはしない方が良いと思います」

 

「私も、信じてくれると言ってくれたお二人にだから打ち明けたので、他の者にこの事を伝えるつもりは今の所はありません」

 

「そうですか」

 

「ところで、興味本位で聞くけど、その歴史書の中であたしはどんな風に伝わっているの?」

 

「類稀なる鬼謀の持ち主と伝わっています」

 

「へっ、へぇ……」

 

どことなく嬉しそうな賈詡殿を見ながらも内心私は焦っていた。

 

しまった、よく考えればこの話を聞けば、こう言う流れになる事も予想出来たはず賈詡殿は問題ないが、董卓殿は……

 

どうか気にしないで欲しいという私の願いはどうやら天には届かなかった様だ。

 

「あの、あの私は…?」

 

私は取り繕うと言った事が苦手だ。ここで変に嘘で誤魔化しても見破られてしまうだろう。

なるべく傷つけない言葉を選んで伝えよう。

 

「…何と申し上げればよいか、粗野な方だと伝わっております」

 

「へぅ」と発し、見るからに落ち込んでいく董卓殿を見て、それまで機嫌の良かった賈詡殿も激高し始めた。

 

「誰よ。そんな出鱈目を後世に伝えた不届き者は」

 

「ち、陳寿と言う方だった気がします」

 

賈詡殿の迫力に思わず、著者を伝えてしまった。

 

陳寿殿申し訳御座いません。

 

この世界に存在するか分からない、陳寿という人物に私は心の中で謝った。

 




月のセリフが圧倒的に少ない……

何か某主従の様な会話バランスになってる気がします。

ぐぬぬ、影が薄くならない様に上手く月の言葉を引き出さねばと思います。

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