真・恋姫✝無双 ~真田丸~   作:こば氏

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第1章 転生
4話 目覚め


夢を見ていた。

 

幼い頃に戻った私は、真田の郷をはじめ上田、安土、そして大坂……

 

様々な場所を只々駆け回っていた。走馬灯とはもっと色々な事が頭に浮かぶのかと思ったが案外そのような物なのだろう。

 

一通り周り終えた所で、私は再び今の姿へと戻っていた。そこは兄上とよく語り合ったあの橋。この夢も間も無く終わると感じた。

 

橋を渡り、門から出れば恐らく御仏の元に向かうのだろう。茶々様との約束を守る事が出来なかったのは悔やまれるが、もはや是非に及ばず。死の間際でこの様に未練がましくしていてはそれこそ「泰然となさい」と言われてしまうな。

 

そろそろ逝こうと一歩踏み出し、橋を渡り出そうとすると、前後から懐かしい声で呼ばれた気がした。

 

 

そこで私の意識は途絶えた。

 

 

……………

 

 

………

 

 

 

「…れ……くさま…ぇ……てお……ん」

 

「…う…です…き続き宜しくお願いしますね」

 

ふと、誰かが会話する様な音が聞こえ私の意識は引き戻された。

 

ゆっくりと瞼を開けると、そこには二人の主従らしき女性がこちらの様子を窺いながら話をしていた。

 

視界が段々とはっきりしてきた頃、主と思われる少女と目があった。少女は驚いた様子で数秒静止していたが冷静になったのか

 

「彼が目を覚ましたから、賈駆ちゃんを呼んできてくれますか」

 

と指示を出していた。

 

少女の言う、人名に聞き覚えがある気がしたが、どこで聞いたかまでは思い出せない。

確実に助からないと思ったあの状態からの覚醒と言う事態に思考が追い付いていない。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

物思いに耽る私に、少女が心配そうに尋ねてきた。体を軽く動かしてみるが特に問題は無く動いた。

 

「はい、特に不自由はありません。私はどの位眠っていたのでしょうか?」

 

「そうですか、御無事でなによりです。正確には分かりませんが私の家の前で倒れているのを見つけてから3日眠っていましたよ。」

 

家の門の前?私が倒れたのは安居天神のはず、それも周りを兵に囲まれていて私を運んで逃げる等到底できる事ではない。

 

さらに混乱する私と、その様子を見て少女が狼狽え始めた頃、バタバタと此方に近づいてくる足音が聞こえた。

 

「月!!あんた素性の分からない怪しい男と二人きりになるなんてどう言うつもりよ」

 

勢いよく扉を開けて入ってきた、恐らく呼ばれていた賈駆と思われる眼鏡をかけた少女は来て早々に私と話していた少女にそう捲し立てていた。

 

「へぅ、ごめん、詠ちゃん。でも、優しそうな人だよ」

 

その迫力に月と呼ばれた少女は、賈駆殿の勢いにたじろぎながら言い訳をしていた。

 

「そんなの結果論じゃない。もし行き倒れを装った族とか逃亡中の犯罪者だったら、月あんたどんだけ危なかったと思っているの」

 

月殿の言い訳も賈駆殿の怒りに燃料を継ぎ足しただけだった。

 

しかし、言い合いをする二人の会話をよくよく聞いていると賈駆殿は詠と呼ばれていた。これは一体どの様な……『真名』かつて望月から聞いたその言葉を思い出した。夫婦にしか教えぬと言っていた名であったな。二人が夫婦とは到底見えないが呼びに行かせた者の前には賈駆と伝えていたのだから特別な呼び名である事には変わりはなさそうだ。

 

そんな事を思っていると、賈駆殿の矛先はどうやらこっちに向き始めているようだ。

 

「あんた、月に何もしなかったでしょうね」

 

「詠ちゃん、いきなりそれは失礼だよ」

 

「どこの誰とも分からない奴なんて、油断は出来ないもの。あっ、私達をどうこうしようとしても無駄よ。こっちに向かう時、衛兵を集めておいたから」

 

そう警戒心を隠さず、私に伝えてきた。確かに賈駆殿がこちらにきて暫くしてから扉の向こうから数人の気配を感じていた。そういえば、現状を理解する事にばかり気を取られ挨拶をしておらぬな。こういう時こと泰然とせねば。

 

「これは、挨拶が遅れ大変失礼を致しました。私は真田 左衛門佐 幸村と申します。この度は倒れていた所を救って頂き、誠にありがとうございます。されど失礼ついでに窺わせて頂きます。こちらはどこになりますか?私は豊臣の落ち武者、大坂の周辺であれば、あなた方ご迷惑を掛ける事になってしまいます」

 

「あまり聞かない名ね。真田氏なんてあったかしら」

 

「あの失礼ですが、普段からその様に長い名前で呼ばれていたのですか?」

 

「いえ、普段は幸村と呼ばれております」

 

「そう、なら私達も幸村と呼ばせてもらうわね、私は賈駆よ。ところであんた何処かで頭でも強く打った?豊臣なんて豪族や野盗なんて聞いた事ないわ」

 

「幸村さん、私は董卓と言います。ほんとに具合の悪い所はありませんか?私も大阪という土地は聞いた事がありません。」

 

泰然にすると言ったばかりだが、二人の言葉に私は更に混乱した。今の時勢で豊臣を知らぬという事はまずありえない。

 

そして白銀の髪をした少女の名前が私は信じる事が出来なかった。かつての大陸の王朝『漢』、その王朝の終わりへの決定的な一石となった悪逆非道の大罪人の名こそが董卓。その人物を名乗るこの少女が同一人物だとは思えない。

 

そして先程は思い出す事の出来なかった賈駆と言う名。曹操率いる魏の軍師の一人、かつては張繍に仕えその智謀を以て、悪来と呼ばれていた曹操の親衛隊典韋を討ち取った鬼謀の持ち主の名だ。確かに目の前の賈駆殿も私がどの様な行動を取ってくるか一挙一動を見逃すまいとしている雰囲気が伝わってくる。

 

「ちなみに、ここは何処ですか?」

 

まだ冷静になれた訳ではないが確信を得て、私の身に起こっている事を理解するいや受け入れる為に場所を尋ねた。

 

「ここは天水になります」

 

「そして、ここの太守こそがこの娘、董卓よ」

 

やはり私の予想は正しいのだろう。ここは三国志に近しい世界だが私の知っているそれとはまた違う世界。

この目の前の優しい娘がいずれ三国志で描かれる様な人物へと変貌するのかは私の知る所ではないが、なぜ私がここにやってきたのかは考えねばなるまい。

 




1週間も間空けてしまいました。

自前のパソコンが壊れ、家族の共用パソコンを使用して作成してる為、今後もこの様に不定期に投稿する形と思います。

ところで、初の一人称。幸村の口調は変ではなかったでしょうか?
幸村は真面目なので言い回しを考えるのも中々大変だと痛感しています。
(まー君なら楽なのに、バカめ!!)

そして、この小説の真名の使用方法ですが、真名を許した者同士が同じ場所にいた時は許してない相手がその場所にいても真名で呼びますが、許していない者だけの場合は許した者の事も通名で呼びます。

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