名探偵コナン×ペルソナ5   作:PrimeBlue

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FILE.19 ラヴェンツァ7歳小学1年生

 10億円強奪事件から一週間が過ぎ、二月に入った。

 見上げれば、雲一つなく清々しいほどに青く澄んだ空。所謂冬晴れで、最高気温も適度に高い。口から漏れ出す白い息も鳴りを潜めてしまっている。

 

 そんな晴天の影響か、帝丹小学校の校庭ではいつもより元気の良い朝の挨拶が飛び交っている。もちろんそれは校庭だけに留まらず、廊下や教室の中でも。特に教室では友達同士が集まり、昨日放送していた番組のことや、今流行りのゲームがどこまで進んだか、昼休憩は外で遊ぼうなどといった話題が室内を活気立たせていた。

 

 だが、そんな朝の会話の輪に入らずに机に突っ伏している少年が一人。後頭部のピンと跳ねた毛が特徴的なその少年の元へ、綺麗に大中小の背を並べた三人の子供、元太、光彦、歩美が近寄る。

 

「おい、コナン! 昨日のアレ見たか!?」

「……んあ? アレって、何だよ?」

「仮面ヤイバーVS不死鳥戦隊フェザーマンですよ! 昨日のロードショーでやってたじゃないですか!」

「すっごく面白かったんだよ! 最初はすれ違いで敵同士になっちゃうんだけど、最後は仲直りして一緒に悪の総帥ニャンコホテプを倒したんだから!」 

 

 少年――江戸川コナンは心の中で溜息を吐く。中身が高校生である彼が子供向けの映画に興味を抱くはずもない。仮にコナンが本当に小学生だったとしても、それは変わらないだろう。なにせ、彼は生粋のシャーロキアンなのだから。昔から、テレビを見るより本に噛り付いているのが常であった。

 

 彼らの話を聞き流しつつ、一週間前の出来事を思い出すコナン。例の10億円事件のことについてだ。

 杉本の共犯者で組織に命を狙われていた広田雅美は、何者かによって連れ去られてしまった。だが、残されていた血溜まりが明らかに致死量を超えていたことからして、恐らく彼女は助からないだろう。警察は今現在も連れ去った者の捜索を続けているが、広田雅美に関しては死亡したものと判断している。

 

 広田雅美を殺害したのはあの黒尽くめの組織だろう。だが、あの広田雅美を連れ去った男。あの男の風貌は、巷で噂になっている怪盗団ザ・ファントムのリーダー、ジョーカーのそれであった。

 なぜ、怪盗団は助かる見込みのない彼女を連れ去ったのか? 改心のように、何かしら彼ら独自の助ける方法が存在するとでも言うのだろうか?

 

 ひとまず、それは置いておくことにしよう。コナンが注目しているのは、杉本が改心された時、怪盗団がその場に姿を現わさなかったことだ。もしかしたら付近に潜んでいた可能性もあるが、少なくともあの場で直接何かしていないのは確かである。

 ということは、改心する際は直接標的(ターゲット)と相対する必要はないのかもしれない。例えば、予め別の場所で洗脳を施しておいて、それが何かをトリガーにして効果を発揮するようにしていたとか。

 

 

 

 ……だとしたら、帝丹高校の校長が改心された事件での来栖暁のアリバイは、なくなる。

 

 

 

 園子が目撃した男は別の者からジョーカーと呼ばれていた。つまり、ザ・ファントムが複数犯で、明言している通り怪盗"団"であることは間違いない。ということは、帝丹高校で目撃されたそのジョーカーは、来栖暁が万が一自分に疑いが掛かった時のアリバイ作りのために用意した仲間――偽者の可能性が出てくる。なんせすぐ二階に有名な自称名探偵がいるのだ。それくらいの保険を用意していたとしてもおかしくはない。

 

 そう考え付いたコナンは、一週間前にポアロへ帰ってきた来栖暁に対してすぐに行動を起こした。

 

 

 ――いいから! 脱げって言ってるんだよ!

 

 

 恐らくだが、怪盗団は杉本の改心を行う過程で、コナンと同じく何者かが広田雅美の命を狙っていることに気付き、彼女を助けるために近づいた。だが、それは叶わなかった。

 あんな切羽詰った状況だ。広田雅美を連れ去ったジョーカーが偽者という可能性は低いだろう。とすれば、あの時見た左腕の怪我(・・・・・)を負っているはずである。

 

 だからこそコナンは、その傷を同じ箇所に負っていないか確認するために来栖暁の上着を脱がせにかかった。だが――

 

(…………やっぱり、アイツは白だったってことか?)

 

 そう、彼の左腕には傷はおろか、痕さえ残っていなかったのである。念のため、傷痕を隠すためのメイクなどが施されていないかも調べたが、それも違った。

 

 これはコナンが知る由もないことだが、暁は左腕に負った傷をペルソナ――イシュタルの力で治療していた。もちろん魔法ではない。回復に特化したイシュタルには、自然治癒を促進する能力を備わせていたのだ。魔法と同じく効力は低下しているが、あの程度の傷を治すには一晩あれば十分であった。

 

 一晩で傷を跡形もなく治すすべなど見当もつかないコナンは、自分の推理が間違っていたのかと暁=ジョーカーの疑いを薄めていく。

 

(くっそ~、絶対アイツがジョーカーだと思ってたんだけどなぁ……)

 

 自らの推理ミスの可能性に苛立ちを覚え、まるで金田一耕介のように頭を掻くコナン。彼と違ってフケは落ちないが。

 

 コナンとしては、歩美を助けてくれたことに関しては怪盗団に感謝の念を抱いている。

 だが、人の心というものは探偵であったとしても易々と看破できない、ある意味では究極のミステリーだ。コナンは心理と事実を元に推理する探偵である。故に、それを好き放題に弄ることができることの恐ろしさが人並み以上に理解できた。例え、人を救うためだとしても。だからこそ、怪盗団に対して憤りを感じ、執拗に彼らを追っているのだ。

 

 まあ、仮に逮捕できたとしても、洗脳によって犯罪を唆してはいないことから、その件で怪盗団の罪を立証することはできないが。恐らくは、帝丹高校の校長に対しての傷害の容疑でということになるだろう。

 

「フェザーマンの数の暴力で仮面ヤイバーが追い詰められるシーンは手に汗握りましたね~。あ、元太君達はフェザーマンの中で誰が好きですか? ボクはブラックファルコンです!」

「オレはイエローアウルだな!」

「わたしはね~、ピンクアーザス! コナン君は?」

「え? そ、そうだなぁ……う~ん(内容知らねえのに答えられっかよ!)」

 

 そんなこんなで映画の話で一名を除いて盛り上がっていると、朝の会の始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。

 

「はい、みんな席についてー!」

 

 教室に入ってきた眼鏡を掛けた女性――小林澄子先生は、生徒達が皆席に座るのを確認すると、にこやかに微笑んで口を開く。

 

「えー、江戸川君に引き続いてなんですが、うちのクラスにまた転校生が入ることになりました」

 

 教室中がザワザワとどよめき始め、一体どんな子かと皆が顔を見合わせる。

 

「それじゃあ、入ってきてー!」

 

 小林先生が声を掛けると、教室の扉がゆっくりと開かれた。入ってきた少女を見て、目を見開くコナン。

 

 

 白襟に青を基調とした色のワンピース。プラチナブロンドの長髪に蝶を象った髪飾り。

 

 

 

 1年B組に編入してきたその少女は、来栖暁の親戚と名乗っていた――ラヴェンツァであった。

 

 

 

「今日から新しくみんなのクラスメイトになる来栖ラヴェンツァちゃんです。えーっと、軽く自己紹介してもらえるかな?」

 

 黒板に彼女の名前を書いた小林先生に促されて、教壇の横に立たされるランドセルを背負ったラヴェンツァ。

 ラヴェンツァの見た目は北欧系外国人のそれだ。ほとんどの生徒が物珍しさから彼女に注目し、またその人形のような端麗な装いに心を奪われた。おめでとう、ラヴェンツァ。君は1年B組のほとんどの男子生徒の初恋の相手となった。

 

来栖(・・)ラヴェンツァです。どうぞよしなに」

 

 麗しい令嬢のようにワンピースのスカートの裾を摘まんで礼をするラヴェンツァ。なぜか苗字を誇張しており、澄ました顔にも関わらず妙に嬉しげに見える。

 

 自己紹介が終わり、お決まりの質問タイムが始まる。

 

「わたしは吉田歩美! よろしくね! ラヴェンツァちゃんって外国人さん? どこから来たの?」

「ポアロです」

「え?」

 

 多分、歩美はどの国から来たのか聞きたかったのだろう。ラヴェンツァの答えに、コナンはポアロなんて国があったら自分が行ってみたいと乾いた笑いを出した。

 

「そ、そうじゃなくてね、ラヴェンツァちゃん。吉田さんはどこの出身か聞いてるのよ」

「そうでしたか。出身はベルベットルームです」

「いや、だからどこの国それ?」

 

 意味不明な答えを返されて困惑する小林先生。後から「間違えました。スウェーデンです」と答えてはいたが、何をどう間違えたらそうなるのか。

 

「オレ、小嶋元太! 好きな食いモン何だ!? オレはうな重!」

「食べ物、ですか。暁お兄様の作ったカレーとコーヒーです」

「コーヒーが好きだなんて、大人ですね!」

 

 そばかすの目立つ痩せた少年――円谷光彦が顔を赤くさせて感嘆の声を上げる。

 

「当たり前です。私は子供ではありませんから」

「あ、はい」

「ところで、うな充とは何ですか? リア充という言葉の亜種か何かですか?」

「はい、他に質問したい子はいるかなー?」

 

 そんな感じで、意味不明な面を完全にスルーしつつ、ラヴェンツァへの質問が続いていった。

 

 小林先生も言っていたが、1年B組は少し前に毛利探偵の元に居候している江戸川コナンが編入したばかりである。が、直後に転校することとなった近藤という少年が引っ越してしまったため、その穴埋めも兼ねてまたB組に編入することとなったのだ。

 

 引っ越してしまった少年は、帝丹高校の校長改心事件で関係者として逮捕された近藤弘之の弟である。彼の家族は、押し寄せるマスコミに耐えかねて、数日もしない内に他県へと引っ越してしまった。親は校長と内通していたわけではないが、近藤が良からぬことをやっていたことには気づいていたらしい。しかし、何もしなかった。

 

 近藤はやったことへの責任を問われ、その親はやらなかったことへの責任を問われた。世間はただ巻き込まれてしまったその近藤の弟を、その家族の中の唯一の被害者として哀れんだことだろう。一方で、近藤の弟も家庭環境のためかあまり性格が良かったというわけではなかった。何とかしようとよく話しかけていた小林先生は彼が転校してしまって落ち込んでいたが、B組の生徒の大半はこれ幸いと喜んでいたものである。

 

 そんな情勢を、コナンは複雑な気持ちで眺めるしかできなかったわけだが……

 

「じゃあ、ラヴェンツァちゃんはそこの空いてる席に座ってもらえるかな?」

「分かりました」

 

 質問タイムが終わって、ラヴェンツァは示された空いている席に座る。コナンの右斜め前の席だ。コナンは頬杖を突きながらお行儀良く座っているラヴェンツァを観察する。

 

 そういえば、彼女は杉本が歩美を人質にした事件の現場にいた。しかも、堂々と杉本の前に出てきて、怪盗お願いチャンネルに書き込みがされていることを伝えていた。

 彼女が怪盗団に入れ込んでいることは以前ポアロで会った時の会話で分かっていることだが、なぜわざわざそのような真似をしたのだろうか? 野次馬が同調して結果的に杉本に精神的な揺さぶりをかけることはできたが、それが狙いだったとしても妙である。

 

 その点は気掛かりではあるが、それとは別にコナンが今一番気にしているのは、彼女が子供にしては肝が据わりすぎていることにある。見た目に似つかわしくない大人びた口調もだ。

 

 もしかすると、自分と同じように例の薬を飲まされて……

 

(ハハ、まさかな)

 

 多分、ただのませた子供だろう。彼女がいつから日本に住んでいるかは知らないが、平和ボケして子供を甘く育てがちな日本と違って、外国では子供に対して早い頃から精神的自立を促している。恐らく、大人びているのはそのためだろう。いつもの癖で考えを巡らせていた思考を、そう結論付けて留めるコナン。

 

「何だよコナン。あの子のことじろじろ見て」

「もしかして、コナン君。彼女に一目惚れしちゃったとか!?」

「えー! そうなの!? コナン君!」

「バ、バーロー! んなわけねぇだろ!」

 

 コナンはからかってくる元太と光彦、問い詰めてくる歩美から顔を背けてあしらった。

 そんな彼らの会話を耳に入れつつ、横目で様子を伺うラヴェンツァ。思い出されるのは、先週のポアロでの会話だ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「じゃーん!」

 

 時は遡って、喫茶店ポアロにて。

 満面の笑みで両手に持った背負い鞄を掲げる梓。いかにも丈夫そうなそれは、暁どころか日本に住んでいるほとんどの人間が使ったことのある鞄――

 

 

 そう、ランドセルだ。

 

 

 ランドセルを見せつける彼女を呆然とした様子で見る暁達。

 

「なんですか、その鞄は?」

「何って、ランドセルだってば」

「ほう、ランドセル。中々良いデザインをしていますね。暁お兄様への贈り物ですか?」

「え゛? 違うよ! ラヴェちゃんへのプレゼントに決まってるでしょ!」

 

 ランドセルといえば、外国ではファッションアイテムとして一部で人気らしいが、ここは日本。梓がラヴェンツァにそれをプレゼントしたということは――

 

「来週から、ラヴェちゃんも学校に通えるようになるのよ!」

 

 何でも、妃弁護士と相談して、梓が保護者代理として手続きをしたらしい。

 なんてことだ。突然の衝撃発言に、暁は眩暈を覚えた。対して、ラヴェンツァは渡されたランドセルを抱えて目を輝かせている。

 

「まあ! 私も暁お兄様と共に学校へ行けるのですか!?」

 

 どうやら、小学校ではなく暁と同じ帝丹高校に通えると思っているようだ。

 

「う~ん、ごめんね。暁君と同じ学校は無理かなぁ。ラヴェちゃんが通うのは帝丹高校じゃなくて帝丹小学校だから」

「なぜ高校へ行けないのですか?」

「なぜって言われても……ラヴェちゃんまだ小さいし」

「私はこのようなナリをしていますが、見た目通りの子供ではありません。こう見えても、長い時を過ごしてきているのです!」

「へー、そーなんだー、すごいねー」

 

 必死に自分が子供ではないことを伝えようとしているラヴェンツァだが、梓は生暖かい眼差しを向けてそれに取り合おうとしない。いきり立ったラヴェンツァがまた口調を乱しそうになったその時、梓の携帯のバイブが鳴った。

 

「あ、電話。学校からかな?」

 

 梓はエプロンのポケットから携帯を取り出して、電話に出るためスタッフルームへと引っ込んでいった。梓がいなくなって、顔を見合わせる怪盗団の一同。

 

「ラヴェンツァ殿が、ランドセル背負って、しょ、小学校に……ブハッ」

 

 ランドセルを背負っているラヴェンツァの姿を想像して、思わず噴き出してしまうモルガナ。しかし、そんな彼にラヴェンツァが冷たい視線を送る。

 

「……久しぶりに処刑をしたくなりました。ですが、ここにはギロチンがありませんし、ホームセンターとやらでチェーンソーでも見繕ってきましょうか」

「ごめんなさい」

 

 彼女はペルソナを合体させる際、ギロチンを使った公開処刑――何がどうなってそれで合体になるのか説明できないが――を用いていた。そのギロチンが不調の時は、どこからともなくチェーンソーを取り出して処刑を行っていたのだ。暁も今では慣れたものだが、初めて見たときはさすがにドン引きした。

 ベルベットルームには他にも客人がいたらしいが、彼らも似たような経験をしたのだろうか。だとしたら、その彼らも苦労したに違いない。もっとマシな方法を新たな客人が現れた時のために用意しておくべきではなかろうかと、暁はランドセルを抱えているラヴェンツァをスマホで撮りつつ考える。

 

 そこで、ふと思い付く。そういえば、帝丹小学校はあの毛利探偵事務所に居候している江戸川コナンが通っている学校のはずだ。となると、これは丁度いいのかもしれない。

 

「つまり、私に江戸川コナンの動向を見張っていて欲しいと?」

「そうだな。子供とはいえ、怪盗団の正体に最も近づいているのはアイツだ。アキラの傷痕の件で疑いが限りなく薄まっているだろうが、見張りを立てておいて損はないだろう」

「……仕方がありませんね。そういうことであれば、小学校に通うことにします」

 

 心底不満げではあるが、何とか納得してくれたようだ。ぶっちゃけて言えば、コナンの見張りはついででしかないが、文句を言わずに学校に通ってもらうにはそう理由付けする他ないだろう。ラヴェンツァのような見た目子供が学校に通わず喫茶店に入り浸ったり街中を歩いているのは変に悪目立ちしかねないのだから。

 

 こうして、ラヴェンツァは帝丹小学校に通うことになったのである。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 転入生ラヴェンツァの紹介を主とした朝の会が終わって、一時限目が始まった。

 一時限目は道徳。せっかくだからと、ラヴェンツァのために皆で校内を案内することになった。しかし、自己紹介でも薄々感付かれていただろうが、その案内によって彼女が色々と浮世離れしているちょっとおかしい少女であることを皆は知ることとなる。

 

 理科室に行けば――

 

「ここが理科室だぜ!」

「ほう、ここで電気椅子処刑を行うのですか?」

 

 図書室に行けば――

 

「ここが図書室です!」

「なるほど。武器庫も完備されているのですね」

 

 体育館に行けば――

 

「ここが体育館……」

「どこに雪の女王の仮面があるのですか?」

 

 音楽室に行けば――

 

「こ、ここが音楽室だよ」

「音楽ですか。歌はお姉様方より自信があります。せっかくですから、一曲披露しましょう」

 

 と言って、長い鼻の唄という変な歌を歌う始末である。「皆さんもご一緒に」と言った時にはほとんどの者が遠慮して首を振った。ラヴェンツァの声は透き通るように綺麗であったが、歌はお世辞にも上手いとは言い難いものであった。約一名、音痴仲間が増えてほんの少しばかり嬉しい気分になっている者がいたが。

 

 そして、給食の時間にコーヒーを要求し出す頃には、皆が彼女の言動や行動をスルーするようになっていたのである。

 ラヴェンツァはすごく可愛いけど、ものすごく変な子だ。そんな認識が出来て、皆があまり彼女に近寄ろうとしなくなるのに、そう時間はかからなかった。一方で、彼女はそれを特に気にした様子もない。というよりも、なぜ変な目で見られているのか分かっていないようだ。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、放課後の時間となった。

 

 1年B組の生徒達は妙に疲れた顔付きで帰宅の準備を始めている。そんな中でも仲の良い者同士で声を掛け合って放課後のことについて話しているが、ラヴェンツァに目を向けても近づこうとする者はいない。

 

「ねえ、ラヴェンツァちゃん! 明日の放課後って空いてる?」

 

 そんな孤立気味なラヴェンツァを気にしてか、吉田歩美が明るい口調で彼女に声を掛けた。

 

「……どうでしょう。特に用事はないと思いますが」

「じゃあ明日、わたし達少年探偵団と一緒に探検に行こうよ!」

「探検、ですか?」

 

 この少年探偵団を名乗る歩美・元太・光彦の三人組。これにコナンも入っているらしいが、彼らは杉本の事件にも居合わせていた。しかも、誘っている本人である歩美は人質にされた張本人である。活動を続けてことからして、全く懲りていないらしい。

 

「ボク達、この前も古びた洋館を探検しに行ったんです。実はそこである事件に巻き込まれちゃったんですけど、ボクら少年探偵団が見事に解決したんですよ!」

(解決したのはオレだっつーの)

「それでね、また不気味な屋敷を見つけたから、そこへ探検しに行こうって話なんだ!」

「もしかしたら、オタカラが見つかるかもしれねーぞ!」

 

 興奮気味の三人と、呆れた顔でその様子を伺っているコナン。オタカラという言葉に少し反応しつつも、ラヴェンツァは「ふむ」と腕を組んだ。

 

「それで、その屋敷というのは?」

「うんとね、二丁目二十一番地の『えとう』さんってお家!」

「えっ」

「屋敷中怪しげな本で埋まってて、たった一人で住んでた少年も化物に食べられちまったって噂だぜ。今は誰も住んでないんだってよ」

「それにしても、カタカナ混じりの苗字なんて珍しいですよね。ボク初めて見ました」

 

 コナンは事前に知らされていなかったのか、話を聞いていく内にどんどん顔色を悪くさせていく。

 

「お、おい……その家ってまさか――」

「なるほど、分かりました。少し興味があるので、私も一緒に行きましょう」

「ホントに!? じゃあ明日の放課後、家にランドセル置いたら米花公園に集合ね!」

 

 ラヴェンツァの返事を聞いた歩美は、嬉しそうにはしゃいで教室を出ていく。元太と光彦も彼女に続く形で教室を後にしていった。

 

「どうしたのですか? 顔色が悪いですよ」

「え? あ、いや、なんでもないよ……」

 

 コナンはぎこちない笑いで誤魔化したが、目が泳いでいるし何かあるのは誰が見ても明らかである。ラヴェンツァはそれに訝しげな目を向けつつも、「お先に失礼します」と開いた引き戸を潜って昇降口へと向かっていった。

 

 

 

「…………それって、オレん家じゃねーか!」

 

 

 




恐らくですが、次回も遅れるかなぁと思います。
まあ、今まで一週間毎に投稿できてたことが奇跡みたいなものですから!

ゴールデンウィーク? 私の認知には存在しませんねぇ。







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