名探偵コナン×ペルソナ5   作:PrimeBlue

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FILE.18 その後の顛末

 翌日、まだ日も出ていない早朝の時間帯にポアロへと帰宅した暁。もちろん、モルガナも一緒だ。

 既に梓が店の準備に取り掛かっている頃だろう。暁はドアベルを鳴らさないよう静かに玄関の扉を開いた。

 

「……あ、暁君! もう、ラヴェちゃん置いてどこ行ってたの!? 心配したんだから!」

 

 案の定、出迎えた梓にひどく心配された。カウンターから飛び出てきてパタパタと暁の方へ駆け寄る梓。

 昨日の出来事を正直に伝えるわけにもいかないので、暁は友人の家に泊まって寝坊したと誤魔化した。

 

「お泊り? ってことは、男友達ってことだよね? 女の子の家じゃないよね? ……そっかぁ」

 

 梓は心底安堵した様子で胸を撫で下ろす。無事に帰ってきたのはもちろん、風当たりが強いであろう暁に蘭や園子以外の友達が出来ているということを喜んでくれているようだ……念のため、後で三島と口裏を合わせておいた方がいいかもしれない。

 

「でも、そうならそうと連絡してくれないと。ラヴェちゃん一人なんて可哀想でしょ? すっごく寂しそうにしてたんだから」

「してません」

 

 梓の肩越しに、いつも通り隅のカウンター席に座っているラヴェンツァの姿が見える。顔はいつもの澄ました表情をしているが、その大きな瞳は不満たらたらであることをこれでもかと示していた。

 

「……まあ、今回は仕方がありません。暁お兄様は私にスマホを貸したままなことを忘れていたみたいですから」

「え、そうだったの? それじゃあ、連絡取ろうにもできないよね。ポアロの電話番号なんて覚えてないだろうし」

 

 これがカロリーヌなら問答無用で警棒で滅多打ちにしてきていただろうが、ジュスティーヌの悠々たる性質も持ち合わせているラヴェンツァは理不尽に怒ろうとはしない。有難いことだが、毎日のように尻を蹴られていた頃を思い出すと、何となく寂しい気持ちになるのはどうしてだろうか。そんな雑念が浮かんできた暁であった。

 

 

 積もる話はひとまず置いておいて、暁はカレーの仕込みに取り掛かろうとする。

 

「ふ、あぁ~……」

 

 すると、傍らにいた梓が顔を手で覆って欠伸をした。もう何年も朝早くからポアロで働くという生活をしてきている彼女にしては珍しい。思わず、寝不足なのかと聞く暁。

 

「え? ああ、うん。暁君、昨日閉店時間になっても帰ってこなかったから、心配であまり寝られなかったの。ほら、昨日事件があったでしょ? またヨーコさんの時みたいに首を突っ込んでるんじゃないかと思って……」

 

 梓は眠そうに涙交じりの目を擦っている。

 これは申し訳ないことをした。準備の方は自分がやっておくから開店時間まで仮眠を取っていてくれと、暁は梓を気遣う。

 

「……うん。ごめん。じゃあ、ちょっと仮眠取ってくるね」

 

 梓は間延びした口調で暁に謝り、スタッフルームの方へと覚束ない足取りで引っ込んでいった。

 自分のことのように心配してくれる彼女に対して本当のことを話せない暁は、心の中で謝りつつ開店の準備に取り掛かり始めた。

 

 

 ルブランカレーの仕込みをしていると、梓がいなくなってこれ幸いとばかりにラヴェンツァが昨日の事件について話し始めた。

 

「……と言うわけで、怪盗お願いチャンネルの書き込みを利用して杉本のシャドウを出現させたのです」

「なるほど。そういえば、ワガハイ達もメメントスに標的(ターゲット)を出現させるために怪チャンの書き込みを予告状代わりにしていたな」

 

 ラヴェンツァは杉本の改心を確認した後、暁が戻ってくるのをしばらくの間待っていた。しかし、一向に戻ってくる様子がなかったので、仕方なく先にポアロへ帰宅したのだ。彼女はベルベットルームの住人なだけあってシャドウの気配などを感知することはできるらしいが、モルガナのように大まかな居場所を探知することはできないらしい。そのため、暁達の元へ駆けつけるということができなかったのだ。

 

「さあ、次はマイトリックスター、貴方の番です。あの後、何があったのですか?」

 

 暁は、無事に杉本のオタカラを頂戴したが、後からやってきた彼の共犯者達が仲間割れをしだしたこと。その内の一人である広田雅美――改め宮野明美には事情があったこと。テキーラとウォッカというコードネームを持った男達の所属する組織から、妹を助け出すために彼女は事件を起こしたことを話した。

 その後、組織の者達に殺されそうになっていた明美をモルガナカーに乗せて逃げた暁。しかし、その先で明美は恐らく組織の者による狙撃を受けて生死の境を彷徨った。校長のオタカラである霊薬を使って何とか事なきを得たが意識が戻る様子がないため、病院へ運ぶために再びモルガナカーを走らせた。

 

 そして、運良く受け入れてくれる病院――正確には診療所を見つけて、そこの女医に明美のことを任せてきたのである。まさか、その女医が彼女であったとは思いもしなかったが。

 

 暁はカレーのルーを混ぜながら、昨日診療所を見つけた後のことを思い出し始めた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 医者だという女性に連れられて、杯戸町の外れにある小さな内科診療所を訪れた暁。その背には、明美が背負われており、モルガナもその後を付いてきている。

 

「ちょっと待ってて。鍵開けるから」

 

 女性は武見内科医院と書かれた表札が飾られている裏口まで暁を案内すると、鍵を使って扉を開けた。そして、中に入るなり慣れた様子で照明スイッチの方へと手を伸ばして屋内の電気を点ける。

 そうして、彼女は続いて入ってきた暁の方へ振り返った。明るくなってはっきりと見えるようになったその顔を見て、暁は驚きのあまり背負っている明美を落としそうになった。

 

 

 

 暁の目の前に立っていたのは、元の世界で散々お世話になった町医者の武見妙であった。

 

 

 

 彼女が作った薬や湿布などは、現実世界はもちろん、こと認知世界においては現実離れした効能を発揮して怪盗団の助けとなっていた。退廃的な雰囲気とパンクな格好を好んでいるところからして、あまり人当たりが良いというわけではなかったが、新薬を開発して難病の少女を助けた――本当の意味で患者と向き合うことができる医者だ。

 

「……何、ぼうっとして。一目惚れでもした? 悪いけど、私年下は興味ないのよね。それに、背負われてる彼女が可哀想なんじゃない?」

 

 じっと見つめている暁をからかう武見。慌てて、暁はそういう関係ではないとかぶりを振った。

 

「フフ、冗談に決まってるでしょ。って――」

 

 武見は微笑を返したが、暁の足元にいるモルガナを見つけて目を丸くする。

 

「……ちょっと、ここは動物病院じゃないんだけど?」

 

 モルガナに目をやる暁。仕方がないので、しばらく玄関で待っててもらうしかない。暁の言いたいことを理解したモルガナは、一鳴きすると玄関前に大人しく座り込んだ。

 

 

「それで、患者はその背負われてる彼女でしょ? 名前は?」

 

 診察室に行く途中で、武見からそう聞かれる。モルガナも言っていたが、彼女の偽名である広田雅美では、後々警察の捜査に引っかかる可能性が出てくる。そう考えた暁は武見の問いに対して、彼女の名前は宮野明美だと、本名の方を答えた。ついでに自分の名前も答えたところで、診察室に到着する。

 

「宮野、明美……ね。じゃ、そこのベッドに寝かせて」

 

 暁は明美を背中から下ろし、診察室のベッドに寝かした。相変わらず意識はないままだ。

 

「……え? ちょ、ちょっと、血まみれじゃない!」

 

 明美の服に付いた大量の血を見て、血相を変える武見。傷はもう大丈夫だから、他に問題がないかどうか診察してくれと暁は頼んだ。

 

「大丈夫って、こんな大量の出血でそんなわけ……」

 

 慌てて武見は明美の身体の傷口があると思われる箇所を調べ始めたが、どこにも傷口が見当たらないことに信じられないといった顔で目を見開いている。

 

「…………とりあえず、意識がないようだから身体に異常がないか診てみるけど……しばらく廊下の待合で待っててくれる?」

 

 納得いかない様子をしているが、ひとまず診てくれるようだ。言われた通り、診察室を出る暁。

 

 診察が終わるまでの間、暁は廊下の待合で長椅子に腰掛けて待っていた。だが、長時間アルカナの力を使ったことによる疲労で身体はとうの昔に限界を超えていた。

 

 そしてそのまま、暁は椅子に身を沈める形で深い眠りに落ちてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 翌日のまだ暗い時間。

 暁は眠りに落ちた時とは違い、椅子に横になった状態で目を覚ました。身体の上には毛布が掛けられている。

 

「お? 起きたか、アキラ」

 

 目を覚ました暁の顔を、モルガナが覗き込んでいる。暁が上半身を起こすと、丁度診察室から武見が出てきた。

 

「おはよう。と言っても、まだ日も昇ってないけど」

 

 武見と朝の挨拶を交わす。どうやら、彼女が毛布を掛けてくれたようだ。

 

「全く起きる様子がなかったから、仕方なくね。後、その猫も。外でずっと待たせるのも可哀想だし、特別に入れてあげたわ。感謝しなさい」

 

 億劫そうな顔をしているが、なんだかんだで面倒見が良いのが武見だ。こちらの武見は、元の世界の彼女とそう変わりないようである。

 ところで、明美の容態はどうだったのだろうか?

 

「血が足りていないようだったから輸血はしておいたけど、それ以外は特に問題なかったよ」

 

 武見に促されて、再び診察室に入る暁。そして、奥にある個室へと案内される。しかし、案内された個室のベッドには、依然意識が戻らないまま昏睡状態の明美が寝かされていた。

 

「どうも、大量出血によるショックで意識障害を起こしてるみたい。でも血圧自体は安定してるから特に危険な状態ってわけでもないし、恐らく意識は戻るはず。でも、それがいつになるかは分からないかな」

 

 個室に置いてある椅子に座った武見は、もう片方用意していた椅子に暁を座らせた。

 それで、と彼女は続ける。

 

「どうして傷口が綺麗さっぱりなくなってるのかしら?」

 

 武見は暁の目を覗き込むようにしてそう問い掛けた。

 

「あの服の血は明らかに彼女自身が大量出血して付着したもの。それなのに、傷どころか痕さえも見当たらなかった。百歩譲って傷口を治療できたとしても、まるで何もなかったかのようにまでするのは不可能よ……それこそ、魔法でも使わなきゃね」

 

 問い詰めるようにじっと暁を睨む武見。

 しかし、そう言われても暁がそれについて説明することは難しい。霊薬を使ったと言っても、納得してもらえるわけがないのだから。下手に誤魔化すのも無理だろう。実際にできることを証明しようと思えば、武見の作った薬でもできるだろうが……

 

 武見から目を逸らさずにいるが、どう答えるべきか悩み黙りこくっている暁。そんな彼を見かねたのか、武見は暁に向けていた目線をゆっくりと外して溜息を吐いた。

 

「…………事情があって話せないのなら、それでいいよ。とりあえず、彼女は意識が戻るまでウチで介護するから」

 

 暁は驚き、思わず本当か? と口にした。

 

「説明しなかったら追い出すとでも思ったの? まあ、もちろん代金は頂くつもりだけど……貴方、学生? だったら難しいかな」

 

 慌ててお金の方は大丈夫だと答える暁。梓に秘密で学校へ通いつつ介護なんて、無理に近い。代金の方は後見人の妃英理から定期的に送金されるお金から支払えばいいだろう。

 

 だが、どうしてそこまでしてくれるのか? 元の世界の彼女は暁が怪盗であるということを知っているが、こちらではそうでないはずだ。協力してくれる理由がない。

 

「仮にも医者なんだから、患者を放り出すなんてことしないよ。まあ、傷を消した方法は気になるけど、普通の方法じゃないってことは明らかだし、はっきり言って内科の私には専門外なことだしね……それに――」

 

 暁の顔を見て察したのか、そう語る武見。しかし、途中で言葉を止めて何やら言い難そうにしている。他にも理由があるのだろうか?

 

 

 ――ガチャッ

 

 

 と、そこへ、暁達が入ってきた裏口から一人の女性が入ってきた。咄嗟にモルガナを椅子の下に隠す暁。武見の方はというと、その女性を見て目を丸くしている。

 

「中沢さんじゃない。こんな時間にどうしたの? 始業時間には早すぎると思うけど」

「どうしたのって、武見先生こそ! ほら、私近所に住んでますから。夜中に目が覚めてベランダに出てみたら診療所の明かりが点いてるのが見えて、気になったもので……」

 

 中沢と呼ばれたその女性は、どうやら武見の診療所で働いている看護師のようだ。元の世界の武見内科医院のスタッフは武見一人であったが、こちらはそうではないらしい。

 

「ところで、そちらの方は? 急患の方ですか?」

「正確には急患を連れてきた子よ。その患者の方はしばらくウチで面倒みることになったけど」

「そうなんですか? じゃあ先生、あまり寝てらっしゃらないですよね。やっぱり、私が来て良かったじゃないですか」

 

 嬉々とした様子で言う中沢。武見の役に立てることを心底嬉しく思っているようだ。ただの雇い雇われの関係という訳でもないらしい。

 

「こんな町外れの小さな診療所に来る患者なんてそう多くないし、人手については別に心配ないっていつも――」

「それがそもそもおかしいんです! 武見先生は新薬を開発した優秀な方なんですよ!?」

 

 慣れた様子の武見が何でもないといった風に中沢をあしらおうとしたが、彼女はとんでもないとばかりに声を上げ始めた。

 

「本当ならこんなところで町医者なんてせずに元の大学病院でもっと活躍しているはずなのに! それを、私のために……」

 

 武見の現状について、まるで自分に責任があるかのように吐露する中沢。廊下を照らす心許ない明かりが、その目尻に溜まった涙に反射して煌く。最後には顔を俯かせてしまった。

 

 武見はこの世界でも新薬の開発に成功しているようだ。元の世界と同じく、以前は大学病院に所属していたらしいが、こちらでは一体どういった理由で町医者という立場に身をやつしてしまったのか。

 暁は伺うようにして武見の方を見やる。彼女の態度や様子からして、医療ミスの濡れ衣を着せられたなどの理不尽な目にあったということはないと思うが……

 

「ちょ、ちょっと、泣かないでよ! 別に研究自体はここでもできるし、町医者って立場も割と嫌いじゃないから。それに黒川の件については私が勝手にやったことで、貴方が責任感じることない……って、これ何回目かしら」

 

 俯いている中沢とは対照的に、全く気にしていないというか多少うんざりした顔で中沢を諭している武見。

 イマイチ話の内容を汲み取ることができないが、中沢が武見のことを尊敬している――心酔と言ってもいいが――ことは確かだ。元の世界では藪医者と呼ばれていたことを知っている暁は、自分のことでもないというのにどこか誇らしい気分になった。

 

 二人の会話を聞きながら、何気なしに掛け時計を見た暁。二針の傾きを見て、ポアロでカレーの仕込みを始めなければならない時刻を当に過ぎていることに気づく。

 

「え? ああ、もう帰るの。じゃあとりあえず、連絡先だけ教えてくれる? 何かあったら貴方に連絡するから」

 

 暁は礼を言い、武見と連絡先を交換した。そして、モルガナと共に病院を後にしたのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 以上が、事の顛末である。

 

「どうやら、アキラが元の世界で関わりを持った人物は、こちらの世界でも何かしらの影響を受けているようだな」

「確かにそのような傾向にあるようですね」

 

 川上や鴨志田、武見といった人物達について、モルガナとラヴェンツァが語る。

 

 改心させた鴨志田は歪みの原因となる金メダルを獲得することができず、恐らくだが川上も彼女の弱みを握って悪巧みをするような輩と関わりを持たずに済んだ。そして、武見も新薬を開発していることからして医療ミスの汚名を着せられるようなことはされていないのだろう。それなのに町医者として診療所を開業しているのは、あの中沢という女性が関係しているみたいだが、それ以上のことは分からず仕舞いである。

 

「ところで、私が貴方を待っていた間に現場から江戸川コナンを連れ帰ってきた毛利父娘が夕食を食べにポアロへやって来たのですが、何でも屋外トランクルームで手木来蔵(テキーラ)の死体が見つかったそうです……それと、何やらコナン少年が貴方を捜していたようですが、何かあったのですか?」

 

 あのテキーラという関西弁の男が殺されてしまったということを聞いて、思わず仕込みの手を止める暁。

 恐らく、殺したのは駆けつけてきたあのウォッカという人物だろう。本物の鍵は警察の手に渡っただろうし、結局奴らは10億円を手にすることはできなかったのだ。それを理由に殺されたということだろうか?

 コナンの方も、明美をモルガナカーに乗せて病院へ向かうところを見られてしまったが……まあ、それについては(・・・・・・・)心配ないだろう。

 

 何にせよ、警察が無事に10億円を回収できたか、テキーラを殺害したと思われているだろう明美の捜査の方はどうなっているのかは、今日行われるだろう発表を待つしかない。

 

 

 といったところで、カレーの仕込みが完了した。一通りの準備も終えているし、後は梓に任せれば大丈夫だろう。暁は時計を見てまだいつもの登校時間までには少し余裕があることを確認し、一息つく。

 

「マイトリックスター。朝のコーヒーをお願いします」

 

 ラヴェンツァに頼まれ、はいはいとコーヒーを淹れ始める暁。もはや彼女にとって習慣になってしまっているようだ。

 

「おい、アキラ。学校に行く前にシャワーを浴びといた方がいいんじゃないか?」

 

 昨日の内に帰れず武見の病院で寝てしまったので、モルガナの言う通り登校前に汗を洗い落としておいた方がいいだろう。

 

 ……そういえば、武見はどうして明美の親類の連絡先を聞かなかったのだろうか? 聞かれても答えられなかっただろうが、もしかしたら暁のことを親戚か何かと勘違いしていたのかもしれない。

 

「暁君、ごめんね~! 仮眠取って眠気も取れたし、もう大丈夫よ!」

 

 暁がラヴェンツァにコーヒーを振舞っていると、スタッフルームから梓が戻ってきた。暁は丁度良いと、開店準備が完了したことを伝え、梓と入れ違いになる形でシャワーを浴びに奥へと向かおうとする。

 

 しかしそこへ、まだ開店していないにも関わらず、何者かがドアベルを乱暴に鳴らしてポアロに入ってくる。

 

「すみません、まだ開店時間じゃ――って、あれ、コナン君?」

 

 梓の声に暁が振り返ると、そこには少し息を乱したコナンが閉まるドアを背にして立っていた。

 

「ど、どうしたの? コナン君。何か用事?」

 

 梓が戸惑った様子でコナンに声を掛けるが、彼はそれに構わず一歩一歩迫るような足取りで暁の元へ近づいてくる。光の反射で眼鏡の奥の瞳は見えず、その表情は伺えない。

 

 暁の目の前に辿り着いたコナンは、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「……暁兄ちゃん。服を脱いで」

 

 

 

 何をトチ狂ったのか、暁に対してそう要求してくるコナン。それを聞いて、目が点になる梓と変な声を上げるモルガナ。そして、ラヴェンツァはコーヒーを噴き出した。

 

「コ……コナン君。何を言って――」

「そ、そうです! マイトリックスターのふ、服を、ぬぬ、脱がすなんて! 一体何をする気!?」

「ラヴェンツァ殿。ちょっと落ち着け」

 

 ラヴェンツァがいつもの調子を一転させ、竜司を叱った時のように口調が乱れている。顔はカロリーヌが自分の恥ずかしい秘密を晒された時のように真っ赤だ。中々貴重なシーンであるが、今はそれどころじゃない。

 

「いいから! 脱げって言ってるんだよ!」

 

 コナンは強引に暁の上着に掴みかかって脱がしに掛かり始めた。子供の力なので振り払おうと思えばできるだろうが、怪我をさせかねない。暁はされるがままだ。

 

 

 そしてついに、暁の上着の左袖が大きく捲り上げられた――――

 

 

 




いつもより少し短めですが、事件が終わった後のまとめ回でした。

本当はもっと書き込んでも良かったんですが、これが投稿されている頃にはコナンの劇場版最新作を見に行ってると思いますので。仕方ないんでおまんがな。

平次や和葉も出したいですけど、それより前にキッドですよね。キッドの前にもう何話か入れると思いますけど。

恐らく次回は遅れるかと思いますが、よろしくお願いします。








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