ダンジョンにアチャクレスがいるのは間違ってるだろうか? 作:リーグロード
ベルはヘラクレスと別れた後ダンジョンの5層まで潜り込んでいた。
最初はヘラクレスが隣にいない為ビビっていたベルだったがゴブリンやその他のモンスターを倒して行くうちに警戒心は薄れどこぞの王のようにその心に慢心が入り込んでいた。
その結果が今のこの状況である。
「ブモォォォォオ!!!!」
「うわー!なんでこんな所にミノタウルスがーー!!!」
怪牛が雄叫びを上げながら白い兎を追って走り回っていた。
視線が前以外動かせず足は死にたくない一心で止まらない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
あのモンスターが、めちゃくちゃ、怖い。
眦に涙が浮かぶ。喉が潰れるほど悲鳴を上げる。足がもつれるほど走り続ける。
顔は見るも絶えないひどい顔になっている。
その後ろを硬い大きな蹄の足音が追いかけてくる。
ベルはこの時初めてダンジョンの恐ろしさを真に理解した。
「そんな!行き止まり!!」
走り続けた先は無情にも行き止まりだった。
兎と牛の鬼ごっこは終わり狩られる時が来た。
「ゥウウウウウウウウウウウウウッ!!」
遂に追いつめたといわんばかりにミノタウロスは雄叫びを上げる。
壁際に追い詰められたベルはその瞬間今までの走馬灯を見る。
祖父に英雄譚を聞かされていた光景、祖父が死にオラリオへ向かって旅立った朝の光景、初めて英雄と出会った草原での光景、神様と出会い冒険者になった光景、英雄を目指しその英雄に教えを受けていた光景、そのすべての光景を思い出したとき心の奥で何かに火がついた。
「こんなところで死んでたまるかーー!!」
ベルは腰に下げていたナイフを抜き取りミノタウロスに闘いを挑む。
ミノタウロスの大きな腕がベルを押しつぶそうと迫りくる。
だがベルはその攻撃を紙一重で避け、ミノタウロスの横を通り抜ける。
そしてがら空きになったミノタウロスの背に飛び乗り太い首を締め上げる。
「絶対にこの手は離さないぞ!!」
背中に張り付いたベルを振り落とそうと暴れまわるミノタウロス、それに対抗して更に腕の力を強くするベル。
二人は狭いダンジョンの通路で暴れまわる、先に体力が尽きた方が負けるこの勝負スピードで戦うベルに対して巨体で戦うミノタウロスの方が有利と考えたベルは勝負を終わらすため、その太い首筋にナイフを突き立てる。
だが、ナイフはミノタウロスの肉質に阻まれ音をたてて折れてしまう。
「そんな、僕のナイフが!ッグハ!!!」
ベルがナイフに気を取られていた瞬間ミノタウロスは背中に張り付くベルを自身の体ごと壁にぶつけ叩き落とす。
不意打ちで壁とミノタウロスに挟まれたせいでベルは腕の力を失い倒れ伏した。
「ブモォォォォォオオ!!」
勝利を確信したミノタウロスは咆哮を上げベルに詰め寄る。
「クソ!こんなところで僕は」
近づいてくるミノタウロスに
「グヴゥ!?」
ミノタウロスの苦悶の鳴き声が響く、真っ二つに裂け
「大丈夫?」
そう言って見たことのない女の人が僕の前に立っていた。
澄んだ黄金の長髪。蒼色の鎧。銀のサーベル。僕が今まで見てきた誰よりも彼女は美しかった。
僕は時間を止めた。
「………」
何も言えず僕はただ黙って座り込んでいた。
「…?君どこか怪我でもしたの?」
そう言って彼女は僕の頬に手を当て僕の目を見る。
僕は顔を真っ赤に染めて立ち上がりその場を走り去ってゆく。
見知らぬ恩人にお礼を言うことも忘れ走り抜ける、その時後ろから別の人の声が僕の耳にもしっかりと聞こえた「アイズ」と呼ぶ声が!
―――――――――――
「おーい、待てよアイズ急に走り出すなよ、てかさっきの赤い奴誰だ?」
私を呼ぶのは同じファミリアのベート。
「ミノタウロスに襲われていた子」
私がそういうとベートは灰髪をガリガリと無造作にかいて舌打ちをする。
「雑魚なんて放っておけばいいんだよ」
ベートは言いたいことを言ってさっさと帰って行った。
―――――――――――
町中に悲鳴が起こった。
その原因は血だらけの男が町中を走っていたからである。
その男はギルド本部に向かって走って行った。
「エイナさ~ん!アイズっていう女の冒険者の人のことを教えてください!!」
血だらけのベルは自分の担当アドバイザーに詰め寄る。
「きゃー!ベル君まず血を洗い流してきなさい」
エイナさんに怒られたベルは体についている血をシャワーで洗い流しさっぱりする。
そしてベルの地獄の時間が始まる。
「5層ですって~!ベル君!!!君はまだ冒険者になって一か月も経たない新人なんだよ!それにミノタウロスと出会ったって!!というかヘラクレスさんはどこにいるの?」
「えっと、ヘラクレスさんは僕はもう一人でダンジョンに潜れると言って一人でダンジョンに潜っていきました」
僕がそう言うとエイナさんは呆れた顔で説教を始めた。
「いいベル君!ソロでダンジョンに潜るにはそれなりの実力が必要なのまだたいして実力がついていないベル君じゃ無謀にもほどがある!」
流石にそこまで言われたらベルだってムッとくる。
「エイナさん僕だって成長しているんです」
僕の発言にエイナさんは自信満々にこう言ってきた。
「へ~!冒険者になって日も浅いベル君がどこまで強くなったのか教えて貰おうじゃない」
その態度に腹が立ちちょっと強気で僕の成長したステイタスを教えた。
「僕だって一部のステイタスがEになっているですから」
するとエイナさんは呆れた顔をして僕を見る。
「いいベル君普通の冒険者がEに辿り着くには多大な時間をかけて到達する領域なんだよ、それが君みたいなルーキーが辿り着く場所じゃないんだよ」
「嘘じゃないですよエイナさん!」
僕はエイナさんに証明するために背中に書かれたヒエログリフをこっそり見せる。
僕のステイタスを見たエイナさんは目を見開いて驚いたがその後納得してお説教は無しになった。
僕は疲れた体を引きずってホームに帰る。
「ただいま帰りました神様」
「おかえりなさいベル君」
笑顔で出迎えてくれる神様にほっとしてベッドに腰を下ろす。
そして僕は帰ってそうそう神様にステイタスの更新をお願いした。
「どうしたんだいベル君いきなりステイタスを更新したいなんて」
僕は今日あった出来事を全て神様に包み隠さず話すと急に怒り出した。
「ベル君!!」
「は、はい神様」
僕はあまりの気迫にいつの間にか正座をしていた、超能力とか超スピードとかそんなもんじゃない、自分でも何を言っているのか分からないがもっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
「いいかいベル君君は僕の家族なんだその君が死んだなんてなったら僕はとても悲しいよ」
神様は悲しそうな顔をして僕の顔を覗き込む。
その顔を見た瞬間僕はとてつもない罪悪感が襲ってきた。
僕も祖父が死んでとても悲しかった筈なのにその思いを神様にさせてしまうなんて僕は最低な男だ!
「すみません神様!僕はもう神様を心配させないように気をつけますし誰にも負けない強い男になって見せます」
そう言うと神様は顔を明るくして安心したように僕にもたれかかってくる。
「ベル君僕はねもう一人で誰もいないホームに帰ってくるのは嫌なんだ、だから僕はね君に死んでほしくはないんだよ、もちろんヘラクレス君もね」
その言葉を聞いて僕はこう思ったこの人は僕が絶対守ってみせると、そしてこの小さな神様が自慢できるような立派な眷属になってみせる。
「それにしてもベル君がこんな大変なことになっている時にヘラクレス君はどこで何をしているんだい」
神様はこの場にいないヘラクレスさんに怒り心頭といったご様子だ。
そして噂をすれば上の方から大きな足音が聞こえてきた。
この足音はヘラクレスさんのだろう僕と神様はヘラクレスさんを出迎えるために階段を上ってみると驚きの光景が待っていた。
「どうしたんだいヘラクレス君!君が傷を負うなんて!!」
そうヘラクレスさんの胸に大きな傷があったのだ。
僕より遥か高みにいるヘラクレスさんが傷を負った事に驚きを隠せない。
あの傷跡から見て剣で斬り裂かれたようにしか見えないけどこの町でヘラクレスさんに傷を負わせることができる人物なんているのだろうか!
そう思っているとヘラクレスさんが傷のことを話し始めた。
「私が本来サーヴァントとして現界したことは覚えているか、この傷は私と同じサーヴァントと戦ったときに付いたものだ、あれほどの武人ならばこの傷は名誉の負傷となる!」
ヘラクレスさんはその傷を誇りながら語ってくれた。
けれど僕達はやはりヘラクレスさんの体の方が心配でたまらなかった。
心配そうな僕たちの顔に気付いたのかヘラクレスさんは頭を下げてきた。
「すまない二人ともこの身に誓って今後お前たちに心配を懸けないことを約束した筈がその約束を破り再び二人を不安にさせたことは謝る、だがこの傷は戦士として受けねばならぬ傷であったことを理解してほしい」
僕も今日は神様に心配をかけてしまったのでヘラクレスさんを責めることはできない。
だが神様はヘラクレスさんを責立てている。
それを僕は苦笑いで見ているしかできない。
巨漢の男に幼女が説教!なんともシュールな光景だ。
――――――――――――――
次の日僕は折れたナイフの代わりを探すべくヘラクレスさんとエイナさんで武器屋を探している。
ヘラクレスさんはともかく何故エイナさんもいるのかというと、自分達じゃ武器屋の場所を知らないので担当アドバイザーにアドバイスを貰いに行った所、ちょうど昼で仕事が終わるということで同行してもらっていたのだ。
エイナさんの案内で辿り着いた場所は僕も知っているところだった。
「え~と、エイナさん今日はダンジョンに潜らないから別にバベルの塔にくる必要はないんじゃないと思いますけど」
そう辿り着いた場所はダンジョンの入り口の上に建っているバベルの塔だった。
「ふふふ、甘いわねベル君こっちにいらっしゃい」
そう言ってエイナさんはバベルの塔の中に入って行った。
バベルの塔にあるエレベータに乗って上に行くとなんと武器が売られていた。
「うわ!この武器40万ヴァリスもする」
ベルはショーウインドウの中にある武器の値段に驚く。
「エイナさん僕達こんな高価な武器買えませんよ」
けどヘラクレスは腰に下げた腰ぎんちゃくから大量の金を見せてくる。
僕はそれを無視してエイナさんに話しかける。
「大丈夫よベル君ここより上に行けば君みたいな新人でも買える武器があるから」
エイナさんの言うとおり上に行くと僕でも買えるお手軽な値段の武器が売られていた。
ショートナイフや不格好な大剣に身を守る防具も売っていた。
「凄いこれなら僕も買えますよエイナさん!」
「良かったわねベル君じゃあ私もちょっとそこら辺を見てくるから1時間後にここで集合ね」
それから僕はエイナさんとヘラクレスさんから別れて自分に合う武器を探していた。
だけど中々自分に合った武器が見つからず既に40分も経過していた。
エイナさん達と合流するまであと20分その間に自分に合った武器を探さないとそう思っていたら探していたものとは違う物を見つけた。
「ベルく~ん、こっちこっち!」
手を振って僕を呼んでいるエイナさんが見えた。
急いで買った物を持ってエイナさんと合流する。
「ベル君いい武器は買えた?」
僕はおずおずと買った物をエイナさんに見えるように前に出す。
「えっと、ベル君これ武器じゃなくて防具じゃない?」
困惑したエイナはベルの顔を見てみると顔を真っ赤にしていた。
「ぶ、武器はいいのが見つからなかったのでこれを買ってみました」
恥ずかしそうに手をもじもじしながらエイナの顔色を窺う。
それをみてエイナは笑顔で答える。
「別に君が選んだ物をどうこう言うつもりはないよベル君」
その答えに笑うベルに後ろから影が差した。
「すまない待たせたな」
いつの間にか近づいていたヘラクレスがベルの後ろに立っていた。
「こちらもめぼしい武器はなかった」
こうして僕たちはバベルの塔を後にしようとした。
「あ! そうだベル君、ヘラクレスさんちょっと寄っていいかな?」
上目使いでお願いしてくるエイナさんの願いを断れるはずもなく、僕はヘラクレスさんの返事も聞かずOKしてしまう。
「同僚に聞いたんだけどこの階の一番奥に珍しい物が置いてあるんだって」
そう言ってエイナさんは奥の怪しげな店に入っていく。
「いらっしゃいませ、色々珍しい物が揃ってますよ」
見た目は普通の男が店番をしている店の前に三つの刃の付いた巨大な大斧が置いてあった。
「その大斧を買う気かい、やめとけ!やめとけ!どこの大馬鹿が作ったか知らんがその大斧はLV3の男が6人でやっと持ってきた物だ、武器というよりは観賞用の置物と考えた方がいいぜ」
確かに見た目通りの重量ならこれは持ち上げるだけで精一杯だろう、もしもこれを振り回せる事が出来る人がいるとすれば隣にいるヘラクレスさんしかいないだろう。
そう思って隣を見てみると驚愕した顔で大斧を見るヘラクレスがいた。
「何故こんなところにこれが?」
ヘラクレスは大斧を片手で軽々と持ち上げて素振りする。
「ちょ、ちょっとお客さんこんなところで振り回されたら困りますよ、やるならその大斧を買ってからにしてくださいよ」
ヘラクレスは店の主人にいくらかと聞くと300万ヴァリスだという。
それを聞くとヘラクレスは大斧の代金300万ヴァリスを払って買い取った。
大斧を片手で担ぎヘラクレスはひときわ異彩を放って帰る。
「それじゃベル君ヘラクレスさん今日はありがとう」
「そんなエイナさんこそ今日はありがとうございました」
「気を付けて帰るんだぞ」
エイナさんに別れを告げて帰ろうとしたときエイナさんから呼び止められた。
「はいこれベル君にプレゼント」
エイナさんはそう言ってプロテクターを渡してきた。
「そ、そんなこんないい物貰えません」
見た感じ高そうなプロテクターについ受け取りを拒否してしまう。
「貰って欲しいな、私じゃなくて君自身の為に」
「え?」
エイナさんは少し悲しそうな顔をして喋りだした。
「本当にさ冒険者はいつ死んじゃうか分からないんだ、戻ってこなかった冒険者を沢山知ってる」
重い言葉が僕の胸に突き刺さる、エイナさんが僕を思って心配してくれるんだと分かる。
「だからさ、いなくなってほしくないんだよベル君には、はははこれじゃあやっぱり私の為かな?」
そういって背を向けて笑うエイナさんを見て考え込んでいるとヘラクレスさんが後ろから肩に手を置いて喋りかけてきた。
「よいかベルよエイナの心遣いを無碍にするのではない」
確かにエイナさんは僕を心配してこれを渡してくれた、なら僕はこれを着けて死なないように生き残るんだ。
「エイナさん昨日は心配かけて申し訳ございませんでした」
「ちょ、ちょっとベル君急にどうしたの昨日の件ならもう許したでしょう」
僕は慌てるエイナさんの手をギュッと握りしめて誓った。
「僕は死にません絶対に強くなってエイナさんが安心するような強い男になってみせます」
すると顔を真っ赤にしたエイナさんが小さいながらも「…応援してるよ」って言ったのを僕は聞き逃さなかった。
「このプロテクター大事にしますねエイナさん」
こうして噴水前でエイナさんと別れ僕とヘラクレスさんは晩飯を食べに出歩いた。
ヘラクレス「ところでベルよ武器はどうした?」
ベル「ああ、それならまだ僕はギルドの支給品のナイフでしばらく活動するつもりですよ」
ヘラクレス「ベルがそれならいいがもし何かあればいつでも私が力を貸すからな」
ベル「ありがとうございます!ヘラクレスさん」
ベル「あっ!そういえばエイナさんにアイズさんの事聞くの忘れた!!」