ダンジョンにアチャクレスがいるのは間違ってるだろうか?   作:リーグロード

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ベルをいじめる悪い狼は鉄拳制裁!!!!


英雄酒場で決闘

僕の朝は早い、毎日朝の5時に起きダンジョンに潜る準備をしてから同じファミリアのヘラクレスさんが待っている訓練場所へ行く。

今日もヘラクレスさんの厳しい訓練を終えダンジョンを目指して歩いていると後ろから女の子が僕に近寄ってきた。

 

「あの、これ落ちていましたよ」

 

女の子は手に収まる程度の魔石を持って僕の近くまで寄ってきた。

周りには僕以外人がいないし彼女が冒険者にも見えないのだからこの魔石は僕のなんだろう。

 

「えっと、ありがとうございます」

 

お礼を言って彼女から魔石を受け取る。

よく見てみるとその子は僕と同じ位の年齢でとてもかわいらしい顔をしていた。

魔石を受け取る際に手が当たり思わず顔を赤らめてしまうとその女の子はクスリと笑いながら手を放す。

 

「あなたは冒険者なんですか?」

 

「はい、っていってもまだ駆け出しのルーキーですけどね」

 

ははは、と笑ってその場を後にしようとする。

ダンジョンに向かおうと思っていた矢先、グゥと僕のお腹が情けない音を吐いた。

 

「…」

 

「…」

 

互いに無言になり見つめ合う。

顔を赤くする僕に彼女はぷっと笑みを漏らし、男なら誰もが見惚れる顔を作った。

僕は恥ずかしさと彼女の可愛さに顔中真っ赤に染め頭の天辺から煙を出す。

 

「うふふっ、お腹空いているんですね」

 

「…はぃ」

 

消えそうな声で返事するベルに彼女はぱたぱたと音を立ててその場を離れる。

彼女はほどなくして戻ってきた。

その際に先程まで持っていなかった小さなバスケットを細い腕に抱えられていた。

中には小さなパンとチーズが見えた。

 

「これをよかったら……。まだお店がやってなくて、賄いじゃないですけど…」

 

「ええっ!?そんな、悪いですよ!それにこれって、貴方の朝ご飯じゃあっ……?」

 

受け取るのを拒否しようとしたら彼女はちょっと照れたようにはにかんだ。

うぐっ…この人、体の内から可愛さが滲み出るタイプだ。

アイズさんやうちの神様のように、思わずハッとするような顔立ちではないけど……接したり話したりすればするほどその魅力に惹かれていくような。

どこかの間違ったラブコメの主人公が見たら『あざとい』とか言いそうだ。

 

「気にしないでください冒険者さん、それに空腹でもしダンジョンで倒れでもしたら心配で仕事ができません。だから受け取ってくれませんか冒険者さん?」

 

「ず…ずるいですよ」

 

そんなこと言われたら断れないじゃないか。

見惚れるような笑顔でそんな殺し文句、卑怯だ。

 

「冒険者さん、これは利害の一致です。私もちょっと損をしますけど、冒険者さんはここで腹ごしらえできる代わりに…」

 

「代わりに…?」

 

「今日の夜、私の働く酒場で、晩御飯を召し上がっていただかなければいけません」

 

「……」

 

「うふふ、ささもらってください!私の働くあの酒場で晩御飯を召しあがって頂けません」

 

彼女の言われたことの意味を、時間をかけてゆっくり呑み込む。

にっこり笑う彼女を前にして、僕は初対面の人に対する壁みたいなものを、完璧に取り払われてしまった。

僕は彼女の笑顔にくしゃっ、と破顔する。

 

「ホントにもう…ずるいなぁ」

 

「うふふ、ささっ、もらってください。私の今日のお給金は、高くなること間違いなしなんですから」

 

遠慮することはありません、と彼女は言ってくれた。

何だよ、この人、全然したたかじゃんか……。

 

「……それじゃあ、今日の夜にもう一人呼んで伺いますね」

 

「はい。お待ちしていますね」

 

ふと、僕は思い出したかのように後ろを振り返った。

不思議そうに見つめ返してくる彼女に向かって、言う。

 

「僕…ベル・クラネルって言います。貴方の名前は?」

 

「シル・フローヴァです。よろしくねベルさん」

 

笑みと名前を、交わし合い彼女と別れて僕は長いメインストリートが続く先、都市の中央部、摩天楼施設の下にあるダンジョンを目指し歩く。

 

「……!?」

 

ばっ、と振り返った。

立ち止まって、自分の背後を見る。

…嫌な感じ。殺気とか僅かな気配とかがスキルのおかげで分かる…視られている。

肌が冒されているような感覚。まるで物を値踏みするかのような、普通の人にはとても真似できない、無遠慮過ぎる視線。

周りの景色の中、動くものに何度も視点を移ろわせる。半ば動転しながらぐるりと周りを見渡した。

本格的に目覚める前の朝の商店街、不審な影はない。むしろ通りのど真ん中で棒立ちになる僕に奇異の目が集まる。

ちっとも納得できないがこれ以上奇異の視線が集まる前に僕はダンジョンへ向かった。

 

――――――――――――

 

神様が下界に降り立つ前からダンジョンというものは存在していた。

迷宮の上には今ほどの規模ではないにしても街が築かれており、その時からギルドの前身の機関があったそうだ。

何が言いたいかというと、古代には旧ギルドと連携して、神様の『恩恵』を受けずにヘラクレスさんと同じように戦っていた人達がいたということだ。

 

『ギャウッ!?』

 

「はっ!」

 

信じられないという思いと自分もそんな凄い古代の人達と同じような戦士になりたいと思いながら襲い掛かってくるモンスターを倒していく。

 

場所はダンジョン7階層。

決して駆け出し冒険者が挑んでいい階層ではないのだが英雄のなかの英雄ヘラクレスに鍛えられたベルにとっては関係ない。

 

『ウオオオオオオオンッ!』

 

『ガアアッ!』

 

「…よし来い!!」

 

次々に襲いかかってくるモンスターを相手にベルは戦い続ける。

 

―――――――――――――――

 

夕刻。

本日のダンジョン探索を終え、ホームに帰ってきた僕は神様にステイタスの更新をお願いした。

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:E468

 

耐久:E465

 

器用:F378

 

敏捷:C712

 

魔力:I0

 

《スキル》

【英雄の卵ヒーローエッグ】

・英雄の力の源

経験値(エクセリア)獲得量アップ

 

【暗殺者アサシン】

・気配遮断能力獲得

・気配探知能力獲得

・不意打ち成功時即死率アップ

 

【英雄の弟子】

・英雄の力を吸収できる

 

 

神様から受け取ったステイタスの書かれた用紙、その中に記される熟練度の成長に満足する。

 

「君は本当にデタラメだねベル君」

 

「そ、そんなことないですよ神様…それにヘラクレスさんに比べれば僕なんて」

 

何だか少し呆れたような神様の言葉を否定して、僕はまじまじと用紙を見つめる。

 

「はあ、あれはデタラメじゃなくて規格外なんだよ!」

 

確かにレベル13という規格外の存在であるヘラクレスさんに比べるのは間違っているかもしれないが僕は彼のような強い英雄になりたいと思っている。

 

「あっ!!」

 

そんなことを考えているとヘラクレスさんと約束した待ち合わせの時間が迫っていることに気づく。

 

「すいません神様そろそろヘラクレスさんとの待ち合わせの時間に遅れちゃいそうなので僕行ってきます」

 

「ちょっと待ってベル君!僕もバイトの打ち上げがあるから、一緒に出よう」

 

神様と途中まで一緒に歩きヘラクレスさんと合流した。

日は既に西の空に沈みかけていた。

消えかかっている紅い光の代わりに姿を現したうっすらと輝く満月の光に照らされて僕とヘラクレスさんはシルさんの働く店に闊歩する。

 

「…たぶんここですよヘラクレスさん」

 

「ベルが世話になったのだ失礼の無いようにせねばな」

 

シルさんが働いている酒場、『豊饒の女主人』。

一歩中に入るとカウンターの中で料理や酒を振る舞う恰幅のいいドワーフや厨房の奥にはネコ耳を生やした獣人キャットピープルの少女達が働きまわり、注文を受ける給仕さん達も全員ウエイトレスだった。

…酒場の名前の由来をなんとなく察した。

女性だらけの酒場に少し腰が引けるベルの背をヘラクレスが押して空いているカウンター席に座る。

 

「あっ!ベルさん」

 

いつの間に現れたのか、シルさんが僕たちの席の隣に立っていた。

僕は痙攣しそうになる口を封じ、無理やり笑顔を作る。

 

「…やってきました」

 

「はい、いらっしゃいませ。ところでその隣の人がベルさんの同じファミリアの人ですか?」

 

「自己紹介が遅れた私はヘスティアファミリアに所属するヘラクレスという」

 

「私はシルと言います今後ともよろしくお願いします」

 

互いに自己紹介を終えメニューを読もうとしたときカウンターから声をかけられる。

 

「アンタ達がシルのお客さんかい?ははっ、冒険者らしい体をしているね、もう一人は本当に冒険者かい可愛い顔をしているねえ!」

 

ほっとけよ。

確かにヘラクレスさんと違って冒険者らしくはないけど余計なお世話だ。

僕は柄にもなく、むくれた顔を作って女将さんを見る。

 

「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金使ってってくれよぉ!」

 

「!?」

 

告げられた言葉に驚く。

ばっと背後を振り返ると、側に控えていたシルさんはさっと目を横にそらした。

逸らしたよ!逸らしちゃったよこの人!!!

 

「…えへへ」

 

「ははは、ベルよ女とは怖いもんだぞ優しい顔をした女は特にな!」

 

笑いながら女の怖さを教えるヘラクレスさんに僕はため息で返す。

 

「さて今日はパスタの気分だ!女将パスタ二人前で頼む」

 

「酒は?」

 

僕は少し考えてからご遠慮しますと答えた。

ヘラクレスさんは豪快に樽一杯と答える。

女将さんは本当に樽一杯の醸造酒(エール)をどんっとカウンターから取り出した。

ついでに僕にも醸造酒(エール)どんっとカウンターに叩きつける。

 

「楽しんでますか?」

 

「……圧倒されてます」

 

「なかなか楽しんでいるぞ」

 

僕がパスタを半分食べたところでシルさんがやってきた。

ヘラクレスさんはもうパスタ4皿目に突入しかかっている。

 

「やるじゃないかいアンタ」

 

「女将もなかなかの腕前だな」

 

ヘラクレスさんと女将さんは互いに認め合っている間にシルさんが僕の隣に椅子を持ってきて座る。

 

「仕事はいいんですかシルさん?」

 

「厨房は誰かさんのせいで忙しいですけど、給仕の方は十分に間に合っていますので。今は余裕もありますし」

 

いいですよね?とシルさんは視線で女将さんに尋ねる。

女将さんも口を吊り上げくいっと顎を上げて許しを出した。

 

「えっと、朝はありがとうございます。おかげでダンジョンで空腹にならずに済みました」

 

「いえいえ。頑張って渡した甲斐がありました」

 

「…頑張って売り込んだの間違いじゃないんですか?」

 

僕は皮肉を込めて愚痴をこぼす。

シルさんは「すみません」と謝罪してきた。

そのあと僕はシルさんとお店の事やファミリアについて話をした。

シルさんと喋っていると、突如、どっと十数人規模の団体が酒場に入店してきた。

あらかじめ予約していたのか、僕達の位置とちょうど対角線上の、ぽっかりと席の空いた一角に案内される。

一団は種族もばらばらで統一性がない冒険者達だが、全員が全員、かなりの実力を秘めていることがわかる……。

 

『おい!あれロキファミリアじゃねえか!!』

 

『まじか!剣姫ってのはどいつだ!?』

 

周りの人たちが急に騒ぎ始めたのを見て凄いファミリアなんだなと思って見てみる。

 

(って!)

 

心臓がとび跳ねた。

不意打ち気味に視界に飛び込んだのは、砂金のような輝きを帯びた金の髪。

触れれば壊れてしまいそうな細い輪郭は精緻かつ美しく、よくできた人形というよりも、それこそお伽噺なんかに出てくる精霊や妖精と言われた方がしっくりくる。

 

「ほう、ベルあの金髪の女子が貴様の惚れた女か?」

 

隣でパスタを食べていたヘラクレスさんが若干不機嫌そうに聞いてくる。

 

「そ、そんなんじゃないですよ!僕を助けてくれた恩人なだけで何も!」

 

必死で否定しようとしてもすればするほど逆に怪しいくなる。

 

「セイバーに似ているな」

 

ヘラクレスさんが何か言ったようだけど、生憎構っていられない。

僕はアイズさんだけを真っ直ぐに見つめた。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

 

ここからじゃよく見えないが誰かが音頭を取ってロキ・ファミリアの宴が始まった。

 

「「「「「「乾っ杯ーー!!!」」」」」」

 

酒場ほとんどの人が、まるで自分たちのことであるかのように、乾杯、と唱和して同じようにジョッキを打ち鳴らした。

それをきっかけに次々と注文が入り豊饒の女主人は大忙しになった。

運ばれてくる料理と酒は美味しいものばかりで、団員達の伸ばす手も自ずとはやくなる。

ロキ・ファミリアの人達はどうやら深い階層まで『遠征』を終え宴をするためにここに来たのだ。

僕がロキ・ファミリアの人達の会話に耳を傾けていると獣人の青年が、アイズに何かの話をせがんでいるようだ。

 

「そうだアイズ!お前のあのことみんなに聞かせてやれよ!」

 

「…あのこと?」

 

「あれだって、帰る途中で逃がしたミノタウロス。最後の一匹が5階層で始末しただろ?それであん時いたトマト野郎のことだよ!」

 

「ミノタウロスって17階層で返り討ちにしたら一斉に逃げていったやつ?」

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどうん上層に上っていきやがってよ。それでよいたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者がよ!!」

 

……僕、だ。

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいなやつでな、ミノタウロスと戦ってたんだけどよナイフが折れっちまってよぉ!そんで壁にぶつけられて叩き落とされてんだぜぇ!」

 

前身から火がでたかのように熱い。

体の奥から何かが飛び出しそうになる

 

「ふむぅ?それで、その冒険者はどうしたん?助かったん?」

 

「アイズが間一髪でミノタウロスを細切れにしてやったんだけどよぉ、そいつ…あのくっせー牛の血を全身に浴びて…真っ赤なトマトになっちまったんだよ!!なっ?」

 

「…」

 

返事を求めるベートにアイズは何も返さない。

 

「アイズ、あれ狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ…!」

 

「…そんなこと、ないです」

 

ベートは笑いながら机を叩き、他のメンバーは失笑し、別のテーブルの客も釣られて笑い出す。

 

「それにだぜ?そのトマト野郎叫びながらどっか行っちまって…ぶくくっ!うちのお姫様助けた相手に逃げられてやんのおっ!!」

 

「っくアハハハハ!」

 

「そりゃ傑作だな!」

 

「冒険者を怖がらせてまうアイズたんマジ萌ー!!」

 

「ふっふふ…ご、ごめんなさいアイズっ。さすがに我慢できない…!」

 

「しかしまぁ久々にあんな情けねぇやつを目にしちまって胸糞悪くなったな。」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろベート。ミノタウロスを逃した我々の失態だ。恥を知れ」

 

「うるせぇ。クソ婆は黙ってろ。アイズはどう思う?」

 

「……あの状況じゃ仕方ない…と思うよ」

 

「そう言うことじゃねぇ、例えばだ。俺とあの餓鬼ツガイにするならどっちがいいはなしだ」

 

「ベート、君酔ってるね」

 

「…私はそんなことをいうベートさんとだけは、いやです」

 

「はっ、だがよ雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

一つの影が、店の隅から立ち上がった。

 

「ベルさん!」

 

その言葉に肩を震わせていた白髪の少年が走り出す。

少年を追いかけ、シルも後を追う。

アイズの目はその少年の顔をはっきりと捉え、すぐに立ち上がり自らも外へと出ていく。

 

「あぁン?食い逃げか?」

 

「うっわ、ミア母ちゃんのところでやらかすなんて……怖いもん知らずやなぁ」

 

周囲と同じ反応をするベート達を尻目に、アイズは一人立ち上がる。

 

(あの時の…)

 

店の入り口まで進んで、柱に手をつきながら外を見回した。

 

(ベル…)

 

少女が叫んだ名前を小振りの唇に乗せる。

だがアイズが外に出たと同時に店の中で騒ぎが起こる。

ベートが酒を飲んでいると隣から巨漢の大男がこっちに近づいてきた。

 

「なんだおっさん?俺になんか言いたいことでもあんのか!?」

 

「私はさっき飛び出していった者と同じファミリアの者だ」

 

「それがどうした、お前もあの食い逃げ野郎と一緒に逃げなくていいのか?」

 

ベートは目の前の男を挑発する。

 

「お前がさっき笑い話にしていたトマト野郎というのはさっきの子なんだよ」

 

「はっ、だからどうした謝ってほしいのか?分不相応にも冒険者になってこんな高い店に来ちまいやがって馬鹿に謝ることなんざ一言もねえな」

 

その言葉にとうとうヘラクレスは切れてしまった!!!

 

「表に出ろ!身の程を教えてやろう!!!!」

 

「お前、俺を誰だか知らねえのか?」

 

レベル5の自分に喧嘩を売るやつは同レベルの冒険者かよほどのバカしかいない、目の前男はこのオラリオで見たことも聞いたこともない無名の男つまりバカだと判断した。

バカを相手にできないとベートは思い酒を飲み直そうとしたときロキが口を開いた。

 

「そこのあんた、冒険者はダンジョンで生きるか死ぬかを覚悟して潜っとう、そもそも命を助けてもらって礼を言われるならともかく笑ったから喧嘩を売られるとはなぁ、こっちもなぁロキ・ファミリアという大きな看板を背負っとんねん、どこぞの誰か知らん相手の喧嘩をビビッて買わんかったなんて知られたらうちのファミリアの評価はダダ下がりや、だからさっきの言葉に責任を持てよ」

 

にやにやしていた顔を真剣な顔に変えたロキにヘラクレスは!

 

「いいだろう、こちらが負けたら私の首を差し出そう」

 

それを聞いた周りの冒険者達は目を丸くした。

 

「どうやら嘘やなさそうやな、ベート少し実力を見せたれ!」

 

神に嘘はつけないつまりあの男は負ければ本当に首を差し出そうとしている。

 

「しゃあねぇな!お前俺が誰だか知らねーなら教えてやるよ。俺はLv.5のベート・ローガだァ。俺がLv.5でビビったならハンデをくれてやってもいいんだぜ?」

 

周りの冒険者はプライドを捨ててでもお願いしろと男に心の中で願う。

だが、これはあっさりと裏切られた。

 

「必要ない、負けた時の言い訳に使われてもかなわんからな」

 

「はっ!?バカじゃねえのか雑魚が調子に乗るなよ!!」

 

ヘラクレスの挑発に怒り心頭のベート。

 

「武器を取りやがれ!確か奥のテーブルにデッケー斧があったよな、それくらいなら待ってやるからよ!!」

 

「それも必要ない子犬と遊ぶのに武器などいらぬ」

 

ヘラクレスはベートに更に挑発を仕掛ける。

 

「そうかよ!なら死にやがれ!!!!!」

 

ベートは怒りにまかせてヘラクレスに強烈な蹴りをかます。

 

「へっ!かっこつけやがってこれで骨が折…れ…」

 

ベートが言い終わる前にヘラクレスは右手でベートを殴り飛ばす。

その光景に店の中にいる誰もが目を疑った。

 

「あ、あいつはダンジョンの破壊神!!!」

 

誰かがそう叫んだ。

 

「おい!ダンジョンの破壊神ってお前が前に言ってた奴の事か!?」

 

他の冒険者がその話を聞こうと近寄ったとき、ロキが近づいて「うるさい!黙っとけ!」と一喝。

 

「て、テメー!よくもやってくれたな!」

 

起き上がったベートはヘラクレスに向かって走りだす、レベル5の力を使い地を蹴りぬき、弾丸のようなスピードでヘラクレスに駆け出す。

 

「今度は本気で行くぞ!!!」

 

渾身の力を右足に集中させヘラクレスの頭めがけて蹴りを入れる。

だがヘラクレスもさすがにこれを受けるのはヤバいと感じ迫りくる足を掴み地面に叩きつける。

あまりの威力に道に小さなクレーターが出来上がった。

 

「レベル5とはこの程度か?」

 

極めて冷静にヘラクレスはベートの攻撃を対処し撃墜させ、さらに挑発する。

 

「この程度の実力で吠えていたのか貴様は?」

 

「ぐぉおぁ!何者だテメェ!?お前のような実力者が何の話題にもなってねえ訳がねぇ!!答えろテメェはどこのファミリアのもんだ?」

 

ベートの疑問にヘラクレスは素直に答える。

 

「私はヘスティア・ファミリアのヘラクレスだ!」

 

「んな!?あのドちびの眷属やと!?」

 

ヘラクレスの発言に驚くロキを無視してベートはヘラクレスになお挑み続ける。

 

「俺はレベル5の冒険者だ!無名の冒険者に負けるわけにはいかねぇんだ!」

 

今の俺の姿を見てみろさっきまで笑っていた奴と何が違う?

相手は無傷それに引き替え俺はボロ雑巾みてぇになってやがる。

だけど俺は立ち上がって戦わなくちゃなんねぇ。

 

「俺は超えなきゃいけねぇ奴らがいる!だからこんなところで負けられねぇんだよ!」

 

先程のやりとりでベートは敵わないとわかっていても立ち上がらなければいつもバカにしていた弱者と同じになってしまう。

力の差があるから諦めてみっともなく泣き喚いて、惨めに命乞いをする。

そんな弱者には死んでもなりたくないそんな思いが今のベートを動かしている動力源だった。

 

「なるほど、実力差があるとわかっていてなお挑むか、それは勇気ではなく蛮勇だという事を知れ!」

 

二人の戦いは低レベルの冒険者では決した見ることは敵わない。

壁を蹴り横からヘラクレスに蹴りの嵐を食らわせようとするも、一瞬で上空へ飛んだヘラクレスはあっさりと避けベートの顔にジャブを食らわせる。

 

「ぐへぇ!?」

 

潰れたカエルのような声を上げベートは地面とキスをする。

これで終わったかのように見えたがベートは立ち上がりまたヘラクレスに挑む。

 

「まだまだぁ!!こんなところで寝てられっかよぉ!!」

 

再びヘラクレスの顔めがけて蹴りを入れるベートにヘラクレスは蹴りが届く前にベートの腹に重い一撃を入れ10メートル先まで吹き飛ばす。

 

「もう我慢できない!私は行くよ!!」

 

あまりの蹂躙(ワンサイドゲーム)にティオネが飛び出す。

ベートの方を見るヘラクレスに後ろから蹴りを決める。

 

「気配が漏れすぎだ!」

 

だがそれをヘラクレスはあっさりと躱し蹴った足を掴んで立ち上がるベートに放り投げる。

 

「きゃあぁ!」

 

「くそ!邪魔だ!!!」

 

飛んでくるティオナに気付いたベートはそれを避ける。

必然的にティオナはさっきまでベートが倒れていた場所にぶつかる。

 

「ぷぎゃぁ!!」

 

ぶつかったティオネはすぐさま立ち上がりベートに文句を言う。

 

「ちょっと!助けに来たんだから受け止めなさいよ!!!」

 

「はぁ?誰も助けは求めてねぇっての!!」

 

ヘラクレスを置いて喧嘩する二人に遠慮せずヘラクレスは二人の後頭部に手刀を決めて気絶させる。

 

「これで勝負はついた、もう貴様らに用はない」

 

そう言ってヘラクレスは店の中に戻り食べた料理の代金を女将のミアに渡し立ち去ろうとするとロキに呼び止められる。

 

「ちょっと待ちいやお前ロキ・ファミリアにケンカ売っといてはいさよならはないやろが!それにお前ドちびの眷属やったんやな」

 

「ドちびとはヘスティアのことか?」

 

「その通りや、まあその話は置いといてお前ウチのファミリアに入らんか?」

 

「ロキ!?」

 

その言葉に団長のフィンが止めに入ろうとする。

だがロキはいたってまじめにフィンの口に手を当て話しを進める。

 

「ドちびんとこと違ってウチのファミリアは金もあるしいい女や酒もあるで?どうや悪い話やないやろ!?」

 

確かに魅力的な話だしかしヘラクレスは一瞬の間も置かず拒否をする。

 

「残念だが私はこの身をヘスティア・ファミリアに捧げると誓っている」

 

いたってシンプルに断ったヘラクレスはもう話すことはないと店を後にする。

だが後ろからアイズが声をかける。

 

「あの子にごめんなさいと伝えてくれませんか?」

 

その言葉を聞いてヘラクレスは少し驚いたが後ろを振り返って「承知した」と答えベルがいるであろうダンジョンに向かって走り出す。

 

「アイズたんなんか知っとん?」

 

体に抱き着いてくる主神に肘鉄を入れてアイズは店に戻る。

ロキも、しぶしぶ店に戻って、沈んだ雰囲気を吹き飛ばす。

 

「まあ、喧嘩は終わりやほらみんな店に戻って酒の飲み直しや!ベートとティオネはそこらへんに寝かせとけ」

 

こうしてロキ・ファミリアとヘスティア・ファミリアの歴史に残らない激突はヘスティア・ファミリヤの圧倒的勝利に終わった。

 




ヘラクレスさんマジパネェっす!!!!!

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