下水道探索班
鎮守府の下にあるその空間は、確かに建物から海へと続いていた。
過去にはその下水道を通って内部に侵入し、敵を排除する作戦が度々行われたものの、未確認生命体によって全て全滅したとされる。
当時の提督は語る。
手塩にかけて育てた艦隊が、まるで大蛇に飲まれるように下水道へ消えていくのを今も覚えていると。
敵の妨害か、無線は通じず。
後に残るは死地に送った提督と、仲間たちの死を知った艦娘たちの咽び泣きだった。
「ヒュゥー♪随分とでけぇ下水道だ。マイブリス、準備出来てる。行動を開始するぜ」
下水道探索班の1人重量二脚 マイブリスは口笛を吹いて機嫌の良いステップで内部へ潜入する。
頭に固定された頭部カメラアイ、耳についているイヤリングから眩い光が前方を照らし、暗い下水道をほんのり薄暗い程度に見やすくする。
「進みましょう」
前方をアリーヤ、シューマッハ、後衛をフリューク、マイブリス、中間の立ち位置にバガモールが配置、探索を開始する。
内部は経年劣化が原因か、原因不明の腐臭、柱や壁の損傷などが多岐に見られた。
それに加えて戦闘があったことを示すように黒く煤けた壁、硝煙の残り香、ごそりと抉れた砲撃跡、もしかすると深海棲艦が潜んでいるかもしれない。
アリーヤを含めた下水道探索班は気を引き締めて行動することにした(バガモールはロケット弾にスリスリしていた)。
「よう、チビッ子」
「ん、なんだい?」
探索の最中、マイブリスがシューマッハの頭をポンポンと叩く。
調子の良い軽い声音とおちゃらけた態度のマイブリスだが、視線は常に全方向を落ち着きなく観察しているので前方を見ている前衛には頼もしい。
「いやな、敵同士だったお前と仲間になるとはな…ってしんみりしてたとこだ。そこんとこお前さんはどうなんだ?」
シューマッハは風見空がエンディング先の1つ、ORCAルートで使用していたネクストだ。
ORCAルートの最終決戦はインテリオル・ユニオン所属のウィン・D・ファンションが使うレイテルパラッシュ、独立傭兵であるロイ・ザーランドのマイブリスと戦うことになる。
そしてORCAルートは途中に不死身爺の王小龍、リリウム・ウォルコット(特に重要)のタッグと戦うステージがある為、リリウム大好きの風見空は好き好んでORCAルートを周回していた。
その為、シューマッハを用いたレイテルパラッシュ、マイブリスの撃墜数は50以上に及ぶ(マッチ戦などを含めればリリウム機の撃墜数は優に100を超える)。
この2人の関係は正に因縁の相手とも呼べるべきだ。
「以前のことは関係無いね。キミだってそうじゃないの?」
「ハッ、まあこっちもそんなもんだ。お前ならこっちも任せられるわけだ。安心してサボらせてもらうわ」
ニヤニヤと口元を緩ませ、2人はそれ以上何も言わずに下水道探索を再開する。
元々独立傭兵として企業の思惑に支配されなかったリンクスの愛機だ、最終的に敵対したとしても再び仲間となるのなら心強いもんだとマイブリスは笑い飛ばした。
………………………………ぽちゃん
「………何か聞こえましたか?」
「………」
「………」
「………」
雫が下水道に溜まった水を打つ音。
言って仕舞えばそれだけだが、果たしてソレだけなのか?
マイブリスはカメラ性能を限界まで使ってレーダーに反応がないかを調べる。
アリーヤはすぐ対応出来るように右手のマシンガンに付いているセーフティを解除、紅い瞳を煌めかせて四方を隈なく探る。
シューマッハはマイブリスとレーダーを同期させて追加ブースターの出力を調整、得意技である二段ブースターの範囲に味方を巻き込まないよう距離を空ける。
フリュークはすぐさま光学迷彩を展開して存在しない存在に成り替わる。
最後にバガモールはロケット弾に頬ずりしていた。
どどどどどどど
「お客さんだぜ、それも団体さんのお出ましだ」
音が聞こえるのは前方から、レーダーにも微かに感あり、マイブリスは右手のガトリングガンの砲身を回転させていつでも弾幕を張れるようにする。
左手に持ったデュアルレーザーライフルの砲身が横に割れて二つの銃身が現れ、本来の姿へと変形する。
先手必勝、とレーダーが示す敵対反応へ二つの青白い閃光が奔った。
「Amiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
「っ!?」
耳を劈く鳴き声、ドシンドシンと鳴る地鳴り、揺れ、青白い閃光が着弾と同時に照らした敵の姿。
「んだよ、アレ」
2メートル大の緑色の蟲、それが、10匹以上ーーー?
いや、もっといる?そもそもーーー。
「う、上!」
シューマッハが慌てたようにレーザーライフルを上へ向けると、肥えた臭いを撒き散らしながら酸のような液体がボトボトと落ちて来た。
すぐさま回避行動に移る面々は見事に分断されたことに気付いて顔を青ざめる。
「Amyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!?」
「チッ、勘弁だぜ、こんなのはよっ」
マイブリスのガトリングガンから大量の弾丸が吐き出され、集る蟲を次々にこな切れへと変えていく。
穿つ弾丸、飛び散る体液、バラバラになった甲皮が水だまりにぼちゃぼちゃと沈み、マイブリスはそれでもなお囲もうと迫り来る蟲群に舌打ちする。
「がっ」
蟲の鋭い脚がプライマルアーマー越しにマイブリスの身体を直撃する。
プライマルアーマーで幾分かのダメージは抑えたものの、勢いまでも相殺することはできずにマイブリスは顔を顰めて弾幕を厚くする。
「っ、酸……!めんどくせぇなあ。おい」
蟲が吐き出す酸性質を持つ液体をクイックブーストを使って避ける。
そのついでで進路方向の蟲を重量脚で蹴り飛ばす。
蟲は悲痛な鳴き声をあげてバラバラになった。
否、爆散したーーー。
「なっ……!?」
この展開にマイブリスは冷静に対処しようと身構えた、その隙を蟲は逃さない。
4方向からマイブリスに向けて脚を絡ませ、容易に逃げ出せないように器用に縛る。
彼女が蟲を殴りつけると蟲は簡単に爆散、周りの蟲も巻き込んだ爆発はマイブリスのプライマルアーマーを削り、本体へと確実なダメージを与えた。
「……………………ハッ、だせぇな。俺も」
煙が晴れた時、マイブリスは既に蟲に拘束された状態でぐったりとしていた。
度重なる至近距離からの爆発、弱ったところへ浴びせられる酸性質の液体、マイブリスのラフ服装はビリビリに破れ、ドロドロに溶け、残すは彼女の胸を覆い隠すブラジャーとスカートのみ、そしてその中へと緑蟲の毒牙が忍び寄ろうとする。
「ぐ、こいつら……」
しかし、体力と気力を削がれたマイブリスは抵抗しようとする力がもはや皆無であった。
そうする内に蟲の脚はスルスルと彼女の下着へと手をかけ………。
ドガガガガガガガーーーーーーン!!!
爆発した。
「amya!!?」
「フハハハハハハハハハハ!!!愉快!愉快!実にハラショー!なのであーーる!」
ドガーーーーン!
爆散、四散、烈波が蟲達を吹き飛ばし、紅蓮の炎が下水道を包み込む。
蟲達の死骸に集る焔から1つの影が、
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
「………す、凄えな、コイツ」
ロケット大好きロケットバカ、バガモールだ。
彼女は当初蟲に絡みつかれた時蟲の脚を掴んで空中へぶん投げ、放られた蟲に向かってロケット弾をぶち当てた。
ノーロック武器であるが、その熟練度はピカイチ、故に当てることは造作もない。
そして彼女は空中まで飛んで下水道に屯する蟲どもへロケット弾の雨を降らせたのだった。
「amyaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
「ハラショォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーー!!!!」
蟲達は軒並みバラバラの死骸に変えられ、拘束から抜け出したマイブリスは助かったと息を吐く。
蟲の陵辱など、死にたくないし勘弁だぜ、と彼女も淡々と掃討を始めた。
「シューマッハっ」
「分かってるよ、アリーヤ」
ドヒャッズバッ!!!!
背中に備えられた推進機からブースター炎が勢いよく吐き出され、その少女は一瞬、消えた。
左腕から青白いエネルギー体が構成され、緑色の甲皮を易々と両断する、蟲は死んだ。
「それにしても、キリがないですね」
「本当に、面倒な敵だよ」
後ろから忍び寄る蟲にブースター炎を浴びせて振り向き様の足蹴、吹き飛んだ蟲は数匹の同族を巻き込んで爆散した。
「マイブリス、バガモールともはぐれてしまいましたし、一度撤退しますか?」
「ん、アリーヤの、指示なら、あ、フリュークっ、は?」
レーザーライフルを撃ち、レーザーブレードを振るうシューマッハは光学迷彩を展開したフリュークが何処かに行ってしまったことに気付く。
「レーダーにも反応がないですね……まずは提督に連絡を取りましょう」
嘆息したアリーヤは空に連絡を取る。
その時空は執務室にいて、魂が抜けたように椅子に座って眠っていた。
「うわっ!?マジかこれ!マジかこれ!?」
突然シューマッハが男口調で驚愕して動きを止めた。
そこにこぞって突っ込んでくる緑蟲、シューマッハはその姿を捉えて更に驚く。
「げぇっ!?あ、ああ、AMIDAァァァァァ!!?ファッ!?」
AMIDA、それはあの蟲達の名前だろうかとアリーヤが首を傾げるが、シューマッハはまるで武器を持っているのに使い方が分からないか、レーザーブレードで敵を薙ぎ払うことをしなかった。
慌ててアリーヤはレーザーブレード『ドラゴンスレイヤー』で次々に切り裂いていく。
「どうしたんですか!?シューマッハ」
「あ、アリーヤ。え、マジこれシューマッハ?」
「えぇ………?一体何が」
シューマッハは自分の体をジロジロ見おろすと、やおらにペタペタと触り始めた。
「ほうほう、これが女の子の体かぁ……っ!む、胸………これが女の子の体かぁ……!!」
むにむにもにもに、真剣な顔で自分の胸を揉みしだくシューマッハにアリーヤの混乱は限界にまで極まる。
一体彼女はどうしたのか?
「っ、なんだろうな。股がムズムズしてきた。ち、ちょっとだけならお触りオッケーだよな?へへへ(ゲス顔)」
なぜだろう、今の彼女を見てると不安しかない。
アリーヤはシューマッハの体を羽交い締めにして空中まで避難した。
「あ、アリーヤ!やめろ!離せぇ!」
「だ、ダメです!」
「先っぽ!先っぽだけだから!お願い!なぁ、頼むよ!!」
「ちょ、ちょっとシューマッハ。動かないで………あ、や、やめて下さい!?む、胸を揉まないで……」
羽交い締めにされた状態で器用に胸を揉もうとするシューマッハに、危険を感じたアリーヤは、オーバードブーストを噴かして安全な場所まで飛ぶことにしたのだった。
「アリーヤ……着痩せするタイプか。結構あるな」
「も、もう!シューマッハ!?」