ストライクウィッチーズ~あべこべ世界の炊事兵~   作:大鳳

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ネタを頑張って書いていましたが、筆が一向に進まなかったのでスオムス編を投稿します。


北欧の“いらん子”達
7話 北欧に集いし者達


 1939年9月1日欧州は怪異の侵略を受けた。突如としてダキア上空に巣が形成され瞬く間にダキアは怪異に押しつぶされていった。欧州及び世界各国は人類連合を形成しダキアに出現した怪異を『ネウロイ』と呼称し、第2次ネウロイ大戦が開始された。人類連合の抵抗も虚しく東欧諸国は瞬く間に壊滅し、オラーシャ帝国も侵攻を受けた。この時運悪くオラーシャ帝国軍内では内紛が起きており対処が遅れてしまった。そのため戦線は後退していくこととなりバルトランドやスオムスへと撤退する部隊もあった。世界各国が増援を欧州へ送り込んでいる中扶桑国軍内でも欧州への派遣が決定し、派遣される人員の選抜が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋も深まる10月リハビリを終え軍へと復帰した自分は、埠頭を離れようとしている欧州派遣艦隊の輸送船『阿波丸』の甲板上に立っていた。自分の反対側では欧州派遣の要である“機械化航空歩兵(魔女)”達が見事な敬礼を行い熱狂の歓呼とカメラのフラッシュを受けていた。見送りに来ている人はオリンピックの代表選手団を見に来ているようなものだろうと一人納得していた。制服のポケットをゴソゴソと漁り支給されていたタバコを咥える。マッチは一応持っているが決して火をつけはしない。あくまでも格好つけのためのタバコである。

 甲板上を見渡してみると敬礼を終えたウィッチ達がこちらを見てひそひそとささやきあっているのが見えた。それもそうだろう慣れたとはいえ女の中に男一人なのだから仕方ないと思ったその時横から盛大なため息が聞こた。顔を向けると智子さんがうなだれていた。本人はカールスラントへ派遣されるものだと思っていたのが、北欧の小国スオムスへ派遣されることとなりよほどのショックになっているようだ。自分の場合は完治したわけではないので比較的安全そうなスオムスへ回された。

 

 

 「いいかげん吹っ切りましょうや智子さん」

 

 「アンタはお気楽そうでいいわよね。私たちは“小部隊”よ!!カールスラント組なんて大見出しつけられてんのに私たちはたった数行よ!?」

 

 「仕方ないでしょうに自分も併せて二人しかいないんですから」

 

 「たった二人で何ができるっていうのよ。だいたいスオムスなんて小国にネウロイが攻撃するわけないじゃない!!」

 

 「いいじゃないですか巴御前と鬼神って組み合わせ。まぁ何かあってからじゃ遅いですしね?落ち着きましょう?」

 

 怒髪衝天と言った様子の智子さんだが対照的に自分はすんなりと受け入れていた。というより上が行けと言っているので逆らったところでいいことはなんもないのだ。ならば受け入れるしかあるまい。

 

 「俺は智子さんと一緒でよかったと思いますがね。智子さんはどうですか?」

 

 そういうと智子さんの顔が熟れたトマトように真っ赤に染まった。

 

 「いやってわけじゃないわよ。…むしろチャンスなんだけどやっぱりカールスラントに行きたかったし」

 

 もじもじとしながら智子さんはそう答えた後半は風にかき消されよく聞こえなかった。そんな智子さんを横目にしていると後ろから素っ頓狂な声が聞こえた。振り返ると小柄な少女が立っていた。白いセーラ服にゴム引きのコート、錨のマークがついた帽子をかぶっている。ということは海軍だろう。彼女は顔を智子さんに近づけ食い入るように見つめた。

 

 「やっぱり穴拭智子少尉だ!!感激です!!」

 

 「失礼だけどあなた誰?」

 

 「失礼しました!!皇国海軍横浜航空隊所属、迫水ハルカ一等飛行兵曹ですっ!!」

 

 そう言って敬礼している少女はきれいに切れ揃えられた前髪のくりくりとした黒い瞳を智子さんに向けていた。

 

 「飛行兵曹ってことは貴女も機械化航空歩兵?」

 

 「はい、そうです。違った!そうであります!!」

 

 智子さんに向けている瞳はきらきらとしている。

 

 「実は私その、少尉の大ファンでして!!」

 

 「あら、ありがとう」

 

 「『扶桑海の閃光』は何度も見に行きました!一機で五機の怪異に囲まれながら単機で奮戦されたシーンは大変興奮いたしました!!いつかはお会いしてみたいと思っていたのですがまさか欧州派遣の戦場で会えるなんて。正に奇跡です!少尉はカールスラントへ派遣されるのですか?」

 

 やばいよこの上官笑顔で地雷踏んできやがったよ。

 

 「ちっ、違うわ…」

 

 「では、どちらに?」

 

 持ち直したようだったテンションが無垢な一撃を受けシュトゥーカも真っ青な急降下を決める。

 

 「す、スオムスよ…」

 

 「本当ですか!?一緒の船ならず行先まで一緒だなんて!!」

 

 「あなたもスオムス派遣なの?」

 

 「はい、ご一緒出来て光栄の極みです!!」

 

 「なら一緒に頑張りましょうね」

 

 「はい、でも二人だけなんて不安ですね」

 

 迫水兵曹がそう言ったとき、獲物が無防備にえさを食べているのを見つけた肉食獣の笑みを智子さんが浮かべた。

 

 「残念二人だけじゃないわよ。ここに3人目がいるんだから」

 

 そう言って俺を指差す智子さん。踵を打ち鳴らし敬礼を行う。

 

 「扶桑皇国陸軍欧州派遣スオムス方面部隊糧食担当員伊勢崎伍長であります。初めまして迫水一等飛行兵曹」

 

 長ったらしい部隊名を言いたくないが書類上所属している部隊なので言わなければならない。

 

 「伊勢崎ってあの『ウラルの鬼神』の伊勢崎兵長ですか!?」

 

 遠巻きに自分たちを見ていたウィッチ達からも驚きの声が漏れる。

 

 「まぁ、世間ではそう呼ばれてるみたいですね…」

 

 「とにかく3人そろえばなんとやらというでしょ?脱スオムスの方法でも考えるわよ!!」

 

 この期に及んでもカールスラントへ行くことをあきらめてないようだ。

 

 「いい加減あきらめてスオムスへ行きましょうよ…」

 

 「あきらめるもんですか!!絶対カールスラントへ行ってやるんだから!!!」

 

 こちらの言うことに耳を貸してくれない。

 

 「落ち着いてください穴拭少尉。スオムスで戦果をあげればカールスラントへ配置転換することを上も考えてくれるかもしれませんよ。それに加藤少尉と一緒に戦うにしても何か自慢できることがあった方がいいでしょう?」

 

 智子さんはフジ少尉にライバル心を抱いている節がある。そこに付け込めれば何とかなるだろう。

 

 「確かにそうかもしれないわね。ま、そこまで言うんなら行ってやろうじゃない」

 

 智子さんは仕方ないといった様子でそう答えた。何はともあれ何とかスオムスへ行くことができそうだ。

 

 「誰が私をスオムスへ送ったかわかんないけど必ず見返してやるんだから!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 船に揺られ続けること5週間、『阿波丸』はガリアのブレスト軍港へ入港した。カールスラント組とは別れ自分たち3人は輸送機を乗り継ぎ、空路でスオムスのカウハバ基地へとやってきた。カールスラント製の輸送機から降りたとき目に入ったのは針葉樹林と美しい湖であった。11月とはいえ扶桑とは段違いに寒くコートを着ていても肩をすぼめる程寒かった。迫水一飛曹は寒さに震えているばかりであった。とはいえ慣れてきたようで智子さんに話しかける余裕が出てきたようだ。

 

 「すごいですね智子さん、一面雪だらけですよ!!本当に雪って綺麗ですね!!」

 

 頬をリンゴのように染めた迫水兵曹が嬉しそうに智子さんに言っている。しかし、肝心の智子さんは

 

 「キューナナの魔導エンジンはこの極寒の地で性能を発揮してくれるのかしら」

 

 と景色のことなど気にしていないようだった。迫水兵曹はガックリと肩を落としている。船上で過ごしてきて分かってきたのだが迫水兵曹は智子さんに尊敬以上の感情を持っているようだった。まぁ抱く感情など本人の自由だろう。輸送機から降ろされている物資をリスト片手にそろっているかチェックしていく。物資の大半はストライカー関連で後は個人の荷物や装備品であった。もちろん自分の銃器もリストに入れられている。

 物資が漏れもなくそろっているのを確認した時、雪を搔き分けながら白の迷彩塗装が施された雪上車がやってきた。扉が開き降りてきたのは、眼鏡をかけた理知的な女の人が降りてきた。こちらへと敬礼してきたため慌てて敬礼を行う。

 

 「カウハバ空軍基地へようこそ。基地司令部、ハッキネン大尉です」

 

 「扶桑皇国陸軍、欧州派遣スオムス方面部隊糧食担当員 伊勢崎伍長であります」

 

 「ふふふ、扶桑皇国海軍、迫水ハルカ一飛曹ですっ!!」

 

 迫水一飛曹が直立不動で行ったのに対して智子さんは不機嫌な様子で敬礼を返していた。あちらの方が階級が上ですよ?

 

 「エースと鬼神の到来を歓迎します」

 

 そう言って自分と智子さんの顔を見たハッキネン大尉。自分の顔を見たときほんの一瞬であるが気の毒そうな表情が浮かんだのを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物資を雪上車へ積み込み雪上車に揺られブリーフィングルームへと案内された。元は倉庫だったようなボロい建物だった。石油ストーブが二つほど置かれそれを挟むように椅子が置かれていた。

 目の前の黒板には英語もといブリタニア語で何か書かれていた。自分の拙い語学力で『スオムス義勇独立飛行中隊指揮所』と書いてあるのがなんとか理解できた。ここでの会話はブリタニア語で行われるようだが大丈夫だろうか。

 智子さんは唇をへの字に曲げつまらなさそうに、迫水一飛曹はそわそわしながら中隊長が来るのを待っていた。周りを見てみると自分たち以外に三人ほどの西洋人が座っていた。一人は本を読んでいる金髪のおかっぱ頭で迫水一飛曹より幼く、もう一人は腰まで伸ばした金髪と制服を胸で窮屈そうに盛り上げていた。最後の一人に至っては黒い革のライダージャケットを着ている銀髪で美人だったがひっきりなしにタバコをふかしているのと、何かに悩んでいるかのように眉間にしわを寄せていることでとっつきにくい印象を与えていた。

 この場に男一人だけはやはり注目を浴びるようでこちらをチラチラと見てきていたが気にせず目を閉じて中隊長が来るのを待つ。部屋には、ページをめくる音だけが響いていた。

 どれだけの時間をそうやって過ごしたのだろうか廊下から足音が聞こえてきた。一人は背が高くもう一人は背が低いようだった。目覚めてから鋭くなった感覚と付き合っているうちに微かな足音の違いだけで人数が把握できるまでになっていた。少し時間がたった時バタンと、白に近い薄い金髪の少女が書類の束を抱えて入ってきて、そして盛大にこけた。

 

 

 「あわわわ!」

 

 派手に散らばった書類を集めている。見ていられないので手伝う。

 

 「あ、あの、その、ありがとうございます」

 

 「困っている人を助けるのは当然の事なので」

 

 

 書類を集め終わったときハッキネン大尉が部屋に入ってきた。

 

 「話は終わりましたか?」

 

 「す、すみません!両手が塞がっててそれでドアを開けようとしたら…」

 

 ショボーンと頭を下げている少女。

 

 「なら、早く挨拶してください」

 

 事務的に返答するハッキネン大尉。少女は黒板の前にツカツカと歩いて行った。再び椅子に腰かけ話が始まるのを待つ。

 黒板の前に立った少女はひどく緊張しているようで、一度深呼吸して手のひらに何かを書いてなめる仕草をした。

 

 「遠路はるばるようこそスオムスへ!!各国からの義勇兵の皆様方を歓迎します。今日から皆さんと一緒に戦うことになりました、エルマ・レイヴォネン中尉です。皆さん頑張っていきましょう!!」

 

 そう言ってビシッと敬礼を行う。しかし、敬礼を返したのは自分だけであった。それを見てエルマ中尉は泣きそうであった。

 

 「え、えーとそれでは皆さん自己紹介をお願いします。それではそちらのだ、男性の方お願いします」

 

 目があったため自己紹介のトップバッターに指名されてしまった。断ろうにもエルマ中尉の目がやってくれますよね?と訴えかけてくるもんだから断れない。頷いて席を立つ。

 

 「扶桑皇国陸軍、欧州派遣スオムス方面部隊糧食担当員伊勢崎 正伍長であります。分隊内では選抜射手に任命されていました。特技は裁縫や料理です。柔術と銃剣道も得意です。どうぞよろしくお願いします」

 

 自己紹介を終え席に座る。

 

 「え、えーとお次は、誰にしましょう?」

 

 オロオロとしているエルマ中尉。かわいそうなので助け舟を出す。

 

 「次、迫水一飛曹お願いします」

 

 「え、あっ、はい!!」

 

 「扶桑皇国海軍、迫水ハルカ一等飛行兵曹です!趣味は、あんまりうまくないけどお菓子作りです。特技は弓道です」

 

 弓道が得意なのは意外であった。

 

 「次はミーが行くねー。リベリオン海軍から来ました、キャサリン・オヘア少尉でーす!皆さんどうぞよろしくねー!男が部隊にいるのは初めてでドキドキするねー。」

 

 こちらを見ながら無邪気にパタパタと両手を振っている。こちらは頭を軽く下げた。

 

 「ミーの特技はこれね!」

 

 言うなり素早く腰のホルスターに手を伸ばしたので椅子から転げ落ちるようにして伏せる。それと同時に腰だめにしたリボルヴァーの撃鉄を左手ではじいて連射した。部屋に黒色火薬の図太い発射音が響き渡った。

 

 「OH!驚かないで!空砲でーす!これ挨拶用ね!」

 

西部劇のガンマンよろしくくるくると指でリボルヴァ―を回してホルスターに戻す。空砲と言っていたが黒板にはしっかりと弾痕が残されていた。ハッキネン大尉がそれを黙って指差すと

 

 「ソーリィ!間違えましたー!誰にでも失敗はありますねー」

 

 あはははは、とおおらか笑顔でそう言った。心臓に悪すぎる。

 

 「え、えっと…、次!」

 

 やけくそ気味にエルマ中尉が一番幼く見えるおかっぱの少女を指さした。少女は読んでいた本を几帳面に鞄へしまい、ぼろぼろのノートを取り出し掲げた。

 

 「私はカールスラント空軍、ウルスラ・ハルトマン曹長です。カールスラント軍人のモットーは『教科書から学ぶ』です。したがって私はこの空軍教範にのっとり行動します」

 

 「ここはスオムスなんですけど・・・」

 

 「私はカールスラント空軍軍人です。それはもう、南極だろうが地の果てでも変わらないことです。したがって、中隊長殿におかれましてはこれを熟読くださるようお願いいたします」

 

 そういってウルスラ曹長はエルマ中尉に教範を手渡した。エルマ中尉はパラパラと教範をめくっていたが読めなかったようで机の上に置いていた。

 

 「次の方、お、お願いします」

 

 そう言ってエルマ中尉が指名したのは革のライダースーツを着た銀髪の少女であった。指名された少女はガタン、と無言で立ち上がった。

 

 「ブリタニア空軍、エリザベス・F・ビューイング。階級は少尉」

 

 気難しそうな声でそれだけを言うと座ってしまった。座るときこちらを訝しげに見ていた。あの戦いの後、自分のやったことは顔写真付きで世界中の新聞に掲載された。そんな人間がどうしてこんな辺鄙な場所に配属されたのか不思議に思ったのだろうか。それを置いて身のこなしというか雰囲気から実戦を経験しているのが感じ取れた。それに腰に刃物を持っているようだ。

 

 「えっと、他には?」

 

 エルマ中尉が困ったようにそうビューリング少尉に尋ねた。

 

 「他にはとは?」

 

 「ほら、私たち仲良しさんになるんですからいろいろ知っておいた方がいいじゃないですか。例えば、・・・好きな食べ物とか、癖とか特技とか」

 

 エルマ中尉はそれいる?といったような質問項目を並べていた。

 

 「装備機は?」

 

 ハッキネン大尉がビューリング中尉に質問をした。

 

 「ハリケーン」

 

 ビューリング少尉は短くそう答えた。

 

 「いいストライカーね」

 ハッキネン大尉は、ビューリング少尉にそうつぶやいて見せた。

 

 「では、最後の人・・・」

 

 そう言ってエルマ中尉は智子さんに自己紹介をするように促した。

 

 「扶桑皇国陸軍、穴拭智子。階級は少尉、特技は格闘戦」

 

 不機嫌そうに智子さんはそう述べたあととんでもないことを言い出した。

 

 「失礼ですが、私以外のメンバーの中で空戦経験があるのはいますか?」

 

 「あなた以外には空戦経験がないようですが」

 

 「なら私に訓練を一任してもらってもよろしいでしょうか?」

 

 智子さんの言葉に気圧されたエルマ中尉はハッキネン大尉を困ったように見つめた。

 

 「いいんじゃないでしょうか。空戦経験があるのは彼女だけみたいですし」

 

 「じゃ、お願いしますね」

 

 そう言ってエルマ中尉は微笑んだ。

 

 「では、ささやかながら歓迎会を設けました」

 

 「ワオ!歓迎会ですか!料理に、お酒、最高ですね」

 

 オヘア少尉が嬉しそうに歓声を上げた。エルマ中尉が歓迎会へと案内しようとしたとき智子さんが立ちふさがった。

 

 「歓迎会は後にしてメンバーの実力を見ましょう」

 

 「でも、料理がもう準備出来て・・・」

 

 「実力を見る方が先です!!歓迎会なんて後からでもできます!!」

 

 ギロリとエルマ中尉を睨む智子さん。

 

 「それに先程中尉は私に訓練を一任するとおっしゃいましたよね?」

 

 エルマ中尉は蛇ににらまれたカエルのように縮こまりはぃぃ…と半泣きで頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 自分以外の中隊のメンバーはストライカーを履いて模擬空戦を行っており、スオムスの寒空にエンジンを響かせている。一方の自分は格納庫で愛銃である三十八式歩兵銃のメンテナンスを木箱に腰かけて行っていた。

 本来の三十八式とは違い、自分のにはスコープ装着できるように手を加えてあった。三十八式を基にした九十七式狙撃銃という狙撃銃もあるが手になじんだこっちの方が使いやすい。

 ばらした三八式を組み立てなおしていると格納庫の入り口から誰かが入ってきた。手を止めて、入ってきた人物を見るとハッキネン大尉であった。

 

 「到着早々銃の整備とは精が出ますね」

 

 一瞬皮肉を言われたかと思ったがそうではなく、本心からのようだった。

 

 「何かあった時に使えないと困るでしょう?それにこの基地の周りにはいい獲物がいそうですしね」

 

 ガチャッとボルトを引き、異常がないことを確認しボルトを元に戻す。

 

 「確かにあなたは経験してましたね」

 

 ハッキネン大尉が顔と左手の火傷痕を一瞬だけみてそう言った。

 

 「あんなことはもう御免ですよ」

 

 奥歯を砕けんばかりにかみしめ、鈍痛が走る顔の火傷痕を左手で覆った。この鈍痛は気が昂った時などによく起き、医者にも治せないようだ。

 ハッキネン大尉は何も言わずそんな自分をただただ見ていた。

 

 

 

 

 

 

 鈍痛が落ち着き、装備品の確認が一通り済んだころ模擬戦をしていた智子さんたちが戻ってきた。智子さんはひどく不機嫌な様子で中隊メンバーにダメ出しをしていた。

 智子さんが猛訓練をするといったときに不満を漏らしたメンバーを怒鳴りつけていると、漫画で見るような「おほほほほ!」というお嬢様笑いが聞こえてきた。

 声のした方を見ると十人ほどの少女たちがこちらを見ていた。十人ともそろいのボアのついたジャケットを着て、腕にはスオムス空軍の青十字マーク。そして、足にはスマートなストライカーを履いていた。

 

 「アホネン大尉!」

 

 エルマ中尉がそう言ったときに、智子さんと迫水一飛曹が爆笑した。扶桑人がその名前聞いたらまあ笑うよね。

 

 「何がおかしいのよ!」

 

 そう智子さんに詰め寄ったのは金髪で巻き毛の少女であった。前髪は持ち上げられ、切れ長の瞳をしておりどこか意地の悪そうな顔であった。

 

 「ごめんなさい、外国の名字に文句はつける気はないのだけど・・・」

 

 智子さんがアホネン大尉にそう言ったとき迫水一飛曹の口が小さく動いた。離れているため聞き取れなかったが、近くにいた智子さんが腹を抱え迫水一飛曹の肩を叩きながら笑っていた。

 それを見て顔を真っ赤にしたアホネン大尉が智子さんに平手打ちを食らわせた。格納庫に子気味いい音が響き渡った。

 それを機に、智子中尉とアホネン大尉の口論が始まったので黙って見守っていた。

 

 「第一中隊、ナンバーワンの落ちこぼれにはピッタリの任務だと思わない?こんな国で持て余された、落ちこぼれを寄せ集めた“いらん子中隊”の指揮官なんて」

 

 アホネン大尉の後ろに控えた少女たちが大声で笑った。オヘア少尉が反論したものの“壊し屋(クラッシャー)”であると指摘された。63機は壊しすぎだと思う。ダックスフントの可愛らしい犬耳を生やしたビューリング少尉に至っては82回の軍規違反に、軍法会議を8回も受けていたようだ。営巣入りは55回も経験していると本人談。ウルスラ曹長は一部隊を“実験”で壊滅させたそうだ。問題児だらけじゃね?

 迫水一飛曹は百合の花が咲いたとだけ言っておこう。表現するにはちょっとハードルが高すぎる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 欧州で発生した第2次ネウロイ大戦は小国であるスオムスさえ包み込まんとしていた。スオムスが怪異の侵攻に耐えきるのか、それとも蹂躙されるのか。それを知るのは神のみである。

 

 




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