ストライクウィッチーズ~あべこべ世界の炊事兵~   作:大鳳

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更新が遅くなりすいません。教習所通いなど新生活への準備があり遅れました。あと今回かなりグダグダとなっております。どうかご注意ください。


5話 地獄の蓋が開くとき

 年も明け初春を迎えたころウィッチの消耗を重く見た軍上層部は戦力の平均化を狙った部隊の再構成を行った。訓練が終わったばかりのウィッチを古参部隊に配備し鍛え上げさせ、まだ戦うことのできるウィッチを新部隊に送り込み戦力の底上げを図るというものであった。第一飛行戦隊は当然その対象となりフジ少尉とヒガシ少尉それと黒江少尉が別々の部隊へと転属となった。江藤中佐と智子さんはそのまま第一飛行戦隊へ残ることになった。また新部隊の創設によって人員の移動も行われ補充人員の配置と共に兵長へと昇進することになった。

 戦力を増強したが春を迎えたころ寒波の到来によって活動が鈍っていた怪異が再び活発化した。戦力の平均化を図ったばかりの各部隊では苦戦を強いられベテラン、新兵問わず戦力を徐々に削られていた。また後方では補給線の伸びという致命的な問題も発生していた。扶桑本土では戦時生産体勢に移行したようだがそれもまだ完璧でない上に、物資を送る手段が船しかないのだ。輸送機もあるがそんなに量を輸送することができないのでもっぱら負傷者の後送に使われている。陸路での輸送に頼っているため物資の到着に時間がかかっているのが現状だ。

 また高速爆撃機型怪異の出現も前線に打撃を与えた。これは海軍によって撃破されたようだ。この時提出された戦闘報告書にあった“怪異の(コア)”という記載に目を付けた陸軍は反攻作戦を行うことにした。本土から送り込まれた増援ともとからウラル方面に配備された人員併せて15000人。そして新開発の陸戦型ストライカーを投入するものであった。作戦が行われたのは7月1日だったが、開始から6日で潰走するという負けも負けそれも大負けという有様であった。14日には航空歩兵隊の奮戦によって一時的に戦線の再構築に成功したが被害は甚大で投入された人員の3分の1にあたる5000人もの将兵を失っていた。大幅に後退した前線や以前より悪化した状況を鑑みて大陸に居住する皇国民の大規模な避難が開始されることになった。幸いにも怪異の活動は小康状態になっていたため避難は順調に進んでいた。

 しかし前線では地獄のような撤退戦が繰り広げられていた。撤退戦の中孤立無援となった陸戦ウィッチの救助のため出撃することが少なくなって来ていた。炊事兵として救助された陸戦ウィッチにおにぎりや豚汁を与えることもあった。頭を下げ「このご恩は必ず返します」と言ってたウィッチがいたが名前を聞きそびれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウラルに派遣されてから2度目になる7月末自分は基地の物資をトラックに積み込んでいた。大陸からの撤退に伴い今いる基地からさらに後方の基地へと撤退するのだ。一度に撤退するのではなく3次に分けて撤退する計画になっていた。自分は3次で撤退することにしていた。ウィッチ隊は怪異の大群が観測されたようで全員出撃している。予定では撤退先の基地で他の飛行戦隊と合流する。しかし、戦闘でストライカーが損傷し基地にたどり着けないかもしれないという事態を想定し整備や補給ができるように最低限の燃料や部品、武器弾薬そして人員が基地に残っていた。

 

 「伊勢崎兵長、大鍋はどのトラックに積めばいいのでしょうか?」

 

大鍋が入っているらしき木箱を抱えているのは4月に配属されたばかりの須加整備兵だ。身長は160センチ前半で髪を一つにまとめ肩甲骨あたりまで垂らしている。格納庫の周りには10輌程トラックが並んでいた。

 

 「右から2番目に積んどいて。後は何が残っている?」

 

 手元のリストにチェックを入れながら尋ねる。

 

 「これで最後だったと思います。ここに来るまでに武器庫に弾薬と銃器が残っていたのを見ましたけど」

 

 「じゃぁ、それを積んじゃおう。スペースがあるなら乗るだろ」

 

 「分かりました。そういえば聞きましたか?数日程前にここから20キロほどのところに怪異が落ちたらしいですよ」

 

 辺りをキョロキョロと見て周囲に聞こえないような小声で話しかけてくる

 

 「それまた厄介な。つかどこで聞いてきたんだよ」

 

 「今朝軍曹たちが話しているのを小耳にはさんだんです。何でも落ちた跡らしいクレーターの周囲に大きな穴が開いていたみたいですよ」

 

 「破片でも飛び散ったんじゃねぇか?怪異関連で俺が穴拭少尉に聞いた話だと、色んな所で飛行型が基地から一定の距離を置いて出現するってのは聞いたことあるけどなぁ」

 

 「何を考えてるんでしょうかね?一体」

 

 「それがわかりゃ誰も苦労しねぇだろうよ。わかってたら今頃こうやってトラックに荷物を積んでなかったろうに」

 

 「それもそうですよね」

 

 「“コア”を壊しゃぁ怪異が撃破できるってのはわかるがよ、怪異の全部が全部コア持ってるわけじゃねぇ。もうちょい上が賢けりゃ良かったよ。そういや並べてある燃料の入ったドラム缶はどうすんだ?」

 

 「撤退先の基地に持ってくみたいですよ」

 

 「これを積み込むのかよ!?そいつはきつい話だな。中身を瓶にでも詰めて火炎瓶でも作ってやろうか」

 

そういって木箱に詰められた一升瓶を指差す。

 

 「それはいいかもしれないですね。ほんとに使うことがあったらおしまいでしょう」

 

 「そいつは言えてるな。何しろ今の基地の防御力はないに近いしな」

 

そういって基地の対空機銃にチラッと目線を向ける。撤退に伴い以前配備されていた対空機銃の半分以上は戦線の別の場所に配備され、警備中隊も前線へ補充として送られていた。よって怪異の攻撃には丸裸に近い状態であった。

 

 「まぁ、ちゃっちゃと片づけちまってここからおさらば・・・」

 

 だと続けようとした時砲声が轟いた。須加整備兵の頭を押さえつけるようにして伏せさせる。幸いにも基地の建物には被弾しなかったが滑走路の端に着弾したようだ。爆弾はすべて第一陣と共に撤退先へと持っていかれたはずだし、滑走路の端に置いてあるという話も聞いたことがない。考えられるのは一つだけであった。

 

 「なんてこった、怪異の奴ら穴を掘ってここまで来やがった・・・!!」

 

 「そんな、前線からここまで大分距離がありますよ!!」

 

 「前線から来たんじゃねぇ!!数日前に落ちた怪異が腹の中に地上型抱えてやがったんだ。クレーターの近くの穴は怪異が地下に潜ったからできたんだよ!!」

 

 そう話している間にも砲撃は続いており基地の建物にも着弾し始めていた。怒号や叫び声が響き渡っていた。頼みの綱であるウィッチは全て出払ってしまっている。対空機銃で反撃をしている者もいるようだが大半のものは突然のことに対処できていなかった。

 

 「他にも基地があるはずです!!よりによってなんでこの基地が襲撃されるんですかぁ!!」

 

 泣きながら須加整備兵がそう言っている。これは想像でしかないが、おそらく怪異はそれぞれの航空歩兵隊基地からある程度決まった距離をおいて出現し攻撃してくるまでの速さでどの基地が脅威かを決めて、その結果この基地が一番の脅威と判定されたのではないだろうか。しかし、今はそれは重要ではない。とにかく動かねば。

 ほふく前進で積み上げられていた木箱へと近づきそっと腰の雑嚢から双眼鏡を取り出し砲撃している場所を探す。砲撃は基地付近の丘から行われていた。距離があり双眼鏡を通してでも若干ぼやけて見える。丸みを帯びた砲塔らしきものが4本足の胴体に乗っているものが1、随伴歩兵役であろう歩兵型怪異が十数体程確認できた。急いで頭を下げる。

 

 「武器庫は空いていたか須加整備兵!!」

 

 爆発音に負けずに怒鳴るように尋ねる。

 

 「あ、空いてましたけど怪異と戦うつもりですか!?」

 

 「やるしかないだろ!!お前はとっととトラックに乗って逃げろ!!」

 

 そういって武器庫へと駆け出す。途中でトラックに向かって逃げている兵士を見かけた。無事にたどり着いてほしいものだ。兵舎などは砲撃によって半壊していたが武器庫は無事だった。中に入り棚に置かれていた三十八式歩兵銃を手に取り弾薬箱から5発1セットにまとめられたクリップを12個取り出す。これを身体の正面に来る弾薬箱に左右30発ずつ、後ろの弾薬入れに60発入れ革ベルトに通す。これに銃剣も忘れず通しておき手榴弾もいくらか拝借しておく。革ベルトを装着し終わり立ち上がろうとした時武器庫の片隅に置いてある全長2メートルはあろうかという九七式自動砲が置いてあるのが目に入った。試しに持ってみるが両手で持つことができない程重かった。仕方ないので担ぐようにようにして持ち上げる。ついでに近くにあった弾薬箱も持っていく。動くのがやっとの重量だろうが興奮しているからか苦ではなかった。砲撃によって崩れた建物のがれきに身を屈める。機銃音がどこかから聞こえているので反撃しているようだ。隠れたところには先客がいた。ハンチング帽をかぶりカメラを手にしている女性がいた。ハンチング帽からは犬の耳がズボンからは尻尾が見えた。

 

 

 「あら、やる気満々の格好じゃない」

 

 「こんな状況で失礼ですが、あなたは?」

 

 「皇都新聞特派員の宮内よ。元ウィッチだったから軍相手に取材しやすいだろうって編集長の指示でウラルに送られてやっと前線から離れたと思ったとたんこのざまよ。ホントについてないわ」

 

 「それはいいんですけど、トラックはどうなりました?」

 

 「運よく砲撃されずに何輌かは逃げれてたわよ。」

 

 「それは良かった。何で残ったんですか?とっとと逃げればよかったのに」

 

 「恥ずかしい話、目の前でトラックが出ていっちゃってね。仕方ないからここで隠れてたら伊勢崎君、君が来たわけよ」

 

 「良く名前を知ってますね。新聞には数度しか載ったことないはずなんですがね」

 

 「本土の方じゃかなり有名だよ。“前線にて航空歩兵を支える男性炊事兵”って言った具合にね。かなりの部数が売れたみたいだよ」

 

 「そうですかそいつはいいで・・・」

 

 自分達が隠れている場所の近くに着弾したようで巻き上げられた土が口の中に入る。小さい砂利も頭にぶつかる。ヘルメットが欲しいところだがあいにくなくしてしまったので代わりに手ぬぐいを頭に巻いておく。

 

 

 「どれだけの人間が反撃を?」

 

 「ほとんどの人は逃げるだけだったわ。機銃はかなりやられたみたいであそこの一門が多分最後ね」

 

 そういって宮内さんが機銃を指差した時着弾したのが見えた。

 

 「他には?」

 

 「私が見た限りあなただけよ。あまりにも急なことでみんな対応できなかったみたい。警備中隊は前線に送られてしまったみたいだしね。とりあえず援軍を呼びましょう」

 

 「なら自分が行きますよ。それに怪異はここから800メートル離れてます。応援を呼ぶ時間はあるでしょう。問題はいつ来るかですがね。では自動砲を頼みます」

 

 担いでいた自動砲を預け、戦隊本部に設置してある無線機まで走る。通信室は無事で電信機も無線機も使えそうだった。置いてあったヘッドセットを装着し無線機のスイッチを入れる。

 

 「発!緊急で付近の展開可能な全部隊に告ぐ!飛行第一戦隊基地は怪異後方奇襲部隊の攻撃を受け被害甚大!状況『全展開可能部隊による支援』!我第一飛行戦隊所属伊勢崎兵長!この基地に留まり増援到着までの時間を稼ぐ!」

 

 もう一度繰り返そうとしたとき再び着弾がありヘッドセットからノイズが聞こえてきた。周波数を変えても聞こえるのはノイズばかりであった。おそらく先程の攻撃で無線機のアンテナを吹き飛ばされたのだろう。ここも攻撃される可能性がないとは言えないので宮内さんのもとへと戻ることにする。

 引き返そうと廊下に出たとき廊下の角から手がのぞいているのが見えた。近づくと仰向けになっており上半身ががれきからはみ出していた。声をかけながらがれきから引きずり出そうと脇から手を入れ引っ張る。引っ張った時聞こえたのは粘り気のあるズルッという音であった。自分が引っ張ったのは上半身だけだった。がれきの重みでつぶされたであろう下半身とつながっていたであろう箇所から腸らしきものが伸びているのが分かった。胃からすっぱいものがこみあげ嘔吐する。胃の中身がなくなっても数度嘔吐した。

 フラフラと立ち上がり元のガレキへと隠れる。宮内さんは自分の顔を見て察したみたいだが、それについて何も言わなかった。再び雑嚢から双眼鏡を取り出し怪異の動きを探る。先程よりかなり近づいてきており人型の細部まで分かった。球体の関節を持った黒色のボディはどこかデッサン人形を連想させた。

 

 「だいたい500メートルほど手前まで来ましたね」

 

 「作戦は何か考えてあるの?」

 

 「作戦立案とかやったことないんでわかんないんすよ。とりあえず狙撃は自分がするんで観測手お願いしますよ。双眼鏡は貸します。300メートルまで引き付けて人型に2発ほど撃ったら場所を変えましょう。」

 

 「まぁ、こんな状況だもの文句は言ってられないわね。それでいきましょう。戦車型は?」

 

 「歩兵型を優先でいきます。歩兵型さえ潰せれば機会を作りやすくなります」

 

 隠れていたがれきの山から這い出し地面に自動砲を設置する。草が伸びており若干視界が制限されるがすぐ移動するので気にしない。弾倉を取り付けセイフティーを外す。心臓が痛いほど脈打っている。喉が異常に乾いて何度もつばを飲み込む。

 

 

 「今どのくらいの距離まで近づいてきましたか?」

 

 「350ってところね。まだ気づかれてないわ」

 

 「了解、300に入ったら教えてください」

 

 汗が額を濡らす。照準を戦闘の人型の胴体に向ける。少しづつであるが肉眼で分かる距離まで近づいてきていた。

 

 「300に入った!!」

 

 深呼吸をし息を吐きだすとともに引き金を絞るような感覚で撃つ。轟音と共に20ミリ弾が放たれ強烈な反動が肩に訪れる。20ミリ弾は胴体に命中したようで真っ白な雪のように砕け散る。怪異はこちらに気が付いていなかったようで周囲を警戒していた。続けて一体目の後方にいた個体を撃つ。これは肩にあったようだが同じく砕け散った。しかし、マズルフラッシュを見られたようで人型が発砲してきた。戦車型に攻撃される前に自動砲を担いで別のガレキへと隠れる。ガレキに背を預けるようにして少し休む。

 チラッと顔を出して怪異の様子を伺うとこちらへ近づいてきていた。数を数えると10体ほどいた。戦車型も砲塔を動かして周囲を警戒している。何とかして歩兵型と引き離さなければ勝ち目はないだろう。その時、陸戦ウィッチと話した時のことが思い出された。彼女ら曰く地上型を狩る際に足を破壊して動きを止める時があるとのことだった。少しでも戦車型の動きを止めることができれば歩兵型との戦闘に集中できるようになるだろう。分が悪い賭けかもしれないが今はこれにかけるしか方法がない。

 

 

 「ちょっと今から戦車型の足を狙撃しますわ」

 

 「それはいくら何でも無茶があるんじゃ・・・」

 

 「奴の動きを止めることができれば歩兵型との戦闘に集中できるようになるかもしれません。それに時間稼ぎだとしても数を減らせる」

 

 「今の状況を考えるとそれしか方法がないわね。で、私はどうしたら?」

 

 「自分はここに残りますから、合図と共に宮内さんは本部まで後退してください」

 

 「大丈夫なの?あなたが一番危険じゃない!」

 

 「自分は簡単には死にませんよ。しぶといことには自信がありますからね。それじゃぁ、行きますよ」

 

 ガレキから這いずり出て戦車型を正面に捉え4本脚の正面から見て左側を狙う。こちら側に向かってきているため狙いをつけやすかった。

 

 「3…2…1…今です!!」

 

 脚部の付け根に命中し、グラリと戦車型はバランスを崩す。歩兵型が援護のために発砲し耳元でカザキリ音が聞こえるがかまわずに二発目を同じく左側の後方に撃ちこむ。4本の内片側の2本をズシンという音と共に地面に倒れこむ戦車型。思わず向こうにいたときよく見ていたアクション映画に出ていたスキンヘッドの刑事のセリフを叫んでいた。

 

 「yippee yi yea,motherfucker!!(これでも食らいな、クソ野郎)

 

 ついでに歩兵型にもサービスと3発ほど撃ちこんでおく。もう一発撃とうとしたが弾倉が空なので再度ガレキの山へと引っ込み弾薬箱から一発ずつ取り出しを弾倉に装填していく。もう一撃でもと攻撃しようとしたときふとガレキの山の違和感に気が付いた。頂上部分に人影があるのだ。とっさに腰をひねり自動砲を人影に向ける。歩兵型が銃らしいものを構えて自分を撃とうとしているところであった。

 

 「こんの、ヤロウッ・・・!!」

 

 もう少し気が付くのが遅ければやられていただろう。自分の放った20ミリは歩兵型の頭を吹っ飛ばした。しかし歩兵型の攻撃もまた自分の肩部をかすっていた。白く砕けた破片が口の中に入ったが気にしてはいられない。コンバットハイ状態になっているのか痛みを感じることはなかった。自動砲を地面に置き革ベルトにつけていた手榴弾の安全ピンを抜きガレキに手榴弾の先端をぶつけ投擲準備を済ます。歩兵型が迫って来ているであろう方向に向かって投げる。爆発音が聞こえたが有効だったかどうかはわからない。どれだけ数が減ったかわからないがこのままここにいてもどうしようもないだろう。自動砲を担ぎ上げ本部の方まで後退する。発砲音が聞こえたが幸運にも被弾することなく砲撃によって出来た穴から中へと滑り込む事が出来た。近くの部屋に入って外を見ると自分を追って歩兵型が本部まで近づいてきていた。

 傷つき酷使された身体が酸素を求める。しかし、いくら吸い込んでもゼイゼイという荒い呼吸が落ち着くことがなく呼吸すればするほど苦しくなってきていた。更に体を動かそうしたが非常に重く感じられた。廊下を何かが歩いている音が聞こえ自分の部屋のドアノブに手をかけるのが分かった。何とか体を動かし自動砲の銃口をドアへと向ける。怪異なら一人でも多い方がいい。ドアを開けて入ってきたのは歩兵型ではなく宮内さんであった。武器庫から持ってきたのかカールスラント製の短機関銃MP18を手にしていた。自動砲を構えていた自分に一瞬驚いたようだが肩口から血を流しているのに気が付いて急いで近寄ってきた。

 

 「あなた肩から血が出ているじゃない!!早く手当てしなきゃ!」

 

 そういって所持していたガーゼと包帯で応急処置を施される。痛みがなかったので大丈夫だと思っていたのは自分だけであったようだ。

 

 「戦車型の動きは止めました。あとは歩兵型だけです」

 

ゼイゼイと鳴っている喉から何とか声を絞り出して伝える。

 

 「大丈夫なの!まさか瘴気にでもやられたの!?」

 

新兵教育の時に座学で怪異は瘴気を発するということを学んだ気がするが完璧に忘れていた。そうかこれが瘴気にやられたということなのだろうか。まだ動けるだけよしとしておこう。

 

 「まだやれますよ。それにここなら正面からでも歩兵型を迎え撃てる」

 

 自動砲を置いて三十八式を手にする。ボルトを引いて6.5ミリ弾を薬室に送り込む。頼りないが近距離で撃ちこめば効果はあるだろう。頭を少しだけ出して様子をうかがうと50メートル手前まで歩兵型が来ていた。殺られる前に殺らなければ。窓枠に三十八式を委託して先頭の一体の頭部を撃つ。

 吸い込まれるように頭部に6.5ミリ弾は向かっていき歩兵型を白い破片にした。歩兵型なら小銃程度でも破壊できるのが分かった。残りがこちらへ銃口を向け発砲しているがかまわず発砲していく。2体、3体と続けざまに倒していくが猛烈な反撃のため頭を下げざるをえなかった。床にはいつくばって歩兵型の攻撃がやむのを待つ。銃声が止んだ時壁は当然のように穴だらけになっていた。

 

 「いきなり撃つなんて!!もう少しやり方があったでしょう!?」

 

 「もうこれ以上下がる場所はないんだ!!増援がいつ来るかも分からん!!」

 

 そう言いあっていると窓枠がきしむ音が聞こえた。銃剣を鞘から取り出し右手に握る。上を見上げると窓枠を黒い指が掴んでいた。おそらく自分たちの死亡確認をしに来たのだろう。歩兵型が窓枠を乗り越えようとするために足をかけたのを見計らい自分たちがいる方へと頭を掴み自分たちのいる方へと床にたたきつけ引きずりこみ胸部の真ん中に銃剣を振り下ろすようにして突き刺す。気が付いたら体が動いていた。宮内さんの方に目をやるとまるで別人を見るかのような目で自分を見ていた。今はそんなことを気にしている時ではない。残りの手榴弾を外へ放り投げておく。

 

 「すいません、短機関銃借りますね。予備弾倉もあるならそれも」

 

 「あ、はい」

 

 そういって宮内さんの持っていたMP18を借りる。予備弾倉は革ベルトに差し込み窓から飛び出す。外にはまだ五体ほどの歩兵型が残っていた。破壊されたトラックまで撃ちまくりながら移動する。途中戦車型からの砲撃があったが、片側の脚2本を失ったことによって大きく左側へと傾いているため照砲撃の精度がかなり落ちているようだ。格納庫の陰に隠れ銃だけ外に出し再度撃ちまくる。弾倉には20発しか入っていないのですぐに撃ち尽くしてしまう。チラッと頭をのぞかせて様子を見ようとしたが頬を銃弾が掠めていったので慌てて頭を引っ込めた。弾倉が心もとないため何か武器になりそうなものを探すと燃料が入っているドラム缶が並んでいるのが目に入った。

 どうやら被弾を免れたようだ。近くには横になっている木箱から飛び出したのか数本ほど転がっている一升瓶があった。這いずりながらドラム缶へと近づいていきドラム缶へ銃剣を突き刺した。あけた穴へと一升瓶の口を近づけ燃料を入れていく。瓶いっぱいになったところで軍服を切り裂いて瓶に突っ込んで栓にする。雑嚢を探ってマッチを探し栓替わりの布へと火をつけた。

 

 「よぉ、旦那!!」

 

 注意を引くようにわざと大声をあげ歩兵型へと火炎瓶を大きく振りかぶって投げつけた。火炎瓶は歩兵型へと当たり割れた瓶から飛び散った燃料が燃え広がり歩兵型の一体を包み込んだ。こちらへと一体が発砲しようと、もう一体が殴ってこようとしてきたがMP-18の銃口を顎へと押し付け発砲する。背後で発砲しようとしていた歩兵型の片足を撃ちバランスを崩させる。歩兵型は地面に倒れこんだものの自分を撃とうとしてきたので持っていた銃を蹴り上げそのまま頭部を踏み潰した。自分を苦しめていた息苦しさなどは気にならなくなっていた。全身の感覚が研ぎ澄まされ、ただただ本能のままに戦っていた。

 そしていつ死んでもおかしくない状況に充足感を得ている自分がいた。怪異が白い破片となって砕けていくのを見るたびに全身が言いようのない高揚感に包まれていた。まだ残っている2体を格納庫の中へと誘い込む。ストライカーの部品が入っている木箱の山の中で身を潜めて歩兵型が姿を現すのを待つ。

 しばらく待っていると歩兵型が入ってきた。木箱の山の中にいる自分に気づかず目の前を通り過ぎようとした一体に組みつき歩兵型の持っている銃を脇に挟み込む。力をかけつつ銃口がもう一体へと向くように体を動かしていき引き金へと指をかけていく。引き金に指をかけた時卵のような歩兵型の顔に恐怖が浮かんでいるような気がしたが気にせず引き金へとかけた指へと力を込めた。発射された銃弾は何発かそれたようだが確実に歩兵型を破片に変えた。

 

 「パンにはパンを、血には血をだ」

 

 そう言いながらポケットナイフを雑嚢から取り出して歩兵型ののど元へと突き刺し破片にする。カランと音を立て落ちたナイフを拾い雑嚢へとしまいなおす。残った大物でも仕留めようとしたとき地面が大きく揺れ連続した砲声が聞こえてきた。

 

 「面白いじゃねぇか、あの野郎」

 

 起き上がり全速力で武器庫へと向かう。途中戦車型を見るとこちらへと砲口を向けていた。

 

 

 「ヤベェッ・・・!!」

 

 

 身を投げ出し頭を手で守る。弾は自分の上を抜けていったことが風圧で感じられた。草むらの中へ着地できたことにより戦車型の攻撃を避けることができた。蛇のように草むらの中を這って武器庫へと向かっていく。武器庫には試験的に導入された集束手榴弾と梱包爆薬があるはずだ。自動砲でもいいが確実性なら爆発物の方がいいだろう。集束手榴弾と梱包爆薬を手にして戦車型のもとへと走り出す。

 砲撃はあったもののジグザグと動きながら近づいているためか当たることはなかった。戦車型との距離が100メートルを切ったところで急に足に力が入らなくなり動きを止めてしまった。痛みはなかったが体に相当負担がかかっていたのだろう。このチャンスを逃すまいと戦車型が目の前の地面に砲撃を行う。

 巻き上げられた土砂が降りかかる。動けってんだこのポンコツ!!と全身に力を籠める。絶叫に近い声をあげ戦車型へと近づいていく。戦車型は砲撃をしようとするも砲身を持ち上げることができる限界まで持ち上げていたので胴体の後部へと近づいていた自分を撃つことはできなかった。酷使したせいで今に止まってしまいそうな足を引きずりながら近づいていく。多分今の自分は笑顔を浮かべているだろう。それもとびっきりの笑顔を。

 

 

 「よくもてこずらせやがって。でも、これでおしまいだ」

 

 4本の脚の内2本を失ってもなお動こうとしている戦車型に梱包爆薬の導火線に火をつけ砲塔らしい部位へと爆薬を放り投げる。身体にムチ打つようにして走って戦車型から走って遠ざかる。しばらくしてから轟音が響き戦車型がいたあたりに雪のような破片が舞い散っていた。それを見て今までこらえていたものがあふれ出してきた。体のあちこちが痛みを訴え、目もかすみ始めていた。本部の方から宮内さんがかけてくるのが見えた。立ち上がって宮内さんのもとへと行こうとしたとき何かが落下する音が聞こえ轟音に包まれた。

 

 

 

 

 

 気が付けばあおむけに倒れ空を見ていた。ひどい耳鳴りがする。身体の左側が燃えるように熱かった。空には黒い鳥のようなものが旋回していたどうやら航空型怪異が爆撃をし巻き込まれたようだ。動かそうとするも一向に動く気配がない。

 右腕を顔のあたりまで待ちあげるが震えていた。咳き込み右手で何とか口を覆う。右手にはベットリと血が付いていた。浅い呼吸しかできない。それにどうしようもなく眠かった。所々煙を上げている地上とは違い空は真っ青だった。増援のウィッチ達が到着したのだろう飛行機雲が引かれそれを覆うように雪のような怪異の破片が降っていた。その時ウィッチが飛んでいるのを初めて見た時の事を思い出した。その時には眠気をこらえるのが限界だった。寝よう、少し寝れば動けるようになっているはずだ。そう思いながら瞼を閉じたのが最後だった。

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございました。このたびこの作品がUA50000を突破いたしました。このような作品に付き合っていただける読者の皆さんがいたからこそ達成できたものであります。また皆様の感想などが作者の原動力となっております。どうか今後もこのような作品にお付き合いください。また誤字訂正や感想などがあれば遠慮なくどうぞ。

P.S
ブレイブウィッチーズ13話パーソナルワッペン付き劇場前売り券購入いたしました。5月13日はTOHOシネマズ梅田で作者と握手!!

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