ストライクウィッチーズ~あべこべ世界の炊事兵~   作:大鳳

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大変遅くなりましたが3話更新です。それと大分前の話ですがこの作品が日間ランキングにて11位になりました。これは読者の皆様がいたからこそは得られた結果です。どうかこのような作品を今後ともよろしくお願いいたします。



2話 遥かなるウラルの平原から

 セミの鳴き声が空に響き渡るようになった7月、驚くべきニュースがもたらされた。扶桑海を航行していた戦艦部隊と『怪異』が接触したというのだ。これを受けた軍首脳部は軍を動員することを決定した。『怪異』との戦闘に備え平時の部隊配備から戦闘用の部隊配備となることが決定し、それにはここ明野も含まれていた。全国各地の優秀な航空歩兵を集め飛行戦隊としての編成が開始された。その中でも1番目の戦隊である飛行第1戦隊に選抜されたウィッチの中には加藤武子・加東圭子・穴拭智子の名があった。さらに、ストライカーの整備や飛行場の警備といった後方支援の人員も飛行場大隊という名目で編成されそれぞれの飛行戦隊に配属される運びとなった。

 

 

 どうしてこんな話をしたかというとその飛行場大隊に自分も当然のように含まれていたからだ。『怪異』との接触が確認された日の夕方には人員の異動についての掲示が基地内で行われていた。翌日には自分の荷物をまとめたり簡単な引継ぎを行い新たな配属先へと向かっていった。配属先である飛行第1戦隊では今までいた明野とは違いウィッチ用の食堂がありそこが新しい職場となった。今までとは異なり戦隊に所属しているウィッチ分だけの食事を作ればいいので時間に大幅な余裕ができ、空いた時間を射撃の訓練の時間に回すことができた。

 しかしウィッチ達はこちらに配属されるなり毎日猛烈な訓練をしていた。朝日が地面から顔を出したと同時に飛び立ち燃料が尽きるまで空を飛びまわる。日中地面に降りてくるのは補給と食事というようなものだった。食事の時に出すご飯は定数より多めに炊いていたのにあっという間におひつが空になった。夕食時には日中の訓練の疲れからきた睡魔に勝てず食器を手に持ったまま寝ているといった光景を目にしたこともある。

 

 

 海軍が扶桑海を越えて飛来してきた『怪異』と交戦したという知らせが舞い込んできたのは、新たな配属先に来てから一週間も経っていない7月7日のことであった。その日自分は訓練中の補給のため降りてくる圭子さんたちに差し入れをしようとタオルやら菓子やらを両手に抱えて格納庫に入っていた。するとなにやら大騒ぎをしていた。その中に見知った顔がいたので近づいていき肩をたたいて声をかけた。

 

 「何があったんですか?陸軍大将が基地見学にでも来られることになったんすか?」

 

 ビクッと言う擬音が聞こえてきそうなほど驚いた様子を見せつつ振り向いてきたのは穴拭少尉だ。

 

 「い、いきなりなに触ってんのよ!!そうやって軽々しく男が女に触るもんじゃないわよ。勘違いされて襲われるかもしれないんだから。私がムラムラして襲いそうになるのをこらえるのがどんだけ大変なことか分かってる?」

 

 なんかサラッと危ないことを言ったぞこの人。そう思ったのを知らずか騒ぎの内容を教えてくれた。

 

「何でも海軍さんが『怪異』と交戦したらしいわよ。その時に・・・。」

 

 穴拭少尉が何か言葉を続けようとしたその時にちょうど加東少尉と加藤少尉が訓練飛行から帰ってきた。ここの部隊では、フジとヒガシと呼ばれているので今後はそう呼ぶことにする。整備兵から話を聞いているようだがいまいち状況が理解できていないようで頭をかしげている。そんな二人の元へ駆けていく穴吹少尉。自分も慌てて後を追う。

 

 「海軍さんが『怪異』と交戦したってどこの部隊が交戦したのよ?海軍さんに実戦部隊はいなかったはずよ。」

 

 「でも噂じゃ舞鶴の部隊が交戦したらしいけどあくまで噂だしねぇ。海軍に知り合いなんていないし。こんなことになるなるんだったら知り合いの一人や二人作っとくんだったなぁ。」

 

 そう言いながらフジ少尉が背負ってる発動機を降ろすのをヒガシ少尉と手伝う。

 

 「舞鶴ですか・・・。厄介なことになったなぁ。」

 

 舞鶴の部隊が交戦したと聞いて友人たちの顔が思い出された。泣き虫だけどくじけない心を持った子と固有魔法がうまく使えないことで自信を持ててない子そして乱暴な口調だが友達思いな子らだ。一昨年までは夏が来るたびに会っていたが軍に入ってからは手紙を送ることしかできていない。戦闘に巻き込まれてないといいんだが。そんな物思いにふけっていると騒がしかった周囲が急に静かになった。顔をあげてると当戦隊の戦隊長である江藤敏子中佐が手袋を脱ぎながら格納庫に入ってくるのが見えた。条件反射的に踵を打ち鳴らし敬礼の姿勢をとる。苦笑しながら敬礼を解除するよう身振りで指示してきたので楽な姿勢へと変更した。その時自分が持っていた風呂敷を渡すよう言われたので泣く泣く風呂敷を渡した。上官命令だからね逆らえないんだよ。

 

 「どうして戦隊長がここに?」

 

 風呂敷の中から金平糖や新聞紙に包んだドーナツを取り出しながら戦隊長が答えた。

 

 「出撃命令が出されたからそれを伝えに来たんだ。それにな、戦となったら真っ先に出るのは私たちだからな、上に掛け合って最新鋭のキューナナの先行量産分を分捕ってきたぞ。」

 

 そういって格納庫の前に穴拭少尉たちと自分を連れて行った。そこにあったのは真新しいストライカーが置かれていた。塗装もせず運ばれてきた銀色のボディーに扶桑の国章である日月紋が鮮やかに印されていた。

 

 

 「うっわーー、これが噂のキューナナですか!やったぁ!」

 

 嬉しそうにキューナナにペタペタと触り挙げくの果てに頬ずりをしだした穴拭少尉。今は日中であり太陽も高い位置にある。更に今日はうだるように熱い。こんな環境に置かれているということはかなり熱せられているはずなのだが。そう思っていると穴拭少尉が頬を押さえて地面を転げまわっていた。それを見ていたフジ少尉とヒガシ少尉はそれ見ろと言わんばかりな顔つきをしていた。

 

 「まだ24戦隊にしか配備されてなかったのを譲ってもらったんだ。」

 

 豪快に笑い飛ばしている戦隊長。

 

 「そんな最新鋭機をホイホイと譲ってくれるほど向こうも寛容ではないのでは?」

 

 そうフジ少尉が質問をすると戦隊長はこちらに視線を向けながら

 

 「こっちには最高の交渉材料がいるんだ。使わない手はないだろう?これを見せたら二つ返事で譲ると言ってくれたしな。」

 

 そう言って手にしていた写真をフジ少尉とヒガシ少尉に見せる。何を見たのか片方は顔を真っ赤にしもう片方は鼻のあたりを押さえて戦隊長にサムズアップしている。ねぇ何見たらそんな反応するの?

 

 この時自分は知らなかったが新型の譲渡の交渉に使われた写真は風呂上がりの写真だったようだ。ちなみにこの写真はウィッチ達の間に流出し高額な値段で取引されたとのことだ。

 

 「戦隊長出撃命令が出たって言いましたけどどこに行くんですか?」

 

 鼻に詰め物をしつつヒガシ少尉が尋ねた。

 

 「どこだと思う?浦塩さ。」

 

 片手にドーナツを持ちながら江藤中佐はそう言った。そのドーナツ差し入れ用なんすけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま移動準備は進んでいき翌週には浦塩にいた。結局新型は譲ってもらえた(分捕ってきた)4機のみだったようだ。それ以外は旧式であるキューゴーが揃えられていた。武器も小銃や壊れやすい軽機関銃それと海軍から持ってこられた機銃が少量であった。一方一緒に降り立ったはずの海軍は最新鋭の機材が揃えられていた。それを見た戦隊全員の恨めしそうな顔は忘れることができない。

 浦塩では戦闘らしい戦闘はなく待機が続いていた。空の方は陸とは違い落ち着いた状況であった。待機といっても戦隊全部が待機するわけでなくあらかじめ割り振られたローテーションに沿って待機する部隊が決められていた。そのため暇を持て余しているような人が多かった。自分も海軍と仮基地を共同で使っていたので食事を海軍の炊事兵の人たちに作ってもらっていたこともあり暇であったので少尉たちのお供をしていた。ヒガシ少尉と浦塩の街に出かけて甘味の研究をしたり黒江少尉と釣りに出かけるといった事をしていた。

 基地設営完了の報告を受け内陸部の陸海共同の前線基地まで移動したのだがこの際にひと悶着あった。本来ならば前線基地へと飛行場大隊ごと移動するはずなのだが自分だけ大隊から外され浦塩付近の飛行場に配属されかけた。噂ではお偉方が男性に何かあってはいけないと急に決定したらしい。これを聞いた戦隊の隊員特に明野から一緒だった人たちはひどい有り様だった。穴拭少尉はずっと愛刀をカチャカチャ出したり戻したりしてたし、フジ少尉はブツブツ呟いてたしヒガシ少尉は泣きついてくるし落ち着かせるのが非常に大変であった。配属先変更は江藤中佐の交渉によって白紙になったようだ。

 新しい基地は広大な平原をそのまま滑走路として利用した基地であった。滑走路設営の手間を考えて陸海の航空部隊は合同で飛行場を使用していることが多かった。この基地もそうであったが海軍側の部隊は通常の部隊とは違い最新鋭の装備を優先的に受領できる実験部隊であるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここに配属される海軍さんて、この間怪異と交戦した部隊なんだって?」

 

 昼下がり滑走路のそばでお茶を飲みながら今度配属される海軍の実験部隊の話をしていた。

 

 「報告は受けてるわ。何でも第十二航空隊のあの部隊が着任するらしいわ。にしてもこのみたらし団子おいしいわね。」

 

 フジ少尉がみたらし団子を食べながら穴拭少尉の質問に答えていた。戦隊長から海軍の部隊が今日到着する予定だと報告を受てから皆そわそわしっぱなしなのだ。

 

 「へぇー、あの。技量の方はどうなんだろうな。是非とも手合わせをしてみたいものだ。」

 

 腕を組みながら一人うなずいている黒江少尉。ピコピコと咥えている串を動かしているけどそれ刺さるかもしれないんで危ないですよ。

 

 「噂通りなら面白いわね。あ、麦茶のお替り頂戴。」

 

 そう言って差し出されたヒガシ少尉の湯呑に麦茶を注ぐ。雲一つない晴天で過ごしやすい。前線に移動したものの未だ本格的な戦闘は始まっておらず待機状態が続いていた。炊事班ではこうした待機中に食べられるよう菓子類を多めに作っていた。余った分はもらうことができるため穴拭少尉たちのお茶の時間に提供していた。ちなみに一部は戦隊長の手元に渡っている。

 

 「いい天気ですねー。」

 

 空を見上げつつ呟いた。その時トラックの音が聞こえてきた。

 

 「補給のトラックか?補給が今日来るとは聞いていないが。」

 

 格納庫付近に停車した車列に目を向けている黒江少尉。トラックからは次々と人員が降りてきてトラックの荷台の物資を格納庫に運び込んでいる。その中の数人がセーラー服を着ていた。それを見るや否や駆けだした穴拭少尉。残された人たちは一瞬あっけにとられて固まったが、すぐに後を追った。格納庫前についた時には既に穴拭少尉は海軍の所属であろう子を質問攻めにしていた。その子の顔を見た時目を疑った。なぜなら舞鶴にいるはずの友人である坂本美緒がいたからだ。ネウロイと交戦した部隊とは美緒ちゃんがいた部隊だったのか。質問攻めにされている姿をみて思ったのは無事でよかっただった。そして自分は声をかけるために美緒ちゃんに近づいて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うっわぁー、栗田の飛行場も広かったですけどここはもっと広いですねー。」

 

 目の前に広がる光景を見て友人の竹井醇子は声を上げる。私、坂本美緒は舞鶴での航空型怪異との接触及び撃破した経験を見込まれ北郷先生が率いる実験的最新鋭部隊として最新鋭ストライカーの試験を兼ねてウラル方面の防衛にあたることになった。そのため陸軍と共同で使用する前線基地へと到着したのだが目の前に広がっているのは地平線とどこまでも続いている平原そして彼方に見える山々といった光景だった。今まで見たことがあるのは栗田の飛行場だけであり、あそこだけでも随分と広く感じたがここはそれ以上だった。醇子が目を丸くするのも仕方ない。そんな醇子を余所にいつものように豪快に笑っている先生。

 

 

 「はっはっは、確かにやたら広いね。ここでは陸軍の精鋭さんたちと共同で飛ぶから仲良くね。私は陸軍さんの指揮官に挨拶してくるね。確か・・・。」

 

 

 先生がそこまで言ったとき陸軍の飛行服を着た人にいきなり両手を掴まれ先日の舞鶴の件で質問攻めにされた。いきなりの事で返事ができなかった。周りにはいつの間にか陸軍の人が3人程集まっていた。

 

 

 「まったく何してんのよ智子。いきなりごめんなさいね。とりあえずあなたたちの所属と階級それに『飛行時間』を教えてもらえないかしら?」

 

 

 こめかみを抑えながら士官服を着た人が目の前にいる人を落ち着かせた。しどろもどろになりながら質問に答えた。

 

 

 「えっと所属は扶桑海軍第十二航空隊北郷部隊の坂本美緒です。階級は一飛曹で、飛行時間は10時間くらいだったと思います・・・。」

 

 周りに集まっていた人たちがざわめいた。

 

 

 「じゅっ…、10時間?10時間で実戦を経験したの!!」

 

 「実戦なんてこっち来てからよ、私たち。」

 

 「でも圭子、飛行時間はこっちの方が上よ。」

 

 「飛行時間はこっちの方が上かもしれないけど、あっちは10時間しか飛んでいないけど実戦を経験してるのよ智子?飛行時間の多さより実戦で生き残っている方が大事じゃないかしら。」

 

 

 陸軍の人達が輪になって何やら話し合っている。どう声をかけたらいいかわからずおろおろしていると背後から声をかけられた。

 

 「よぉ美緒ちゃん元気やったか?舞鶴の件で出撃したんやろ。ホンマ無事で良かったわ。」

 

 聞き覚えのある声が聞こえてきて頭の上に手が置かれた。振り返るとまさかの人物がいた。

 

 「正さん!!」

 

 お兄さんのような人でそして今私が片想いをしている人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「正さん!!」

 

 大きくなったなぁと思いながら美緒ちゃんの頭をなでる。身長差もあってちょうど撫でやすい位置に頭が来るのだ。美緒ちゃんの方は顔を真っ赤にしてされるがままになっている。髪がサラサラで撫で心地がいいからいくらでも続けたいのだが周囲の目もあるのでキリのいいところで撫でるのを止める。撫でるのを止めたとき、美緒ちゃんが悲しそうな顔をするが心を鬼にする。

 

 「まさか海軍さんの実験部隊に美緒ちゃんがいるとは思わんかったわ。」

 

 「私も正さんが前線に配属になってるなんて思いませんでしたよ。」

 

 「いやな、6月までは明野におったんやけど、7月の怪異が観測されたときに第1飛行戦隊配属になってウラル方面の防衛任務を言い渡されて今ここにおるっちゅう訳や。ここに来るまでにもいろいろあったんやけどな。」

 

 苦笑交じりにここに来るまでの経緯を話した。

 

 「それは大変でしたね。」

 

 クスッと笑いながら美緒ちゃんがそういった。

 

 「でもいい人らに会えたからよかったかな。」

 

 そう言いつつ格納庫の方に視線を向ける。視線の先には海軍さんが運んできた新型ストライカーを見ている穴拭少尉たちがいた。ストライカーと一緒に派遣された海軍の整備兵にあれやこれやと質問をしている。

 

 

 「そうですか。私もここに配属されてよかったです。あの、その、正さんと一緒にいられるから。」

 

 顔を赤らめながらそう言った美緒ちゃん。なんとなくこちらも話しかけるのが気恥ずかしくなってしまった。その時「正さーん」と自分を呼ぶ声がした。声が聞こえてきた方を見ると美緒ちゃんと同じようにセーラー服を着た少女が走ってくるのが見えた。

 

 

 「お久しぶりです!!」

 

 そういって挨拶してきたのは醇ちゃんだった。美緒ちゃんより醇ちゃんの方が付き合いは長い。自分が11歳の夏に迷子になっていた醇ちゃん(当時5歳)の手を握りながら交番まで連れて行ったのがきっかけだった。その後はなんやかんや遊ぶようになり醇ちゃんが道場に入門した際に美緒ちゃんにあったのだ。美緒ちゃんたちの先生である北郷さんにもその時知り合った。

 

 「おー久しぶり。まぁ、一年見んうちに大きゅうなって。5歳の頃が懐かしいわ。」

 

 そう言うと醇ちゃんは顔を真っ赤にした。

 

 「あ、あれはその、わ、忘れてくださいよぅ。」

 

 若干涙目になりながら詰め寄ってきた。迷子になった時の事をネタにするとこんな反応が返ってくるのでついつい会うたびに言ってしまう。

 

 「ごめんごめん。お詫びと言ったらあれやけどお菓子あげるから許してや。」

 

 「え、いいんですか!!やったぁ!!」

 

 醇ちゃんがお菓子と聞いて目を輝かせた。心なしか尻尾をブンブンと振っているのが見えるような気がした。美緒ちゃんにも声をかける。

 

 「美緒ちゃんも来るか?」

 

 「はい!!是非!!」

 

 「ならついてき。」

 

 親鴨の後に続く小鴨みたいに自分の後についてくる二人。

 

 

 「全くこんな平和な日が続きゃぁいいのになぁ・・・。」

 

 その光景を見て思わずそうつぶやいた。

 

 そのつぶやきは平原に吹き渡る風によって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃基地の戦隊長室では江藤敏子と北郷章香が話し合っていた。

 

 

 「舞鶴での怪異との戦闘はどうだったんだ」

 

 と敏子が章香に先日の舞鶴での怪異との戦闘について尋ねた。

 

 「かなり危なかったな。それに部隊のほとんどが候補生というのも痛手だった。怪異が現れたのは20年も前の話だ。私を含めて誰も実戦を経験したことがないのは当然さ。死者が出なかったのが不幸中の幸いだろうな」。

 

 そう言ってコーヒーをすする章香。両者の間に沈黙が訪れた。だが沈黙が続いた時間はそう長くなかった。

 

 

 「しかし海軍はいいよな、新型を配備する余裕があって。浦塩で一緒だった海軍の部隊はほとんど九六式だったぞ。うち(第一飛行戦隊)じゃほかに部隊から分捕って何とか4機揃えたというのに。」

 

 と敏子が愚痴をこぼす。それを章香は苦笑しつつ聞いていた。

 

 「しかしその部隊もよく4機も持っていくのを許したな。一体どんな裏技を使ったんだい?」

 

 と章香が尋ねると敏子がおもむろに席を立ち彼女の机の引き出しから封筒を取り出し章香に手渡した。

 

 「こっちには『彼』がいるんだ。その中から少々過激なのを渡しただけさ。」

 

 封筒の中には交渉に使う用として彼の写真が入れられていた。第24飛行戦隊との交渉に使った風呂上がりの写真や基地で飼っている犬と触れ合っている様子などが写真として保管していた。

 

 「何枚か分けてくれないか?特に風呂上がりのが欲しいんだが。もちろんただでとは言わないさ。」

 

 「ならそっちの持ってきた九十七式機関銃を少々いただくとするよ。持ってきた十一年式が故障しやすくてな。」

 

 「そんなに多く持って行かないでくれよ。書類をごまかす大変さはお互いに分かっているはずだろう?いやしかし彼もなかなかいい体付きをしているじゃないか。道場で見学に来ていた時から、常々着やせしているタイプだと思っていたがここまでとは思わなかったな。ああ、たまらん。襲ってしまいたい。」

 

 写真を食い入るように見ながらそう言った章香。もしこの発言を弟子たちが聞いていたら彼女の株が世界恐慌並みに大暴落していただろう。対する敏子もあまり気にしていない様子だった。

 

 「トイレならここを出て突き当りを右に行ったところだぞ。それとここで問題を起こさないでくれよ。私の首どころか上の方の首もまずいことになるからな。」

 

 「ほんの冗談だよ。仮の話だが、彼から求められた際にはどうすればいいんだい?」

 

 「まぁ、まずそんなことが起こることがないだろうがもし起きたら私も呼んでくれよ?一応私は彼の上司にあたるんだからな。」

 

 「あぁ、もちろん。」

 

 

 

 

 

 そこには固く握手を交わしている二人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今後の予定ですが筆者が自動車教習所へ通うこととなったので次話がいつ投稿できるかわからい状況となりました。少しでも時間を作って定期的に投稿しようと思いますが待たせてしまうかもしれません。そのことをご了承ください。
 話は変わりますが今年の春より奈良で生活することになったので奈良でいいところがあればこの作品の感想と共にお教えください。


 それでは最後に一言


 男女逆転に栄光があれ!!


 ありがとうございました。

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