ストライクウィッチーズ~あべこべ世界の炊事兵~   作:大鳳

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 3か月近くも投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。言い訳としましては、繁忙期に近い時期に入っていたということや提出しなければならないものが重なってしまった上に、作者の筆の遅さが追い打ちをかけてしまいました。
 お待ちになってくださっていた方には大変申し訳ございません。今回は短めの内容となっておりますがこれでお納めください。


9話 吹雪の後の邂逅

ネウロイの本格的な侵攻が始まってからはや2週間が経っていた。基地が攻撃を受けてからというもの、智子さんは出撃を繰り返し40機撃墜を達成していた。それと同時に、中隊のメンバーとの溝は深まっており廊下ですれ違っても挨拶はおろか、目すら合わせないというのはざらであった。何とかしようとして努力してみたが、自分の力ではどうしようもなかった。

 また、ネウロイの侵攻が本格化したため物資の消耗が激しくなりカウハバ基地に回される食料の数も以前と比べてじわじわとだが減っていた。満足な食事を作るにはどうしても自ら調達に赴かなくてはならなかった。幸いにも、基地の周囲は森に囲まれておりしばしば鹿やトナカイを見かけることがあった。一匹でも狩って来ることができれば当分の間は、肉には困らないだろう。

 

 

 「今日一日は、晴れると思います。絶好の狩り日和になりますね」

 

 天気図を見ながらそう言ったスオムス兵士。自分は前線基地の気象観測班のテントを訪ねていた。ここの数日のところ吹雪で外に出られなかったが、今日はうってかわって晴天だった。

 

 「そりゃありがたいな。獲れたらいくらか分けるよ」

 

 「楽しみにしていますよ」

 

 気象班の部屋を後にし、与えられたテントで狩りの準備を行う。小さめの魔法瓶に砂糖入りの紅茶を入れ、乾パンと金平糖をいくらか魔法瓶と共に背嚢に詰める。濡れることも考えて、着替えの下着と肌着を二重の袋に入れ、これもまた背嚢に詰めていく。夕方までには戻ってくるつもりなので荷物は軽めにする。防寒外套の上に革ベルトをつけ120発ほど三八式の弾を持っていく。

 狩りの用意を終え外に出ようと廊下を歩いていると小柄な人影が歩いてくるのが見えた。小柄な人物と言われると3人ほど心当たりがあるのだが、白衣を着ている人物は一人しか知らない。

 

 「おはようございます、ハルトマン曹長」

 

 立ち止まり軽く頭を下げ挨拶をするハルトマン曹長。脇には本を抱えている。

 

 「今日は、いい天気ですね」

 

 「そう」

 

 それ以上の会話は続かず気まずい沈黙が場を支配する。

 

 「それでは、また」

 

 その空気に耐えられなくなった自分はそそくさとその場を後にした。次こそは、会話を続かせてみせるぞと思いながら。

 

 

 

 

 ウルスラは、去っていく彼の背中を見つめていた。

 

 「また話せなかった…」

 

 中隊のメンバーはことあるごとに積極的に彼に話しかけていたし、むしろ彼の方から話しかけていた。いつも自分はその光景を見ているだけだった。何度か彼の方から話しかけてくれてきたのだがそのたびに、先ほどの会話のようになってしまっていた。

 いつ話しかけられてもいいように頭の中で何度もどう返したらいいかを考えていた。でも、実際に話しかけられると男性と話した経験がないため、緊張してしまい不愛想な返事しかできなかった。何度かウルスラから話しかけてみようとも思ったが、どう話しかけてみたらいいかわからないうえに、街中で女性を嫌悪の目で見ている男性を見かけたことがあるので話しかけるのを躊躇ってしまっていた。

 

 「やっぱり陰気なのは嫌なのかなぁ…」

 

 そう考えると、視界がじんわりと歪み涙がこぼれ出てきた。こぼれ出た涙を白衣の袖で拭いながら、部屋へと向かう。そんなウルスラを、北欧の日差しが包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 意気揚々と狩りに出たもののトナカイに逃げられるわ針葉樹林で迷うわおまけに天気が悪化して吹雪に巻き込まれるという不幸の3連コンボをくらう羽目になった。

 

 「あぁ、クッソ。ついてねぇ、魔女のバアサンの呪いか」

 

 こんな状況に毒づいてみるも、魔女(ウィッチ)がいるこの世界ならやろうと思えばできるんだろうなぁと思ってしまった。腕時計を見ようにも、視界が確保できない中では見ることもかなわない。

 一体どれほどの間この森の中をさまよっているのだろうか。吹雪に逆らって進んでいるのと、厳しい寒さが体力を容赦なく奪っていく。一歩、一歩がとても重く感じる。背中に背負った愛銃と背嚢がさらにそれを助長させていた。視界がだんだんとぼやけていき倒れこんでしまう。起き上がろうにも、体にうまく力が入らず起き上がることができない。

 そんなことをしている間にも身体には雪が積もっていく。自然と自嘲的な笑いがこみ上げる。ネウロイとの戦いで死ぬかもしれないというのはあったが、まさか吹雪の中で死ぬとは思わなかった。

 抗うことのできない眠気に襲われ、消耗しきった体はその眠気に身をゆだねようとしている。

 

 「こんなことに…なるんだったら…よしときゃ…よかった…な…」

 

 薄れゆく意識の中で最後にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪が過ぎ去り、再び姿を現した太陽が差し込んでいる針葉樹林の中を歩いている女性の姿があった。美しい銀髪を肩甲骨あたりまで伸ばし、スオムス軍の制服を着た長身の美女である。彼女は、スオムス陸軍 第12師団第34連隊第6中隊通称『カワウ中隊』中隊長であるアウロラ・E・ユーティライネン中尉であった。

 

 

 「いやぁ、良く寝たなぁ」

 

 伸びをしながらそう言い放った彼女の片手には、ヴィーナと呼ばれるスオムス国産のウォッカの瓶が握られていた。散歩という名の索敵に出かけたときに吹雪に巻き込まれ、先ほどまで熊の巣穴跡で吹雪から避難していたのであった。

 

 「早く帰らないとあいつにまたお小言を食らう羽目になるな」

 

 アウロラは<ひな鳥>と呼んでいる無口な自分の従兵の顔を思い浮かべながら、自分の中隊の陣地へと歩を進めていた。

 

 「これだけ寒くなればネウロイ共の侵攻も少しはマシになるだろうな」

 

 若干の期待を込めてそうつぶやく。最も、ネウロイにとって寒さは活動を遅らせるものであっても数を減らすまではいかないだろう。やれやれと思いながら歩いていると、何か柔らかいものを踏みつけたのが分かった。地面を見てみると踏みつけたあたりの地面がこんもりと盛り上がっていた。

 何が埋まっているのか興味を引かれたアウロラは、その盛り上がっているところを掘り起こすことにした。スコップで慎重に掘っていくと見慣れない装備を身に着けた兵士がうつ伏せで埋まっているのが分かった。吹雪の中、さまよいここで力尽きてしまったのだろう。

 

 「どこの誰かさんか知らないが、吹雪のなか歩き続けてこんなところでくたばるなんて、ホントついてないよな。ま、丁寧に葬ってやるさ」

 

 と死体に声をかけたその時、死体の指先が微かに動いたような気がした。注意深く死体を観察すると、再び指先が微かに動いていた。慌てて抱きかかえ、呼吸を確認する。ほとんど虫の息に近いような状態ではあったがかろうじて呼吸をしていることが分かった。魔法力を発動し全速力で陣地へと駆け戻る。

 

 

 

 

 

 

 「ひな鳥!!今すぐ毛布持ってこい!!」

 

 <ひな鳥>と呼ばれた兵士は転げるようにしてテントに飛び込んできた中隊長に目を丸くしていた。それもそのはず一日ぶりに帰ってきた中隊長が、見慣れぬ装備の兵士を肩に担ぎあげて戻ってきたのだから。

 

 「一体何があったんです!?」

 

 「説明は後だ、速く!!じゃなきゃこいつが死んでしまう!!」

 

 その指示を受けて偶然テントにいた他の兵士も指示されたものを集めに駆け回る。装備品を取り外し、凍りかけている外套をストーブの近くに干して乾かしておく。外套のフードに覆われていた顔があらわになった時、テントの中に絶叫が響いた。

 

 「お、お、男ォォォォォォ!!」

 

 その時、テントの中に毛布を抱えた<ひな鳥>が入ってきた。

 

 「どうしました中尉!!何かありましたか!!」

 

 絶叫を聞きつけたほかの兵士たちもテントの入り口にゾロゾロと集まり始める。

 

 「ひ、ひな鳥、男だ…。男がいるぞ!!」

 

 そう言ってベッドを指さしたアウロラ。

 

 「中尉は、かなりお疲れなんじゃないですか?大体こんな前線まで男が来るわけがないでしょ…う」

 

 ベッドに近づいた<ひな鳥>だが、抱えていた毛布を放り出してアウロラのもとへ駆け寄ってきた。

 

 「ど、どこから誘拐してきたんですか!?」

 

 「誘拐なんてしてないぞ!!雪の中に埋まっていたんだ!!」

 

 「…その言葉を信用しますよ、中尉。とりあえず、人をあまり近づけない方がいいでしょうね。怯えられたらたまりません。私は、兵士たちに伝えてきます」

 

 「任せた」

 

 <ひな鳥>は頷くとざわついているテントの入り口に向かっていった。放り出された毛布を拾ってベッドへと近づいた。先程、男性だということが分かった時は少々パニックになってしまったので改めて顔を見る。

 その顔の左側は火傷の跡が残っており痛ましいものであったが、その火傷痕が魅力を加えるものとなっていた。黒々とした髪は、スオムスでめったに見かけないものだ。

 

 「お前さんはどこから来たんだろうな?」

 

 そう言って毛布を掛けようとしたとき、重大な問題に気が付いてしまった。彼の軍服が濡れたままであるということだ。アウロラの脳内で天使と悪魔のささやきが交わされてゆく。

前者は、「このままだと悪化するかもしれないから早く脱がさなければならないぞ」とささやき、後者は「どうせ誰にも見られていないのだからいいじゃないか」とささやきかけてくる。

 

 「そ、そうだこれは脱がさないと悪化するかもしれないからな。決して邪な感情でやっていないぞ」

 

 アウロラは震える指先で、軍服のボタンをはずしていく。ついには、肌着さえ脱がされ、上半身があらわとなる。屋外の作業で焼けたであろう肌、そして程よく引き締まった筋肉。しかし、その体にも顔と同じような傷跡や火傷痕が付いていた。特に左腕の二の腕、中ほどまで火傷痕で覆われていた。それは生半可なことでついたものではないことがみてとれた。

 そういった類の本の中でしか見たことのないような光景にアウロラは、目の前の光景に自分が興奮していることが分かった。鼻から何かの液体が垂れていたがそんなことは気にならなかった。遂に下半身に手を伸ばそうとしたときにテントに何者かが入ってきた。それは、追加の毛布を持ってきたひな鳥であった。

 上官が男性を裸にしようとしている目にするひな鳥、そして鼻血を垂らしながら男性を裸にしようとしている光景を部下に見られる上官。両者ともに固まってしまった。そんな中先に声をかけたのはアウロラであった。

 

 「お前も見るか・・・?」

 

 「はい。喜んで!!!!」

 

 鼻息荒く答えるひな鳥。

 

 「いやぁ、なかなかいい体ですねぇ」

 

 「ひな鳥、よだれが垂れてるぞ」

 

 「そういう中尉こそ鼻血出てますよ」

 

 「しょうがないだろ、こんな光景見せられたらたまったもんじゃない」

 

 「そうですよ。今のうちに拝んでおかないと今後一切見られないかもしれませんからね」

 

 「よく言うよ。まあ、そうかもしれないからな。眼に焼き付けておくとでもしよう」

 

 「「へへへへへへ」」

 

とにかくこの世界の女性はとても残念であった。

 




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