ストライクウィッチーズ~あべこべ世界の炊事兵~   作:大鳳

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プロローグ(修正版)

 

 唐突ながら皆さんは『(ごう)()っては(ごう)(したが)え』と言うことわざをご存じだろうか?

意味は、習慣などはその土地によって違うから違う土地に来たらその土地の文化や習慣に従うべきだという意味だ。

 

これに似た海外のことわざもある。

 

 このことわざには、旅行や転居などでしかご縁がないと思っていたが異世界にも来た際にも使えるような便利なことわざだということを身をもって知ることになった。

自分がそう感じたのには少なくとも3つの理由がある。

 まず1つ目は、いつも自分が睡眠を有難く享受している部屋ではなかったこと。自分が憶えている限りでは白い壁紙だったのだが自分が見つめている天井は明らかに田舎の祖父母宅で見たことのあるような木目のものであったうえに、掛布団があったかい羽毛布団から防寒性のない薄い煎餅布団になっていたこと。

 2つ目は、布団から抜け出そうとした際に手を見ると手が寝る前よりもはるかに小さくなっていたがそれは枕元にあった姿見を見ることで納得した。姿見に映った姿は。写真で見たことのあるような子供時代それも4歳児の時の姿そのものであった。

 そして3つ目だがこれは言葉で言い表せないほどの衝撃をうけたものだった。物音を聞きつけ母親が入ってきたのだが、常識的に考えてみるとスカートなりなんなりを履いているはずなのだが非常に言いづらいというより言いたくないが一世一代の気概を奮っていうとするならば下にはいているはずのものが『なかった』のだ。もう一度言おう履いて『なかった』のだ。

ちょっと読者の皆さんにも考えていただきたい。いかに若返っていようが自分の母親がスク水を丸出しにしているのである。皆さんも、目を閉じて想像していただきたい。

 

自分はこんな母親の姿を見たときこれが夢だと思いたかった。

 

 先に挙げた状況を把握した際は、混乱したが頬をいくら引っ張ろうがタンスの角に足の小指をゴォォォォル!!超エキサイティィィン!!しようが悲しいかな声にならないような痛みがあったので現実だと受け入れるしかないようだった。

 

 母親と、多少の問答を行ったところ予想通り4歳であるということが分かった。22歳であったはずなので差し引き18歳ほど若返ったわけである。正に、体は子供頭脳は大人のような死神もとい名探偵状態になった訳だ。肉体年齢が元の22歳になった時には体感年齢が40歳のオッサンになるのだ。やべぇ、超泣きたい。

 用意されていた朝食を片付け周りの様子を調べてみる。居間においてある家具は自分の記憶と照らし合わせてみれば教科書に載っていたようなものが多かったうえ、家造りは古民家造りと呼ばれているものであった。外に見える光景は田んぼや所々に茅葺の家が建っているという一般的には農村と呼ぶような光景であった。田んぼ仕事に精を出しておられる老人の方々、その横のあぜ道を無邪気に遊びまわっている少女たち。その少女たちもやはりスカートなどを履かずスク水丸出しの格好であった。さすがに、おばあさん方は履いていた。自分は少なくともアブノーマルな趣味を持っていないと自負しているし見たくもない。読者の中にそんな趣味の方がおられるとするならば話は別であるのだが。

 

 自分が置かれている状態を受け入れれば後は、気が楽だった。これは、両親がもとの世界と同じであったという点が大きかったのであろう。スマホやパソコンなどは無かったが無くても不便とは思わなかった。無くてもつらいと思わなかったし、近所の子達と日が暮れるまで山や川などで遊んだり家業である農業を手伝うといった事があったので以前よりも充実した日々を過ごせていた。

 ただ以前からこちらの世界について不思議に感じることがあった。それは男子の数が極端に少ないということだ。いくら村だといっても男子は10人くらいいてもいいはずであるのだが自分を含めても数人しかいない。女子はこれの10倍はいる。

 また男子の扱いについてもおかしい。ある日、山で駆けずり回って服を泥だらけにして帰ったことがあった。母は帰ってきた自分の姿を見るなりこういったのだ。

「男の子なのにこんなに服を汚して、もう少しおとなしくしたらいいのに。」

 

 これを聞いた時は、一瞬理解できなかった。『服を汚して』ならわかるのだが『()()()()()()』という言葉がついたのだ。

よくよく考えてみると、家事などは祖父や父親が行い力を必要とする作業を母親と祖母が行っている。こうしたことから鑑みるにこの世界は男女の価値観が以前いた世界とあべこべになっているようだ。

 小学校の図書室で複数の本を開きつつこの世界の歴史を調べたのをまとめると以下のようになる。

 

 古来から男子の数は少なかったようで、必然的に女性が狩りや重労働などを担っていたようだ。女性の中には『魔法』と呼ばれる超常の力を使える存在がいたようでそんな女性たちのことを人々は魔女(ウィッチ)と呼んだ。ヨーロッパ方面では、時折『怪異』と呼ばれる謎の存在が出現したようだ。この『怪異』が放出する瘴気と呼ばれるものによって少なかった男性は減少していったようだ。悪いことは重なり不作や疫病といった自然災害が男性の減少に追い打ちをかけていった。向こうでいう日本にあたる扶桑でも源平合戦や武将達が群雄割拠する戦国時代などの影響によって男性が減少していった。男性の減少や怪異の出現に頭を悩ませたヨーロッパの権力者達は、怪異に対抗出来る存在であるウィッチや男性の確保のために、一夫多妻制を取り入れるということを行ったり、男性がいる家庭には生活費の援助を行うなどといったことを行い、男性の数を増やそうとしたようだ。しかしながら、これらを行っても男性の増加には至らなかったらしく、今でも男性の数は緩やかに減少を続けている。数が少ないということは希少価値が高まるということになる。例を挙げるならば、大航海時代での香辛料などだろうか?数が少ないものを多く持っているということはそれだけの力を保有しているという象徴になる。そのため、中世までは時の権力者たちは多くの男性を侍らせ自身の権力の強大さを周囲にアピールしたようだ。いまや天然記念物や絶滅危惧種と同じような存在になってしまった男性には過保護を通り越したような保護や庇護がありレディーファーストではなくメンズファーストという言葉が広く定着している。

 若い女性が、『はいていない』のには活動しやすいという理由のほかに希少な男性に対してアピールする意味もあるようだ。中には「シたいと思ったときにすぐにできる」と男らしい発言をされた女性もおられるようだがそういったことに興味の薄い男性にとっては恐怖でしかない。男性の数が少なく競争率が高い中では様々なアピールの方法が編み出されているが、肝心の男性からは「目が肉食獣のそれだからシャレにならんほど怖い」という意見で一致している。

 

 

 自分が貴重な男性ということもあって親戚一同は非常に自分をかわいがってくれた。夏休み前半は宮崎にある母方の親戚宅へ行き後半になると舞鶴にいる父方の叔母の家で過ごすという夏休みの過ごし方が恒例となった。移動が大変で疲れるが、それぞれの土地にいる友人に会えるということは非常にうれしい。友人といっても女子で年下である。向こうがどう思っているかわからないがいい友人関係を築いているのではないかと思う。舞鶴の友人たちは道場に通っていて少ないであろう自由な時間を使って会いに来てくれる。宮崎にいる友人は、友人より妹に近い。ひょこひょこと自分の後ろをついてくる姿は愛らしいしお菓子を食べている姿は小動物のそれを連想させる。

 

 以前とは違った世界で、2度目の生を謳歌する自分の今後を決定づけるような光景を見た。家の近くの田んぼが黄金色に輝いていたのだ。家路を歩いていた自分はその日のことを一生忘れることはないだろう。

 

 

 その日初めて自分は魔女(ウィッチ)と呼ばれる女性たちを見たのだ。  

 

 

脚に何か機械のようなものを履き、実りに実った稲穂の上を飛んでいた。二人一組で白い制服を着た女性と巫女服のような服を着た少女だった。制服を着た女性が少女を抱きかかえるようにして飛んでいたが少女は地面との近さにあわてているようだった。自分が彼女たちを見ていることに気が付いたのか制服姿の女性が微笑みながら手を振ってきた。自分はつられるように女性に手を振り返した。

 少なくとも彼女たちが見えなくなるまで手を振り続けていた。彼女たちが見えなくなるなり自宅までの道を全速力で駆け抜けた。見たばっかりのあの光景を忘れないように誰かに伝えようと必死だったのだろう。

 

 

 「さっき田んぼの上を人が飛んどった!!」

 

 と言いつつ転げるようにして家に入ってきた自分に驚いていた両親だったが自分が落ち着けるように水を差しだしながら話しかけてきた。

 

 

「まぁ、落ち着き。ウィッチさんを見たのは初めてだったか?ウィッチさんは、扶桑のために頑張ってくれとるんやで。まあ母さんもウィッチだったんやけどな。」

 

「懐かしいわね~。近くに飛行学校ができたのは知ってたけどここら辺まで訓練飛行してるなんて。見たかったわね~。現役だった時は、なかなか楽しかったわよ。だって空からきれいな景色が見られたんですもの。引退しちゃったけどお父さんと出会えたし。」

 

と惚気る母親。そんな母の惚気は耳に入ってこず、ただただ母がウィッチであったことに驚いていた。

 

 

 

 初めてウィッチを見た日から気が付くと彼女たちが空を飛ぶ姿を追っている自分がいた。何と言ったらいいのかがわからない。何故か彼女たちに惹かれたのだ。これが俗にいう一目惚れというやつなのだろう。

 

 

 地上を離れ大空をエンジン音を轟かせ悠々と空を舞う魔女たち。いつしか自分では届かないような高い空を飛んでいる彼女達の姿をもっと近くで見たいと思うようになっていた。

 

 

 そして、自分は彼女たちの飛ぶ姿を近くで見ることのできる軍へ入隊することを決意した。

 

 

 

 卒業を間近に控えた3月、自宅の和室で自分は陸軍の制服を着た女性と向かい合っていた。卒業後の進路として進学せずに軍に入ると家族に告げると反対されたが自分の意志の固さを知り最終的に折れて入隊することを認めてくれた。志願書を出したのは1月であったのだが何故かこの時期に個人面談が行われることになったのだ。

 

 

 「このたび我が扶桑皇国陸軍に志願していただきありがとうございます。」

 

 そう言って、頭を下げる女性。こちらも頭を下げる。

 

 「本日個人面談をさせていただくことになった訳ですが、この書類について少々お尋ねしたい事があります。」

 

 

 と言いつつ封筒から書類を取り出し差し出してくる。その書類は、自分で記入した志願書であった。どこか記入を間違えたかと一通り目をとしたのだがおかしいところは何一つなかった。そんな自分をみて軍人さんは書類のある一点を指さした。そこには、『航空歩兵隊配属希望』と書いてある。これがまずかったのかと思い軍人さんに恐る恐る尋ねた。

 

 「勝手に希望書くのがまずかったですかね?」

 

と聞いてみたのだが首を振ってから

 

 「そうじゃないんです。確かに、男子枠というものがありますがほとんどが事務方や陸軍病院へ看護師として配属を希望されますが、『航空歩兵隊配属希望』と書かれた方があなたが初めてなので人事部の方では何か書き間違えたのだろうということで面談を行うことになったのであります。もう一度確認しますがこの希望は間違いないということでよろしいでしょうか?」

 

 

 と聞いてきた。むろんこちらはそのつもりで書いたのだから間違いであるわけがない。何も言わずに深くうなずいた。間違いではないないということを確認した軍人さんは志願書を封筒の中に戻した。

 

 「わかりました。書類に間違いはないということで受理されました。詳しい条件は後日お送りいたします。」

 

 と微笑みながら言った。重苦しかった雰囲気から解放された自分はテンションが上がっていたのか軍人さんの手を両手でつかみながら何度も何度も「ありがとうございます!」と言っていた。

気が付くと軍人さんが顔を熟れたトマトのように真っ赤にしていたので手を離す。

「あっ。」と軍人さんの口から惜しそうな声が聞こえたが気のせいであろう。顔を真っ赤にして

 

 「こ、こひらこひょありがとうございまひた!!」

 

 と見事な敬礼をし危なっかしい足取りで玄関から出て行った。自分がしたことを自分がいた世界に当てはめて考えてみると、野郎ばかりの職場に入ろうとするJCに意志の確認にきて話を終えるなりいきなり握手を求められたということになるのだろうか。

 

 

 いい加減こちらの常識に慣れねばと反省する自分であった。

 

 

 

 1936年4月をもって扶桑皇国陸軍に自分こと伊勢崎正(いせさきしょう)は入隊した。この年の7月ヨーロッパではヒスパニア戦役と呼ばれる怪異との戦闘が発生した。

 

 

 後に『扶桑海事変』と呼ばれるネウロイとの総力戦の1年前のことであった。

 

 


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