グランドフィッシャーの一件で私が死に掛けてから、今日でちょうど六年になる。
身長はあの頃と比べて15センチくらいしか伸びていないけれど、中身はそれなりに成長できているんじゃないかと我ながら思う。戦闘力だって、あの時とは雲泥の差だ。特に死神の力が戻ってからの成長は早かった。始解だって習得した。
しかし、始解の取り扱いには苦労させられた。ちょっとややこしい能力だったからね。
ともかく。
今日は、六月十七日。あの日と違って天気は晴れ。
梅雨の真っ只中にも関わらず、殴るように照りつける陽光の中、浦原商店に二人の訪問者がやってきた。
黒崎夫妻だった。
「おーい、浦原。いるか?」
「お邪魔します」
「どーも、こんにちは。黒崎サン」
事前に二人の訪問を喜助さんから知らされていた私は、当然のように学校を欠席した。この二人が動いたということは、何か原作に関わる話があるに違いない。喜助さんもそれを分かっているようで、私が学校をサボることに対して何も言わなかった。
「あー……その、桜花ちゃんは……」
居間に入るなり当然のように喜助さんの隣に座り込んだ私に、一心さんが気まずそうに視線を投げかける。真咲さんもどこか申し訳なさそうな表情で私を見ている。
そんな二人を見て、喜助さんが小さく笑った。
「大丈夫っスよ。この子はアタシの共犯者ですからね」
「共犯って浦原、お前なぁ……この子は人間だろうが……」
「人間じゃないですよ」
正座した足の上で両手を握って、私は一心さんの非難を訂正した。私は人間じゃない。だから、共犯者でいることに問題なんてないのだと。
「ちょっと待て……! 人間じゃないって一体……」
「言葉の通りです。私は、死神ですから」
喜助さんが意外そうな顔で私を見た。
人に腹を割って話してもらうなら、私も腹を割るのが道理でしょ?
「……私の本名は、朽木桜花。四十年前に行方不明になった、朽木家の一人娘です」
「朽木家っ!!?」
一心さんが大声を上げて、少しだけ腰を浮かせた。
そんなに驚かなくても……と思ったが、すぐに思い直した。そういえば、一心さんが志波家の者だということを知った時の私も、似たような反応をしていたような。
「確かに朽木家当主の娘がいなくなったって一時期大騒ぎしてたが……あれは桜花ちゃんのことだったのか……」
再び畳に腰を下ろした一心さんが、しみじみと呟いた。
「やっぱり大騒ぎでした?」
「当たり前だ、朽木家のたった一人の娘だぞ。騒がねェ方がどうかしてるぜ」
「ねぇ、桜花ちゃんも貴族だったの?」
「あぁ。志波家なんかよりよっぽどデカい家の、それも直系だからな」
「あら、桜花ちゃんはお嬢様なのね」
真咲さんがふわふわした笑顔で言った。
確かにお嬢様だけれど、今の私は庶民も庶民。貴族だ何だと言ってもあまり実感が湧かないのが本音だが。
「……ではそろそろ、本題といきましょうか」
「あぁ、そうだったな」
四十年前に一体何があったのか。そう訊かれるかもしれないと思っていたが、一心さんも真咲さんもそこに触れようとはしなかった。私から言い出さないことを深堀りして訊くつもりはないらしい。つくづく私の周りは
「話すタイミングを窺っていた話があるんだ」
そう言って、一心さんは話を切り出した。
◇ ◇ ◇
黒崎夫妻が帰宅して二時間ほど経った頃、今度は一護とルキアの二人が浦原商店にやって来た。どうやら学校終わりに寄ったらしく、二人とも制服姿だった。
「どうせ風邪なんて嘘だろうと思ってな」
「最初から嘘だって決めてかかるのはどうかと思うよ」
「でも嘘だろ?」
「嘘だけど」
そんな会話をしつつ二人を居間に通すと、開け放った襖から喜助さんが顔を出した。
「どーも。黒崎サン、朽木サン」
「あ、どうも」
「何だ、浦原か。邪魔するぞ」
お邪魔している家主に向かって『何だ、浦原か』なんて言い放ってしまうルキアに小さく笑う。
そんな適当な扱いも喜助さん自身は全く気にしていないようで、いつもの緩い笑みを浮かべている。物語の根幹を担う二人の来訪に、胡散臭さも八割増しだ。
「桜花、すぐに行きます?」
「え? もう良いの?」
「ハイ。片付けるだけっスから」
喜助さんは何食わぬ顔でそう言うが、一口に片付けると言っても自室の片付けとは訳が違う。
特に地下の修行場には、とてもじゃないが他人には見せられないモノが無造作に置いてあったりするから、何の準備もなしに客人を招き入れる訳にはいかない。それに修行場の片隅に建てられている研究室だって、客人の目に触れないように隠す必要がある。
だから喜助さんには一応、近いうちに一護たちに鬼道を見せるからと話を通しておいたんだ。
「あ? どこに行くんだ?」
「地下」
「地下ァ?! なんちゃら道を見せてくれるんじゃなかったのかよ?」
「鬼道だ、たわけ」
ルキアが呆れたような顔で一護を見た。
私も、似たような感情を乗せた苦笑と共に立ち上がった。
「鬼の道と書いて鬼道ね。種類は三つあるんだけど……実際に見せた方が早いよね」
そして、二人と喜助さんと共に地下への梯子を降りる。最初は訝しげだった二人も、いつも通り馬鹿みたいにだだっ広い修行場に、ポカンと口を開けて驚いていた。
「どっひゃー!! 何だこりゃーっ!!?」
「…………」
「あの店の地下にこんなバカでかい空洞があったなんてー!!」
「……ウルセーな、わざわざ代わりに叫ばなくても充分ビックリしてるよ!」
ただただ呆ける二人の代わりにわざとらしいリアクションを取った喜助さんが、楽しそうに笑う。対して巨大な地下室への驚きも落ち着いた一護とルキアは、不審者でも見るような目を喜助さんに向けている。
「いやぁ、これだけの空間ですから造るのにも苦労したんスよ? 何せ真上は住宅街ですからね、バレないようにするのも一苦労で――」
「おい、浦原。そんな下らぬことより鬼道を――」
「見てくださいよ、閉塞感をなくすための空のペイントに、心に潤いを与えるための木々! どうです? ビックリしましたか?」
「……桜花、おぬしの店長は客を無視して話を進める主義なのか?」
「いや……うん、まぁ……だいたい、そんな感じかなぁ」
私が初めて地下にやってきた時は、ここまでオーバーじゃなかった気がする。でも発明品の話をする時はだいたいこんな感じだ。例えば
それから私と一護は死神化して、肉体を安全な場所に置いた。人間の身体が巻き込まれでもしたら大変だ。
「鬼道には三つ種類があるってさっき言ったよね」
「あぁ」
一護が頷く。
「まずは破道ね。破道っていうのは攻撃用の鬼道で、例えば――"破道の三十一・赤火砲"」
「うおっ!?」
私の手から飛び出した赤い火の玉が、爆音と共に硬い地面を抉った。その光景を見た一護は、地下室に入った時より驚いていた。
「マジかよ……」
「うん、マジ。じゃあ次は捕縛用の鬼道である縛道ね。ねぇ一護、ちょっと良い?」
「何だ?」
「"縛道の四・這縄"」
「えっ? ちょ、待っ……のわぁっ!?」
私の指先から飛び出た光の縄が、一護の腕を這い上がり背中で縛り上げた。驚いた一護が地面にひっくり返る。
「うわっ、何だこれ!? おい、桜花!」
「どう? 外せそう?」
「外れねぇから困ってんだろーが!! 早く取れよ!」
「そっか、まだ外せないかぁ。まぁ火事場の馬鹿力となれば話は別なんだろうけど……っと」
すぐに解術すると、いきなり何すんだよとぶつぶつ文句を言っていた一護がのっそりと起き上がった。
倒れた時に打ちつけたのだろう、少しだけ擦りむいている一護の腕に私はそっと手を添える。フワリと柔らかな緑の光が私の手を包んだ。
「で、最後に回道。傷を癒すための鬼道なんだけど……よし、治った」
「お、おう。サンキュー」
私が不意討ちで意図的に転ばせて怪我させたのに、それを治した私に礼を言うなんて、相変わらず素直な子だ。
一護は怪我の完治した腕をまじまじと見つめている。そして、感心したように言った。
「にしても、これじゃまるで魔法じゃねぇか。死神はこんなこともできるんだな」
「まぁ、今見せたのはどれも規模が小さい方なんだけどね。縛道とか回道はともかく、破道のヤバいやつだったらビルの一つや二つ軽く吹っ飛ぶんじゃないかな」
「ビルが吹っ飛ぶって……」
一護が引いている。
こんなことで引いていられるのも今のうちだ。あんたの"月牙天衝"の威力だってなかなか凄まじいんだから。
「鬼道には難易度や威力を元に一番から九十九番まであるんだけど、さっきの"赤火砲"は三十一だから……ビル一つ吹っ飛ばそうと思ったら、七十番台くらいは必要かなぁ」
「へぇ……なら桜花は何番までできるんだ?」
「私? 私は詠唱なしなら五十番台までだけど……詠唱ありなら、七十番台でも可能かな」
「てことはお前、ビル吹っ飛ばせんのか……?」
「あー……まぁ、そういうことになるよね」
「――桜花。一つ訊いても良いか」
「ん?」
ルキアが神妙な顔をしている。何かマズいことを言っただろうか?
「七十番台の鬼道が使えると言ったな」
「うん」
「一体、誰に習ったのだ?」
「…………」
そう来たか、と思った。
やっぱり私には、詰めが甘いところがある。
喜助さんは、こうなる可能性に気づいていたんだろうか? いや、気づいていたに違いない。
「昔の桜花は詠唱ありでも四十番台までしか使えなかった。あれから数十年、おぬしは現世で生きてきたと言ったな。しかし現世にいながらにして鬼道の修練を積める環境など、そうあるものではない。ましてや六十番以上の上級鬼道を教えられる者が現世にいるとなると……」
ルキアは言葉を止めて、喜助さんを見た。睨んでいると言っても過言でないくらいに強い眼差しだった。
「浦原。貴様が教えたのだな」
「だとしたら、どうします?」
違う。私がそう答えるより先に、喜助さんが意味深長に微笑んで言った。
ルキアの視線がさらに鋭くなる。
同時に私の胸の中で、モヤモヤした嫌な予感がジワリと滲んだ。
「
「…………」
喜助さんは何も言わなかった。
ルキアは、その無言を肯定と捉えた。
「とすれば貴様らは犯罪者……もしや、桜花を拐ったのも貴様らなのでは――」
「ちょ、ちょっと待って! 流石にそれはないって!」
「しかし、おぬしには当時の記憶がないのだろう?」
確かに記憶はない。
だからと言って、それは有り得ない。
そう信じているし、そう信じていたい。
「喜助さんたちは、記憶をなくして途方に暮れてた私を拾ってくれて……それで、今まで私の親として面倒を――」
「おぬしの親は! 白哉兄様と緋真姉様だろう!」
「……っ」
知っている。そんなこと、言われなくても分かっている。
下唇を噛んで、目を伏せる。
ジワジワと胸を侵食していく、この感情は何だろう?
家族とも呼べる人を否定されたことへの悲しみか? 生みの親を忘れて他人を親と呼んでいたことへの後ろめたさか?
それとも、彼らを親と呼んでいたことを「後ろめたい」と思ってしまったことへの自責の念か。
「……ごめん」
怒りの感情を顕にするルキアを目の当たりにして、私は顔を上げることができなくなった。
誰に宛てたものか分からない謝罪が口をついて出る。
「…………」
ルキアは何も言わない。
どうしたら良いか分からなくて、私もそれきり口を閉ざした。
「ルキア」
そんな時、一護の声がした。
◆ ◆ ◆
死んだと思っていた家族が生きていた。
何より喜ぶべきことであるハズなのに、しかし、ルキアは諸手を挙げて喜ぶことができなかった。
「とすれば貴様らは犯罪者……もしや、桜花を拐ったのも貴様らなのでは――」
「ちょ、ちょっと待って! 流石にそれはないって!」
何とも言い難い違和感と不快感。
人間に死神の力を与えた己の罪のことを棚に上げて、ルキアは眉根を寄せた。
再会した桜花は、人間の顔をしていた。
見ず知らずの男の苗字を、何の躊躇もなく名乗っていた。
時たま、その男のような胡散臭い態度を取るようになっていた。
受け入れることなど、できる訳もない。
朽木家の息女が、現世で人間の中に混じって人間のように暮らしているなんて。
「これからよろしくね」と言って嬉しそうに笑った姪が、ルキアの存在さえ忘れて、別の姓を名乗っているなんて。
行方をくらませる直前に
けれど、受け入れられない一方で、ルキアは気づいていた。
別人のようになってしまっていても、それでも桜花は桜花だということに。
お嬢様と呼ばれる存在なのに、躊躇いなく女の子をお姫様抱っこしてしまうような、男勝りでサバサバしているところも。
歳の割に場の雰囲気によく気がついて、気の利いた行動を取れるところも。
妙に人懐っこくて、誰かの仲間でいることに喜びを感じる、寂しがり屋なところも。
そういうところは全部、ルキアの知っている桜花だった。
だからこそ、ルキアは自らの複雑な心境を胸の奥にしまい込んだ。
桜花は桜花だ。生きていたのだから、それで良いではないかと。
しかし――
「おぬしには当時の記憶がないのだろう?」
「確かに記憶はないけど……でも喜助さんたちは、記憶をなくして途方に暮れてた私を拾ってくれて……それで、今まで私の親として面倒を――」
私の
何気なく発せられたその言葉は、今まで抑えていたルキアの感情を爆発させるのに、充分な威力を持っていた。
「おぬしの親は! 白哉兄様と緋真姉様だろう!」
「……っ」
自分でも驚くほどに、感情のこもった声が出た。それを聞いた桜花の表情は、今にも泣き出しそうな子どものようであった。
「……ごめん」
そして、桜花は消え入りそうな声で謝罪を口にした。
俯いたまま、それきり黙り込んでしまった。
「…………」
そんな桜花を目の当たりにしてやっと、ルキアは我に返った。
――何故、私は桜花を責めているのだ?
「ルキア」
そんな時、一護が自らの名を呼んだ。
ハッとして、一護の顔を見る。
「オレが首を突っ込むことじゃないかもしれねぇけど……」
言い辛そうに言葉尻を濁しつつ、一護は話し始めた。
「確かに浦原さんは変な人だけどよ、それでも悪意を持って桜花を騙すようなことはしないと思うんだ」
「……貴様に何が分かるというのだ」
「分かんねぇよ」
罪悪感の混じったルキアの呟きは、想像していた以上に刺々しくなってしまった。しかしそれに対する一護の返答は、ルキアのものよりずっと落ち着いていた。
「お前と桜花との関係も、尸魂界とやらでのことも、オレにはさっぱり分かんねぇ。でも桜花のことは、それなりに分かってるつもりだ」
低い位置にある桜花の頭を、一護がわしゃわしゃとかき混ぜる。
「……止めてよ」
「へーへー」
驚いて顔を上げた桜花が嫌そうに、それでいてどこか照れくさそうにその手を振り払った。
「昔な、こいつに訊いたことがあるんだ。浦原さんはお前の本当の親なのか、ってな」
「それは……流石に……」
「あぁ、今思えばスゲー無神経な質問だったよ。でも桜花は、怒るどころか落ち込みもしなかったんだ」
「ちょっと一護、それは――」
「自分にはちゃんと親代わりの人がいるから大丈夫だ、ってさ。嬉しそーに笑ってたぜ、こいつ」
「一護!」
「良いじゃねぇか、そのくらい」
「良くない! だいたい笑ってなんかないし!」
「笑ってたよ」
ほんの少し頬を染めた桜花が、長いポニーテールを揺らして一護の口を塞ぎにかかった。しかし残念ながら背と腕の長さが足りず、一護に簡単に押し戻されてしまった。
「こいつにあんな顔させられるんだ。そういう意味では信用できる人だと思うぜ、オレは」
「一護……!」
一護を恨めしげに睨んでいた桜花が、躊躇いがちに浦原の方を見やった。そして、人をからかうようにニヨニヨと笑う浦原に気づいて大きく目を逸らした。
そんな穏やかな光景を眺めながら、ルキアは考えていた。
桜花とて、好きで記憶喪失になった訳ではない。
ここがどこなのかも分からず、頼る者もいなかった。そんな状況で手を差し伸べてくれた彼らに、桜花は縋りついた。そして今、穏やかに暮らしている。
「まぁ、こいつが信用できるって選んだ奴なんだからよ、お前も信じてやっても良いんじゃねぇか? 姪っ子なんだろ?」
「そう、か……あぁ、そうだな」
だんだんと、頭の中がクリアになっていく気がした。
ルキアは一護に同意の言葉を返すと、桜花に向き直った。
「おぬしが悪い訳ではないと、分かっていたつもりだったのだが……いや、言い訳はよそう」
「え……?」
「済まなかった」
きょとんとする桜花に、素直に謝った。
「私は尸魂界で『朽木桜花』として暮らすおぬししか知らなかった。だから、今のおぬしを受け入れられなかった」
「そっか……」
「私は私の思いばかりをぶつけて、おぬしの思いなど考えもしなかった。一護の言う通りだ」
恥ずかしい限りだ。
我を忘れて、齢十五の人間の子どもに諭されるなど――
「いやぁ、若いっスねぇ!」
「……え?」
「喜助さん……空気読むって言葉、知ってる?」
ルキアの神妙な思考は、浦原喜助の能天気な声と能天気な拍手に遮られた。
同じく神妙だった雰囲気が一息に霧散したのを感じて、浦原以外の者たちは脱力してしまった。
「友の助言に過ちを認め、胸の内を告白し、相互理解を深める……素晴らしい関係だ」
「無視か」
「……桜花お前、苦労してるな」
「うん、まぁね……」
一護とルキアの同情の眼差しが桜花に注がれる。
そんな三人のやり取りを軽やかに無視して、浦原が人差し指を立てた。
「そこでですね。アタシからも助言を一つ……」
「助言?」
「
尸魂界の者に、桜花の生存を知らせない。
つまり桜花が生きていることを意図的に隠す、ということだ。
「何故だっ! この知らせで喜ぶ者が何人いることか……!」
「それがマズいんスよ」
いつものように軽い雰囲気の浦原が、カラカラと下駄を鳴らして三人に歩み寄った。
浦原の言葉の意味が理解できないルキアだったが、桜花は全て分かっているようだった。
「生存を知るのが早ければ早いほど、期待は高まっていくものだ。しかしそれでは、この子に会えた時の落胆を徒に大きくしてしまうだけなんスよ」
「落胆など……」
「昔の桜花をよく知っているからこそ、今の桜花は受け入れ難い……どうです? 身に覚えがあるでしょう?」
ある。先程の桜花とのやり取り、そのままだ。
あれと同じことが、尸魂界の桜花の知り合い全てに起こったとしたら。
「それは……面倒なことになるな」
「でしょう? あれは、桜花自身が向き合わなければならない問題だ」
この事実を、白哉兄様にさえ伝えられない。
辛いことだ。
しかし桜花のことを考えるなら、その方が良いに決まっている。
「……うん、そうだね。分かった」
桜花が静かに頷いた。
「お願いしても良いかな、ルキア」
全ては浦原さんの掌の上です。