宴も終わり、酔いつぶれたネロを侍女たちに任せて俺らは部屋を出た。
沖田とアイクは既に眠いようだったので寝かせ、フォウ君に2人を任せて俺、マスター、マシュ、エミヤの4人で食後の散歩をすることにした。
「はー、いっぱい食べた。相変わらずエミヤのご飯美味しかったね」
「そうですね先輩。私も料理教えてもらえないでしょうか・・・?」
「私は構わんが・・・今は事が事だ。教えてやるのは世界を救った後でもいいかね?」
「あ、それは、その・・・」
「?」
『(・・・・・。)いいじゃないか。暇があれば教えてやれよ、あまり張り詰めすぎるのも良くないからな。息抜きは大切だ』
「それはそうかもしれんが・・・まぁいいだろう、私に時間がある時だけだがね」
「あ、ありがとうございます!」
マシュが言葉に詰まったのは恐らく自分の運命、行先を知っているからだろう。
それでも習おうとしてるのはマスターに少しでも恩返しをしたい、と思っているのか?
ある1人の仲間の犠牲で、それは報われることを知っているが・・・1度でも終わりを迎えるなんてそう経験したいことでもあるまい。
所長に使った「いにしえの秘薬」ならいけるか?・・・試す価値はあるがもしマシュの体が耐えられなかったら意味がない。所長はあれ以外策が思いつかなかったから駄目元でやったら上手くいっただけだ。少なくとも今は問題の無いマシュに試すことでも無いだろう。
「どうしたのハンター?なんか色々考えてるみたいだけど」
「なんだ、なにか悩みでもあるのか?日頃から何も考えてなさそうな行動をしているが」
こんの皮肉屋が!こっちは大真面目だバカヤロー!これでも色々考えてるんだよ、例えば昼間のネロからの情報だってなぁ・・・!
・・・今、話しておくか。確証は無いが可能性として有り得る、もしかしたらの話。
『なぁ、昼にネロから聞いた情報に竜を見たってやつ。あったよな』
「そういえばハンターやけに気にしてたよね。それがどうかしたの?」
『俺が一つ未来を知ってる、ってのはだいぶ前に話したの覚えてるよな。
その俺の知ってるローマの特異点には、
「・・・なるほど。自分の知らないモノが出てきて戸惑ってでもいるのか?」
『いやぁそれだけならまだ良かったんだが、俺のスキルがこれまでに無いくらい反応したんだよ。
怨敵を見つけたように、それこそファヴニールの時以上にな』
「えぇっと、つまり・・・?」
『
証拠も無いし、理屈も無い。ただそうかもしれないと思ったから無理やり状況証拠を繋げたようなもんだ。
だが、
いきなり次元の壁ぶち破ってコンニチハして来ても可笑しくない、か?
「ええぇぇぇ・・・以前聞いたハンターさんの世界って、頭腕が爆発してたり、ウイルス撒き散らしたり、 腹ペコで生態系壊滅とか聞くだけでも危なそうな・・・?」
『まぁそうだな、今回は伝え聞いた特徴からそいつらじゃないと思うが・・・まぁいざとなったら俺が1人で倒すさ』
「・・・またハンター1人で無茶なことしようとしてる・・・?」
『いやいや、ほとんどのモンスターは俺1人でも倒した事があるから行動パターンも分かるが、初見のお前らがいきなり相手をする方が辛いだろ?』
俺は軽い気持ちでそう言ったが、ここは人類最後のマスター。一応英霊である俺に臆面もなく堂々とした強い眼差しで言ってのける。
「例え辛くても、ハンターを1人で戦わせたりしない。」
「・・・」
・・・思わず言葉を失ってしまったが確かに俺の知る藤丸立香は、人類を救ったマスターはこういう人間だった。
真っ直ぐで素直、不屈の心で名だたる英霊と共に困難を乗り越えて行く。
凡百な力しか持たないくせして、圧倒的な強者を前にしてもその心に揺らぎは無い。
そんな彼、あるいは彼女だったからこそ数多の英霊達は惹かれ、力を貸し、この途方もない大任を成し得たのかもしれない。
「私たちでは足を引っ張るかもしれませんが、精一杯頑張らせていただきますので!」
「私は初めて見るモノを相手にするより、お前を1人で戦わせたらどうなってしまうのかの方が心配だがね」
「『ツンデレ乙』」
「お、お前達は・・・!」
なんとまぁ、頼りになる仲間達だよ。これはますます負けらんねぇな。
『そうか・・・じゃあもし雷や隕石落としてきたり、生きてるだけで周囲の天候を狂わしたり、一つの文明を滅ぼしたと言われるような奴らが相手でも一緒に戦ってくれるのか』
「う、少し自信無くなってきたけど・・・それでも、逃げない」
『ははは、流石に冗談だよ。
居るのは本当だが。
そうだな、じゃあ相手の正体がはっきりしたら俺の知ってる敵の特徴なんかを話すとするか。
アイクは強制参加だとして、沖田も居ればカッコよく決まったんだがなぁ』
「「「あっ」」」
素で忘れてたのかよ!
泣くな沖田さん!君にはきっと吐血の無い戦場が待ってるぜ!
「猫・・・もふもふ・・・」
「あ、暑いニャ・・・」
「フォーウ・・・」
その頃の沖田さんでした。
翌朝、エトナ火山の霊脈に拠点を設置する時に狩猟笛の曲で付近に集まっていた霊たちを消すという狩猟笛の霊的なパワーを発見したりしたがそれはさておき、ネロからガリア遠征の話が出てきた。
ガリアの敵っていったら腹黒タヌキしか覚えてないな・・・まぁなんとかなるだろ。
「して、立香とハンターは馬には乗らんのか?」
「私は騎乗スキルがありますが、マスターは馬には慣れていないので・・・ハンターさんはそもそも馬が怖がって近づけていませんでしたね・・・」
「あ、私も騎乗スキルありますよ!生前馬に乗って出撃したことはありませんでしたけど・・・」
「ランクがEでは馬にも振り落とされないかね?」
『動物は人間よりも危機や恐怖に対して敏感だからなぁ・・・俺の特性もあるかもしれんが、何よりこの武具が恐ろしいんだろ』
「ふむ・・・?余もなにやら強い力は感じているが・・・その鎧、一体何でできているのだ?」
俺達は現在ガリアまで徒歩で向かっている。
みんな馬に乗って行くかと思ったが、そんなわけない。もし仮にローマ兵全員の馬を用意できたとして、それを何年も維持するなんて大変だ。だから大規模な遠征は基本徒歩になる。
もちろんネロは皇帝だから馬に乗っているが。俺らは専属の護衛としてその周りに配置されている。
『そうだな・・・ただ歩いているだけじゃ暇だし、少し話ながら行こうか。
この鎧は"覇竜"って言う伝説の竜から作られたものだ。地方によっては「黒き神」や「獄炎の覇王」と呼ばれ、俺の世界の伝承によると、「其の口は血の海、二牙は三日月の如く、陽を喰らう」と語られたらしい。』
「伝説の竜から作られたってなんかドラク・・・」
「先輩!それ以上はいけません!」
『その巨体が歩みを進めるだけで大地は砕けていき、尻尾を振り抜けば地は根こそぎ削り取られ、全身を覆う棘殻はマグマすらも生ぬるい。
咆哮すれば溶岩が粟立ち、強大な衝撃波となって大船をも沈めたという・・・』
「ゴクリ・・・」
「なんと・・・ハンターはそんな怪物を倒した勇者であったのだな・・・」
「なんともお伽話のような話だが・・・その武具が存在を証明しているな。私たちが感じるその溢れるような力は偽物ではあるまい」
『まぁ昔は金策として銀行よばわりされてたらしいが』
「なんと・・・ハンターはそんな怪物を金策扱いする修羅であったのだな・・・(絶句)」
「なんだか一気にイメージが崩れてしまいました・・・」
ハンターってホントに頭おかしいよな。仮にも神と呼ばれた竜をATM扱いだぜ?古龍級生物をサンドバックとかあの世で大勢のアカムが咽び泣いてると思う。
その様は某採集決戦のマスターたちにも匹敵・・・いやあれには勝てんか。
『ハンターっていったい何だろう・・・ああそうじゃなかった。そろそろ目的地に到着するはずだ。見えてくるよ』
「本当に便利なものだな。一国に1人欲しくなるぞ、魔術師殿。
おっと、魔術師殿の言う通りだ。長旅ご苦労だっな立香よ。既にガリアの地に入っている。遠征軍の野営地は目と鼻の先、しばらくぶりにゆっくりと寝床で休めるぞ」
「よかったぁ〜もう足が限界近かったんだ」
お、思ったより早かったな。
筋肉の叛逆者とモンスターでハンターな俺の夢の共演・・・なんとか意思疎通したいものだ。オラ、ワクワクすっぞ!
やはりいきなり変えようとするのは難しいですね・・・