やはり俺の異世界転生は命がけだ   作:ピーターパンシンドローム

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第8話

side八幡

 

戸部と別れた俺は何冊もの本を図書館から借り自室で読み漁っていた。

 

「この本にも書かれていないか…」

 

俺は読み終わった本を閉じ、表紙をぼんやりと見つめる。

 

ーー魔法属性と魔法

 

俺はこの世界で沢山の本を読んだのであらかたの魔法の効果は分かる。例えば、山羊の魔獣との戦いで葉山が使った魔法は光属性の上位魔法である。その破壊力は凄まじく、光線に当たったものを消滅させる。だが、使用者の負担も大きく葉山でも1発が限度らしい。さらに、詠唱にかなりの時間を食うので前衛では使う事ができない事もネックだろう。

しかし、俺の魔法ーー闇属性魔法ーーはどの書物にも書かれていないのである。だから、俺が使える魔法は最初から感覚的に使えた魔法しか知らない。山羊の魔獣に使った影の魔法もその一つであるのだが、影を操る事は予想以上に難しく細かい動きはいまだにできない。

 

俺が別の本に手を伸ばそうとすると、ドアが勢いよく空いた。

 

「比企谷君!」

 

「ヒッキー‼︎」

 

息を荒げた由比ヶ浜と雪ノ下が立っていた。

 

「失礼します……」

 

その後ろから一色も申し訳なさそうに顔を出す。

 

「会議室のこと、説明してくれるわよね?」

 

 

ーーーー

 

「ヒッキーもうやらないって言ったじゃん!」

 

「何か、申しひらきはあるかしら?」

 

「あはは…」

 

俺は今絶賛土下座中である。由比ヶ浜と雪ノ下は俺のベッドに座り、一色は相変わらず気まずそうに俺の椅子に座っている。

 

俺の見たものが土下座したくなるような土下座を目の当たりにし、雪ノ下はこめかみを押さえながら言う。

 

「あの場で貴方がああやった事は間違いだとは言わないわ。実際にあの後みんながやる気になったのだし、そこは素直に認める。だけど、貴方のやり方を見てると胸が痛いの。」

 

由比ヶ浜は悲しそうに俯き、俺はいたたまれなくなり、視線を床に移す。

 

でもね、と雪ノ下は続ける。

 

「私達も、貴方のやり方を否定するだけではダメだと思ったの。私達は肝心な時にいつも頼ってきた。そして、その度に貴方のやり方を何度も否定した。そんな事はもうやめよ。」

 

目頭が熱くなるのを感じながら、ゆっくりと顔を上げる。由比ヶ浜は俺の目を見て、優しく微笑み、子供をあやすような声で話す。

 

「これからはヒッキーが傷ついたなら、その傷をあたし達にも共有しよ?それでも辛かったらあたし達がヒッキーの傷を癒し続ける。だからね、もう1人で傷つかないで。」

 

涙が腐った瞳からこぼれるのを感じた。

 

 

ーーーー

 

あれから一夜明けた午前、俺たちは訓練場で汗を流していた。会議室の事で気に障った生徒が何かを仕掛けてくると思っていたのだが、嫌な視線は感じるものの、未だに実害はなかった。それはおそらく、こいつらのおかげだろう。

 

「っべー、隼人君、マジ強いっしょー。俺本気でいったのに、一撃も当てられなかったわー。」

 

「いや、かなり危なかったよ。何発かかすったしね。」

 

「隼人ほんと強いねー。聖騎士だっけ?あーしも頑張らないと。」

 

「でも、とべっちもかなり動き速かったよ。濃厚な男同士のぶつかり合い。はやとべ、キマシタワー‼︎」

 

「擬態しろし。」

 

なぜだかあの後以来、俺の周りにいるのだ。てか、海老名さんこの世界でも腐女子は健在なんですね。

 

第4層以来、訓練場は葉山が指揮するようになった。番獣を倒したことと、その人間性が評価されたからだそうだ。

 

俺は今、一色と雪ノ下の模擬戦を見ていた。

 

一色の突きを雪ノ下が体を捻ってかわすと、次は雪ノ下が右上から斜めに振り下ろす。一色は体勢を低くすると、横に転がりすぐさま立ち上がる。一色が体勢を立て直す前に雪ノ下は突きを放つ。

 

ーー勝負あり。

木刀は一色の胸の前で止まっている。

 

「ふっ、私の勝ちね。」

 

嬉しそうですね雪ノ下さん。

 

「あー!雪乃先輩は本気出しちゃダメって言ったじゃないですかー!」

 

一色はぷくー、と頬を膨らませる。あざと可愛いなおい。

 

「でも、一色もかなり運動神経あるのな。」

 

「そうですよ。わたし、ほとんどの事は人並み以上にはできるんで。」

 

たしかに、こいつって結構ハイスペックなんだよな。

 

ーーーー

 

午後7時前、俺たちは風呂を済まして食堂に向かう長い廊下を歩いていた。

 

「僕もうお腹ぺこぺこだよー。」

 

「そうだな、俺もお前を食べちゃいたい。」

 

「え?」

 

「ああ、すまん間違えた。そうだな、あれだけ動けばお腹も減るよな。」

 

あまりにも戸塚が可愛すぎて俺が魔獣になるところだった。ぐへへへ……

 

背後から雪ノ下達の冷たい視線を感じるがモーマンタイ。

 

「今日はどんなご飯かな?」

 

「んー、どうだろうな。でも何かあるわけでもないし、あまり期待はしないでおく。」

 

この宮殿で騎士達に支給されるご飯はあまり贅沢とは言えない。騎士道を重んじるとかであえて質素な食事となっているようだ。さらに大缶や小缶などの食事を自分たちで盛っていくため、まさに学校給食を連想させる食事である。特別な日にはかなり豪勢になるが、今日はこれといったことがないのでいつも通りの食事だろう。

 

食堂の大きな扉を開けると戸塚は小さく声を上げた。

 

「わぁ、今日はもうみんなの分の食事を配ってくれたんだね」

 

いつもなら自分で取りに行くのだが、今日は全員の席に既に食事が用意されていたのだ。

 

「わざわざ疲れているのにこんな事をしてくれるなんて、物好きな人もいたものね。」

 

「まあまあ、ゆきのん。わざわざ準備してくれたんだから素直に感謝しようよ。」

 

俺たちが自分達のネームプレートがつけられている席に座ろうとした時、前を歩いていた戸塚が足を止める。

 

「八幡の分がない……。」

そこには丁寧に俺の食事だけ置いていなかった。周りを一瞥すると、にやにやしている生徒の中に悪意を持った目で俺を見ている生徒がいた。

 

ーー相模だ。

おいおい、18歳の奴らがやるようなことかよ。

 

俺はため息をつき、自分の食事を盛りにいき、大缶を覗き込む。

 

カラだ……。

 

大缶だけではない。小缶もからであり、白米もなくなっていた。

 

まじかよ……これは下手な暴力よりもよっぽど効くぞ……。

厳しい訓練を終えた日の夜であり、みんなかなり腹を空かしているだろう。なので元々騎士道を重んじて量を少なくしているこの食事を他の人からもらうわけにもいかない。

 

手詰まりだな…。さっさと寝て飢えをしのぐか。

 

食器を戻し食堂の扉に向かおうとすると後ろから声をかけられた。

 

「まちなさい、飢えしのぎ君」

 

「いや、もう名前の原型残ってないから。」

 

振り向くと雪ノ下が食器を持って立っていた。

 

「私の分を分けるわ。」

 

「いや、いいよ。お前だって腹減ってんだろ?」

 

「あら、私って細いからこんなに食べないのよ。」

 

そういうと、雪ノ下は自分の席に戻っていき自分のご飯の半分をよそおうとする。

 

「あー、ゆきのん!それ多すぎ!あたし達がヒッキーにわける分も残しておいてよ!」

 

「先輩、私もダイエット中なので少し食べてくださいね!」

 

由比ヶ浜と一色も俺の食器にご飯を分けていく。

 

「はちまん!僕の分も分けてあげる!」

 

「私もこんなにいらない」

 

そう言って戸塚と川崎が後に続く。

 

「みんなすまない。俺なんかのために。でも、礼を言わせてくれ。ありがとう。」

 

俺は胸の中が熱くなるのを感じながら自分の席に戻る。

 

相模は目があうと苦虫を噛んだような顔をしていたが、俺は無視して席に座った。

 

「比企谷、俺のもやろう。」

 

「ヒキタニ君、俺の分もあげるっしょー」

 

「ヒキオは男なんだからいっぱい食べるし」

 

「私もヒキタニ君にあげるよ。」

 

「まてまてまて!多すぎるわ!」

 


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