やはり俺の異世界転生は命がけだ   作:ピーターパンシンドローム

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第7話

side八幡

 

4人の生徒の死亡、ガイウスの負傷。これらは宮殿の騎士達に精神的ショックを与えていた。ガイウスは宮殿の中でも最上位クラスの精霊騎士であった。そんなガイウスが再起不能の傷を負ったことにより、ほとんどの騎士は迷宮の探索をしたくないと。事実上、魔獣は俺たち転生組のみで倒さなければならなくなった。

 

心に傷を負った者は宮殿の騎士達だけではない。総武高校メンバーも1年近く一緒にいた人が殺されたということに恐怖を感じていた。次は自分の番なのではないかと。

 

そんな恐怖が生徒の心をへし折るのに、そう時間はかからなかった。

 

あの日から訓練に主席するものは少なっていき、一週間がたった頃には半分以下となっていた。

 

そんな中、第5層の迷宮へ潜ることが決まり全生徒が会議室に集められていた。俺を真ん中に一色と戸塚と川崎、奉仕部メンバーが座っており、向かいの机には葉山グループが座っている。

 

沈黙した重い空気のなか、ソフィアが口を開く。

 

「まず、ガイウスの証言で分かったのですが、第4層の山羊の魔獣は上位悪魔で今までの魔獣より格段に強かったのです。便宜上、階段を守る魔獣の事は番獣と呼びますが、これからは番獣には十分に気をつけてください。」

 

そして、とソフィアは続けた。

 

「第5層には、今から3日後に行っていただきます。この層にいる魔獣は騎士達が調べてくれたので確認してください。」

 

ソフィアの隣に立っていた騎士が、一枚の紙を配っていく。そこには、様々な魔物の絵と特徴が描かれており、1番下には第5層の地図と思われる絵が描かれていた。

 

全員に紙が渡り、ソフィアが口を開こうとした時、

 

「ふっざけんな‼︎もう付き合ってられるか!こんな奴らと戦うなら、あの時死んだほうがましだ!」

 

1人の男子生徒の怒号が響く。一色は身体をビクッとさせ、俺の袖を摘んだ。まもなくして、1人の生徒の怒りは他の生徒にも伝染していった。

 

「そうよ!勝手なこと言わないでよ!」

 

「もう、元の世界に戻してよ!」

 

「俺たちをこれ以上戦わせるならあんたを殺す‼︎」

 

俺たちと、葉山達を除いてほとんどの生徒がソフィアに好き勝手なことを言っていく。自分の要求を突きつけるもの、不平不満を口にするもの、なかには暴言を吐くものもいた。一色は怯え、由比ヶ浜は俯き、雪ノ下は目を瞑っている。そんななかでも、葉山はみんなを落ち着かせようと動くが、その声は喧騒のなかに埋もれていく。

 

まずいな…。今の俺たちには時間がない。この迷宮の深さもわからないなか、立ち往生をしている余裕など俺たちにはないなのだ。しかし、今のままでは迷宮に行こうとする者など現れるはずもない。番獣はともかく、他の魔獣はできるだけ大勢で倒すのが早いだろう。だから、迷宮に行く者の数が減るという事はそれだけクリアに時間がかかり、命を落とす危険が増えるのだ。

 

俺はゆっくり立ち上がると、机を思いっきり叩く。雪ノ下達が怯えた表情で俺を見るが俺はなるべく目を合わせないようにし、口を開く。

 

「うるせえんだよ。お前らは泣くことしか能のないガキかよ。」

 

生徒達は呆然とした顔で俺を見るが、俺は不敵に笑ってゆっくり歩き出す。

 

「死んだあいつらなんてな、自業自得なんだよ。人の話を聞かないで、自分ならできると思い上がっていた。だから命を落とした。」

 

俺は反対側の葉山達の側にくると、そこで立ち止まる。

 

幾つもの視線が刺さり、鼓動が速くなっているが、俺はそれを顔に出さずにつづける。

 

「俺から見たらお前達だって、あいつらと同じなんだよ。人の話を聞かずに自分のしたいようにする。つまりな、邪魔なんだよ。お前らなんて、いらない。俺の足を引っ張られても困るしな。」

 

ーーそれに、と続けようとしたそのとき

 

頬に強い衝撃が走り、俺は壁を背に尻餅をつく。口にじんわりと鉄の味がにじむ。

 

「少し黙れよ、比企谷」

 

葉山が俺の前にたち、睨みつける。

 

「君は今、冷静じゃない。少し頭を冷やしてこい。それと戸部、傷の手当をしてくれ。」

 

戸部はサムズアップをして、俺の肩担いぎ、出口に向かって行った。葉山とすれ違うときに葉山は俺にしか聞こえないような声でつぶやく。

 

「すまない。君の手を借りることになって。ここからは俺に任せてくれ。」

 

別にお前の為じゃねーよ、バーカ。

 

 

 

ーーーー

 

俺は今、戸部と宮殿の庭のベンチに座っている。そう、あの俺の黒歴史ベスト5に入るといわれる、雪ノ下の胸のなかで大泣きする事件の現場だ。

 

戸部は俺を手当てしたら、会議室に戻るのかと思っていたのだが

 

「ヒキタニ君、ちょっと話さね?」

 

と言われ、庭に連れてこられたのである。え、こいつと俺って友達なの?いや、でも、3年になってからヤケにこいつ絡んでくるんだよなぁ。それからは俺もこいつを気にとめるようにはなったし。この気持ちって、恋?そういや、友達以上恋人未満ってなんかいやらしいよね。

 

「ヒキタニ君さー、またアレやったでしょ?」

 

俺が脳内恋人友達論争に浸っている中、戸部は空を見上げながら唐突に切り出した。

 

「アレってなんだよ。代名詞だけの会話が俺と成り立つと思うんじゃねえよ。そういうのは夫婦でやれよ。」

 

「たからさ、自己犠牲ってやつ?俺はバカだから難しい事とかわかんない。だけどさ、ヒキタニ君が何かを必死に守ろうとしてるのだけは分かったんだ。」

 

戸部は依然として上を見たまま、続ける。

 

「俺にも守りたいものがあんだわ。4人も死んじまったときは怖くてしかたなかった。いつか俺も死んじまうのかなーって。でも、海老名さんの顔を見て思ったんだ。1番怖いのは海老名さんが死ぬことだって。」

 

戸部は俺の顔をみる。その眼はいつもの戸部とは思えないほど真剣で凛々しかった。

 

「だから、俺は海老名さんを守りたい」

 

俺は以前、こいつらの関係を欺瞞だといった。しかし、今のこいつの顔を見てもう一度そんな事を言えるだろうか?

 

「つまりさ、何が言いたいかっていうと、俺はヒキタニ君の味方だから!」

 

戸部は最高の笑顔でサムズアップした。

 

 

 

side葉山

 

比企谷が退出したあと、俺は声を張り上げた。

 

「みんな、聴いてくれ。怖いのは分かる。だが今動かないとどのみち俺たちは殺されるんだ。」

 

みんなは、暗い表情で俯いており、俺は努めて明るい声を出す。

 

「だからこそ、みんなで力を合わせて魔王を倒そうじゃないか!番獣と戦えない者は戦わなくてもいい。一人一人が自分のできる事をやっていこう。」

 

しばらくの静寂の後、何名かの男子生徒がぽつり、ぽつりと言葉を漏らす。

 

「ああ、そうだな!」

 

「俺は隼人君についてくよ!」

 

そこから、派生するように指揮が高まっていく。何名もの女子生徒からの熱い視線を感じるが、今回はそれも利用させてもらおう。

 

「女子達も、俺に力を貸してくれ。」

 

俺は女子一人一人に目を合わせていく。

 

「私、がんばる!」

 

「葉山君のためなら何だってできるよ!」

 

会議室は先程までの沈黙が嘘のように盛り上がっている。これはきっと比企谷への対抗心もあるのだろう。

 

ふぅ…何とか仕事を終えられたな。

 

優美子から冷たい視線を感じるが、後で謝っておこう。

 

 

 

 

 

 


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