FGO マシュズ・リポート ~うちのマスターがこんなに変~   作:葉川柚介

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第1章の記録 ライダー大戦オルレアン

「先輩! なぜかワイバーンが種類豊富なんですが先輩! ひたすら空飛んでる赤いのとか尻尾に毒がある緑色のとか全身岩に覆われてるのとか白くて電気を吐く気持ち悪いのとかいっぱいいるんですが! ……え? 飛竜種ならよくあること? 意味が分からないです!」

 

 みなさんごきげんよう。

 人理継続保障機関カルデアのデミ・サーヴァント、シールダーのマシュ・キリエライトです。

 人理焼却による滅亡から人類の未来を取り戻すため、マスターである先輩とともに歴史上に発生した、本来の史実とは異なり、カルデアスでも観測できない特異点をどうにかこうにかするため、本日さっそく第一の特異点にやってきました。

 時代と場所は、中世のフランス。百年戦争真っ只中のこの時代。戦争というものは敵味方が銃火を交える前から始まっているもので、一つの勝利、一つの敗北が覆った程度で勝敗が、その後の歴史が大きく狂うことはないでしょう。

 しかし、その歴史を狂わせることができるのが聖杯であり、聖杯によって召喚されたサーヴァント。百年戦争の結果が変わり、フランスという国がそのありようを大きく変えることになれば、その後の人類の歴史にも大きな影響を受けることは免れません。

 私たちはなんとしても聖杯の回収、あるいは破壊をするべく、この時代のフランスへとレイシフトしてきました。

 

 

――ぎゃああああああああす!

 

 

 で、その結果がご覧の有様ですよ!

 なんですかこの空を覆いつくさんばかりのワイバーンは!?

 

『マシュ、何か記録を取ってるところすまないがワイバーンだ!』

「ドクター! フランスに来てからこっち、こういうパターンばっかりです!」

『しょっちゅう唐突に襲われるのは僕のせいじゃないよ!? きっと何か大いなる意思とかそういうものがだね!?』

「言い訳なんて聞きたくないです! ドクターのヘタレ! ひょろひょろ! 妖怪ロマン男!」

『だからそれは昔のあだ名だってば!?』

 

 竜、というのは幻想種の中でも頂点に君臨するものとされています。当然、伝説の類を除いて人類と関わったことはなく、特にこの時代この場所に公然とその姿を現したことはありません。つまり、本来の歴史の流れとは異なる事象が起きていることは疑いの余地がない状況です。

 どうやら、今回はこのフランスを、百年戦争をどうにかしなければならないようです。

 

「先輩、早く逃げないと……! え、いいものがある? 最近カルデアで召喚した礼装って……なんですかそれは!?」

『おぉ? なんか呼び出されたと思ったらなんだこの状況。なに、ドラゴナイトハンターZでもプレイ中? ……へー、ここではあんたが自分を使ってくれるのかい?』

「バイクがしゃべってるぅー!?」

 

 そしてそんな異常事態でもブレない泣かない揺るがない、を地で行くのが私の先輩です。

 今回もさっそく、逃げるための足としてどこからどう見てもバイクの礼装を取り出しました。この礼装、驚くことにしゃべります。しかも何の強化もしてないのに出現時からレベル2。ただし、これ以上レベルを上げると礼装としての機能を失うそうです。意味が分かりません。

 

 

 魔術の常識なんのその、どころか人間の常識すらなんのその疑惑さえ最近は出始めている先輩。知れば知るほど遠くなるような気さえしますが、それでもわたしは諦めません。もっともっと、先輩のことを知りたいんです!

 

 

◇◆◇

 

 

 レイシフトによってたどり着いた第一の特異点、フランス。

 当初は一見普通の草原地帯に転移したかと思われましたが、そう甘くはありませんでした。

 青く遠く高く、広がる空に見えたのは、人類史上一度として出現したことがない謎の環。これもまた、人の世が滅ぶことになる原因、あるいは結果の一つなのでしょう。

 とはいえ、あれは手が届く位置にあるものではありません。そういったものの調査はカルデアのスタッフに任せて、私たちはとにかく現地の調査ということになりました。

 

 そして分かったのは、フランスに起きたはっきりとわかる異常。

 歴史の通りに百年戦争が続き、異端として処刑されたジャンヌ・ダルクがしかし突如として蘇り、ドラゴンを呼び出してフランスを阿鼻叫喚に陥れているとのことでした。

 

「ここはフランスのどの辺りなんでしょう……え、群馬県? 空にグンマーオオトカゲがいるからって、違います先輩! あれは竜種、ワイバーンです! なんだかお腹にビー玉を埋め込んだ人型とか、どう見てもコマなものもいますけど。……あれは、ワイルドワイバーンというんですか? 見た目が明らかに違うのに、両方とも同じ名前で? ……はい、マシュ・キリエライト、覚えました!」

『それ多分覚えなくていい奴だと思うよ、マシュ』

 

 先輩はレイシフトしてワイバーンを見るなりここが日本の群馬県だと見なしていましたが、そんなことはありません。ここは中世フランスです。

 あとワイバーンの一種として明らかに竜種とは異なるシルエットのものも混じっていましたが、些細なことです。

 

 状況から考えて、竜の魔女として蘇ったというジャンヌ・ダルクが聖杯の持ち主の可能性は極めて高いと判断できます。

 下位のワイバーンとはいえ竜種の召喚、さらに噂によればその上位たるファヴニールを従え、陣営の中にはきわめて強力な個人、すなわちサーヴァントすら従えているということが情報収集の結果わかってきました。

 つまり、特異点の修復に必要なのは復活したというジャンヌ・ダルクの打倒なわけです。

 

「と思っていたら、また別のジャンヌ・ダルクさんを見つけましたね、先輩」

「はい、私はルーラーのサーヴァントとして召喚された、ジャンヌ・ダルクです。……え、バレー部の主将みたいじゃない? す、すみません、ご期待に沿えなかったようで。えーとえーと、こ、根性ー!?」

「気にしないでください。先輩の言うことは私もよくわかりませんから」

 

 先輩は、さっそくジャンヌ・ダルクさんに出典不明のイメージを持っていたようでしたが、いつものことなので気にしてはいけません。

 そんなこんなで、この特異点ではジャンヌ・ダルクさんと一緒に行動することになったのでした。

 

 

 ちなみに、空を飛び交うワイバーン。これはいかに下位とはいえ竜種。とてもではありませんが簡単に勝てる相手ではありません。

 ……本来ならば。

 

 

「ジャックさん! キレのいいやつ、頼みます!」

「うん、わかった。お母さんのお友達の頼みだし、わたしたちがんばるよ!」

 

 と、そんな感じで先輩が謎のカードを謎のリングに通すことで一時的に召喚されたサーヴァントの人がばっさばっさと三枚におろしてくれました。先輩に曰く「力を借りると言えばこれ」だそうです。

 ……最近、戦力が増強されるならもうなんでもいいかなって思えるようになってきました。

 

 

◇◆◇

 

 

 フランスの特異点攻略は、冬木のそれとは様相を大いに異にしていました。

 冬木において起きていた異変は聖杯戦争の異常。もちろん聖杯戦争そのものからして世間的には異常事態ではあるのですが、あくまで聖杯戦争が悪化、変化したというたぐいの事件でした。

 ですが、フランスは違います。

 竜の魔女として復活したジャンヌ・ダルク。彼女がフランスを滅ぼすべくワイバーンを、そして自ら召喚したらしきサーヴァントを率いて各地に破壊を振りまいているという状況。

 まずもってサーヴァントの数も種類も通常の聖杯戦争における各クラス1騎の枠に収まるものではなく、しかも竜の魔女の尖兵として呼び出されたサーヴァントに対するカウンターとしてか、あるいは聖杯戦争の形式が狂ったことによるバグか、フランス各地にはぐれサーヴァントとでも呼ぶべき主を持たないサーヴァントもまた存在しているようなのです。

 

「愛ある限り、ヴィヴ・ラ・フランス。命、燃え尽きるまで!」

「落ち着けマリア。僕たち軒並み一度命燃え尽きてるから」

「命、燃やすわ! ……そしてここにいるのがベートーベンだったら!」

「ほら、なんか変な子も来ちゃったし」

 

「先輩、なぜか仮面をつけた女性サーヴァントが! あといまちらっと所長の姿が見えた気が!」

 

 とある町でジャンヌ・オルタ側のサーヴァント複数に襲撃を受けた際、助けに来てくれたのがまさしくそのサーヴァントのうちの2騎、ライダーのマリー・アントワネットさんとキャスターのウォルフガング・アマデウス・モーツァルトさんが力を貸してくれました。

 マリーさんが初めて姿を見せたとき、なぜか真っ赤なマスクで顔を隠していましたが、とりあえずノリでやってみたのだそうです。

 後に数多遭遇した仮面のサーヴァントたちのことを考えると、人は英霊化すると仮面をつけたくなるものなのかもしれません。

 

 それから、どうも特殊な霊体になってしまっているらしき所長の姿もちらほら垣間見えるようになりました。パーカーのような礼装を身に着けて、何が気に入らないのかアマデウスさんではなくベートーベンの方がよかったらしいですが。

 

 

 ともあれ、これをもって方針は決まりました。

 本来あるべき聖杯戦争の形、すなわちサーヴァントが召喚され、戦いあって最後に生き残った勝者が聖杯を得るという状態にならず、まず聖杯を持つ勝者ありきという現状の埋め合わせのため、通常ならば聖杯戦争を戦うために召喚されただろうサーヴァントたちがマスターを持たないはぐれサーヴァントの状態で召喚され、独自に行動しているようです。マリーさんとアマデウスさんがまさにそれであるようでした。

 

 つまり、私たちはこの特異点攻略するにあたって私たちカルデア以外の戦力も頼りにできる可能性があるということです。うまくはぐれサーヴァントの人たちと合流できれば、強大な戦力を誇る竜の魔女の軍勢にも対抗できるようになるかもしれないということです。

 

「そうなるのは、少なくとも私を倒してからね。……行きなさい、タラスク!」

「なんだかドラゴン要素がカケラもない巨大なカメが!? ……え、アレはどちらかというとガイアの抑止力? それサーヴァントよりもっと危ない奴です先輩!」

「いえね、どうもタラスクがおなか壊しちゃったらしくて。代わりに友達のこの子が来てくれたのよ」

 

 と、ポジティブになりうる要素が見つかった途端にぶち砕きにくるのは竜の魔女によって召喚されたというバ―サークサーヴァントの1騎、聖女マルタ。本来ならば当然フランスの廃滅に関わるような人ではないのですが、サーヴァントとして、しかも狂化されているとあっては逆らえず、私たちを始末しに来たようです。

 ……なんだか、聖女マルタに付き従う鉄甲竜タラスクがどう見てもカメですが。先輩はあのタラスク(仮)がなんだかわかっていたようですが、曰く「敵に回しちゃダメだけど、現状あれ自体がこっちに敵対はしない」そうなのであくまで聖女マルタの命に従うだけの存在だそうです。

 

 私たちが聖女マルタに勝利できたのは、だからこそでしょう。

 狂化されてなおどこか私たちを導くようなことを多く語り、ファヴニールを倒しうるサーヴァントの居所を教えてくれた聖女マルタ。その心に、必ず応えたいと思います。

 

 

◇◆◇

 

 

 そうしてたどり着いたリヨンの町。

 すでに襲撃を受けた後のようで、町を埋め尽くす一面瓦礫の山。そして襲い掛かって来るリビングデッド。私たちはサーヴァントを探すため、そしてせめて安らかに眠ってもらうために戦いました。

 そして、この地に潜んでいたサーヴァントとも。

 

「さあ、舞台の幕を上げよう。思い知るがいい、この力。我が名は……ブラックタイガー!」

「……前に襲ってきたときはファントム・オブ・ジ・オペラと名乗っていたはずですが。……はい? 海老男呼ばわりすると弱体化する? わかりました! 海老! 海老男!」

「マシュさん、順応早いですね……」

 

 とまあそんな感じで殴り倒しました。

 さすが先輩。変態相手は強いですね。

 

 

 その後も大変なこと続きでした。竜の魔女がファブニールに乗ってさっそく襲撃してきたり、ようやく見つけたドラゴンスレイヤーのジークフリートさんは呪いに等しい傷を負ってまともに戦えない状態になっていたり。

 

「俗な名って言われたことない?」

「すまない、君が何を言っているのかよくわからない」

「大丈夫です、ジークフリートさん。先輩のことは私もまだよくわかっていないので」

 

 その後の追撃も振り切ってようやく落ち着いて判明したのはジークフリートさんの傷の深刻さ。治療できないわけではないようですが、これは重度の呪いの類。ジャンヌさんは解呪の力がありますが、他にもう一人の聖人に力を借りなければならないのだそうです。

 

 事態は一刻を争います。私たちは二手に分かれ、フランスのどこかにいる可能性が高い聖人のサーヴァントを探すことになりました。

 途中でマリーさんが死亡フラグを立てていたりもしましたが、私と先輩はアマデウスさんと一緒に行くことになりました。

 

 そしてたどり着いたのは、ティエールの町。幸いリヨンのように崩壊した気配はなく、ここならせめて情報収集くらいは出来るかと、そう思っていたのですが。

 

「先輩! ティエールの町中から火が上がっています! アレは、火災ではなく竜種のブレスのようですが……」

「……なんだろう、僕はあの町にすっごく行きたくない。ろくでもない音がする」

 

 どうやら町には先客がいる模様です。市民の悲鳴は聞こえてきませんが、間違いなくロクでもないことになっているだろう状況を放っておくわけにはいきません。私たちは、急いでティエールの町に向かいました。

 

「どうしたんですか、先輩? ……え、人の体にドラゴンの顔やら爪やら翼やら尻尾やら生えたようなサーヴァントが飛んでいたり、どことなくコウモリっぽいサーヴァントが逆立ちして飛び上がっていた? …………なるほど、そういうのもいるんですね!」

「マシュくん、そこはもうちょっと思ったことを素直にコメントしていいよ?」

 

 

 他の例に漏れず襲撃の形跡があり、住人達は逃げ出したあとのようでした。そのことに関しては、好都合です。万が一再び敵の襲撃を受けたとしても、少なくとも住人の安全を気にする必要はなくなります。町は更地になるかもしれませんが、それはコラテラルダメージというものです。

 

「なによ蛇! 私のステージに文句でもあるっていうの!?」

「ええ、当然です。あなたの歌は地面に落ちて灼けた鐘の音と比べてもひどすぎます」

 

 そこで出会ったのは、残念ながら聖人のサーヴァントではないようでした。喧々諤々と言い争うのは、二人の女性サーヴァント。赤い髪にねじれた角の少女と、和服姿でおしとやかな様子ですが目の奥に得体の知れないねっとりした光を宿す少女。喧嘩を止めつつ話を聞いたところによると、赤い髪の少女がバーサーク・アサシンの若い頃であるエリザベート・バートリーさん。和風の少女が安珍清姫伝説の清姫さんとのことでした。

 どうやら、竜の魔女に主導されている形の特異点であるため、はぐれサーヴァントを含め、竜に関係するサーヴァントが多く召喚されているようです。

 

 ……いるようなのですが。

 

「まあまあ落ち着こうよ、清姫ちゃん。ほらドーナツでも食べて。おいしいよ、プレーンシュガー」

「エリちゃんも、そろそろライブを終わってくれると嬉しいかな。バイオリン弾くのも、これで結構疲れるんだよ」

 

 なんだか、他にもいました!

 両手の中指に大きな指輪をつけている宝石みたいな仮面の人と、腰からコウモリを下げてバイオリンを弾いているこれまた仮面の人が。この人たちが、先輩が見かけたというとんでもなさげなサーヴァントなのでしょうか。

 

 話を聞いたところによると、予想の通りサーヴァントのようなもの、なのだそうです。このフランスにおける聖杯の所有権取得がイレギュラーな形であったことの余波として、清姫さんとエリザベートさんの対として召喚されることになったのだとか。

 

「わたくしはげえとなど知りませんよ、晴人さん。まあ、安珍様が嘘をついていると知ったときは絶望のあまり顔にヒビが入ったりもしましたが」

「それでも心が清姫ちゃんのままで、しかも竜の姿になれるってことは生まれたファントムを飲み込んだってことなんだよね……。それ、俺の知ってる中で一番ヤバいパターンだよ。よく平気だなあ」

「いえ、さっそく先輩を安珍さん認定してすりすりしている辺り決して平気ではないと思います」

 

「いやー、渡ってばいい腕してるじゃない。どう、私と一緒にフランス全国ツアーに繰り出すってのは? 全仏チャート制覇よ!」

「しないから、そんなこと。……うぅ、ブラッディローズがファンガイアっぽい何かがいるって知らせるから来てみたらなんか全然違うし、どうなってるんだろう」

「そう落ち込むなって、渡。見ろ、また美人の姉ちゃんが増えたんだ、男なら喜ぶところだろう?」

「レフ教授!? では、ないですよね、うん。コウモリさんですし」

 

 何とも個性的な人たちでした。この人たちは軒並みライダーのクラスとして召喚されたらしいですが、人により差はあるものの、総じてキャスターやセイバー、アーチャー、バーサーカーなど複数のクラスになりうる適性もあるそうです。

 ……と、いうことをなぜか先輩が説明してくれました。先輩、どうしてさも1年間みっちりこの人たちの戦いを見てきたみたいに知ってるんですか。

 ちなみに、それぞれウィザード、キバと呼んでくれと言われました。他にも名前があるようですが、クラスでもない名前で呼ぶとは一体。

 

 ともあれ、そういったサーヴァントの人たちも軒並み糾合できるのが先輩のすごいところ。「あの」清姫さんとも会話を成り立たせ、何と聖人の情報を入手しました。

 

「西に向かったんですね!? では、さっそくジャンヌさんたちに連絡します!」

 

 

 そのことは、紛れもなく朗報でした。

 ジークフリートさんを治療する目処が立ち、ひいては竜の魔女側の最大戦力たるファヴニールを倒す目処がついたということです。

 

 しかしこれは、異常事態とはいえ聖杯戦争。

 何も失うことなく何かを得ることなど、夢物語に過ぎませんでした。

 

 

◇◆◇

 

 

「話は理解した。このゲオルギウス、君たちの力になろう」

「ありがとうございます! やりましたね、マリー!」

「ええ、とっても嬉しいわ! きゃー!」

 

 マシュたちからの通信によってあたりを付けたジャンヌとマリーは、無事にこの地へと召喚された聖人のサーヴァント、聖ゲオルギウスを発見した。

 すでに何度かワイバーンの襲撃を受けたこの町を守り切り、町の人たちが避難するのを見届けようとしているこの人物であるならば、ジャンヌと協力してジークフリートの傷を癒すことができるだろう。

 

 しかしそれも、無事仲間たちの元へたどり着くことができればの話だ。

 

「!? この気配……サーヴァントと、まさかファヴニール!?」

「私たち、見つかってしまったようね。どうしましょう」

「まだ住人たちの避難が終わっていない。彼らを見捨てて逃げるわけには……」

 

 聖人とは為し遂げたことと、それを可能にした当人の精神性の尊さこそが核となる。ゆえに、邪悪に蹂躙されようとする弱者を見捨てることなど決してできない。

 たとえ迫りくる敵がどれほど強大であろうとも。

 この場を切り抜けなければフランスも、人類史も守り抜けないとわかっていても。

 

 ジャンヌ・ダルクはわかっている。

 もう一人の自分は、今度こそこちらの希望を完膚なきまでに破壊しようとしていると。

 

 ゲオルギウスは知っている。

 竜種の持つ力は、特にこれほどまでに強大なプレッシャーを感じさせる個体はドラゴンスレイヤーとしての特性を持つ自分でも一人では倒せるものではないと。

 

 

 そして、マリー・アントワネットはいつでも覚悟を決めている。

 愛する祖国のため、そして英霊となって、この特異点に召喚され、出会い友となったこの子のためならば、喜んでこの命を賭けられると。

 

「ねえ、ジャンヌ。聞いてくれるかしら」

 

 いつだって、ヴィヴ・ラ・フランス。

 ジャンヌと出会ってからいつもそうあったように、マリー・アントワネットは笑顔で別れを告げて、ジャンヌとゲオルギウスを守るため、たった一人で自らを殺した処刑人、シャルル・アンリ・サンソンと、竜の魔女、そしてファーブニルに、立ち向かった。

 

 

◇◆◇

 

 

「……と、いうわけです。すみません、私がついて居ながら……!」

 

 聖ゲオルギウスを連れて私たちと合流したジャンヌさんは、再会を喜んだすぐ後にそう謝罪しました。

 その辛そうな表情に、そして戻って来たときマリーさんが隣にいなかったことに、私たちの胸も締め付けられます。アマデウスさんも一人になりたいと言うほどのことです。心中、察するしかありません。

 それでも、私たちは前に進みます。先輩がそうあるように、私たちも決して諦めることをしません。

 

 ジークフリートさんをジャンヌさんとゲオルギルウスさんが治し、清姫さんとエリザベートさん、そして晴人さんと渡さんまでもが協力してくれることになり、向かうは最後の決戦地、オルレアンです。

 

 

 ジークフリートさんが言った通り、私たちの動向は全て把握されているに等しい状況。戦力差は圧倒的ながら、奇襲が成功する可能性は万に一つもなく、正面突破以外の選択肢は取りえません。しかしそれでも、私たちは先輩の指揮のもとに集った一騎当千のサーヴァント。この時代の人理修復は決して不可能なことではないと、信じています。

 

「野郎オブクラッシャアアアアアアアア!!!」

「大変です先輩! あのアーチャー、狂化の度合いが過去最高です!」

 

 その途上、なんかもう元の英霊の見る影もないくらい狂化されたアタランテと戦ったり。

 

「うぅぅ、うああああああ!」

「狂化したせいでしょうか!? シャルル・アンリ・サンソンがなぜか鉄球を投げつけてくるのは! 変な回転がかかってるらしくて軌道が読めません!」

 

 マリーさんと戦って、敗れたのでしょう。ほとんどシャドウサーヴァントと言っていいほどに正体を失ったサンソンさんがなぜか剣ではなく鉄球で戦うようになっていたり。

 

「ああ、もっと、もっと殺してやりたかったなあ……」

「なんだか最初に会ったときと顔つき変わっていませんか?」

 

 より女性っぽいドレス姿のシュヴァリエ・デオンと戦ったり。

 ちなみにデオンの相手は所長がやってくれたようで、なんか私たちには見えづらい霊的な戦いだったみたいです。

 

「ふふふ、いい面構えだ。余を召喚することあらば、今度こそお前に力を貸そう」

「はい。その時は光の力、お借りします」

「……余を、光と呼ぶか。ははははは!」

 

 竜の魔女に従い、狂化を施されながら、それでもヴラド三世であり続けたランサーを撃破し、ついにファヴニールと対峙しました。

 

 

◇◆◇

 

 

「ここまで来たことは褒めてあげましょう。そんな貧弱な軍勢で、よくもまあ私に歯向かったものです。でも、それもこれで終わりよ! やれ、ファヴニール!」

 

 邪竜、咆哮。

 空気が、大地が、世界が震える音のブレス。巨大で、強力で、およそ人が抗いうる存在ではありえない、竜種。その中でも飛び切り有名で飛び切り強欲な存在が、私たちの前に立ちはだかっています。

 味方はジークフリートさんをはじめ、頼れるサーヴァントばかり。

 それでも、それでも相手はあまりにも強大で。

 あの牙が、あの口から零れる炎が、マリーさんを葬ったのだと思うと足がすくみそうになってしまいます。

 戦わなければ生き残れない。私たちは誰もが己の武器を握りしめ、口の中にまばゆい光と灼熱の炎を宿らせたファヴニールとの決戦が始まるその時を。

 

 

「みんな、おまたせーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

――しゃぎゃーーーーーーー!?」

「マリーさんー!?」

 

 と思っていたら、なんかマリーさんがガラスの馬車で突っ込んで来たんですが!?

 

「マ、マリア? 君、生きてたのかい!? てっきりカッコいいセリフの一つも吐いてきっちりフラグを回収したものだとばかり思ってたんだけど」

「ええ、私もそうなると思ってたんだけど……この人が、危ない所を助けて逃がしてくれたの」

 

 なんか事情はよく分かりませんが、とりあえず頼りになる援軍であることは間違いありません。

 戦力としてはもちろんのこと、誰も手の届かないところで、守ることも助けることもできなかったと思っていたマリーさんがこうして生きていてくれたこと。そのことが私たちの心に何よりの救いとなりました。

 そして、そうやってマリーさんを助けてくれた方は。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「なに、その紫色したサーヴァントは!? バーサーカーなの!? ……え、ライダー? あれで? 嘘でしょ?」

「ライダーは助け合いでしょおおおおおおお!!!!!」

「それ言っておけばライダー扱いされると思ってるんじゃないでしょうね!?」

 

「危ない所を助けてくれたのよ。ライダーは助け合いでしょ、って言って。……その時は赤と黄色と緑の三色だったんだけど、お色直ししたみたいね」

「そういう次元じゃないと思うんですが」

 

 ティエールの町で出会った二人と同じような感じの人でした。

 ということは、あの人も竜種に縁のあるサーヴァントということになるはずですが、頭に生えている皮膜の翼、肩から伸びる角、長く強靭な尾を見る限り、どちらかというと恐竜っぽいです。

 

「あれ、オーズじゃないか。なるほど、サーヴァントとして召喚されたからバーサーカー扱いされてるってわけね」

「そうみたいですね。でも、一緒に戦えるのは嬉しいです」

「同感だ。いくぞファヴニール。さあ、ショータイムだ!」

 

 邪竜、ファヴニール。きわめて強力な生命であり、通常ならばサーヴァントでさえ勝利が危うい最強種。

 それでも私たちには、ジークフリートさんがいます。ウィザードさんが、キバさんが、オーズさんがいます。だから絶対に、負けません!

 

 

「いえ、ここはオルレアンではないです。通り過ぎてパリまで来てしまったようですね?」

「えええええ、なぜそんなことに!?」

 

 と思ったら、うっかり行き過ぎてしまっていました! 進軍に勢いつきすぎです!

 

「は、早く戻りましょう先輩! こんなところでもたもたしているわけには……って、ここでサーヴァントの召喚ですか? 天の道を行き総てを司るサーヴァントが来てくれるかもしれないって、そんなサーヴァントがいるんですか?」

 

 竜の魔女との決戦という、一刻を争う事態で起きたとんでもないトラブルに、しかし全く動じないのが先輩のすごい所。

 まだ凱旋門もエッフェル塔もないパリの中心部で、先輩は焦らずサーヴァントの召喚を実行しました。

 私の盾に聖晶石を捧げ、溢れる光、広がる光輪、金色の輝き。これは、もしや本当に!?

 

「人類の救済。なるほど、この力が必要だと」

「も、もしかして本当に、先輩の言う通りのサーヴァントが!?」

 

 光の中から、ゆっくりと歩み出てくる人のシルエット。自信満々に、パリであるからこそ可能性があると先輩が断言したということは本当に天の道を行くというサーヴァントが!?

 

 

「私は、沖の田を行き総てを司る女……そう、沖田さんです!」

「絶対何か違いますー!?」

 

 

 セイバーのサーヴァント、どう考えてもパリとは縁もゆかりもない日本の剣客、新選組の沖田総司さんが召喚されたんですが!?

 

 

◇◆◇

 

 

 とまあ、トラブルもあったものの我々は今度こそオルレアンに突入。なんかそこらじゅう肉塊だらけのグロテスクな城内を駆け抜け、本丸へと向かいます。

 途中キャスターのジル・ド・レェを退け、竜の魔女との、決戦です。

 

 

「あなたは、あなたの家族のことを覚えていますか」

 

 

 きっと、ジャンヌさんのその一言が、この特異点を終わらせる一番の鍵だったのでしょう。

 竜の魔女、ジャンヌ・ダルク。祖国を守るために立ち上がり、しかし祖国に裏切られて焼かれた聖女にして魔女。

 フランス片田舎の村娘として生まれたただの少女が歩むには過酷過ぎたその人生を、ジャンヌ・オルタは覚えていませんでした。

 いいえ、「はじめから持っていなかった」。

 

「――その通り。彼女は、ジャンヌは、私が聖杯に願い、生み出した魔女です」

「やはりそうだったんですね、ジル」

 

 竜の魔女は、ジャンヌさんが本当に全く心当たりがないという通り、ジャンヌさんから生じた存在ではありませんでした。

 聖杯を核に、ジル・ド・レェの思い描く姿で肉体を得た存在。それこそがジャンヌ・オルタだったのです。

 

「その程度、知られたからと言ってなんだというのだ! ジャンヌに救われ、しかし否定するようなこの国が、ジャンヌが死してなお存在していいわけがない! 滅びこそ正義! 死こそがあるべき姿! 何があろうと、私がその歪みを正す! ……ジャンヌ、あなたを倒してでも! 行け、ライダーのシャドウサーヴァント! なんか元から黒かったような気もしますが!」

「ええ、そうでしょうね。あなたはそういう人ですから。ジル」

「……なるほどね、俺が呼ばれるわけだ。改めて、力を貸すよ。なんでも願いがかなうって言葉は、そうそう甘い夢を見られるもんじゃない」

 

 そして、最後の戦い。

 こちらは私たちカルデアのメンバーと、ついてきてくれたエリザベートさん、清姫さん、キバさんとウィザードさん。この時代を生きたジャンヌさんと、なんかオルレアンで無数のワイバーンを相手に戦っていた龍騎さん。どうやら龍騎さんは、ドラゴンライダーたるマルタさんの対として召喚されたようです。本人曰くドラゴンライダーではなくドラゴンナイトだそうですが。

 対するは狂えるジル・ド・レェと、龍騎さんとよく似た黒いシャドウサーヴァント。

 致命的なまでに敵と味方に分かれ、しかしどちらも己の信じる正しい歴史のために戦うこれこそが、私たちの挑む聖杯戦争。人類の未来を取り戻すためのグランドオーダー。

 私はここで改めて、その意味を知った気がします。

 

 

「指示をお願いします、先輩!」

\ファイナルベント!/

「……またそれですかああああ!? でも、とりあえず宝具展開します!」

 

 

 ……先輩と一緒なら、これから先の特異点も、きっと乗り越えていけます! たぶん!

 だから絶対、最後の一瞬まで、諦めない。

 そのことをここに、誓います。

 

 

 

 

キャラクターマテリアル

 

 タラスク(仮)

 

 マルタに鎮められ、宝具となった大鉄甲竜、の代理。

 タラスク本人がおなかを壊してしまったため、友達であるこいつが代役を務めた。本来はガイアの抑止力に近く、根本的に人間のことは割とどうでもいいと思ってるが、今回はマルタのお供なので人間寄り。

 とはいえ別にそれだけが理由ではなく、ジャンヌ・オルタが召喚したというワイバーンの中に頭が尖ってて超音波メスを吐く、絶対滅ぼさなきゃいけないヤツラが大量に混じっているという情報を入手したがため。カルデア陣営が特異点に到着する前に独自に行動してそのワイバーン(?)たちは全滅させたらしい。

 見た目はタラスクと似たカメに近い姿なのだが、なぜか二足歩行がデフォ。口から吐くプラズマ火球が強力で、タラスク(仮)自身の宝具的な奥の手を使うと地球がヤバい。

 空飛ぶカメ道五段の腕前。

 

 

 ライダーたち

 

 きよひーを筆頭に、この特異点に召喚された竜種に縁のあるサーヴァントに引っ張られるようにして召喚されたサーヴァントたち。なぜか軒並みライダーだが、当然のような顔で複数の武器を使いこなし、それぞれのクラスにも該当しうるというよくわからない存在。

 ちなみに、所長もこの人たちに近い存在になっているらしい。


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