ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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更新遅くなりました汗

次章の練り上げが難航していて少し更新にお時間をいただくことが続きそうです、すみません。


第64話

カーテンの隙間から射し込む陽の光によって、身体が活動を再開するための準備を始める。

重い瞼を手で擦りながら1人の少女、姫柊 雪菜は何か自分の身に違和感を覚えながらも自室のドアを開ける。

そんな雪菜を迎えたのは

 

「雪菜、今日から学校なんだから寝坊しちゃダメでしょ?朝ごはん出来てるから早く顔洗っておいで」

 

という聞きなれない声。

 

「え?」

 

幻覚だろうか、それとも幻術の類にかかってしまったのだろうか。状況を理解できず首を傾げる雪菜の前には少し長めの髪を後ろで束ねた自分と似た顔の女性と、珈琲を片手に新聞を読む厳格そうな男性が座っていた。

 

「パパ…ママ…!?」

 

どことなく自分と似た雰囲気を感じた雪菜の口からは自然とそんな言葉が零れる。だか彼女には妙に確信があった。

 

「何を狐につままれたような顔をしている?母さんの言った通り寝坊は感心しないな、初日から遅刻など恥晒しもいいところだ」

「す、すみません…」

「すみません?」

「あ…いえ…ごめんなさい」

 

やはり見かけ通り厳格な人柄らしい男に怒られた雪菜は一先ず顔を洗いに洗面所へと向かった。

よく知る何も無い殺風景な部屋はお洒落なインテリアで溢れている。

 

「歯ブラシが3つ…どうやらほんとうに私の両親のようですね…」

 

雪菜は小さな変化から現状をある程度理解した。

母親であろう女性に指示されたことを全て終わらせた彼女は少し緊張しながら食卓へと戻った。

 

「雪菜、お父さんが会社行っちゃう前に早く制服着てあげて」

 

一瞬自分が寝ぼけていただけで戻れば誰もいない、いつもの静かで殺風景な部屋が広がっているのではないかなどと考えていた雪菜はどうやら甘かったようだ。

 

「制服…ですか?」

「そうよ、今日から中学校でしょ。しっかりしないと」

 

そう言う母から手渡されたのはやはり見慣れた彩海学園中等部の制服だ。

 

「ほら、早く」

 

促されるままに制服を着せられた雪菜は違和感の正体に気づいた。

 

(胸が…萎んでる…?)

 

お世辞にも大きいとは言えないサイズではあったものの、雪菜の胸部にはそれなりの主張があった。それがすっかり無くなってしまっているのだ。

目の前の母親の言葉から察するに中1ということは当然なのかもしれないが、近頃1カップ上がったことで密かに喜んでいた雪菜にはかなり痛い事実だった。

 

「どうかした?」

「い、いえ…なにも…」

「そう?制服似合ってるわよ」

 

少し大きめの制服に袖を通した雪菜を1通り満足そうに見つめた母親はなにやら食器を洗いにキッチンへと戻っていく。

そんな彼女の様子を伺いながら雪菜が皿に乗ったトーストを1口齧ったところで部屋にインターホンの音が響いた。

 

「どうぞ〜」

 

母親の呑気な声を受け、玄関のドアが開かれる。

 

「雪菜ー?ちゃんと起きてる?」

 

聞こえてきたその声は聞き慣れた紗矢華のものだ。

 

「紗矢華さん!?」

「何慌ててるの?制服、すごく似合ってるわね!写真撮ってもいい?」

「そんなこと言っている場合じゃないですよ!私達幻術かなにかに──」

「幻術?」

 

怪訝そうな顔をする紗矢華。

 

「そうです、きっと──」

「雪菜、巫山戯るのはやめなさい。紗矢華さんが困っているだろう。すまないが雪菜が遅れないように連れて行ってやってくれ」

「は、はい、分かりました。お気を付けて…」

 

雪菜の必死の言葉も父親の心無い言葉によって遮られた。どうやら会社へと出勤するのか鞄を手に玄関から出て行ってしまう。

もう少し娘の制服姿について言うことはないのか、などと考えた雪菜は自分の置かれている状況を思い出し、慌てて邪念を振り払った。

 

「紗矢華さん、本当に分からないんですか?」

「どうしたの?今日はちょっと変よ?雪菜のお父さんみたいに常に堅苦しいのも困りものだけど…」

「苦手…なんですね」

「まあ…ね」

 

苦笑する紗矢華の顔は本物だ。思えばつい数秒前に言葉を交わしていた時の紗矢華は少しおかしかったように思える。

 

「ってそんなことはどうでもいいんです!だからその…」

「その?」

「あれ…?私、何を…言おうとしていたんでしたっけ…」

 

雪菜の中にはもう既に起きた時から感じ、考えていたことがなんだったのかが全く分からなくなる。

やがてすぐに何かを考えていたことすら頭から消え、物忘れ特有の言葉に出来ない喪失感だけが残った。

 

「げっ…やっば…こんな時間。雪菜、荷物持って!走るわよ!」

「え?紗矢華さん!?」

 

紗矢華に乱暴に右手を握られ引っ張られながら雪菜は家を出ると爆走に爆走を重ね、なんとか遅刻せずに学校へと到着した。

 

「雪菜の教室はそこを右に曲がったところの2つ目。何かわからないことがあったら電話して!じゃあ後でね!」

「は、はい。ありがとうございます!」

 

台風のように去っていった紗矢華がいなくなれば初日の学校は未知の世界。

教えられた教室へと入り、黒板に貼られた座席表に従い席へと座る。

特にやることもない雪菜には喋る友達もいないため完全に暇な時間が続く。

 

(またですか…)

 

1人でぼうっとしていれば周囲の会話は自然と普段よりよく聞こえてしまう。

小学校が同じなのか、何人かで固まって話す男子の中に自分のことを噂しているグループが2つあることに気づいた雪菜は煩わしそうにため息をついた。

雪菜自身は自分の容姿が並外れているが故に噂されているということを知らない。故に噂されているとネガティブな内容ではないかと勘繰ってしまう。

多感な時期である雪菜にとってそれは少し辛いものでもあった。

 

そんな時間を何分か過ごし、担任である女教師が教室へと入ってくると一気に入学式が始まる。

テンプレートの話をいくつも聞き、面倒な式を乗り越え中学校生活1日目が終了した。

特にすることはなかったものの雪菜は何故かどっと疲れてしまっていた。

 

「雪菜ー?」

「紗矢華さん…恥ずかしいからあんまり大声で名前を呼ぶのは…」

「もう、気にしないの。1年に超美人が入学したって噂になってるのよ?」

「それで…なにかご用ですか?」

 

もはや呆れた雪菜は冷たい目を向けながら紗矢華へとそう質問した。

 

「ご飯まだなら一緒に学食行かないかなって」

「まだですけど…」

「なら決まりね」

 

(まったく…紗矢華さんは…)

 

今日1日ハイテンションな紗矢華を見て雪菜は心の中で苦笑していた。

慣れない生活が今日から始まる雪菜のためにわざとそういう接し方をしてくれているのは分かっているため、文句は言えない。実際はその理由が半分と、純粋に雪菜とまた同じ学校に通えることが嬉しいという理由もあったりするのだが。

 

「仕方ないですね…今から帰って食べていたら遅くなりますし。行きましょうか」

 

食堂へと向かう紗矢華を追う雪菜の顔はその声色とは裏腹に笑顔だ。

 

このときの雪菜は今日という日、紗矢華の提案に乗り食堂へと向かうことで人生が変わってしまうなんてことを予想だにしていなかった。

 




さて、もうお気づきかも知れませんが雪菜のIFルートになります。
特にバトルとかはないので気楽に読んでいただければなと、IFルート故にかなり設定を蔑ろにする予定なのであまり突っ込まずに別物として楽しんでやってください!

さて、前書きでも書きましたが…更新頻度が遅くなると思われます。
申し訳ありませんがご了承ください。
もし読むものをお探しであれば投稿しているオリジナルの方にも目を通していただけると嬉しいです。

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