今話から雪菜の番外編?が始まるので記念ですし是非感想いただければと…
時系列は古城がいなくなった1年ほど後の絃神島です。
導入なので短いですが雪菜ファンの方々(多分ほとんど皆さん)は期待しててください。
第63話
太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人口島。
その島の中心部の幹線道路を明らかに人間の限界を超えた速さで疾走する女子校生が1人。その身を青と白を基調とした制服に包み、手にはギグケースを握っている。
彼女が向かうのはすぐ目の前に広がる謎の人だかりだ。
平日の昼間、混み合う幹線道路のど真ん中であるにも関わらず車から降りて何かを見物する者、手持ちのスマホで動画を撮る者がいるその光景は控えめに言って異常だ。
その集団へと近づくにつれ、この状況が生み出された原因が明らかになる。どうやら魔族同士が言い争っているらしい。
普通であればすぐにでもパニックになりそうなものだがここは
「そこまでにしてください」
美しく透き通った声を伴い、人の山を跳び越えて今にもぶつかり合いそうだった2人の間へと降り立ったのは道路を疾走していた女子校生だ。その姿で周囲の野次馬のテンションは大きく跳ね上がる。
「やばい生で初めて見たよ」「雪菜ちゃんかわいいな…」「あれが第四真祖の正妻か…」
そんな周囲の反応にウンザリしながら雪菜は手に持ったケースから雪霞狼を取り出すと目の前へと突き出した。
その動作には当然、抵抗するなという意味が込められている。
しっかりとその意味を察した2人は反省したのか落ち着きを取り戻すとすぐに人だかりの中へと消えていく。
たった数十秒、それだけのことで雪菜の周囲には拍手の嵐が起こった。
「はぁ…」
特に彼らに悪意がある訳では無いことは重々承知している雪菜だが朝からこんなことがもう6回。さすがに気が滅入ってしまう。
第四真祖が統治する
直接見ることが少ない古城よりも普段からメディアへの露出も多い『血の伴侶』の方が親しみやすいのか、その扱いはもはや国民的アイドルのそれに近い。特にラ・フォリアはその立場上、凄まじい人気を誇っている。
手に持つ雪霞狼をケースへと収納した雪菜は疲れきった様子で耳につけるインカムから流れる浅葱の声に従い、すぐに次の場所へと向かう。
ここ1ヶ月、1日当たりの事件対処数は小さなものを含めれば雪菜1人で30件を越えていた。
この島が
国民が増え、国力が富むのは嬉しいことだがその帳尻合わせはこうして雪菜たちへと来ているのが現状だ。
それまでは動ける雪菜たちが頑張るしかないのだ。
「お疲れ様、今日は終了。深夜は他の人に任せてゆっくり休んで」
「分かりました」
22時過ぎ、とっくに日も暮れたところで浅葱からやっと帰宅の許可が降りた。
「未成年ってなんなんでしょうか…」
自分の年齢と待遇の差に少し疑問を感じる雪菜だがそれは考えても仕方が無いことだ。
待遇が普通でないという前に雪菜の立場が普通ではないのだから。
「凪沙ちゃん?毎日言ってますよね、寝るなら自分の部屋で寝てくださいと」
キーストーンゲート上階へと設けられた自室へ戻った雪菜はベッドで眠る凪沙へ声をかけた。
「ごめんごめん!雪菜ちゃんのためにご飯作ってたんだけどあんまり帰ってくるの遅いからうっかり寝ちゃってた。あはは…」
「そ、そうですか。ご飯なら紗矢華さんとラ・フォリアさんと先に食べてくれてよかったんですよ?」
「雪菜ちゃんが冷たいよ…。煌坂さんは今日はいなかったし夏音ちゃんのお姉さんはちょっと苦手かなーって…」
ラ・フォリアと凪沙の相性があまり良くなさそうなのは雪菜もなんとなく分かる気がした。
「なら早く食べましょうか」
「うん!雪菜ちゃん全然買い物行ってないでしょー、おかげで冷蔵庫の余り物で簡単なものしか作れなかったよ」
「簡単なもの…ですか」
雪菜の前に並べられているのはとても簡単なものという一言では考えられない料理の数々。雪菜も暇な時間を見つけては料理の練習に励んでいたりするのだが、やはりまだまだ彼女には適わないらしい。
「もう…お腹いっぱいですよ」
「ごめんね?つい癖で作りすぎちゃって…えへへ。雪菜ちゃん疲れてるよね、今日は自分の部屋に帰るね」
「は、はい」
凪沙が雪菜の部屋で寝ないのは久しぶりのことだ。彼女は古城がいなくなった後の雪菜のことを心配してくれているのだろう。
そして、今もこうして凪沙が作りすぎた料理を見て古城のことを思い出した雪菜を1人にしてくれているのだろう。
「もう先輩がどこかへ行ってしまってから1年ちょっと。心配をかけるのも大概にしないといけませんね…」
キーストーンゲート最上階に新たに作られた大浴場に行くことすら億劫だった雪菜は入浴を自室のシャワーだけで済ませながらそう独りごちた。
熱気の籠る寝室に備え付けられた大型の冷房装置で少し肌寒くなる程度に室温を調える。
常夏の絃神島では就寝時に冷房をつけることは1年を通して珍しくない。が、少々部屋の温度が低すぎる。
下着姿の雪菜がこのまま寝れば、まず間違いなく風邪をひくだろう。
「これでよしっと…」
そんな部屋の温度を確認した雪菜は満足そうにベッドにかけられた1枚の白いパーカーを手に取り、そのまま袖を通す。
かなり大きすぎるそのくたびれたパーカーにその細身を包むと彼女はベッドへとその身体を踊らした。
「先輩…」
パーカーに埋もれるように、身を小さく抱え込んだ人形のように美しい彼女はそんな一言と共に意識を夢幻へと手放した。
最近暑さにやられてたり忙殺されてたりと更新頻度遅いですがなるべく早くなるよう努力しますね汗
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