土日にまた一斉に直すのでお許しを…
生
誰からも干渉されない自分だけの世界、深層意識の中へと閉じ込もった雪菜は不思議と安心していた。
走馬灯のように今までのことが思い出されては消えていく。
そんな中で雪菜は何者かの視線を感じた。
「誰ですか…?」
「深層意識の中に現れることができるものなんて限られてるよね?」
彼女の言う通り、雪菜はもう目の前の女の子が誰かわかっている。
「詳しい説明を求めても?」
「そうだね、なんて説明したらいいかな。私はあなたが歩むかもしれなかった道の1つってところ」
「私が歩んだかもしれない道…」
「そう、あなたが普通の女の子として生きる道を選んでいたら私になってたの」
人生とは常に無限に広がる可能性のうちの1つを選び続ける行為だ。
朝、家を出るとき右足から踏み出すか左足から踏み出すか、はたまたそもそも引き篭るのか。そんなことから少しの身体のズレや動作のタイミングのズレ、そんな些細なことでも未来とはガラッと変わってしまうかもしれない不安定なものだ。
当然そこには雪菜が普通の女の子として生活していた可能性もある。彼女はそんな道を歩む雪菜なのだろう。
「普通の女の子…、でもあなたはどこから…」
「裏の世界に凄い力を持った吸血鬼が来て、今は表と裏のバランスが不安定なんだよ。だからこういう限定的な場所になら干渉することが出来るの」
「裏の世界、
「少し違うけど…その発想でもいいかな」
力を持った吸血鬼という単語で雪菜は忘れ去ろうとしていた古城のことを考えてしまう。そんな苦しそうな雪菜の顔を見て目の前の彼女は遠慮ない疑問をぶつけてきた。
「ねえ、あなたはどうしたいの?このままここに閉じ込もって全て諦めて、なるようになっちゃえって感じ?」
「分からないんです。どうすればいいのか」
「ふーん、そっか。あなたはなんでも好きな世界を作ることが出来る。普通の女の子としてやり直すことも、世界を壊すことも意のままなのに悩むんだ」
彼女は心底つまらなさそうに雪菜を見つめてくる。
「悩んでるなら自分が好きなようにすればいいんじゃない?後悔しないようにね、もう1人の私」
「待ってください!まだどうすればいいか!」
「残念。時間切れ、また会えたら会おうね」
彼女は溶けるように姿を消していく。
そんな彼女へ手を伸ばす雪菜はまた1人、どこまでも落ちていった──
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
神、それは種類こそ様々だが人智を超えた力を持つという共通点を必ず持つ。ときにそれは世界そのものを創造し、あらゆる奇蹟を可能にする。
そんな神々の力を身に宿した存在を何百、何千と前にしながら、それでも古城は獰猛な笑みを浮かべていた。
「どれだけいるのか知らないが、神殺しはオレの専売特許みたいなものだ。姫柊は返してもらう」
神を殺すことが可能な武器というのは伝承、神話などでも度々出現する。そのほとんどは危機を救った英雄譚が時を経て創作を加えられ昇華されたものがほとんどだが、中にはそれが事実であることも稀にある。
第四真祖という存在がその最たる例だろう。
だがそれは1対1に限られた話だ。拳銃を所持した人間も1対1では勝利することができるが、大勢に囲まれてしまえばその全てを倒し勝利することはほぼ不可能になるだろう。
そこで古城が選んだのが
この空間に生じる力のベクトルの全てを掌握した古城に敵の攻撃は当たらない。
凄まじい破壊力を秘めた攻撃も当たらなければ意味が無い。
巧みに攻撃を受け流し、右手へと持った大剣で模造の神を屠り続ける古城を見ながら那月は満足気な笑みを浮かべていた。
「素人の振るう剣も神速で振られれば最強の剣技になるか…」
「余所見とは余裕ですね、空隙の魔女」
「態度がでかいのは元からか?」
那月と牧師の間に紫の魔法陣が現れ、古城が受け流した神の攻撃力を持つ致死の一撃が男を襲った。
「やはり、暁が相手をしている連中は偽物か」
まったくの無傷でその場に立つ男を見ながら那月は自らの推論に確信を持ったようだ。
「多神教は邪教だと思っているのでね」
「下の連中は神を守る騎士、天使といったところか…哀れだな」
那月は男の相手をしながらも攻撃の手を緩めることがない。
あらゆる方向から不可視の攻撃が繰り出されるが、ダメージを与えるどころか男がそこにいないかのようにすり抜け後ろへと飛んでいく。
「哀れだな」
男は那月と同じ言葉を使い皮肉ってくる。
「次元の違いくらい理解してるだろう?」
「そうだな。なら、時間稼ぎをさせてもらおう」
3次元から2次元へ、3次元から1次元へ高次元から低次元への干渉は可能だがその逆は不可能なのだ。干渉するためには相手を低次元へと引き摺り落とす、あるいは自らを高次へと押し上げる必要があるが那月にその術はなかった。
一定の距離を常に開けながら効かない攻撃を続け、古城が魔具を破壊するのを待つ。
そんな期待を背負う古城は時間との戦いに焦っていた。
那月が指定した
この場所に来てからもう20分が経過し、残り10分で目の前の敵を全て片付け魔具の破壊と雪菜の救出を達成しなければならないのだ。
「
古城の叫び声に応え水晶に覆われた魚竜が現れ、真祖の眷獣をも支配する
その一瞬のうちに古城は地を蹴り、魔具へその手に持つ大剣を振り下ろす。
しかし、重力制御の能力により限界まで加速された一撃は魔具を破壊するには至らない。
「クソっ!時間がないってのに!」
既に
そんな状況に叫ぶ古城を助けるように魔具に囚われる雪菜の腕から雷光を纏った獅子が現れた。
「
古城は目の前に現れた眷獣の名を口にするが、その大きさと佇まいに違和感を感じる。
目の前の獅子は古城のよく知るものより数倍は大きく、その躰は白みを帯びていた。
「神気を取り込んだのか…?」
那月の攻撃を受けていた男が始めてその顔に焦りの色を見せる。
「やめろ!この魔具だけは──」
魔具と獅子の間へと飛び込んだ男は爪の一薙ぎで蒸発する。
獅子の攻撃により生まれた余波が収まったあと、那月が傷をつけることすら出来なかった男はもはやこの世に存在していなかった。
雷光を纏う獅子はこの空間から男1人が消えたことなどまったく意に介さず、中心に据えられた魔具へ噛みつき破壊する。
その破壊力は圧倒的だった。
魔具が破壊されたことにより、世界の理が自然の復元力によって元に書き換えられていく。
「那月ちゃん!」
「お前は剣巫を助けてやれ」
呆然と目の前で起こることを眺めていた古城は我に返り落下する雪菜の元へと走る。
そんな姿を横目に那月は力を失い逃走を始める雑兵を追う。
「姫柊!姫柊!」
なんとか雪菜を地面への衝突から守り抜いた古城は腕の中でぐったりと意識を失う雪菜へ必死に声を掛ける。だがそれでも雪菜の意識は戻らない。
「そうだ、血を!」
古城は自らの手を噛みちぎるとその傷口を雪菜の口の中へと無理やり突っ込む。普段の古城ならそんなことは決してしないだろうが、それだけ古城も必死だった。
「姫柊!姫柊!」
「ん…?」
雪菜が意識を取り戻すと同時に白光を纏った獅子は姿を消す。
「大丈夫か…?」
「先輩…、私戻ってきたんですね…」
「ああ…」
「すみません」
「──っ!」
辛そうに立ち上がろうとする雪菜へ伸ばされた古城の手は雪菜に叩かれてしまう。
「姫柊…?」
古城はこの世の終わりのような顔で目の前の少女の名を呼ぶ。
「…」
沈黙。雪菜は何も喋ろうとしない。
ただその顔には苦しげな表情が浮かんでいるだけだ。
「な、なあ…。ちょっと見ない間に少し髪が伸びたか?そういえば背も…」
「先輩」
なんとかして絞り出した古城の言葉は冷たく鋭い雪菜の声にかき消されてしまう。
「どうしたんだ…?」
「私を殺してもらえませんか?」
雪菜の口から衝撃の言葉が放たれた。
「いや…待てよ、冗談だろ…?」
「冗談じゃありません。先輩に私を殺して欲しいんです。先輩になら私は満足して死ねるので」
苦しげな雪菜の表情とは裏腹にその口調はしっかりとしている。
なにかの間違いではないのだ。
「気づいたんです。私は自分のこの身体のことを甘く見ていました。私は存在してはいけない、そう思ったんです」
「だからってなにも死ぬことは…」
「先輩は優しいですから、そう言ってくれますよね。でもこんなことが何度も続いて、私のために先輩や誰かが傷つくなら…そんなことなら私なんていない方がいいんです」
「姫柊…」
古城には雪菜にかける言葉がなかった。
生半可な優しさで何かを言っていい次元の話ではない、彼女にしか分からない悩みなのだ。
「先輩、もう1度お願いします。今ここで私を殺してくれませんか?」
「無理に…決まってるだろ」
「本当に先輩は優しい方ですね」
雪菜の目に涙が溢れ、雪菜の隣に白光を纏った獅子が再び現れる。
彼女はその背に飛び乗ると天井を突き破り何処かへと去ってしまった──
さて、古城と雪菜の再会はなんともまぁ…な感じですね。
この章実はこれからのための導入だったりします。
次次回くらいでこの章も終わるかと思います!
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自分ではなかなかの出来です()
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