ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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久々に日間ランキング載らせていただきました!(5位は最高記録タイ)
そして、2日でお気に入り数が30以上増え…お気に入り数が400を越えました!
ありがとうございます!
これからも自分なりに頑張って書いていくので駄文ですがよろしくお願いします。

さて、今回久しぶりに登場する方がベラベラ喋ります。
寂しかったんでしょう。察して上げてください。
そして、かなりのご都合展開…です。


第55話

周囲から際限なく湧き続ける食屍鬼の群れを強引に切り崩しながら、混沌界域国境の方向へと突き進む紗矢華と凪沙の2人はあと数100メートルという所で苦戦を強いられていた。

 

初の実戦投入ということもあり、凪沙は既に満身創痍。

おまけに対多数の戦闘で圧倒的アドバンテージを持つ頼みの煌華鱗の残弾数はたったの2矢。

もはや2人が食屍鬼の餌食となるのも時間の問題となりつつあった。

 

「煌坂さん…」

「なに?今、悠長にお喋りしてる暇はないと思うんだけど」

「うっ…」

 

凪沙は鬼気迫る紗矢華の迫力に押され喉元まで上がっていた言葉を飲み込む。

そんな彼女の反応に紗矢華は何か思うところがあったのか、前方の5体を一太刀で切り伏せるとバク転の要領で凪沙の元へとやってきた。

 

「ごめん、何かあるなら遠慮なく言って?戦場で上下関係なんて気にしてたら足元をすくわれるわ」

 

凪沙の目に一瞬、迷いの色が映る。

しかし紗矢華の先輩としての言葉に後押しされ飲み込んだ言葉が彼女の口から放たれた。

 

「私のことは気にしないでください…。私のせいでどっちも死んじゃうなら、どっちか片方が死んだ方がいいよ。煌坂さん1人ならなんとかなるはず…」

「あなた…」

 

紗矢華は一瞬自分が命の危機に晒されていることも忘れ、驚きの目で凪沙を見つめる。

確かに凪沙の言う通り、紗矢華だけなら逃げ帰ることはギリギリ可能だろう。

だが、それが凪沙を見捨てていい理由にはならないのだ。

 

「凪沙ちゃん、私ね最初あなたが増援として来た時はっきり言って足でまとい、半人前だと思ったわ。あなたの言う通り、私1人の方がいいと思った」

「え…」

 

紗矢華の容赦のない言葉が凪沙の純粋な心を深く抉る。

 

「でもね、師家様のお墨付きとあなたの目を見て私はたとえ足でまといのあなたでも守りきって絶対に生還すると決めたの。 何度も増援を要請したこととあなたを追い返さなかったことを後悔したわ。でも、それももうなくなった」

「え…?」

「あなたのその心意気は立派よ、皆がそう簡単に持てるものじゃない。あなたはもう十分1人前の剣巫よ」

 

慈しむように凪沙に微笑みながら紗矢華は迫り来る無数の食屍鬼へ鏑矢を放つ。

2人の背後に巨大な魔法陣が展開され凄まじい熱量の雷撃が発生する。

 

「凪沙ちゃん、もう疲れたでしょ?さっき私は上下関係なんて気にしないでって言ったけど、疲れたときは先輩に頼っていいのよ。こっちは何度もこんな修羅場くぐり抜けてきてるんだから」

「煌坂さん…どうして?」

 

心が折れそうな凪沙はあまりにも絶望的なこの状況でも諦めない紗矢華へと本音をこぼす。

 

「なんでもかんでも全てのことに理由を求めてもキリがないわよ。先輩が後輩を助けるのは当然のこと。理由が欲しいならそうね…あなたを死なせたりしたら、どこかのシスコン真祖に顔向けできないからってことにしておいて」

 

紗矢華は淡々としかし力強く言葉を紡ぎながら、凪沙の前に立ち押し寄せる食屍鬼たちを真っ直ぐと見つめ、厳かに祝詞を唱え始める。

 

「――獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る 極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり――!」

 

最後の鏑矢は上空へ勢いよく射られ、暗雲を穿ちながらどこまでも飛んでいき上空に一際巨大な魔法陣を生成する。

だが、それだけで雷撃が放たれることも疾風が吹き荒れることもない。

そんな紗矢華に凪沙が不安の声を漏らした。

 

「紗矢華さん…?」

 

食屍鬼の蠢く音で凪沙のか細い声は紗矢華へと届かない。

 

「さあ、根比べといきましょうか」

 

小さく呟いた紗矢華は煌華鱗を地面へと突き刺し、それを触媒に凪沙の周囲へ簡易的な結界を構築する。

凪沙の安全を最低限確保した彼女は武器も持たず単身、食屍鬼の大軍の中へ身を沈めた。

 

一瞬のうちに周りを囲まれ、紗矢華の美しい身体を次々と痛々しい傷が埋めていく。

第四真祖の『血の伴侶』である紗矢華の傷の治癒力は並の吸血鬼のそれを遥かに凌駕するが、その治癒速度を持ってしても追いつかないほどの速さで彼女の身体が確実に崩壊へと向かっていく。

 

「煌坂さん…もうやめて…、それ以上は死んじゃう…」

 

遂に常に鼓膜を揺らし続ける紗矢華の苦しげな声や骨が砕けるような音に耐えられなくなった凪沙が悲痛な叫びをあげた。

 

「あなたが傷つくより…マシよ…。それに、聞こえる…?この音」

「音…?」

 

ただの人間である凪沙の耳には紗矢華の言葉が指す音は聞こえない。

 

「あと20秒くらい…かしら…」

 

未だ食屍鬼に嬲られ続ける紗矢華は小さく笑みを浮かべている。

とうとう気でも違えてしまったのかという心配が凪沙の頭をよぎると同時に、彼女の耳に今まで聞こえなかった音が聞こえてきた。

 

「何か凄い勢いでこっちに飛んできてる…?」

「タイミングギリギリなのよ…、でも信じた甲斐はあった…わね」

 

紗矢華の頭上がキラリと光り、小型のミサイルのような形状の物体が地面へと激突し小さなクレーターを形成する。

土煙の中から現れたのは1つの細長い銀色のアタッシュケース。

そのアタッシュケースへと手を伸ばした紗矢華はなんの警戒もなく開封ボタンを押し、中から銀色の大剣を取り出した。

 

六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)…?」

 

煌華鱗とよく似た形状の大剣を見て凪沙が首を傾げた。

 

「これは八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)。殲滅戦特化の私専用に技術開発部が作成した降魔弓よ」

「殲滅戦?でも、六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)より少し細くなっただけじゃ…」

「まあ、見てて」

 

紗矢華は八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)を展開し剣から弓の形状へと変形させアタッシュケースから追加の鏑矢を5つ手に取る。

そしてその全てを前方に向かって、同時に射出した。

 

複数の属性の圧倒的規模の攻撃が食屍鬼を蹂躙する。

しかし、それだけではまだ1手突破には届かない。

 

「一瞬でいいから時間が欲しい…どうしたら…」

 

凪沙の方へ振り向くが、彼女にこの量を食い止めさせるのは一瞬とはいえ荷が重い。

そんな判断を下した紗矢華の前に淡い光が発生し、そこから懐かしい声が聞こえてくる。

 

執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)──」

 

見慣れた人形の眷獣が突如現れ、食屍鬼の洪水をガッシリと受け止める。

 

催促(リマインド)、あと10秒で突破されると予測」

 

機械的な声でそう告げるアスタルテがどこからどうやって現れたのか。

この一瞬では紗矢華にそんなことが分かるはずもない。

それでも彼女は真射姫としての経験からこの10秒が勝負の分かれ目と直感した。

 

その好機を逃さぬため、既に弓状へと展開されていた八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)を地面と水平に構える。

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の眷属となりし者、煌坂 紗矢華が汝の枷を解き放つ──!その身を以て、万象を無へと帰せ双角の深緋(アルナス・ルミニウム)──!」

 

紗矢華の呼び声に応え、第四真祖9番目の眷獣である緋色の双角獣(バイコーン)が彼女の後ろへ半実体化した。

 

「眷獣…?」

警告(アラート)、これ以上の時間稼ぎは不可能。離脱します」

 

アスタルテが眷獣の実体化を解き、身を宙へと踊らせたことで障害がなくなり食屍鬼が改めて紗矢華たちの方へと迫る。

 

「おかげで助かった、慣れてないから時間がかかるのよこの調節」

 

そんな言葉とともに紗矢華の身体からこの時のために温存してあった魔力が一斉に噴き出す。

彼女が弓へと添える手の指1本1本に緋色の魔力の塊が生成される。

 

「これで、終わりよ」

 

八式多弾降魔弓(フライクーゲル・ディアナ)の真の能力は鏑矢の斉射に留まらない。

次世代型降魔機装の正体は眷獣の持つ力を制御、増幅し、より扱いやすく圧倒的な火力を実現した『血の伴侶』専用の対魔族兵器だ。

 

人間の声帯でも鏑矢による高次詠唱でも不可能だった机上の空論である超大規模魔術を振動そのものである双角の深緋(アルナス・ルミニウム)はいとも簡単に実現する。

 

第四真祖の眷獣という災厄の権化であるかの如き破壊の力が増幅された必殺の一撃が同時に5発。

空中へ3人と食屍鬼を隔てるように5つの異なる魔法陣が現れ、神の御業とでも言える圧倒的な破壊が生み出され、あらゆるものを飲み込んでいった──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「悪い、那月ちゃん。あんまり時間がないんだ」

「姫柊 雪菜か…」

 

那月の当然のような返答に古城の顔が驚きの色へと変わる。

 

「職業柄色々と情報は入ってくるからな、予想の範疇だ。あの剣巫が神へと至る鍵と盲信する厄介な連中がいると聞いたことがある。こんな場所にこれ以上いる義理もない、少し手伝え」

「手伝う?なにを?」

「少しは成長したかと思えば、まだまだバカのままだったか」

 

わざとらしく那月は心底残念そうに頭を抱えてみせた。

 

「お前にわざわざ血を吸わせたのはこうなることを見越してのことだ。本来ならあの直後輪環王(ラインゴルト)に力を奪われ、殺されるはずだった」

「でも生きてるのは?」

輪環王(ラインゴルト)が私から力を奪うまでのほんの数分間を時間軸を捻じ曲げることで大幅に引き伸ばした。代償としてこんな場所で過ごすことになったがな」

「じゃあ、このままその数分を伸ばし続ければ大丈夫なのか?」

 

古城のそんな疑問に再度那月は呆れたようにため息をついた。

 

輪環王(ラインゴルト)の裁きの鉄槌が私に届かないのはこの空間にいる間だけ。加えて、今も加速した時間を逃げ続ける私の命を奪わんと追いかけてきているところだ」

 

古城は魔術の類いに疎いため、時間軸という永遠に続く道を那月と輪環王(ラインゴルト)が鬼ごっこをするイメージを思い浮かべる。

差詰め、数分で追いつかれてしまう距離を那月は何らかの方法によって引き伸ばし続けているといったところだろうか。

 

「お前のことだ、鬼ごっこのイメージでもしているんだろう?そのイメージで大体正解だ」

 

古城の頭の中を完璧に読んでみせた那月は補習のときに見せるサディスティックな笑みを浮かべながら説明を続けた。

 

「なかなか相手を捕まえられない鬼の気持ちはどうなるだろうな?」

「イライラする…?」

「そうだ、あいつも同じだ。自然と別の方法を考える。そこでこの空間までやってこようとするな?その方法がお前だ暁」

「オレ?」

「お前は私を助けるためにどうにかしてこの空間へやってくる。なら、お前と仮契約をしてここまでついてくればいいだろ?禄に魔術を使えなかったのは契約が実は仮契約だからだ」

 

那月の言葉で古城は自分がいくら努力したところで大した魔術が使えなかったことを思い出す。

契約が仮初めのものだと考えれば、それもおかしくはなかった。

 

「さて、ここからだ。実時間では2年経った、本来ならお前は卒業している頃だろうな」

「ああ…それがどうかしたか?」

「卒業試験だ」

 

古城の方へと近づいてくる那月の手がなにか糸状のものを手繰り寄せるような動きを見せる。

そして那月は古城の胸元から輪環王(ラインゴルト)を引き摺り出した。

 

「仕損じるなよ?暁」

 

自らの命を奪おうとする異形の相手を前に那月は満足そうな笑みを浮かべていた──




指摘のあった、フライクーゲルのルビ振りに関する私自身の考えを感想欄の方へ長々と…まとめてあるので気になった方はご覧下さい。
その件についての質問や指摘かなり待ってます!

いつものことですが、感想評価などお暇な方はお願いします^^*

批判でも質問でもなんでも構わないので!

次回くらいから大きく話が動くと思われます。

新規さんか増えているので過去話の駄文を弄りたいので更新少し遅いかもです。

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