ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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今回、色々新しい単語が出てきてるので明日以降キャラ紹介の方にまとめますね。
とりあえず今日は更新だけ


第54話

装甲飛行船ランヴァルドに搭載された4基のターボプロップエンジンが駆動する微かな音を耳に、来る闘いに向け2人の少女が仮眠室で寄り添って寝息を立てる。

 

そんな2人を非日常へ誘うかのように船内へ、到着まで1時間となったことを知らせるブザー音が響きアナウンスが始まる。

 

「現在、混沌界域中心部上空を飛行中。目的地到着まで残り59分47秒です」

 

機械的な抑揚のないアナウンスを耳にした紗矢華は気だるげに起きると未だ隣ですやすやと眠る凪沙へと目を移した。

 

「ごめんね、凪沙ちゃんをこんな危険なところに連れてきちゃって」

 

眠る凪沙の頭を憂うように撫でながら紗矢華は自分の選択にほんの少し後悔の念を抱いていた。

不確定要素の高い場所へは基本的にツーマンセルかスリーマンセルで行くことが常識だ。

理由は2つ、生存率を高めるという当たり前のものと最悪誰か1人を犠牲に逃げ帰り、情報を共有し戦果がゼロになることを防ぐというもの。

 

これらの理由から紗矢華は浅葱に人員の手配を頼んだ。

紗矢華は魔術に強い優麻や、戦力として有り余るラ・フォリアが来ると踏んでいたがどうやら戦闘員の人材不足は否めないらしく、やってきたのは半人前の凪沙。

彼女は凪沙を自分1人で守り切れるか不安だった。

 

「凪沙ちゃんには擦り傷1つ負わさないから…」

 

紗矢華は最後、自分に言い聞かせるようにそう呟くとすやすやと眠っている凪沙の頬を軽く抓った。

 

「いつまで寝てるつもり?用意始めるわよ」

「むぐっ!?…用意?」

 

寝ぼけ眼で紗矢華の方を見る凪沙はいまいち状況を把握出来ていない。

そんな後輩に苦笑しつつ、紗矢華は淡々と自分の装備を確認しながら説明を始める。

 

「聖域条約機構に加入してる混沌界域の上空は事前に話を通してあるから問題なく飛べるんだけど、今から行く場所はそうじゃないから領空侵犯にならない国境ギリギリでエアボーンを──」

「エアバーン?」

「エアボーン…。簡単に言えばこの飛行船から飛び降りるの」

「飛び降りる!?でも、私パラグライダーとかパラシュートとかやったことないしさすがにそれは無理だと思うよ…?」

「そんなことしてたら、いい的でしょ。生身で一気に降りる、凪沙ちゃんは私が背負うから何も心配しなくても大丈夫よ」

 

凪沙は紗矢華の予想外の返答に思考が追いつかなくなる。

そんな彼女を他所に紗矢華は装備を完全に整え終わり凪沙の方へと向き直った。

 

「武装は何かある?」

 

紗矢華の口から放たれたのは必要最低限の質問。

つい少しばかり前の女の子の紗矢華から完全に真射姫としての紗矢華へと変わっていた。

 

「支給されてる八式降魔剣・改(タウゼント・シェーン)と呪式銃が2丁かな?」

「ダウングレードされた量産型の八式降魔剣・改(タウゼント・シェーン)…」

 

紗矢華は凪沙の装備を見ながら微妙そうな顔を浮かべる。

この2年で暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)の組織構造は大きく変わり、特区警備隊(アイランド・ガード)の後続として新たに帝国管理局(インペリアル・ヤード)の下、帝国保安部(インペリアル・ガード)が発足した。

帝国保安部(インペリアル・ガード)は一般人から選出された大規模な第1部隊、魔族と攻魔官から構成された対魔族スペシャリストの第2部隊、そして有事の際に要となる剣巫や真射姫、魔女に高等魔族など戦闘力が高く、特殊な能力者で成る第3部隊といった3部隊に別れている。

 

八式降魔剣・改(タウゼント・シェーン)はそんな帝国保安部(インペリアル・ガード)の剣巫たち用に新たに開発された量産型降魔剣。

コストを抑え、量産という点にのみ重きを置いたため能力は擬似空間断裂による切断能力に限られるあまり前線向きとは言えない武装なのだ。

 

「迷ってても仕方ないわね、危ないと思ったらすぐに逃げるのよ。約束して」

「分かってるよ、頑張りこそするけど無茶だけはしないつもりだから」

「そう、じゃあ行きましょうか」

 

紗矢華は凪沙に装備の入ったギターケースを背負わせるとその小さな身体を片手で抱え、一際大きな窓を開け身体を宙へと踊らせる。

機外へと出た2人の身体に例外なく物理法則が働き、自由落下を始める。

 

「へ…?えぇぇぇぇぇっ!?」

 

グングンと速度を増し、風圧で目が開けられなくなりながらも地面が近づいてくるのが本能で分かる。

 

「先に降りるわね、凪沙ちゃんは普通に落ちてきてくれればいいから。受け止めるのは任せて」

 

そんな言葉を凪沙の耳元で囁いた紗矢華は腕に抱えた小柄な少女を離し、頭を下向きにより加速を続ける。

 

「無理無理無理無理、無理だよ!?」

 

凪沙の声は遠く離れた紗矢華に聞こえるわけもなく、紗矢華が地上へと激突する凄まじい音だけが聞こえてくる。

その音による恐怖で一瞬冷静になった凪沙は自らの死を受け入れる。

 

「死ぬ前にオムライスが食べたかったよ…」

 

地面へとぶつかる寸前、凪沙はそんな素朴な願いを口にし衝撃へと身を固めた。

次の瞬間、圧倒的な下向きの力がより強引な横向きの力に干渉され何事も無かったかのように落下が終了する。

 

「大げさよ、これくらい」

 

目を開けると紗矢華が煩わしそうに髪の毛を整えている。

そんな姿を見て凪沙は自分が紗矢華に助けられたことを理解した。

 

「そういえば、どうやって受け止めたの!?」

「簡単よ、下に落ちてくるんだから下から斜め上に飛んで受け止めればいいでしょ?」

「そ、そうかな…」

 

凪沙は紗矢華のとんでも理論に驚きを隠せない。

 

「雪菜ちゃんが紗矢華さんはたまにすごいことするって言ってたけどこれかー…」

「何か言った?」

「ううん、大丈夫大丈夫、あはははは」

 

頭を抱える凪沙といつも通りの紗矢華はそのまま国境を抜け、紗矢華の探査魔術の信号を頼りに先へと進む。

 

「この辺りってどこの国なのかな?危なそうなところだけど」

夜の帝国(ドミニオン)の国境はどこもよく分からないところが多いからどうかしら。聖域条約機構に非加入っていう点で怪しい所なのは間違いないわね」

 

 

それきり大した会話も無く歩くこと数時間、遂に2人は紗矢華の探査魔術が示す場所へと到着した。

 

「おかしい…島1つ消えたのにここにはなにもないなんて」

「見渡す限り、岩が転がってるだけだね」

 

凪沙が疲れたのか近くに転がっていた少し大きめの岩へ腰掛ける。

すると地面がゴボゴボと盛り上がり始めた。

 

「え、なになに!?私何かしちゃった!?」

「知らないわよ、そんなこと!」

 

騒ぎながらそれぞれの武器を構える2人の周囲に地中から無数の食屍鬼が現れる。

数千を超える食屍鬼は本能の赴くまま2人の方へと走る。

 

「紗矢華さん…あれ、ゾンビ…?」

「食屍鬼ね、この辺り集団墓地かなにかだったみたい。基本的に食屍鬼は四肢が無くなるまで動き続けるから遠慮なく叩き切って!」

 

凪沙に最低限のアドバイスをした紗矢華は食屍鬼へ向かい走り出す。

瞬時に煌華鱗を展開し、鏑矢を上空へ放つこと2回。

人間の声帯では詠唱不可能な高等魔術が放たれた。

空から無数の雷撃が放たれ、疾風が吹き荒れ、無数の食屍鬼がその場に倒れるが、後続の食屍鬼がそれを越えて次々と押し寄せる。

 

「キリがない…」

 

不安そうに周囲を見回す凪沙を横目に、紗矢華は残りの鏑矢の数と迫り来る食屍鬼の数を見比べる。

残りの鏑矢での殲滅が不可能と判断した紗矢華は煌華鱗を弓から剣に戻し逃走ルートの確保へと動きはじめた──

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

アゼリアの作った白い光のゲートを通り、古城はひたすら下へと降りていくような感覚を覚える。

やがてその感覚も消え、足元が硬いものへと当たった。

 

「さっきいたとこと何も変わらないけど、ほんとにこんなとこに那月ちゃがいるのか?」

 

古城の声が広く響き渡る。

その響き方に微かな違和感を感じた古城は違和感の方へ歩み寄る。

 

「随分といい身分になったな、どれだけ待ったか」

 

古城の耳にそんな懐かしい声が聞こえてきた。

 

「それとだな、教師をちゃん付けで呼ぶなこのバカ真祖」

 

古城を背後から容赦のない蹴りが襲う。

そんな理不尽な攻撃をした人物は南宮 那月。

従来の子供らしい小さく可愛い姿ではなく、年相応の色香をまとう本来の姿だ。

 

「久しぶりなのにその仕打ちはないだろ…」

「久しぶりか、お前はせいぜい数年しか経ってないはずだろう?」

 

古城は那月の言い方に疑問を持つ。

 

「お前はって那月ちゃんは?」

「そうだな…ざっと2000年か、こんな何もない空間でひたすら来るか分からんバカな教え子を待つ教師の気持ちも察して欲しいな」

「2000年!?そんなのどうやって耐え…ってか、なんでそんな長い時間──」

 

次々と疑問を投げつけてくる古城の口を拳で塞いだ那月はもう片方の手で隣を指差す。

そこにはボロボロになった静寂破り(ペーパーノイズ)と思われるモノが転がっていた。

 

「2000年という時間に耐えられなかったあいつはあのザマだ、色々と有益な話を聞いたのもだいぶ昔のことに感じるな。そのことも含めて色々と話した後、いい加減ここから出してもらおうか」

 

にやりと那月が嬉しそうに微笑んだ──




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