色々考えること多くてなかなかだせなくて申し訳ありません!
UA60000超えありがとうございます!
本編長めにしておきました。
6/10に原作の新刊がでるみたいですが、原作は原作これはこれで楽しんでいただけると嬉しいです。
絃神島、またの名を
常夏の島であり、今は4月下旬。
平均気温は30度前半、最高気温になると30度後半にもなる。
そんな暑さに似合わぬ声がオフィスに谺響した。
「寒っむい!ってそれどころじゃなくて、早急に迎えを寄越してくれる!?」
声の主は紗矢華だ。
「もう手配済み、それよりごめん…私のせい」
「あなたを責めてどうにかなるならいいけど、そうじゃないでしょ。それに、これは私のミスだから」
「うん…」
いつもなら紗矢華に対して強気に接する浅葱だが、彼女にとって雪菜がどういう存在であるかを知っているため、申し訳なさで胸が張り裂けそうになる。
そんな浅葱を気遣ってか紗矢華はこれからのことへと話を変えた。
「場所の目星は付いてるから直行するつもりなんだけど、誰か手の空いてる人はいる?」
「長くなりそう?」
「2日でいいわ」
「じゃあ、少し待ってて探してみる。あと、例のやつなんだけど間に合えば後から送る」
浅葱とのそんな少しの会話から数時間後、紗矢華は迎えの装甲飛行船ランヴァルドの中で思わぬ人物と再会を果たした。
「久しぶりだね、煌坂さん!雪菜ちゃんが攫われたって聞いていてもたってもいられなくなっちゃって来ちゃったよ。最近雪菜ちゃん学校にも来ないし、何してるんだろうって思ってたらいきなりこんなことになっちゃうなんて…」
「凪沙ちゃん…?もしかしてあなたが増援?」
紗矢華は露骨に心配そうな顔をしながら目の前に立つ少女にそう尋ねた。
「煌坂さん、もしかして私がなにもできない足でまといだって思ってるでしょ?」
「申し訳ないけど、その通り。厳しいことを言うけど素人がどうにか出来る問題じゃ──」
紗矢華の口に笑いながら指を宛てがいながら、凪沙は自慢気に口を開く。
「私だって古城くんの妹。いつまでも守ってもらってばかりじゃ困るからちゃんと頑張って修行?してるんだよ?もちろんまだ雪菜ちゃんには程遠いけどね」
「あなた…もしかして剣巫の訓練を?」
紗矢華の問に笑った凪沙の顔が答えだった。
彼女は古城がいなくなり、獅子王機関から多くの剣巫や真射姫がやってきてから日々剣巫となるための訓練を積んできたのだ。
凪沙には元から巫女としての類まれなる才能があるため、彼女が剣巫への適正があることは当たり前だった。
「そう、
「もちろんだよ」
「師家様、厳しかったでしょ?」
「あはは…」
「すぐ忙しくなるわよ、今はゆっくり休んでおきましょう」
紗矢華は凪沙のことを認めたのか、いつもの優しい後輩思いの彼女へと戻った──
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「──っ!」
転移魔術の余波で気を失っていた雪菜は目を開けるや否や、腕を使い大きく跳躍し周囲を警戒する。
辺りを見回しても見えるのは、気を失っている島民の姿とつい数時間前と何ら変わらない街の風景だけだった。
一見まるで何事も無かったかのように思えるが、雪菜は一つだけ明らかにおかしい事があることに気がついた。
「空がない…?単純に別の場所へ飛ばされたのではなく、空間ごと転移させられた?」
紗矢華や優麻と違い、魔術に疎い雪菜は考えることをやめ周囲の探索にあたる。
小さな島を1通り巡り、紗矢華と泊まっていたホテルのみが転移を免れていることを確認した雪菜は現状分かっていることを1人整理していく。
「この島は今回の事件に何も関係ないと考えるのが自然…、ということはこの島、あるいはこの島の人たちを使って何かを企てている者がいる…」
自らのやるべき事をこの事件の黒幕を明らかにすることと位置づけた雪菜が立ち上がったとき、急に背後から足音がした。
「誰ですか?すぐに姿を見せてください。でなければ、こちらから危害を加えることになりますよ」
瞬時に元いた場所から5mほどの距離を取り、音の方へと身体を向けた雪菜の前に現れたのは優しげな1人の神父だった。
「申し訳ありません、驚かすつもりはなかったのですが…」
「あなたは?」
「混沌界域の国境付近に位置する小国のしがない神父です」
「そんな方がどうしてここに?」
神父の一言で雪菜の警戒レベルが最大まで引き上がった。
中央アメリカ付近に位置する混沌界域付近の国がこの島にいることは有り得ない。
唯一布教や旅行目的という線もあることにはあるが、紗矢華と2人で島を調べた時点で把握しきれていないはずがないのだ。
「そうですね、それはこの空間を私たちが作ったからですよ」
「何のためにこんなことを?」
「姫柊 雪菜さん、あなたに会うにはかなりの手続きを踏まなければいけない。私達は可及的速やかにあなたに会う必要があった」
「それはどういう──!?
話の途中で多数の獣人に囲まれた雪菜は咄嗟に眷獣を召喚しようとする。
が、腕からは魔力が少しばかり放たれただけで雷光を纏った獅子が現れることはなかった。
「亜空間では眷獣の類いは使えなくなることがある。よもやお忘れですか?」
「くっ──、
呪力を限界まで増幅した雪菜の掌が獣人の身体へと繰り出される。
「
神父の不敵な笑みが雪菜の瞳へと映った瞬間、剣巫の未来視での先読みを越える速度で獣人の手刀が雪菜の首元へと放たれる。
その一撃で雪菜の意識は一瞬にして刈り取られた──
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暗闇の中、視覚以外の感覚をすべて使ってゼロコンマ数秒ごとに目まぐるしく変わる周囲の状況を把握し続ける。
前後からの刺突、斬撃を横に身を捻ることで避け、追従する左右からの攻撃を上への跳躍で躱し、ときに金剛石の盾を張り、
次々と身体を埋め増え続けていく生傷は治る気配を見せず、そこから刻々と身に宿る残り少ない魔力が漏出していく。
身も心もボロボロになりながら、それでも少年は迫り来る魔獣の群れを屠り続けることをやめない。
ただそれだけが自分のなすべきこと、存在理由であるように。
そんな少年の耳に不意に懐かしい声が聞こえる。
「どうして、そんなボロボロになるまで続けるんですか?」
その声は綺麗な黒髪を持つ人形のように美しい少女の声に似ていた。
「姫柊…」
本能のままに魔獣に力の奔流を叩きつける少年の感情の色を映さない無表情だった眼に微かな光が宿る。
「それは…もう見たくないから、オレの目の前で誰かが傷つくところは見たくない。だからこそ、全てを守れるくらいオレは強くならなきゃいけないんだ」
自らに言い聞かせるように、幾度となく発したものと同じ言葉を口にする。
「先輩、力に振り回されていてはダメですよ。力は制御し、振るうものですから」
彼女のその言葉を皮切りに古城の闘い方が激変する。
荒削りのセンスに頼りながらも、時間が経つごとに最低の魔力で最大の効果を得れるように動きが洗練されていく。
その闘い方に満足がいったように小さく笑った少女は最後に
「助けて…」
と囁いた。
それから300年の時が過ぎ、古城はなんとか生きたままアゼリアの元へと戻った。
「ほう、400年間生き延びたか。こちらでは2年かなり退屈な時間だったぞ?」
「うるせーよ…こっちはもうほとんど魔力がなくて死にそうだってのに」
「警告、生命維持が困難なレベルです。早急に血液の摂取を」
抑揚の少ない声を発しながら近づいて来たのはアスタルテだ。
「アスタルテか?髪伸びて、元に戻ったのか…短いのも可愛かったのにな」
アスタルテの滅多に変えることのない表情が驚きの色を帯びる。
古城は自分の手さえ見えない暗闇の中、離れたアスタルテの髪の長さを言い当てたのだ。
「どうやら、死にかけた甲斐はあったようだな。内なる眷獣の声に頼り闘うことをやめたか。那月の守護者は使えるようになったのか?」
「なる訳ねぇだろ…あんな魔獣みたいなのがわんさかいる所で」
「違いないな、強くなったのだから文句は言うな」
アゼリアと言葉を交わす中で古城はふと声のことを思い出した。
「なあ、アゼリア。むこうで姫柊の声が聞こえた気がするんだけど、気のせいか?」
「興味深いな、お前の気のせいという可能性もある。だがそれはこちらの世界に存在する、姫柊雪菜という女の要素がお前に引き寄せられ一時的に形を成したのだろう。姫柊雪菜で思い出したが、もうすぐ表の世界で面白いことが起こりそうだぞ?」
アゼリアの物言いに古城は一瞬硬直する。
「どうもめんどくさいやつらに目をつけられたらしい。あの娘の体質では仕方ないことだがな」
「どういうことだ!?教えろよ!」
「そう怒るな、自ら助けに行けばいいだろう?」
「どうやって行けって──」
「私もそこまで非情でもない」
古城の言葉を遮りながらアゼリアはそう言うと目の前に光る球状の物体を創り出した。
「これは?」
「空間転移系魔術と推測」
古城の問にアスタルテが淡々と答える。
「お前が那月を取るか、大事な女を取るか見物だろう?」
アゼリアは古城にとっての究極の二択とも言える問いを投げかけてくる。
どちらを取ればいいか、明確な答えを得れないまま黙り続ける古城に代わりアゼリアへと口を開いたのは隣にいるアスタルテだった。
「私が行きます。古城は…那月ちゃんの
アスタルテが一瞬の間に予想外の言動を重ねたせいで古城の反応が遅れる。
「そうだな…アゼリアを説得して那月ちゃんを助けてオレもすぐ行く。頼むぞ、アスタルテ」
「
「それと、ご主人様のことをちゃん付けで呼んでいいのか?あとでチクっておいてやるからな」
「──それは困りました…」
しばらくの沈黙のあとボソリとそう呟いたアスタルテは見たことのない笑顔でアゼリアが作った光の中へと消えていった。
「さてと、アゼリア。オレを那月ちゃんのところまで届けてくれるか?お前ならできるだろ。無理って言っても──」
「よかろう」
「だから、無理って言ってもってあれ?今、いいって言ったか?」
「もちろんだ、あの
アゼリアはまたしても目の前に光る球状の物体を生成する。
「ほら、早く行け。間に合わなくなるぞ」
「そうだな、行ってくるよ。短い間だったけど色々世話になったな。また来るからさ、それまで消えるなよ」
「社交辞令であっても嘘は好かんな」
古城は光の中へと身体を入れる。
そして最後にアゼリアの方へと振り返った。
「嘘じゃないさ、必ずアゼリアのことも助けにくるからな」
そう口にした少年が消えてからアゼリアは彼がいた場所を見つめ続けながら心底面白そうに笑い続けた──
最近感想が増えてありがたいのですが…評価がなかなか貰えないのでお暇な方は評価もしていただければと思います。
拙い文章ですが、いつも読んでいただき本当にありがとうございます!
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