ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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順調に更新できてて安心している作者です。


第43話

下からはビル街の活気溢れる人工の光、上からはまったく人の手がかかっていない自然で綺麗な月明かり。

その似て非なる2つの言わば対称的とも言えるものの中で彼女、静寂破り(ペーパーノイズ)は優雅に舞う。

自らの大切なものを壊そうとする敵であるということは古城も頭では分かっている。

しかし、それでも1人の女性が舞うその空間だけが別の世界のものであるかのように異質でありながらも煌々と放たれる魅力に惹き込まれ見入ってしまう。

 

「1つ…勘違いをしていたのかもしれません」

 

幻想的な雰囲気を纏った女は動きを止めるとそう独りごちる。

 

「なにがだよ」

「望まずして幼き頃に第四真祖の力をその身に宿した少年、人間から真祖へと変わるという非常に稀なケースです。私はもっと私利私欲のためにその力を振るう者だと思っていました」

 

目の前の彼女の雰囲気が和らぐのを感じた古城も警戒を緩めた。

 

「じゃあ、別にあんたと闘わなくても…」

「それはまた別問題です。あなたがどういう者であれ、その危険性は変わらない」

「──っ!」

 

つい少し前までの優美で和やかな雰囲気が一瞬で消え、極限まで研ぎ澄まされた殺意が古城の身に刺さる。

 

「覚悟を決めなさい。獅子王機関三聖が一人──」

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)──!!」

 

古城の呼び声に応じて2人の立つビルを巨大な双頭龍の顎が真下から呑み込んでゆく。

時間も時間故誰もいないことが幸いだが、一瞬にして周囲が跡形もなく消え去る。

 

「考えれる中で一番効果的な方法だったけど、どうなった?」

 

あまり手応えを感じれず周囲の音に古城が集中しようとした瞬間だった。

背後から見えない鈍器で力の限り殴られたような感覚が急に体を襲い、古城は空中へと投げ出される。

そして息付く間もなく不可解な力に下へと叩きつけられる。

一瞬の間に自分の常識では考えられない攻撃をその身に喰らった古城がなんとか起き上がると目の前に自分を攻撃したと思われる女が姿を現す。

 

静寂破り(ペーパーノイズ)ってのはよく言ったもんだな…」

 

一瞬のうちに起こる意識の外からの不可視の攻撃。

静寂の中に急に騒音(ノイズ)が生まれるかのような攻撃。

故に静寂破り(ペーパーノイズ)

 

「あなたの心意気に免じて、妥協案の提案をしましょう」

「妥協案?」

「大人しく姫柊 雪菜と自らの身柄をこちらへ渡すと言うなら、煌坂 紗矢華だけは今後一切手出しをしないというのはいかがでしょう」

 

全てを背負い守りきると決めた古城にとって、それは妥協案でもなんでもない。

そんな提案を聞いて思わず古城は笑ってしまった。

 

「あんた、見かけの割に性格悪いんだな。そんな提案受けるわけないだろ」

「何も拾えないなら、1つくらい拾える道の方がいいかと」

「あんたをぶん殴って全員助ける、それしか道は必要ない」

「先程の攻防で勝てないのは分かったと思いますが?」

「どうだかな」

 

古城はにやりと笑うと一気に魔力を高めた。

 

蠍虎の紫(シャウラ・ヴィオーラ)──!」

 

紫の炎に包まれた人喰い虎が現れ古城の周りに致死性の毒を噴出させる。

この数日間、古城も何もせずこの瞬間が来るのを待っていたわけではない。

彼なりに色々と試行錯誤し能力の詳細を暴かんとしていた。

 

「仮定1…、誰にも見えないくらい速く攻撃できる」

 

身体の重要な部分にのみ金剛石で作り上げた楯を纏い、毒霧が不自然に動かないかを見ることだけに集中する。

 

「うっ──!?」

 

数秒が経過し、何の前触れもなく古城の右腕の肘から下が切り落とされた。

背後に彼女の存在を感じつつも、毒に苦しむ様子がないことから接近してきた訳では無いことを確認する。

 

「仮定2…、身体に直接干渉するタイプの魔術」

 

魔力を感じ取ることが苦手な古城は切断された右腕を霧化し周囲を覆う。

少しでも魔力を使えば自分の腕である霧が反応する。

能力の正体が魔術ならこれで分かるはずだった。

しかし、またもや古城は何も感じ取れず身体を地面に叩きつけられる。

 

「足掻いたところでこの能力は看破できませんよ」

「体術の類でもない、魔力も感じられない…過適応能力者(ハイパーアダプター)か?」

 

古城は何気なく頭をよぎった親友の姿に答えを得た。

 

「なかなか早く気づきましたね、その点は評価します」

 

初めて彼女の顔が笑った。

 

「しかし、それが分かったところでどうというわけでもないですが」

 

彼女の言葉と同時に古城の四肢が切り飛ばされた。

驚きの余りなにも発することの出来ない古城は全ての力を身体の再生に回し一瞬にして手足を取り戻す。

 

「驚異的な回復能力ですね、悪足掻きもそろそろやめませんか?」

「やめねぇよ、色々背負うものがあるんだ」

 

古城は直感的に不可視の攻撃が繰り出されるのを悟り、全神経を彼女へと向ける。

一瞬、視界が暗くなり耳の奥で世界が壊れたかのような崩壊の音が聞こえる。

意識が異常に冴え渡るのを感じた。

 

「時間が止まった?」

 

自分以外の全てのものが止まっていることに古城は気づく。

すぐに静寂破り(ペーパーノイズ)の方を向くが、そこに彼女の姿はない。

背後に気配を感じて古城が振り向く自分の首を手刀で引き裂かんと肉薄する彼女と目が合った。

初めて彼女の顔から余裕がなくなる。

 

「第四真祖…何故…」

 

心の揺らぎと共に鈍くなった攻撃を躱した古城は隙だらけの相手の身体に攻撃を加えようとしたが、気づいた時には自分の身体が無数の肉片へと変わっていた。

 

「まったく、こらえ性のないやつだ」

 

聞きなれた声と共に意識が薄れていく──

 

 

 

 

古城に攻撃を避けられた静寂破り(ペーパーノイズ)は自らの能力を限界まで引き出し古城へ即死級の一撃を繰り出した。

一瞬にして肉片へと変わった第四真祖の身体を奪取するため身体を動かそうとしたが太い銀鎖に阻まれる。

彼女が奪おうとしたものは紫色の魔法陣の中へと消えてゆく。

 

「空隙の魔女…」

「こうしてぶつかるのは久しぶりだな」

「以前、まだ幼かった私に手も足も出なかったこと忘れましたか?」

「可愛げのないところは変わっていないらしいな、無策で出てくるほどバカだと思われるのは癪だな」

「そんな人形(パペット)で私は欺けませんよ」

 

那月の姿をした身代わりを片手間に潰した静寂破り(ペーパーノイズ)はビルの屋上へと腰を下ろした。

 




次回でこのバトルは終わる予定?

久々に更新してるのでなんだか方向性これでよかったっけ…と思いながら試行錯誤してます( ̄▽ ̄;)
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