ストライク・ザ・ブラッド〜空白の20年〜   作:黒 蓮

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今日は更新する予定がなかったんですが…、プロット作成が意外に早く終わったのと昨日から日間ランキングに載り続けててテンション上がったので更新。

今回で予告通り幽寂の魔女篇最後です。
色々とこれからのための話のために作った章なのであまり面白くはないかもしれませんがお付き合い下さい。



第36話 姫柊 雪菜Ⅳ 煌坂 紗矢華Ⅴ 仙都木 優麻Ⅰ

雪菜と紗矢華の目の前で古城の身体が紙のように簡単に縦に真っ二つに裂ける。

切断された場所から古城の身体が真っ白な灰へと変わっていく。

「先…輩……」

敵が目の前にいることすら忘れ、雪菜は古城がいた場所へと駆け寄り縋るように灰へと変わった古城の身体へと手を伸ばす。

雪菜の手が触れようとしたその瞬間──

古城の身体であった灰が風に飛ばされるように宙へと消えていき、雪菜の腕の上に綺麗に真っ二つにされた古城のパーカーとシャツが落ちてきた。

「雪菜…」

紗矢華がなんとか口を開き雪菜の方へと近づき彼女の肩に手を乗せる。

「第四真祖もあっけないものね、目的は達したし私はこれで帰らせてもらうわね」

「待…って…ください…」

か細い声と共に雪菜がアレシアへと手を伸ばす。

彼女には古城が完全にこの世から消えたことが分かっていた。

『血の伴侶』である自分と古城の間に築かれた霊的パスが失われ魔力供給がなくなったのだ。

「何か言った?」

「先輩を…返してください──!!!」

「雪菜!」

静止する紗矢華の手を乱暴に振りほどき雪菜は雪霞狼を手にアレシアへと特攻を仕掛けた──

 

 

 

夜空を見上げる優麻も古城がこの世から消えてしまったことを悟った。

膨大な魔力の波動が1つ消え、古城の眷獣によって支配されていた島の魔族や人間が意識を取り戻したからだ。

しかし、雪菜や紗矢華と違い優麻は落ち着いていた。

「古城は僕が助けてみせるよ──」

優麻はそう呟くと雪菜が最後の希望を自分の手で消してしまう最悪の事態を回避させるためキーストーンゲートへと走る──

 

 

 

雪菜の雪霞狼による高速の刺突がアレシアへと迫る。

調律者(シントニス)──」

アレシアの声と共に鈍色の守護者が現れ雪菜の攻撃を受け止める。

「武器を構え、攻撃をした。私にとって2回害のある行動を起こしたわね」

神文の効力により雪菜の全ての力が弱体化される。

あらゆる生命体は霊力、あるいは魔力を一定以上内包せずには活動することが出来ない。

しかし、雪菜はほぼ自らの霊力が尽きても立ち上がる。

「しぶといのね、第四真祖に惚れてたの?なら愛する第四真祖の眷獣で殺してあげる」

雪菜の前に黄金の雷光を纏った獅子が現れ、アレシアの指示によって雪菜へと突進を仕掛ける。

「雪菜!逃げて!」

紗矢華は雪菜の身体が蒸発することに耐えられないと思わず目を瞑る──

 

「雪菜…?」

紗矢華は恐る恐る目を開ける。

すると前には大きな獅子を慈愛に満ちた表情で抱き寄せる天使がいた。

まるで聖堂にある壁画のようなその光景に紗矢華は言葉を失った。

獅子の黄金(レグルス・アウルム)は雪菜に顔を撫でられ徐々に小さくなりやがて空間に溶けるように消えていく。

「天使の翼…、獅子王機関の剣巫がどういうこと…?」

アレシアは旧記から考えつく限りの攻撃を雪菜へと放つ。

その全てが雪菜へと届く前に何も無かったかのように消え去る。

「先輩を…先輩を…──」

雪菜の言葉は古城を求め続けていた。

制御不能となり暴走し彼女の身体から溢れ出した膨大な神気が神格振動波駆動術式の結晶となり周囲を満たしていく。

調律者(シントニス)!」

アレシアは守護者を呼び出し雪菜を殺すように命じる。

凄まじい質量の槍が光速で打ち出されるが雪菜を捉えることはできない。

感情を失った雪菜はアレシアの背後へと現れると何のためらいもなく手に持った槍で守護者と魔女との繋がりを切断する。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

アレシアはいきなり悶え始め、その場へと倒れた。

魔女にとって守護者との繋がりは生命線にも等しいのだ。

苦しむアレシアになんの興味もない雪菜はアレシアの握る魔導書ごと彼女の身体を雪霞狼で貫こうとする。

「ダメだ!姫柊さん!!」

屋上へと続く扉から血相を変えて優麻が飛び込んでくる。

(ル・ブルー)──!」

優麻の守護者が雪菜の槍へと体当たりをし軌道をなんとか逸らした。

「その魔導書があれば!古城をなんとか救えるかもしれないんだ!」

優麻の声に一瞬雪菜の動きが止まる。

その隙にアレシアの持つ2つの魔導書を奪った優麻は気の抜けている紗矢華へと指示を出す。

「煌坂さん!古城を助けられるかもしれないんだ。姫柊さんをなんとか止めておいて!」

「え…!?私!?今の雪菜を!?」

「頼んだよ!」

優麻の無茶ぶりを受けた紗矢華はため息をつきながら雪菜の身体を抑える。

優麻の言葉を聞き、雪菜は動かなくなってしまったが身体から溢れ出す神気はどんどん増える一方だ。

この空間が神格振動波駆動術式の結晶で覆い尽くされてしまうのも時間の問題かもしれない。

「ちょっと、ちゃんと古城を助けられるんでしょうね!」

「そのはずだよ、旧記によって古城の水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)をここに呼ぶんだ。そして魔導書No.726の能力拡張を適応すれば…」

「古城を再生できるのね?」

優麻は旧記の力によって蛇の下半身と髪を持つウンディーネを呼び出し、眷獣の持つ存在を無に返す力を拡張させていく。

「ちょっと大丈夫!?あなたの魔力がすごい勢いで減ってるんだけど…」

「古城を復活させるまでは死んでも保たせるよ」

普通の魔女である優麻が魔導書を2冊同時に使役することに加え、強化された第四真祖の眷獣を細かく制御しようとしているのだ。

その魔力消費量は凄まじいことになるのは当たり前なのだ。

「古城、僕の命に変えても君を助けるよ──」

優麻の決死の努力もあり、うっすらと古城の影が現れ始める。

しかし、それも一瞬であり死力を尽くす優麻を嘲笑うかのようにすぐに消えてしまう。

「ちょっとどうなってるのよ!」

「自然の復元力だよ、死んだ者を生き返らせる行為は自然の摂理に反することだから…」

優麻が力尽きかけた瞬間、旧記が周囲を埋め尽くした神格振動波駆動術式の結晶による魔力無効化に耐えきれず燃えてなくなってしまう。

「そんな…古城を助ける唯一の方法が…」

優麻が懸念したことが起こってしまったのだ──

雪菜の魔力を無効化する力が、古城を助けられる唯一の方法である魔導書の効果を消し去ってしまうということが──

「古城…!」

優麻が悔しさで床を叩きつける。

「先輩…」

雪菜の身体から溢れ出す神気の量が桁違いに増え紗矢華が吹き飛ばされる。

「きゃっ────」

「煌坂さん、僕達も逃げた方がいいかもしれない」

「え?」

「さっき一瞬古城の影が見えたことで姫柊さんを刺激してしまったかもしれない。これだけの神気が溢れ続けて破裂したらこの島は沈んでしまうよ…」

「でも、雪菜を置いてなんて!それに古城もまだ!」

「僕達の力不足だよ、天部でさえ死んだ者を生き返らせることは出来なかったんだ…」

「なにか方法があるはず──」

紗矢華の言葉は雪菜の口から聞こえてきた普段の雪菜とは違う声に消されてしまう。

「先輩…ヒトリニ…シナ…イで…」

雪菜の言葉に呼応するかのように神格振動波駆動術式の結晶が雪菜の周りへと集まり彼女を覆っていく。

「嘘でしょ…」

雪菜の前に徐々に1人の男の影が浮かび上がる。

不安定な輪郭はやがてハッキリとした線へと代わり紗矢華と優麻がよく知る者の姿へと変わっていく。

「そんな…第四真祖の眷獣と魔導書の力でも無理だったのに…」

完全に再生された古城の身体が落下し、雪菜がそれを受け止める。

「ん…、はっ!アレシアは!?」

古城は目を覚まし周囲を見渡すが、どこを見渡しても白い綺麗な壁が見えるだけだ。

目の前へと視線を移した古城は、感情の色を失い天使の羽が生えている雪菜の姿を見て全てを察する。

「そうか、またお前に無茶させちまったのか──」

古城は雪菜の頭を撫でながら彼女を抱きしめる。

「──」

しかし、雪菜はなにも返事をしない。

「戻ってこい、姫柊──。いや、戻ってこい雪菜──」

古城はゆっくりと雪菜の唇へと自分の唇を押し当てた。

古城の唇が雪菜の唇へと触れた瞬間、神格振動波駆動術式の結晶が粉々に割れ雪菜が元の姿へと戻る。

「先輩…。先輩!大丈夫ですか!?」

「お前のおかげでな、なんだかいい夢を見てた気分だよ」

「今度こそほんとに死んじゃったかと思って…心配したんですからね」

雪菜は泣きながら古城の胸へと飛び込んでくる。

「「古城!」」

ずっと状況を見守っていた紗矢華と優麻も泣きながら古城へと抱きついてくる。

「おいおいおい!痛いからやめろって!」

3人に潰される勢いで抱きつかれる古城の目の前でアレシアの身体が紫色の魔法陣に包まれどこかへと消えてしまう。

雰囲気を読んでかここに現れない那月に感謝をしながら古城は3人の頭を撫でた。

「やっぱりお前らがいないとダメみたいだな…」

「まったくです!先輩はいつもいつも勝手に!私のいないところで変なことしないで下さい!ずっと一緒にいてって言ってるじゃないですか!」

「古城、私も雪菜と同じ意見よ。ダメ真祖は私が死ぬまで見張っておいてあげる」

「ははは、2人とも積極的だなぁ…。僕も古城の力になれるように頑張るからそばに置いて欲しいっていうのは同意見だけど…」

1度に3人から告白された古城はどうしたものかと一瞬迷ってから3人の言葉に返事をした。

「オレにはお前らが必要だ、だからこの国にずっといてくれよ。誰かがダメだって言っても、何かあってもオレが責任取ってなんとかする。だからこれからもよろしくな」

そう言い終わりいい雰囲気になったところで、古城のお腹が大きな音を立てて空腹を訴えた。

「先輩…」

「古城…」

「古城らしいね…そういうところ」

古城は3人から冷ややかな視線を向けられる。

「とりあえず、飯食いに行かないか…?」

笑いながらそんなことを言う古城につられ、3人も笑い出す。

静かな夜に4人の幸せそうな笑い声が響く──

 

 

そんな様子を近くのビルの屋上から見ている1人の女がいた。

眼鏡をかけ、制服へと身を包んだ彼女は誰に言うでもなく1人呟く。

七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)…、もはや私達の想像を遥かに超えている…。自然の摂理さえも覆す力。仙都木阿夜の言っていた世界をあるべき姿に戻す力というのも案外当たっているのかも知れないですね。姫柊雪菜──その身に2つの相反する力を宿し、天部をも越えた超越者ですか──」

全てを見た彼女はすぐにその場から姿を消した──

 

 

 




次回、幕間を挟んで新章(日常回)と行くのがいつもの流れなのですが…。
次回もバトル回の新章です( ̄▽ ̄;)
日常回楽しみにしてた方がいたらすみません…。
その代わりといっては何ですが新しく『すとぶらでSS!』という作品を昼前に投稿させていただきました。
番外編という形でそのうちこちらに移植する形になるとは思いますが、日常回成分が欲しい方はそちらも併せて読んでいただければ嬉しいです!

長くなりましたが、次章からどんどん展開が面白くなって行く予定なので期待してください。
例のごとく感想お待ちしてます!

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