前話(第28話)にて古城がカナヅチという設定を完全に見落としていたため加筆修正を一部加えました。
気になる方はそちらを読んでからこの話を読んでいただければなと思います。
毎回関係のありそうな箇所は読み直して確認してから書いているのですが稀に設定抜けやミスもあるかと思うので気づいた方は気軽に教えていただければと思います!
長くなりましたがどうぞ!
「ちょっと待ってくれ、すぐに出る」
部屋の外にいるであろう紗矢華に古城は声をかけすぐに外へと出て行く。
「悪い、待たせたな」
「ううん、大丈夫」
「そうか、なんか新鮮だな煌坂っていうと紫が良く似合うイメージがあったんだけど」
古城は珍しく桃色の水着を身につけている紗矢華に率直な感想を述べる。
「似合ってない…かな?」
「いや、似合ってるぞ?新鮮だし似合ってる」
古城の反応が思ったよりもよかったことに安堵した紗矢華は上に羽織っていたパーカーを握りしめる手を緩めた。
「で、どこ行く?夜になったら外も綺麗だと思うけど」
「色々考えたんだけど…明日の雪菜たちのためにも外はとっておこうかなって」
「遠慮がちだな…」
「古城だって同じとこ何回も行くのはあんまりよくないでしょ?」
「まあ、それはそうだな。じゃあ中でどっか行くか」
とりあえず2人は下の階へと降り広々としたアミューズメントエリアへと向かった。
「すごい賑やかなところね…」
「煌坂はこういうとこ初めてか?」
「まあ…」
「さすが獅子王機関は箱入りだな」
「バカにしてるでしょ…」
紗矢華の機嫌が悪くなっても困る古城は、とりあえず隣にあったよくある二人用の中に乗り込んでゾンビや虫を倒し進んでいくタイプのゲーム機へと彼女を連れ込む。
「ちょっと、いきなりなにするのよ」
「2人でゲーセンでするゲームって言ったらこういうのは王道だろ」
紗矢華の文句を流しながら古城は2人分のコインを入れスタートボタンを押した。
「でかい虫が出てくるタイプのやつか」
「待って、なにこの気持ち悪いやつ…」
「まあ、やってみろって」
簡単に操作の説明をしながら古城は紗矢華のフォローをしつつ先へと進んでいく。
最初こそたどたどしかった紗矢華も中盤からは凄まじかった。
全ての敵を確実に必要最低限の弾数で屠っていく。
おまけに古城が捌き損なった分のフォローまでする余裕をみせていた。
通常この手のゲームは最後まで行くには数回のコンテニューを要するものだが紗矢華はほぼ1人でコンテニューすることなくクリアしてしまった。
「煌坂、ゲームに本気出しすぎだろ…息上がってるじゃないか」
「夢中になってたんだから仕方ないでしょう!?」
「まあ、楽しそうでいいんだけどさ。他のとこ行こう──」
「なにこれ?」
古城が外へと出ようとしたとき紗矢華が画面を見て疑問の声をあげた。
「ああ、こういうゲームの最後には2人の相性診断的なのが出るんだよ。って…なんじゃこりゃ!?」
「相性はSランク…頼りにならない彼氏をこれからも引っ張ってあげよう?」
紗矢華は画面に表示された文字を声に出して読み上げた。
「頼りにならないとか…ならなくて悪かったな…」
「なにしょげてるの?頼りにしてるわよ、いつも」
気を遣われたのか本心なのかいまいちよく分からないがとりあえず照れくさくなった古城は急いで外へと出る。
そのあと紗矢華がやりたそうに見つめるゲームに少し付き合い2人はアミューズメントエリアを後にした。
「ねえ、古城。上で縁日の屋台が出てるみたいなんだけど射的とかで何かとってあげてもいいわよ」
「やめとけ、いくらタダでもお前プロだろ。そんな詐欺まがいのことやらせてたまるか」
「そう?お店を出してる以上そういうことも覚悟の上だと思うんだけど」
「容赦ないな、煌坂…。とりあえず飯にしないか?」
これ以上話を続ければ紗矢華が本当に射的やダーツで無双しかねないと判断した古城は話を変える。
「そうね、チェーン店が並んでるフロアかホテルのレストランかどっちにするの?」
「煌坂の好きな方でいいぞ、オレは」
「はぁ…、じゃあホテルのレストラン」
古城の優しさでもあるのだが、女の子として古城にリードして欲しい思いがある紗矢華はため息をつきながら自分の意見を伝えた。
上階へと上がり、ホテルのレストランの前へと来た2人を上品なウェイターが景色が良く見える窓際の席へと案内する。
「綺麗だな」
「さすが高級ホテルのレストランね」
とりあえずメニューの1番前にあったオススメらしいフルコースを頼んだ2人は綺麗な夕焼けが映える海を見ながら料理が来るのを待つ。
慣れない雰囲気でなかなか落ち着かない2人だが料理が運ばれてきてからは口数も増えた。
シーザーサラダ、オニオングラタンスープという王道料理が運ばれ続いて海老と舌平目のグラタン、ローストビーフと普段あまり古城たちが食べない料理が運ばれてくる。
「どれも、美味しいわね」
「ああ…、慣れないナイフとフォークじゃなかったらもっと美味いと思うんだが」
「呆れた、あなた皇帝でしょ?もう少しマナーも学んだ方がいいわよ」
「うるせぇよ、今痛感してるとこなんだから言わなくていいだろ」
古城がバツの悪そうな顔をしたところにウェイターが色とりどりのケーキが乗ったワゴンを運んできた。
ケーキや甘い物の類が嫌いな女の子はほぼいない。
例に漏れず紗矢華も笑みがこぼれている。
「煌坂、食べたいの2つ選べよ。オレはなんでもいいからさ」
「それは申し訳ないわよ…、それなら古城が選んだやつを半分もらう方が…」
「分かったよ」
紗矢華の頼みを聞いた古城は無難にショートケーキを頼んだ。
古城が注文する間も悩みに悩んだ紗矢華はチーズケーキを選択した。
お互いに半分ずつ切り交換した2人はケーキを口に運ぶ。
「古城、今まで食べたケーキの中で一番美味しいかも…」
「ああ、オレもだ。普段こんないいケーキ食わないからな」
「シンプルで甘さが控えめなんだけど、生地がふんわりしっとりで──」
「いや、煌坂美味いのは分かるけどさ、食レポしてるんじゃないんだぞ…」
変なスイッチが入ったのか味について妙に語り始める紗矢華を古城が慌てて止める。
ケーキを堪能しコーヒーを飲み2人は店を後にした。
「いやー、美味かったな。そういえばこれからどうする?」
「スイートルームのフロアにある屋外プールにでも行かない?水着なのにプールに入らないのも味気ないし」
特に案もなかった古城は紗矢華のその提案にすぐに乗っかり最上階にある屋外プールへと向かった。
「結構広いんだな」
「競技用とまでは行かないけど、25mくらいはありそうね。ちょっと泳ぐくらいなら問題ないくらいの大きさね」
「でも贅沢だよな、海と外のライトアップされた広いプールを眺めながらプールに入るとか」
「ちょっと、何言ってるのか分からないけど贅沢なのは同感。ちょうど月も綺麗だしね」
「いや、だからさ冬場に暖房つけた部屋でアイス食べるみたいな」
「そうね…」
古城の渾身の例えも紗矢華はあまり興味がなく聞いていないらしい。
ぼんやりとプールサイドに寄りかかり月を眺めている。
「煌坂…?」
「ごめん、ちょっとぼうっとしてた」
「考え事か?」
「そんな感じ。私だけこんなに幸せでいいのかなって」
「え?」
「前に言わなかった?育った環境が女の子ばかりだったから背の高い私は何をするにも男の子役だったって」
「ああ…」
古城は知り合って間もない紗矢華をお姫様抱っこした時のことを思い出した。
「だから、その…女の子として見てくれることが嬉しくて」
「当たり前だろ、煌坂は女の子なんだから」
「うん。でも私にとっては当たり前じゃなかったから…、だから古城には感謝してるの」
紗矢華が古城の方へ振り向く。
月明かりを背に古城を見る紗矢華は神々しささえ感じさせる美しさを放っていた。
ゆっくりとそのまま古城の方へと近づいて来た紗矢華は動かない古城の前へと歩み寄りその身体に腕を回し愛おしむように抱きしめた。
「煌坂…」
「何も言わないで」
紗矢華を引き離そうとあげた手を古城はゆっくりと水の中へと戻し、彼女の好きなようにさせる。
数分にも感じられる濃い時間が流れ、紗矢華は古城の身体から手を離し後ろへと下がった。
「今日は楽しかったわ、もし古城にまた時間があったらどこかに連れて行って。じゃあ、おやすみ」
それだけ言い残すと紗矢華はプールから上がり自室へと戻って行った──
私事ですが近頃、お気に入り数やUA数は増えているのですが感想評価はあまりいただけないため少し不安になっていたりします笑
もしお時間ある方はそちらの方もお願いできたらなと思います!
次回は結瞳と雪菜合わせて少し長めに書くと思います。
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