短いですがお読みください^^*
「獅子王機関の剣巫の未来視か──」
アトゥムが賞賛の目で雪菜を見つめた。
「第四真祖に『血の伴侶』がいるとは初耳だな、霊力と魔力だけでなく神気までも使いこなすとは何者だ小娘。相反する力どころか神の領域にまで踏み込もうとするか──」
「自分の存在がどれだけ特異なものかは私が一番よく分かっています、ですがあなたには関係のないことです!」
興味深そうに雪菜を見るアトゥムに向かって彼女の破魔の槍がその胸を貫かんと肉薄する。
「関係ないか、自分以上に神に近い人間の存在を許容できない儂の気持ちが分からんか」
雪菜へと哀れな目を向けるアトゥムの身体が見えなくなっていく。
「呪術迷彩!?先輩、後ろです!」
雪菜の前から突然消えたアトゥムは古城の背後から姿を現し今までで一番強い太陽光線を放った。
神速の光が古城の方へと一直線に進み不規則に折れ曲がり拡散しあらぬ方向へと飛んでいく。
「なあ、おっさん。死ぬ覚悟は出来てるか?」
後ろを気だるげに振り向いた古城から放たれた殺気に圧されたアトゥムは1歩後ろへと引き下がった。
「おかしいな、散々でかい口叩いてたあんたがオレが振り向いただけで距離を取るなんてな」
古城の身体から溢れ出す魔力はどんどん濃さを増し、背中から出る漆黒の翼が数メートルにも渡る大きさへと変わっていく。
既に彼の周りの空間は圧倒的な魔力濃度により歪み始めているがそれでも魔力の高まりは止まらない。
「黙っておれば勝手なことばかり口走りおって──」
古城の周囲を怪しげな光が明滅しその中から細く圧縮された太陽光が飛んでくる。
古城を捉えようとする光は全て空間の歪みによって四方へと飛んでいく。
「もうやめにしよう、オレ達が争っても何も変わらない」
「黙れと言っているのが分からんのか出来損ないの真祖が──」
アトゥムの叫びとともに空間の歪みを計算して放たれた光が古城の胸へと吸い込まれるように進んでいく。
「先輩の言う通りです、もう諦めてください──!」
古城の後ろから飛び出した雪菜の破魔の槍に届きかけた光も消し去られてしまった。
「数百年越しの夢を諦めろと?お前達はそう言うのか?笑わせるな、ここまで来て引き下がれるものか」
「そうか、ならもう手加減はしないぜおっさん。
ヘビの下半身と髪を持つウンディーネがその全てを無に返す力でアトゥムが創造しようとするものを全て消し去っていく。
圧倒的な古城の眷獣の力の前にアトゥムが恐怖を覚えたとき、鈴の音のような美しい祝詞が彼の耳へと聞こえてきた。
「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る 破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
雪菜が光り輝く破魔の槍を上下へと2回振り下ろし、アトゥムの両腕を肩から切断する。
「ぐっ……イシスっ…!!」
アトゥムの苦しげな叫びに呼ばれ、今までずっと戦場の一番後ろで待機していた女が現れ彼の身体を神々しい光で満たしていく。
「そんな…傷が癒えて…」
雪菜の破魔の槍で切断したはずの傷口から新たな腕が生えてくるようにアトゥムの腕が再生される。
「クソ、高位の再生能力者か──」
古城が追撃のために新たな眷獣を呼びだそうとしたとき女はアトゥムを庇うように前へと立ちふさがり口を開いた。
「お2人とももうこれ以上はおやめ下さい、これ以上は無益です」
「何を言っているイシス、傷を治したのだから早くそこをどけ」
「その命令には従いかねます。この戦争を外から見守り、オシリスのアトゥム様への言葉を聞き私は思い直しました。アトゥム様がこの第四真祖の能力を心より欲しているのは知っております、しかしそれは民のためにではなくご自分のためなのでしょう?」
「それが、どうした。いいからそこをどけと言っている──!」
「私とオシリスが全てを捧げると誓ったのはアトゥム様が民のことを一番に考えていたからです。しかし時が経つにつれあなたは変わり組織も変わっていってしまった。どうか昔の心優しきアトゥム様にお戻りください」
古城にはイシスが泣いているのが仮面の上からでも分かった。
「なあ、おっさん。まだやるのか?」
「ああ、まだ終われぬからな」
「アトゥム様──!」
にやりと笑ったアトゥムはイシスの身体ごと目の前の古城を真っ二つにするため創造の力で生み出した不可視の刃を繰り出した。
「やらせませんよ」
またしても霊視により一瞬先の未来を見た雪菜の槍が攻撃を防ぐ。
「アンタのためにその人は泣いてるんだろ、そんな人を道具みたいに使い捨てるような真似はやめろよ」
古城のその言葉についにアトゥムも折れたのかその場に倒れた。
それを見届けた古城は浅葱へと連絡し那月を呼ぶ。
すぐに空間転移によって現れた那月の手によって監獄結界へのゲートが開かれた。
「第四真祖、いえ暁様すみませんでした…」
「いいよ、あの人のこと好きなんだろ?これから色々大変だろうけど助けてやれよ」
「はい…」
恭しく仮面を取り今度は違う涙を浮かべたイシスは項垂れるアトゥムと共に監獄結界のゲートへと消えていった。
「暁、ここからは私がする。お前は嫁の相手でもしておくんだな」そんなことを言いながら古城の方へ笑いかけてきた那月はまたすぐにどこかへと消え去った。
全てが終わり雪菜と古城の2人も戦場を後にする──
基樹や浅葱が待つキーストンゲートへと帰った2人を最初に出迎えたのは凪沙だった。
「ねえねえ、古城くん最後どうなったの?浅葱ちゃんが目隠しして全然見せてくれなくて、すごく気になるんだけど!」
「あー、まあなんともない。何もなかった」
疲れ切ったところに妹のマシンガントークの洗礼を浴びた古城は曖昧な返事を返す。
「そっか、そっか。煌坂さんとラ・フォリアさんが先に帰ってきたからどうしちゃったのかと思ったよー」
「姫柊、凪沙を頼む。オレは煌坂の所に行ってくる」
そう言うと古城は上へと走って行った。
「煌坂!」
ドアを開け紗矢華の顔を見るなり古城は大声で彼女の名前を呼んだ。
「心配しなくても、もう大丈…」
「大丈夫か?怪我してないか?どっか変なとこないか?」
「ちょっと、近すぎるわよ」
紗矢華は夢中になって近づいてくる古城の顔を手で押しやった。
「心配しなくても大丈夫、傷は全部綺麗に治ったし変なところもないわ」
「そうか…よかった…。でも本当にあんなことしてよかったのか?」
「いいって言ったでしょ、今更になって後悔してるの?」
「後悔なんてするわけないだろ」
「えっ…」
「煌坂を助けるにはあれしかなかったんだからな」
「あっ…そういう…」
少し古城の言葉を期待した紗矢華は一瞬残念そうな顔をした。
「ちゃんと責任は取る、だからさっきも言ったけどいくらでも恨んでくれていい」
「ほんっとにバカなのね、恨んだりしないわよ。これで雪菜ともずっと一緒にいれるんだから」
「そっか…、これからもよろしくな煌坂」
「うん…」
紗矢華は頷き顔を下に向ける。
その顔は完全に女の子の顔だった。
治りたての紗矢華にあまり話すのも良くないと思ったのか古城は部屋の外へと出て行こうとする。
「ねえ、古城。私あなたに会えてよかった」
「そうか、オレも煌坂に会えてよかったと思ってるよ」
それだけ言って最後に笑顔を交わし、古城は部屋から出て行った。
「『血の伴侶』か…」
誰もいない病室で紗矢華は1人そう呟いて愛おしむように古城に吸われた首元を押さえていた──
次回幕間を挟んで、また短めの日常回の章を挟んでからバトルを含めた章へと移行していきたいと思います。
次次章のバトルでは優麻が出る予定ですよ!(ちらっとネタバレ)
今回で長かった人間戦争が終わります、色々と不安でもあるので皆さんの感想や質問を出来ればお聞かせください^^*
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