ブーディカさんとガチャを引くだけの話   作:青眼

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28日までに間に合わなかった!言い訳はしません。本当にすいませんでした!!

サブタイトルの意味はまんまです。マシュはカルデア側の後輩なので、一応彼女が黒鋼の後輩ポジになります。まぁ、先輩ではなくセンパイ呼びなので、あくまで仮の後輩キャラですけど。



我が家に後輩属性のキャラがやって来た

「ーーーー待て、よ。お前、消えるのか?」

 

 突然の強制転移に頭をやられ、意識を軽く失っていたが、何とかギリギリの所で目を覚ます。目の前に広がっているのは怪しげなテレビスタジオ。そこには、顔がよく似ている少女が三人いる。だが、その中で一人、今にも消えそうな少女がそこにいた。

 

「ええ。元々、私の体は壊れていたのだもの。それが、さっきのリップとの合体宝具で霊基の限界を超えただけ。もう消えるのは決定事項よ」

 

 体を黄金の粒子に変えながらも、消滅する恐怖を決して表に出さない青い髪の少女。髪と同じリボンと瞳。そして、歪な魔剣と化している長い足。エクストラクラス『アルターエゴ』・メルトリリスは不敵に笑った。

 消える事は怖くない。それは確かにそうだろう。けれど、俺には彼女が何か隠していることがあると察していた。それを、彼女が決して話さないということも。

 

「ーーーそうか。なら、いい。BB。さっきの話は聞いていた。後で、うちのサークルも弄っておいてくれないか?」

「はい? 私、黒鋼センパイにそんなことする義理ないんですけど?」

「こっちにいる間、散々飯作ってやっただろ? それも何度も。なら、少しくらい融通を利かせてくれてもいいんじゃないのか?」

 

 苦笑いしながら黒い外套を来た少女ーーー同じくエクストラクラス『ムーンキャンサー』ーーーBB(ビィビィ)がため息を漏らしながらも了承する。これで、あとは俺が召喚できるかどうか運による。条件は揃ったんだ。何とかしてやらないとな。

 

「ーーー何、してるのあなた? 私、あなたにそこまでされる筋合いはないんだけど」

「そりゃそうだ。というか色々ひどかったよな? 出会い頭に殺しにくるし。何かと疑いの眼差しを向けられたのも不愉快だったよ」

 

 もう消えるから、色々とメルトリリスに対して溜め込んでいた思いを吐き出す。もちろん、それは愛の告白なんて大層なものじゃなく、ただの愚痴だ。それを聞いたメルトリリスは見るからに怒りを顔に表す。

 

「ーーーでも、何かに一生懸命だったのは知ってるよ」

 

 ポツリと、俺は言葉を漏らす。その後も俺は口を開いて言葉を紡ぐ。

 

「お前が狭間を気にかけていたのは知ってる。んで、何でか俺を敵視してたのも。正直、味方なのにどうしてなんだろうって思ったけどさ。お前があいつに、殺生院キアラから狭間を守ろうと必死だったのは。それだけは、知ってるから」

 

 ここにいる彼女が消え去り、次に出会う彼女がここでの記憶を覚えていないとしても。それでも、俺やあいつはお前の事を覚えているから。いつかまた、お前に会いたいから。戦う理由は、それだけで十分だ。

 

「だからさ、もしも可能性があるなら俺も挑戦してみたいじゃないか。そういうの。たとえお前が覚えていなくても、俺が………俺たちが覚えてればいいだけだろ?」

 

 言ってて凄い恥ずかしいが、これは紛れも無い俺の本心だ。普段、こんなこと言うのは狭間の役目なんだが、どうも今回は俺に手番が回って来たらしい。柄じゃない事をするのは苦労する。

 

「ーーーはっ、そんな気障な台詞がもううんざりよ。というか、あなた私好みの人間じゃないし。生まれ変わってから出直しなさい」

「これはまた、辛いところを言ってくれるな! それでこそおまえらしいよ! なぁメルトリリス!!」

 

 最後の最後まで心を抉る様な事を言いながら、メルトリリスは顔を背ける。だが、その後すぐにこっちを見た。ここで初めて出会った頃の、嘲笑を浮かべながら。

 

「まぁいいわ。気が乗ったらあなたに力を貸してあげる。……精々頑張りなさい、研砥」

 

 最後まで不敵に笑いながら、遂にメルトリリスはその体を霧散させた。歪な足も、綺麗な青い髪も、彼女が着ていた黒いロングコートも。彼女の存在そのものがこの場から消失する。そのことが少し悲しくて、視界が滲んでしまう。だが、涙だけは決して見せない。それだけは、決してやってはいけないことだと理解していた。目に溜まった涙を拭き取り、深呼吸をしてから振り返る。

 

「行っちまったな。………さて、とっとと俺たちも帰るか。BB、早いとこレイシフトを頼む。できれば、狭間の意識が戻る前に戻りたいからな」

「はいはいわかりました〜っと。それでは、センパイが連れて来たサーヴァント達に触れてください。全員纏めて送り届けてあげますから」

 

 どこか投げやりなっているBBだが、仕事はきっちりしてくれると知っているので、何も言わずにセイバーとキャスターに触れる。二人とも体力・気力・魔力を使い果たしたのか、俺が触れても何も言わずに眠り続けている。

 

「あ、あの! 研砥さん!!」

「ーーーん、何だリップ。何か用か?」

 

 レイシフトが実行され、段々体が薄れていく中、この場にいる三人目の少女が口を開いた。とてつもなく大きい黄金色の爪に、男を魅了する大きい胸を持った少女。メルトリリスと同じアルターエゴ・パッションリップが俺に声をかける。彼女とは余り関わりがなかったから、俺には何も言うことがないのだが、一体何の用だろうか。

 

「えと………その………えい!!」

「はっ? ーーーーー〜〜〜!?!?」

 

 事件は一瞬で起こった。リップが大きい腕をぶつけない様に大きく広げ、俺に近づき、キスをして来たのだ。しかも、その直後更に俺に近づき、その大きな胸を俺に当てるという高等テクをーーーって俺は何を書いてるんだ!?

 

「な、なななななななななーーーー!!」

「キスの上に胸まで!? 恥ずかしがり屋でいつもパシリ役をやらされているあのリップが、こんな高等テクニックを!?」

「ちょ、ちょっと二人とも酷いですぅ!! わ、私だって勇気を出してやってるんだから!!」

 

 いかにも怒ってます、という表情でリップが叫ぶ。というか、恥ずかしいなら無理にしなくてもいいんだが。というか、そういうのは全部狭間の役割だよね。そうか、これは夢だ。きっと多分maybe!!

 

「あのだなリップ。そういうのは狭間にしてやれ。俺には別にしなくても」

「研砥さんのそういう所、私嫌いです」

「はいーーーー?」

 

 流石にずっとくっ付いているのは恥ずかったのか、俺から少し距離をとったリップが、爪の人差し指を俺に突き立てる。顔もさっきと同じで怒ったままだ。

 

「私とメルトも一緒の事を思ってたんです。メルトはあんな性格だから最後まで言わなかったけど、私は駄目だと思うから敢えて言います」

「何、をーーー」

「研砥さんの、その、狭間さんに何でも報酬を渡そうとしたり、評価を与えようとする所です!!」

 

 俺の言っていることが琴線に触れたのか、両方の爪を振り上げて振り回す。幼い子供の様な仕草ではあるが、巨大すぎるその爪が余りにも脅威すぎた。

 

「誰だってそういうことはするかもしれません。でも、研砥さんのそれは度がすぎています! そうやって正当な評価を与えられなかったら、そんなの余りも悲しすぎます!!」

「……参ったな。全く反論できない。いや、まぁそうなんだけどさ」

 

 確かに、俺はここでの評価・報酬はできる限り狭間に送るようにしていた。理由は至極簡単。俺はこの世界にやって来た異物なのだからだ。俺が受けるべき評価も報酬も、本当は狭間一人の物だった。それを、可能な限り返している。というのが、俺のやっている理由だ。

 しかし、俺が関わっている時点で物語は破綻している。第七特異点で現れた花の魔術師はそう言った。故に、自由に動き回っても構わないとも。

 それでも、俺がそうし続けたのは、ひとえに後ろめたさがあったから。本来契約するべきサーヴァントを、俺が勝手にしてしまっているようなものだからだ。だから、せめてもの償いとして報酬とかはあいつに送っていた。まさか、たった数日しか一緒に過ごしていなかったリップがそれに気づかれるとは、思いもしなかったが。

 

「だから、だからお願いです! 自分のことをもっと正当に評価してあげてください! 研砥さんと契約してくれているサーヴァントさん達もきっと、それを願っていると思うんです!!」

「………分かったよ。できる限り善処してみる」

「善処じゃなくてしてください!! 約束ですからね!! そうじゃないと、化けて出るんだから!」

 

 そう言葉を強くしながらも、表情は優しげで言うリップ。出会ってまだ間もないのに、ここまで俺を思ってくれる人もいる、それが少し、いやかなり嬉しかった。泣かないと誓ったはずなのに、いつの間にか涙腺が決壊していた。でも、意外と苦しくはない。

 

「ああ。約束だ。次に会う時までにはーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピックアップ仕事しろこんちくしょうめェェェェェェェェェェ!!!」

「うわぁ……さっきまでの回想シーンが台無しな発言ですねぇ………」

 

 場所はさっきまでと変わり、いつもの召喚場に移る。そこには俺と、召喚システムに干渉するべく現れたBB、それから偶々この場に居合わせたサーヴァント達がいた。

 

「どういうことなんだよ!! 何で20連も回してるのに星4礼装が1枚ずつしか来ないわけ!? 最低でもギルの礼装が欲しいんだよ俺はァ!」

「……さすがに、ここまでガチャが振るわないと可哀想ですね。前回なんて礼装祭りでしたし」

「確かにねぇ。まぁ、それは研砥のマハトマに対する信仰心が足りだけなんじゃないかしら?」

「だったら今度マハトマについて勉強しますからァ! そろそろ当たりが来てくれませんかねっ!?」

 

 未だにガチャを回し続ける俺に話しかけるのは、去年の夏頃にやって来たジャンヌ(ルーラー)と、キャスターのエレナ・ブラヴァツキーさんだ。二人とも強力な性能向上がされて、再び前線へと戻ることになった。そして、その二人の後ろにもう一人女性がいる。

 

「あの………そもそも、ガチャを諦めて、今いるサーヴァントの育成をすれば良いのでは、無いでしょうか……?」

「正論すぎて何も言えないッ!?」

 

 見るからに重そうな鎧を身に纏い、儚げそうな表情を浮かべている大槍使い。俺が初めて召喚した星5のサーヴァント。ランサー・ブリュンヒルデが小さい声で、けれど的確に俺の心を抉る。ちなみに余談だが、彼女にもようやく幕間の物語が実装され、1年3ヶ月ぶりに彼女の存在を運営が認識したのだと俺は思ってたりする。

 

 

 

 さて、何で俺が今回こんなにも必死にガチャを回しているのか。それは、前回同様『Fate/EXTRAccc』のサーヴァントがピックアップされているからだ。

 星5枠では、今回何故か発生した亜種特異点、『深海電脳楽土 SE.RA.PE』で協力してもらったメルトリリス。何故か味方になって召喚が可能になった今回のラスボス、殺生院キアラ。星4以下は期間限定でパッションリップとセイバー・鈴鹿御前。それからボブミヤとエリザベートとロビンがピックアップされている。されているのだが………

 

「さっきから星3サーヴァントのロビンでさえ来ないんだけど!? 本当にこれピックアップ仕事してるのかよ!?」

「うるさいですね〜。ちゃんと礼装の方は出てるでしょう? 文句を言わずにガチャを回してくれませんか?」

「う〜ん。やっぱり研砥はガチャ運の上がり下がりが激しいなぁ。まぁ、1年も一緒に居たから知ってるけど」

 

 BBに抗議の苦情を叩きつけるも、本人はどこ吹く風。知ったことではないと手に持つ教鞭をクルクルと回す。それに呆れながら反応したのは、今回もラスボスを切り裂いてくれたライダー・ブーディカさんだ。

 

「くぅ! 前回の分から更に石を増やしているというのにまだ誰も来てくれないのか……!! もうこうなったらあれだ! 星4以上のサーヴァントなら誰でもいいから来てくれの精神でガチャ回すか!!」

「いやいやいや! そんな投げやりになっては駄目ですよマスター! しっかり、祈りを込めて回せばきっと応えてくれます!」

「水着玉藻目当てでガチャ回して来たお前が言うかそれを!? でも強化されて良かったな! 頼りにしてるぞコンチクショウ!!」

 

 もはや涙目である。前回の分を合わせれば今で50連目。ここまで回して星4のサーヴァントさえ来ないのはどういうことなどだろうか。正直言ってやってられなくなるぜ!!←orz

 

「で、どうするんですか? ここで諦めますか?」

「愚問だなBB! たとえ爆死するしかないとしても、俺は今回のガチャを最後まで回し続ける! そして最後には(キアラを除く)彼女たちと再会するんだァァァァァァァ!!!」

 

 半ば狂ったように新たな石を投入し、召喚システムを起動させる。聞き慣れた稼動音をBGMに、新たに排出されるサーヴァントや礼装に期待を込める。だが、召喚されるのはやはり星3のカードばかり。というか、今回に至ってはアンデルセンの礼装さえやって来ない。うん、ここまでピックアップがされてないと泣けてくるな!!

 

「くっそ! やっぱりピックアップなんて仕事してないじゃないか!!本当にマジでふざけんなよ!?」

「あはは………っと、あ。『我らが行くは星の大海』……ギルの礼装が出てるよ?」

「…………………………………まぁ、出たからもう終わっても構わないか」

「切り替え早いわね!?」

 

 俺のテンションの上がり下がり速さを見てエレナさんが驚く。いやだって、星5礼装さえ出なかったのにようやく来てくれたんだよ? それもピックアップされている礼装が。なら、もうこれ以上はいいかなって思ってたりするわけで。

 

「う〜し、うんじゃとっとと礼装回収して帰る………?」

 

 10回目に排出されたカードを確認して、とっとと帰る準備をしようとしたその直後だ。10枚目の銀色のカード。アーチャーのクラスカードがバチバチと光を放つ。やがてその閃光は激しくなっていき、黄金色に輝くカードとなる。

 

「お前がマスターか? 酷い面構えだ。まぁいい。これでもアーチャーだ。精々上手く使え」

「ボブがキタァァァァァァァ!?」

「待て、出会って一番目の発言がそれか?」

 

 白い髪をボブ風にカットし、魔改造した二丁銃剣を手に構えた男。ここでは2回目の出会いとなるエミヤ(オルタ)が、そこに出現していた。今回のイベントでもピックアップされているので、出会えたことは素直に嬉しい。だが、折角新規用の種火を貯めておいた俺はというと、少々がっかりしていた。

 

「な〜んだ、黒アーチャーさんじゃないですか。つまんないですねぇ。BBちゃん、キアラさんでも呼ばれてカオスな状況になるのを期待したんですけど〜」

「いや、なんでさ。あぁ、あの性悪女なら恐らく来ないぞ。俺が二人いる時点で、あいつがここに来る可能性は更に下がっているだろうかなぁ」

「そんな無駄な下方修正が!?」

 

 今明かされる衝撃の新事実(大嘘)に絶望しながらも、召喚されたボブにとりあえずお礼を言っておく。正直、新規のサーヴァントが来ないのは少しばかり残念だが、宝具レベルが上がって火力が上がったのならまだマシと言えるだろう。

 

「お〜いマスター。今暇ですかいって。げぇ、BBと接近戦を仕掛ける馬鹿アーチャーがいるじゃねぇか」

「あ、緑茶さんじゃないですか。私の為の秘石集め、終わったんですか?」

「いや、そもそもテメェの為に周回なんて絶対しねぇからな。というか散々パシられてやっただろうが」

 

 嫌なことを思い出したせいか、顔を少し顰めながら入って来たのは、愛用している緑の外套を身に纏った青年。家でもかなり古参の部類に入るアーチャー・ロビンフッドだ。BBとは月の聖杯戦争で縁が出来てしまい、その時から彼女の使い走り役を担っていたらしい。隠れた所で苦労してそうなロビンには似合いの役割だろうと、実は心の中で俺は思ってたりする。

 

「それより、どうしたんだよロビン。何か用でもあったのか?」

「いや〜、別にこれといってはないんですけどね。ちょいとマスターに渡したいものがありまして。つまらない物なんだが、受け取ってくれるかい?」

「は? まぁ、貰えるものはもらう主義だから、受け取るけど………」

 

 白い紙に包装された何かを俺に手渡すロビン。それに何だろうと気になりながらも受け取り、包装されたそれを丁寧に解く。中から現れたのは一枚のカード。緑色の外套で頭まで布を被り、森の中を歩く一人の男性が描かれたカードだった。

 

「概念礼装『顔のない王』。こんなどうしようもない俺を、ここまで使い潰してくれた酔狂なマスターにプレゼントだ。ま、これからもよろしく頼むっていう、俺の意思表示ですよ。本当につまらないものでしょう?」

 

 優しげな表情で微笑みながら、ロビンは膝を折る。それはまるで、物語に登場する騎士が、主に忠誠を誓う一場面の様な仕草で。いつも飄々としているロビンに違和感を感じたけれど、それがとても嬉しかった。

 

「ーーー我がサーヴァント。アーチャー・ロビンフッドよ。俺はお前の事を決して忘れることはしない。俺の方こそ、これからもよろしく頼むな」

「はいはい。俺もこれまで同様に頑張れせていただきますよ。あ〜、それとこれはメイド狐からだ。召喚の足しにしてくれだとよ」

 

 外套の中から虹色に輝く石、聖晶石を取り出して渡すロビン。メイド狐ということは、恐らくタマモキャットのことだろう。彼女はブーディカさんやエミヤと匹敵する料理スキルの持ち主で、今日は、ここにいるブーディカさんの代わりに厨房でその腕を振るっている。

 

「さて、んじゃ今もらった石で単発回して、ガチャを諦めるとしますかねぇ。ここで俺が外れても、どうせ狭間の奴がメルトとか召喚するんだろうし」

「いや、狭間センパイの運命力にも限界があると思いますけど」

「いえいえ、彼は普段はガチャを回しませんが、回したら確実に狙いのサーヴァントを引き当てる運命力を持ってますから。今年に入って星5サーヴァント3人も呼び込んでますし」

 

 あいつ、自分はガチャ運が悪いとかどうこう言ってるけど、単に石が勿体なくて使ってないだけなんだよなぁ。俺が今年に入って呼べた星5は玉藻さんだけだけど、あいつは巌窟王2人とモリアーティの合計3人を呼び込んでいる。というか、あいつも所持してる星5の合計がもうすぐ二桁だから、俺の方がガチャ運が良いって言われても困るんだよなぁ。

 

「つーかもう石が4つしかないし。今回のピックアップガチャはこれで終わりにするわ」

「その方が良いね。あまり金を突っ込みすぎて、この間みたいにムンクみたいになって欲しくないし」

 

 残り少ない石を3つ投げつけ、今回最後の召喚のシステムを起動させる。ここで新規のサーヴァントが来なければ、茶々とかBBの育成をするとしよう。新規のサーヴァントは配布を含むからな!(白目)

 

「ーーー!! まさか、そんな!? この反応は!?」

「? どうかしたのBB? 珍しく焦っている様に見えるのだけれど」

 

 召喚サークルのラインが3つに分かれ、サーヴァントの召喚に成功した直後。BBが有り得ないと言わんばかりに目を見開いた。3本のラインから光が迸り、光の中から一枚のカードが出現する。その絵柄は、黄金に輝く二人のピエロ。今まで見たことのない絵柄だ。

 

「………なんだ、このカード? 見たことのないカードだけど……」

 

 俺の疑問が言い終わるや否や、カードから光が溢れ出し、実体化が始まる。まず始めに聞こえたのは、地面に突き刺した金属音とヒールの音。次に見えたのは黄金色に輝く爪。そして、目の当たりしたのは、長いピンク色の髪と同じカラーの瞳をした少女の姿。俺があの時、SE.RA.PEで最後に言葉を交わした少女。

 

 

 

「愛憎のアルターエゴ。パッションリップです。あの………傷つけてしまったら、ごめんなさい」

「ーーーーッ!?」

 

 

 

 まだ何もしていないのにもかかわらず、こちらに頭を下げてくる少女。それと同時に、あの時のことは覚えていないのだと思い、少しばかり胸が苦しくなる。けれど、それは当然だ。あの時に出会ったリップは既に消滅し、ここにいるのはオリジナルの彼女から分かれた分体。他のサーヴァント達と同じ条件で召喚されているのだから。

 

「えっと………貴方が私のマスターさん、なんですよね?」

「………あ、ああ。そうだ。俺は黒鋼研砥。よろしく頼む」

「はい。ちょっと駄目な所が多いかもしれませんけど、こちらこそよろしくお願いします」

 

 さっきのロビンとは違う、優しげに微笑むリップ。その顔が、その仕草が。あの時の彼女と重なってしまう。そんな事をしてはいけないのだ理解しているのに、それが悲しくて、あの時みたいに視界が滲んでしまう。

 

「………はぁ。まったく、世話の焼けるマスターさんですねぇ」

「あ……お母様もいたんですか? こっちでもよろしくお願いします」

「ええ。それよりリップ。今から記憶の共有をします。良いですね?」

「え? あ、はい。別に問題ないですけど………」

 

 BBがリップに近づき、手に持った教鞭をリップの頭部に触れさせる。すると、教鞭の先に光がともり、リップの中に吸い込まれていった。それから数秒後、リップが驚いた様に目を見開かせた。

 

「え……あの、この記憶は……」

「当然、貴方の物ですよ。まったく、黒鋼センパイはセンパイで。貴方は貴方で世話を焼かせてくれるんですから。あとで何か奢ってくださいね?」

 

 俺にはまったく意味が分からない会話をした後、BBは溜め息を吐きながら召喚場を去って行った。その場に取り残されたリップは、まだ信じられないような顔つきだったが、何かを決意したようにこっちに近づいてきた。

 

「あの……研砥さん、ですよね? あの時以来ですよね?」

「は…………? ま、さか。リップ、お前記憶が……?」

 

 リップの突然の発言に、一瞬だけ思考が追いつかなくなったが、なんとか言葉を返す。すると、彼女は嬉しそうにその表情を変える。

 

「はい! あの時別れた私ではないですけど、あの時の記憶は、今のわたしの中にもあります!」

「な、なんで? だって、お前達は他のサーヴァントとは違って存在しないから、記憶の引き継ぎとかはできないんじゃ」

 

 少なくとも、俺はあの時にBBが言っていた事を覚えている。ここにいるお前達の記憶は残らず、常に新しい存在として現界することになると。俺が疑問を口にすると、どこか困ったようにリップは眉を寄せるも、質問に答えた。

 

「え〜とですね、私たちは元々お母様……BBから分かれて生まれたAIなんです。なので、同型機である人には記憶の共有が出来るんです。研砥さんが帰ってしまった後、あの時の私がお母様に頼んで記憶を共有してもらったんです。いつか、私を召喚できたら、その時の私に記憶を共有してくださいって、お願いして」

 

 散々渋られましたけど、最後はごり押ししちゃいました。困ったように笑いながら、けれど満足そうにリップは笑う。重なって見えていた物が重なり、その笑顔がとても眩しく見えた。同時に、耐えようと必死に堪えていた涙腺が完全に決壊する。

 

「くっ、ッ〜〜〜!! う〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

「あ〜〜〜はいはい。ほら泣かないの研砥。せっかく記憶を持ったまま召喚できたんだから、歓迎してあげないとでしょ?」

「わがっでるよ゛!! ぞんな゛ごどはわがっでる!! でも、ぞれでもうれじいんだよ゛ぉ!!」

 

 ボロボロと大粒の涙を零して、情けなく声をあげて泣きじゃくる。普段の俺では決してしないようなことだが、今回ばっかりは、彼女との再会が嬉しかった。俺のことを真剣に考えてくれた彼女と、こうして再会できたことが。

 一通り泣いた後、ようやく落ち着いた俺はリップに向き直る。できる限りの笑顔を浮かばせながら、歓迎の言葉を紡ぐ。

 

「ーーー改めて言わせてくれ。ようこそ、パッションリップ。これから、力も知恵も無い俺に、手を貸してくれ」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いしますね! マスター!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         オマケ

   ーーーー似て非なる存在ーーーー

 

「………貴方が、私の力のオリジナルになった方、なんですよね?」

「ーーーはい。どうやら、その通りの様です。パッションリップ。複数のサーヴァントとの結合体」

 

 夜も更け、マスターである黒鋼研砥は既に寝静まり、殆どのサーヴァントも寝ている時間帯。そんな中、訓練用のシミュレーター室には二人の影があった。

 片方は黄金色に輝く爪を持ち、大きすぎる胸が特徴な少女。つい先日召喚されたエクストラクラス・アルターエゴ。パッションリップ。もう片方は、自身の身の丈以上の大槍を構える、幸薄そうな女性。研砥が初めて召喚した星5のサーヴァント。ランサー・ブリュンヒルデ。

 

「あの、私がお願いしておいてあれなんですけど、本当にいいんですか?」

「別に、構いません。貴方の元となった私と戦い、自分の持つ力を高めたい。それは結果として、マスターの、研砥の力になることですから」

 

 リップは爪を、ブリュンヒルデは大槍を滑らかに構える。互いに一呼吸をした後、二人の立っていた床のタイルが割れる。直後、甲高い金属音が室内に木霊する。リップの爪とブリュンヒルデの槍がぶつかり合い、大きな火花を散らす。

 その後も彼女達は何合も打ち合い、互いに距離を開けた後、ブリュンヒルデが不思議そうに口を開いた。

 

「一つ、聞いてもいいでしょうか」

「はい? え、え〜と、私に分かることなら、聞いても大丈夫ですけど………」

「いえ、とても気になったことがあるので。ーーー貴方は。何故、そこまでして、マスターの力になりたいと思うのですか?」

 

 ブリュンヒルデが尋ねたのは、彼女の本質からは考えられないこと。北欧の大神、オーディンの命により、彼女達、戦乙女達は何人もの英雄を導き、勝利を授けた。だが、最後には必ずその命を奪い天界へと送り届けてきた。

 その伝承が元となったのが彼女の宝具。『死が二人を分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)』だ。彼女の持つ愛が対象に対して強ければ強いほど、彼女の持つ槍は大きく、強い力を発揮する。その力の一部が、パッションリップに組み込まれている。つまり、彼女がマスターである研砥を思えば思うほど、その特性が災いして研砥を殺したくなるはずなのだ。その殺人衝動を、彼女はどうして抑えれるのか。それが、ブリュンヒルデには理解できなかったのだ。

 

「そう、ですね。私も、ここに来るまでは貴方と同じように、愛に対して強い執着を持っていました。………でも、私はある人に出会えたんです。あの頃の私にでも、怪物みたいな私なんかでも、普通の女の子だって言ってくれた。そんな優しい人と」

 

 リップが思い返したのは、月の裏側の記憶。BBから分かれて生まれ、自意識を持ったばかりの頃の彼女の記憶。愛に飢え、自己的な愛ばかりを求めていた頃の、怪物と呼ばれても仕方がなかった頃の自分。

 彼/彼女と、彼/彼女に仕えたサーヴァントを傷つけたけれど、それでも許してくれた。そんな優しい少年/少女と出会えた時の記憶。その時、ようやく『愛』の何たるかを理解した。直後、殺生院に取り込まれてしまった。けれど、もし次の機会が。次に誰かと触れ合う時があるのなら、今度は誰かを守る為にこの力を振るおうと決めたのだ。

 

「この爪は、この力は愛憎の為に振るうものじゃなくて、愛したものを『護る』為に振るんだって、そう決めたんです」

 

 かつて、ブリュンヒルデと同様に『死が二人を分断つまで』と呼んでいた力は、『死が二人を別離つとも』に変化した。今のリップは、自分の異常性を理解している。だからこそ、今度は誤ちを繰り返さないよう、後ろからマスターである彼を支えようと決意したのだ。

 

「そう、ですか。………それは、きっと、喜ばしいことなのでしょうね。少し、貴方が羨ましい、と思ってしまいました」

「大丈夫ですよ。ブリュンヒルデさんだって、きっとそういった人と出会えます! ここに貴方がいるのだって、研砥さんに力を貸したいと思って、ここにいるんですよね?」

「………そう、ですね。ええ。私もまた、今度こそ『護りたい』と願った。だからこそ、私はここにいる」

 

 その言葉を最後に、彼女達は互いの武器を構える。彼女達が護りたいと願った人を、護りきる為の力を研ぎ澄ます為に。彼女達は今日も力と技を鍛え続けるのだ。




ここまでの既読、ありがとうございました!

誤字・脱字や気になる点がありましたら、感想かメールを送ってください!
それにしても何とか首の皮一枚繋がった感じですよねぇ。今始まって900万ダウンロード記念ガチャ。回すべきか回さざるべきか……むむむ、少し悩みますね。

次回は6月の二週目までに、本編を更新します!お楽しみに!!

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