ブーディカさんとガチャを引くだけの話   作:青眼

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今更ながらの術ネロガチャ報告ゥ!
令和初のガチャ報告はっじまるよ~~~~~!!!


決して枯れる事のない希望の花と夢

「―――そういえば、ついに水着ガチャ復刻か。今思えば長かったなぁ」

「うむ! 去年は引くことが出来なった水着の余! 今年は絶対に引くのであろう?」

「勿論だ。その為に石貯めたりそれなりに貯金したりとかしてたんだからな」

 

 ぼんやりとスケジュール表を見ながらそんなことを呟く。それに返すかのように純白の衣装に身を包んだ少女が朗らかな声を上げ、男はそれを微笑まし気に見ながら今まで貯めておいた聖晶石と万札を確認する。マスターのマイルームであるこの部屋には多くのサーヴァントが立ち寄ることがある。今回は偶然目の前の少女、ネロ・ブライドが居たのだが。今思えばこの出会いからあの事件が起こる原因だったのかもしれない。あらかじめ用意しておいた万札の半分を躊躇うことなく聖晶石に変え、両手で抱えるにしても多すぎる聖晶石を二人並んで召喚場へと運ぶ。その最中、鼻歌交じりで見るからに上機嫌なブライドを見てマスター。黒鋼は何がそんなに嬉しいのだと尋ねる。

 

「やけに上機嫌だな」

「それもそうである! 何といっても水着の余は、この花嫁姿の余が水着へと着替えた姿! つまり、余が新たなクラスと宝具を会得できるのだぞ!? これで人理再編を行うマスターをより一層助けられるというもの。これからもよろしく頼むぞ!」

 

 輝かんばかりの満面の笑みを浮かべるブライドを見て、そういう考え方もあるのかと黒鋼は納得する。白を基調とした衣装に身を包んでいるせいか、彼女がどこか儚げに見えてしまうというのもあるのだろうか。いずれにしても、去年は召喚出来なかったキャスターのネロを召喚するというのは既に決めていたこと。故に、躊躇うことなくその石を召喚サークルへと放り込む。

 ―――それが悲劇の始まりだと。この時の俺は気づいていなかったのだ。沖田オルタを引こうと頑張ったが、アキレウスという星五サーヴァントを引いた時点で撤退した。それ自体は素晴らしい事だ。だが、諦めなければ夢はかなう。道が続くなどというのは所詮まやかしに過ぎない。その結果がこれなのだから。

 

 

 

「―――――――がっ、あ…………?」

 

 聖晶石召喚。それはこの世のものとは思えない確率論によって支配された悍ましき世界によって決定付けられたこの世界の真理。そう、全ては確立によって決定されるのだ。狙い目のキャラクターの出現確率が低ければ、可能な限りガチャを回して引く。とどのつまり回転数こそが正義であるという頭の悪いガチャの回し方をすればどんなキャラクターも引けるだろうと高を括っていた。だからこそ、これは俺にとっての罰なのかもしれない。

 ――――トータル150連召喚による、☆4以上のサーヴァントの召喚反応0。絶望的なまでの『確率』という壁が、脅威が黒鋼達に向けて牙を剥いたのである。ここぞというばかりに、今度こそ召喚するのだと息巻いたキャスター・ネロを召喚するために始めたガチャ。だが、その結果はなんと無残なことだろうか。己の金を以て存分に課金できるという喜びを知ったからこそ、今回の大爆死は彼の心を幾千もの刃で切り刻むが如き激痛へと変わる。その痛々しい背中を見ていられず、ブライドが悲嘆の声をあげる。

 

「もうよい、もうよいのだマスター! これ以上、余の為にその体をすり減らすでない! その姿は、あまりにも。あまりにも――――!」

「ブライドぉ………なんて、声、出してやがる? 俺ぁアトラス院のマスター、クロガネ・ケントだぞぉ? こんくれぇなんてこたぁねぇ」

「だが!!」

「いいから回すぞ! キャスターのお前が、待ってんだ―――――」

 

 流れるように諭吉を消滅させ、新たに錬成した聖晶石をサークルへと投げ込む。それを見たブライドが止めようと後ろから駆け寄るも、まるで予見していたかのように黒鋼は足をもつれさせながら器用に避ける。サクサクと終わっていく召喚だが、未だにキャスタークラスのサーヴァントが召喚に応じる事は無い。絶望的なまでに召喚する可能性が潰え、久しぶりの難敵と落としどころが見えない戦いに苦い笑みしか思い浮かべることが出来ない。

 そんな中ふと考えた。己は一体何のために彼女を召喚しようとしているのかを。そんなことを思う自分を客観的に見て、自嘲の笑みを浮かべて新たに聖晶石を放り込む。

 

黒鋼研砥は一体何のためにガチャを回しているのか?

そんなことは決まっている。召喚しようとしている彼女のことを好いて。愛しているからだ。宝具レベルを極大にまであげることをせず、一人でも引くことが出来ればと妥協しても。そのサーヴァントへの思いは他の誰にも負けないと思っているからだ。だからこそ、どれだけ絶望的な状況でも。どんなに愚かだと言われようとも。

―――――黒鋼研砥という男は、己の心に決めた戦から逃げる事だけは決してしない。

 

「俺は止まらねぇからよ。聖晶石が続く限り………その先におれはいるぞォ!!」

 

 自分に言い聞かせるかのように、周りに聞こえるように出来る限りの声を出して彼は吼える。たとえどれだけの理不尽を強いられようと、周りの人間を祟りたくなるほどに精神を拗らせても。最終的には全て己の為に召喚を続けて行くのだと自嘲しながら。

 だが悲しいかな。志が高くとも、既にその体は満身創痍。幽鬼のようにふらふらと立っていた黒鋼は、遂にその体を地に着けた。それと同時に己の意識が遠くなっていく感覚に気付きながらも、それが途切れるギリギリまで手をサークルへと伸ばす。

 

「だからよ……………………止まるんじゃ、ねぇぞ………………?」

 

 満足したかのようにそう言い残し、黒鋼は遂に意識は闇の底へと堕ちた。燃え尽きて真っ白になった某ボクサーのように、何かしらの充実感をその身に感じながら彼は斃れたのであった。

 

 

――――――――――――――――――fin――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「って、何勝手に完結させとんじゃ己はァ!! こんなところで止まれるか戯けェ!!」

 

 屍の如く床に倒れ伏した黒鋼が声を荒げながら立ち上がる。さっきまで某機動戦士シリーズの某団長の様に死亡フラグを建築していたのにも関わらずこの復帰力。それだけでも彼が今回のガチャにどれだけ思い入れを以て回しているのかが窺い知れる。

 だとしても、これまでのガチャで150連大爆死という事実が彼の肩に重く伸し掛かる。前に書いた通りガチャというのは所詮確率論。それに打ち勝てる時もあれば、とことん敗北する時も起こり得る。故に、ここぞというこの一世一代の大場面で可能な限りの意思のストック、それから聖晶石に還元するために諭吉も用意した。沖田・オルタガチャを引ききるまで回さず途中で撤退したのも、全てはキャスター・ネロを引くための布石。だというのにもかかわらず、ここに来て黒鋼のガチャ運が一気に低下した。これは、黒鋼にネロを引かせたくないという主の意思か。だが、その程度の妨害で立ち留まれるほど。黒鋼の精神は脆弱の物ではなくなっている。

―――何故なら、今の彼の作戦行動はたった一つ。物欲センサーという壁が目の前に立ちはだかるのであれば、聖晶石の数に頼って殴り続ければ良い。某大人気RPGゲームよろしく『ガンガン行こうぜ!』状態なのだから。

 

「まだ俺のガチャフェイズは終了してないZE! ロリンチィ! 新たな聖晶石を用意しろォ!」

『全く、こっちとしては商売繁盛だから有難いけどね? 聖晶石はとっても貴重な物って分かってるのかい?』

「そんなことはどうでもいい! 俺にネロをYO☆KO☆SE!」

『う~んこの頭バーサーカー! ま、引き留めはしないとも。君に幸運がありますように☆』

 

 煽っているようにしかきこえないダ・ヴィンチの声援を通信越しに聞き、黒鋼の手元から万札が消失する。その対価として大量の聖晶石が出現し、彼はそれを躊躇うことなく召喚サークルへと放り込む。

 

「俺は止まらねえ………止まってたまるか……! やっとだ、やっとここまで来たんだぞ!! 何するものぞ、物欲センサァァァァァァァァ!!!!」

 

 人類悪やクリプタ―達と対峙した時もかくやの如き怒号を上げながら、黒鋼は怯むことなく召喚を続けていく。時に嬌声を上げながら、時には狂いながら、またある時は心を無にして。

 だが、この時はまだ彼らは知る由も無かったのだ。地獄はむしろ、ここから始まるということに。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「―――――――だからよ………止まるんじゃねぇぞ…………?」

「………マス、ター? い、一体何があったというのだ!?」

 

 それから数時間の死闘。それをただ一人で行い続けた彼はその精神を崩壊させていた。だが、それは決して連続した召喚の失敗したからではない。では、何を以てして彼の精神を崩壊させてしまうような悲しい事件が起こってしまったのか。 

 ―――初歩的なことだ、読者の諸君。召喚行為、ガチャという行いは召喚される確率が少なからず向上させているサーヴァント以外にも常に召喚されることを待機している者達も存在する。たとえそれが最高位の英霊を召喚する際に迸るエフェクトで、かつそれが己の呼び寄せたいクラスのサーヴァントであったとしても。同じクラスでありながら別のサーヴァントが召喚されるということも稀にある。しかも、それが二度も続けば少なからず精神を病む者は存在するだろう。それを証明するかのように、二人のサーヴァントがとても申し訳なさそうにマスターであった者の成れの果てを見ない様に心掛けていた。

 

「い、いやぁその、ですね? こう、ぱぁっと光が迸ったと思ったらこちらに呼ばれていたと言いますか何と言いますか。私としてもマスターの狙っていた方の邪魔をしたいだなんて思うはずないですし? こ、これは俘虜の事故です! 私達にはなんの罪もありませーん!」

「その通りだ玉藻の前。私達はあくまで召喚行為に釣られてこの場に呼ばれただけのこと。たとえそこで屍となっている男が呼び寄せようとしたのが、我々と同じ最高位のキャスターで。その結果として我々が召喚されるというのは事故に過ぎない。確率論なのだから、この結果は甘んじて受け入れ――――」

「黙らぬかこの大馬鹿者共め! 余は、余はとても悲しいのだ! 余の為に尽くし、余と共に生き、余と共に戦い! そして、余を受け入れたマスターが! 余のキャスタークラスを求める為に汗水垂らして貯めた財を投げ払ったというのにだ! それが報われぬなど、おかしいではないか! 貴様等が味方でなければ、我が剣の錆にしている所だぞ!」

 

 生きる屍と化した黒鋼の体を抱きかかえながら、ブライドが目の前に立つ二人を仇と言わんばかりに睨み付ける。その強烈な視線に二人は罪悪感に駆られ、何より自らの夫になるやもしれぬ物を傷付けられた乙女の怒りと憎悪が入り混じった殺気に充てられ、目の前にいるのは本当にサーヴァント一騎だけなのだろうかという疑心に陥る。倒れ伏した黒鋼は、自身を抱き留めるブライドの手をやんわりと退けながら、ふらふらと頼りない足取りで再び立ち上がる。

 

「ま、マスター? もうよい、もうよいのだ。水着の余を呼べぬのは残念だが。だが! これ以上は今年の水着イベントにも支障が出るであろう!? そのように体を張ってまで、余を求める必要など――――」

「―――――少し、黙ってろ。ブライド」

 

 彼の事を思いブライドが必死に説得を試みる。だが、黒鋼はそれを容赦なく聞き捨てた上で令呪を用いて強引に黙らせる。その事に面を喰らったブライドだが、ハッと我に返ると悲しみの余り瞳を潤ませる。己を好いてくれている女の子を泣かせてしまった罪悪感が黒鋼の胸に深く突き刺さるが、疲れ切った顔に無理矢理笑みを浮かべる。

 

「ごめんな。でも、こうでもしないと。立ち止まりそうだからさ。……逃げ道なんて、要らないんだよ」

「――――――――ッ!!」

 

 無理して笑うその表情はとても儚くて、黙らされたブライドは言の葉でダメならばとサーヴァントの膂力を以て止めるべく疾走する。距離にして数メートル、その程度の距離はその気になれば一足飛びで縮まる。文字通り閃光の如く疾走するべく足に力を込めた瞬間、ブライドを中心として石の柱が突き刺さる。共に戦ってきた強力な宝具が己に向けて放たれたということを実感すると同時に、届かない黒鋼の背に向けてその手を伸ばす。

 

石兵八陣(かえらずのじん)……ほんと、最近の俺は変わったよなぁ? あれだけ忌避していた孔明を躊躇うことなく使うし、周回にだって連れて行くようになった。ああ、我がことながら呆れ果てるほかにない。散々キャラクター愛だのなんだのと豪語した割に、結局は強キャラに頼って攻略してるんだからな」

 

 懺悔をするかの如く黒鋼は独白する。それは今まで否定していた己のスタイルに対する批判であり、侮蔑の意を含めた嘲笑だった。だが、どうしてその言の葉を紡ぐ声は悲しげなのか。己に言い聞かせるように一つ一つの言葉を思案し、それを繋げていく様は何とも痛ましい。

 

「だが、それでも。俺は、俺達はもう止まれない。止まるわけにはいかないんだ。漂白された汎人類史を取り戻す為にも、更に力がいる。その為ならば禁じ手と封じてきた強キャラ使用も受け入れるさ。だが――――」

 

 召喚が終わり、何度か高ランクのサーヴァントの反応を感知したが本命は未だ呼ばれる事は無く。それを事務的にこなしながら新たな召喚を執り行う。一度言葉を切り、何を言おうかと天井を見上げて思案する。何を言えば良いのだろうか、何を思えば良いのだろうかと遠のいていく意識をかき集めて。数分かけてようやく思い至った彼は、後ろで柱を壊そうとする少女に顔を見せながらそれを言い放つ。

 

 

 

 

 

……………好きな子は、召喚したかったかな―――――――?

 

 

 

 

 

「この、大馬鹿者め。余も、余も散財するが、ここまで。ここまでするなどよっぽどの阿呆だ。この、この――――!」

「あははは………。ま、まあそう言うなよ。得る物はあったんだから」

「それはそうだけど、私としても嬉しくないなぁ。というか、なんでネロ公なんかの為にそこまで散財したの……」

 

 場所は変わり、新たな拠点となった施設のシミュレーションルームで一つのグループがエネミーを蹴散らしている。その中でも司令塔である黒鋼は自分についてきたサーヴァント達に指示を出し、彼らはその指示に従いながら敵を殲滅していく。その中でも黒鋼の護衛を務めるのは彼の最高の相棒であるブーディカと、大太刀を肩に担いだブライドの二人だ。

 

「いや、去年どう頑張っても引けなかったから悔しくてつい……バイトも初めて懐に余裕が出てきたらつい……」

「ついで諭吉さんをぽいぽい投げちゃ駄目でしょ。まあ、君が貯めたお金だから私がとやかく言うのは筋じゃないけど、あんまり感心しないなぁ」

「ブーディカよ。あまりマスターを苛めてくれるな。元はといえば余のレアリティが最高値なのが悪いのだからな。だが、余は人気者故あのレアリティは仕方ないのだ……」

「あぁキャスターになれるんだっけ? よし、ちょっと試し斬りしようかな~」

「ぶ、物騒な物を向けるでない! いかにスキルでクラス相性不利を消せるとはいえ、貴様のローマ特攻はそれなりに響くのだからな!?」

 

 にっこりと笑いながら近寄るブーディカを見たブライドが黒鋼の背に隠れる。その事に彼は苦笑し、ブーディカは溜め息を漏らしながら近寄ってきた敵に向けて剣を振るう。流れ弾は車輪の盾を呼び出して防ぎ、器用に戦場の合間を縫うように舞う。赤い髪をたなびかせ、純白のマントをはためかせる姿は優雅の一言に尽きる。

相変わらず綺麗で戦上手な人だと思い直していると、後ろに隠れたブライドが黒鋼の袖を引っ張っているのに気づいた。まるで何かを急かす子供のように上目遣いで無言のおねだりをされた黒鋼は、一瞬あまりの可愛さに胸がときめきそうになる。だが、持ち前のポーカーフェイスを駆使してそれを堪え、前衛で戦っていたある人を呼び寄せる。

 

「お呼びですか、マスター?」

「ああ。前衛で戦ってて申し訳ないが、少しブライドにバフかけてくれるか」

 

 腰にまで伸びた紫がかった黒い髪、旧時代の女性が着ていたような学生服を着込んだ女性。愉快そうに笑いながらヨーヨーと愛刀に紫電を纏わせ敵を駆逐する様は鬼神如し。本来はバーサーカーではあるが、例によって水着イベントでクラスがランサーに変わった源頼光は二つ返事で了承しブライドの攻撃性能を強化していく。

 

「にしても、まさか頼光さんまで召喚できるとは思わなかった。気分転換でメイド・オルタの方を回したら一発で来てくれるんだもの。あの時はびっくりして目が点になりましたよ」

「あら? 母が来るのは嫌でしたか?」

「いや別に嫌ってわけじゃないけど。なんだかんだで結構引けてるんだなぁって思っただけだよ」

 

 今回は召喚数が余りにも多く、召喚して呼び出したサーヴァントを表示していたらきりがないのでかなり省略したが。ピックアップ対象の☆4のサーヴァントだけでなく、孔明といった☆5のサーヴァントも多く召喚している。散々すり抜けた上に、召喚しようとしたサーヴァントと同じクラスなどという胃が痛くなるような召喚だったが。先も言った通り得る物も確かにあったのだ。目の前の頼光の様に水着というよりスケバンと化した別枠のサーヴァントも少なくはないが、眼前にいる有象無象を薙ぎ払うにはさしたる関係はないだろう。

 

「さて、と。お膳立ては済ませた。あとは文字通りお前の独壇場と行こうぜ、ブライド!」

「うむ! この日の為に用意した余の晴れ姿! しかとその目に焼き付けるが良い!」

「それでは、私は前線に戻り後退するように伝えてきます。影の風紀院長として、あのような下賤の者は許しておけませんので」

「お、おう。無理だけはしないでくださいね」

 

 にっこりとした笑みを浮かべながら、再び紫電を纏わせながらヨーヨーを相手にぶつけては愛刀で胴を斬り裂いていく。嬉々として返り血を浴びながらもゴブリンたちを屠っていく殲滅力に流石は源氏の侍大将というべきか。それとも恍惚とした表情で虫を駆逐していく様子に恐怖すべきか悩んでしまう。完全に動きが戦闘狂のスケバンのそれだなと呆れていると、ブライドが今か今かと南京錠の付いたライダースーツのチャックに手をかけていた。その様子に犬が尻尾を振っているんじゃないかと思ったが、待ちきれないという意味では黒鋼も同じだ。端末で味方の前衛がある程度後退を済ませたことを確認した後、彼は嘆息しながらも後ろに控えた皇帝に命じる。

 

「準備完了だ。どでかい花火を打ち上げようぜ、ブライド!」

「うむ! では刮目するがいい! これが、余のマスターが用意した特注礼装。名付けて、劇場礼装であるぅ!!!」

 

 刀身を純白に染めたネロ達の愛刀。“原初の火(アエストゥス・エストゥス)”を天高く放り投げる。それと同じくしてブライドの身に纏う衣服や髪留めが姿を変え、新たに獲得した霊基(・・・・・・・・・)が露わになる。南京錠の付いたライダースーツはゆったりとしたサマードレスに。白い生地のせいで透けているのか、その下に付けた赤と白の水着がうっすらと見えるのは何とも艶めかしい。いつもは纏めている金髪は珍しく下ろしており、見目麗しい金の奔流が如き長髪が肩にかかる。宙に放られた愛刀はその刃を赤く染め直し、地に突き刺さると同時に奇怪な魔方陣が展開される。

魔方陣から閃光が迸ると同時に展開されるのは白い花が舞う美しき劇場ではなく、海の上に佇むコロッセオではない比較的オープンな劇場。加えて、なぜかアルテラという白いヴェールを被った女性が持つ歪の剣。“軍神(マルス)の剣”を携え、ビキニアーマーを装着して翼を生やしたネロの像が中心となっているという「まるで意味が分からんぞ!?」と叫びたくなるような要素過多で構成させた不思議空間が展開される。いつ見ても突飛な空間だなと黒鋼が呆れていると、満面の笑みでドヤ顔を披露しながら腕を組むブライドの姿がある。今回のイベントの向け、自身が貯めこんでおいた資材やコネクションを用いて改良した劇場の良さが気に入ったのか、それとも彼女自身がこの宝具を使うことが出来る事に喜びに震えているのか。どちらにせよ、満足げに高笑いをしながら組んだ腕を前方で溺れている敵に向けて伸ばす。

 

「わーはっはっは! さぁ行くぞ、我が奏者(マスター)よ! 新たな力を手にした余の活躍を見よ! 敵前方に向け、全段発射! 撃てーーーーーい!」

「ふははははははは! 粉砕! 玉砕! 大喝采ィ!!」

 

 パイプオルガンの様に設置された劇場から紫色のビームの雨が降り注ぐ。無数の光弾が縦横無尽に敵を薙ぎ倒し、蹂躙していく様は快適という一言に尽きる。紆余曲折はあったものの、無事に新たな力を宿したネロ・ブライド(キャスター)の力はこれからの闘いに大いに期待できる。だが、とりあえず。今は目の前の彼女と共に存分に夏を満喫することにしようと、黒鋼は己の欲望に素直になるのであった。

 

 

 

~~~オマケ(術ネロ召喚の瞬間)~~~

 

 

 

「どうして……どうして出ないの? あ、アリエナィ………」

「ん~……今までなんだかんだ五十連くらいで☆5サーヴァントとか、目当てのサーヴァントを召喚出来てたからなぁ。その揺り戻しが今になって来てるの、かな?」

「だからといってこれはない。これはない。何故、何故同じ最高位のキャスターを二人も召喚しておきながらどちらもすり抜けなのか……! こんなのってないよ! あんまりだよ!! こんなの絶対おかしいよ!!!」

 

 結局、途中で心の折れた黒鋼は後日改めてキャスター・ネロの召喚に挑んでいた。この時の為に温存しておいた財を投げ放ち、片っ端から召喚していく様は狂気すら感じる。事実、すり抜けているとはいえ周回性能を強化する諸葛孔明や、高難易度等で味方の体力やNP供給等をしてくれる生命線である玉藻の前といった優秀なサーヴァントが召喚されている。普段の彼ならばどちらか片方が召喚された時点で諦めていただろう。それでも、今回だけは諦めることが出来ないと諭吉を石へと変換させ、次から次へと召喚していく。それは何故か。答えは決まっている、彼がそうすべきだと己の心が命じているからだ。

 

「俺はずっとこの時を待っていた! 沖田オルタも欲しかったし、他のイベントガチャも沢山回したかった! なんなら宝具レベルも上げなたいさ! だが、それでも。それを捨て去ってでも――――!!」

「キャスターのネロ公が欲しいと。私としてはあんまり歓迎したくないんだけどなぁ……」

「そ、その辺りは本当にすまないとは思ってる。ブーディカさんにとって敵であるローマを増やそうとしてるんだからな……」

「あ~いや、別にそこまで改めなくても。それに私はもう割り切ってるしね」

 

 ブライドの派生として新たに霊基を得たキャスター・ネロ。当時、ブーディカの故国であるブリタニアを襲ったローマを統治していたネロは彼女にとって討ち倒すべき宿敵である。だが、英霊となってその時の臣下が暴走して自国を襲ったという事実を知ってしまった彼女はそれを少なからず受け入れて今ここに居る。何より、ここには二人のネロが存在しているが。何故か赤いいつものネロには当たりがキツく、ブライドのネロには少しだけ甘い感じがある。その辺りの差別には何か意味があるのだろうか。

 

「そういえば、ブライドと赤いネロに違いとかあるのか? こうして言ってみればアレだが、どちらも元は同じネロだろ?」

「大いにあるさね。赤いネロ公は私の知ってるあの時のネロ公だ。最期まで自分という劇を演じ、一人で死んで、そこから新たなマスターを得た。でもブライドはそうじゃない。アレはまだ何かに追われてるというか、どこか危うさを感じるんだよね。まるで、何かに魅入られているというか。呪われているというか………」

「―――それって、もしかしてネロがバビロンの妖婦ってのと同一視されているのに関係が?」

 

 バビロンの妖婦。キリスト教に登場する悪魔の名で、ローマを統治していた当時のネロはキリスト教を迫害していたこともありその名で呼ばれることもあるらしい。その他にも多くのサーヴァントがネロの事を注視している節や、一歩間違えれば魔王や悪に染まってしまうだろうと揶揄している場面がある。

 そして、それはブーディカにとっても同じだ。ローマ憎しの一念で何百何千何万とローマを殺し、蹂躙し、殲滅した彼女はその残虐性に特化した霊基で顕現する可能性があるのだから。もしかすると、ブーディカの持つローマに対する強い感情が不安定なブライドを危険視しているのかもしれない。

 

「それを断ずることは出来ないけど、これだけははっきりと言えるよ。何だと思う?」

「…………ネロが、ブライドが邪道に堕ちるも悪に染まるもマスター次第ってことか?」

「勿論、それもあるよ。でもね、私が言いたいのはそれだけじゃない。ほら、あの時に彼女こう言ってたでしょ? 憎み合うしかない私とネロ公が、共に戦車を走らせるような戦友になりたいって。正直、あれを聞いた時は何を馬鹿なことをって思ったよ。でも、今は足を揃えて同じマスターの元で戦ってる。なら、そういうこともあるんじゃないかって。

ブライドの事は心配だよ。だからこそ、彼女は。私達が守ってあげないと」

 

 どこか思いつめたように胸に手を当てながら、誓うようにブーディカは呟く。その事に黒鋼は少しばかり息を飲むように目を丸くする。第二特異点の頃でもネロに対しては鬱陶しいと思う感情は強かったが、長い付き合いになったとはいえ彼女を護ろうと言った。それは、きっとブーディカという英霊の根幹に関わる重大な変化なのだと思ったのだ。それを自覚するけれど、この思いを言葉にすることが出来ない。作家系のサーヴァントであればもっと上手い言葉を選べるんだろう。だけど、そこまで言葉が回らない黒鋼は漠然と思った事を告げる。

 

「―――そうだな。うん、俺たちで守ってやらないとな」

「うん! あ、研砥! 虹回転だよ!」

「クラスは………キャスターか! それに、何となくだけど分かるよ。これは―――」

 

 召喚サークルが虹色に輝く。黄金の魔術師が描かれたカードが出現する。眩い光を伴いながら姿を現す金の髪の少女に二人は笑顔を以て迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 





この後滅茶苦茶種(火)漬けした。


はい、というわけで術ネロガチャ篇でした! 最近忙しすぎて執筆する暇がねぇ!!(白目)
今回は多分、過去最高にガチャガチャした回だと思いましたね。本当に回した回数多すぎて把握してないですもん。
序盤は130連☆4キャラ0という絶望を味わい「止まるんじゃねぇぞ……orz」と就寝。木をとりなして課金して見れば孔明出たり玉藻出たりで本当にピックアップしてんのかよ馬鹿野郎!!! って叫びたくなりましたね。途中で星四のキャラクターはホイホイ出て来るのに本当に嫌気がさしましたよ。
 所詮は確率論、期待値なんてものは飾りなんだなってね。けど、その果てに俺は無事にキャスター・ネロ引き当てた! もう出た瞬間は大学内だったのにちょっとガチ泣きしまたしたからね!
 なんだかんだ術ネロ引けて。まあ諭吉が4、5人分の聖晶石とかその他諸々失ったけど、得る物は確かになったんだなって。あ、槍頼光さんは石は貯めてたけど、呼符ガチャしたら来てくれました。………色々と詰まりすぎなのでは?

というわけで、色々とありましたが術ネロガチャ篇これにて閉幕で御座います! 次回はやっとこさ異聞帯第二章の、ゲッテルデメルングガチャ篇。ブリュンヒルデが好きだった俺には遂に実装されたシグルドに歓喜! 加えて担当する方はあの津田健次郎さん! これはもう一人の遊戯王ファン、そして決闘者として引けぬ戦い! ………あれ? 引けない戦いおおすぎなのでは?(白目)
 何はともあれ、異聞帯第二章ガチャ篇も頑張って執筆します! これからも至らぬ私を「許してやるよォ!!(cv.ナポレオン)」って方は次回もよろしくおねがいします! 
それではまた次回でお会いしましょう!!


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