ブーディカさんとガチャを引くだけの話   作:青眼

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 ほい、ぼちぼちガチャ報告の方から更新していきますですよっと。いやぁ、もう暑いしテストあるしEXTTELA Link楽しいし執筆しなきゃだし忙しいですわぁ! 多忙で死ぬよほんと。 ってか、なんでテスト期間中なのにバイトしてんの私? アホ? アホなの? でも三周年とか水着とか欲しいの多そうだしお金稼ぎたいから仕方ないよネ!
 さて、今回は今更ながらな新年ピックアップガチャとなっております。ただ、回した数が数なのでなんと豪華二本立てという名の長文になっております。時間も時間ですので、自分に合ったペースでお読みくださいませ。








P.S!!
異聞帯についても少しだけ触れるよ!


鐘は鳴り響き白鳥は舞う

『…………どうしてもダメかね? これは君にとっても得があることだと私は考えているのだが』

「何度も言わせんな。そして、口ではそんなことを言っているが。あんただって本当は理解してるんだろ?」

 

 薄暗い闇の中。その闇に紛れて電話をする影が一つ。時刻は既に深夜を回っており、子供や一般の職員ならば寝ている時間帯。だが、そんな時間帯にもかかわらず部屋の外はとても騒がしい。戦闘音や悲鳴が聞こえており、時に爆発音でさえ起こる始末。そのことに電話先の相手は愉快そうに鼻を鳴らす。

 

『そうか。残念だ、君さえ良ければ私たちの同胞となることも不可能でもなかっただろうに』

「はっ、こっちの状況を知っておきながら愉快に電話してくるドSが言ったって信用ならんわ。まあいい、要件はそれが最後か? この端末は後で破壊するから、遺言代わりに聞いてやるよ」

 

 彼を知る人から見れば、きっとらしくないと口を揃えて言うだろう。それくらい、今の彼は。黒鋼研砥は電話先にいる男と、男が与している仲間たちに殺意を抱いている。それは彼やその仲間たちを侮辱されたからではなく、純粋な怒りによるものだった。彼の言ったことに苦笑したのか、含みのある笑みを浮かべたように嗤いながら男は最後の言葉を紡ぐ。

 

『では最後に言わせてもらおう。これより、我々クリプタ―と君たち汎人類史との全面戦争が始まる。喜べ少年少女たちよ。君たちの戦う理由は今、生まれた。存分に……思うがままに殺し合うがいい』

「言ってろ。そっちこそ覚悟しておけ。俺達が取り戻し、あの人が願った平和を。未来を無に帰した貴様らは断じて許さん。せいぜい慢心しないようにと伝えておけ」

 

 必ず叩き潰す。ゾッとするくらいに低い声で呪うようにその言葉を付け加えてから、黒鋼は通話を切る。直後、貯めこんでいた怒りをぶつけるように端末を床に叩きつけ、何度もそれを踏み潰す。基盤が見え、少しだけ火花が飛び散ろうとそれを物ともせずに。原型を留めることが無いレベルになるまで何度も何度もそれを踏みつける。こんなことをしても何もならない。そんなことは分かっている。それを噛み締めるかのように、悔しがるように歯を食いしばりながら新たな戦いに備えるのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

「―――皆、よく集まってくれた。今ここに集まっているのはアトラスにいたサーヴァントだけじゃない。きっと、カルデアにいたサーヴァントもいるだろう。貴方たちに伝えたいことは三つある」

 

 『人理継続保証機関 フィニス・カルデア アトラス支部』。そう呼ばれていたこの組織にある部屋の中でも割と広めに作られた場所、召喚ルームの中央に黒鋼は立っていた。その周りにはこれまで二つの組織が召喚し、人理焼却を防いだ後でも力を貸してくれたサーヴァント達が集まっていた。いつになく重苦しい空気が漂っている中、手元にある紙の束を持った彼は黙々とそれを読み上げる。

 

「まずは一つ目。12月31日。カルデアは謎の組織による襲撃を受けて壊滅。万一に備えて彼らの元に残るように指示しておいたホームズさんが行った最後の通信から、アトラスがカルデア本部に送った『虚数潜航艇 シャドウ・ボーダー』と『ペーパームーン』を用い、虚数空間に逃げ延びたとのことだ。カルデア組のサーヴァント達は、マスターたちは無事だということを知ってもらいたい」

 

 黒鋼からの通達を聞き、エレシュキガルを筆頭としたカルデアのみが召喚に成功したサーヴァントの面々が安堵の溜め息を漏らす。自分マスターたちと会話が出来ない日々が続いたこともあり、精神的に参っていた人も多くいたから仕方がない。だが、事態はそんな気を緩めることさえ許してもらえない程に状況は緊迫している。それを伝えるために、黒鋼は伝えるべき二つ目の項目を読み上げる。

 

「次に二つ目。これはカルデアが壊滅に遭った日に同時起こったことだが。2017年を基点として、そこから先の未来が文字通り白紙となっていることが判明した。具体的にはどうなってしまったのかは不明だが、それが原因となりカルデアスがデータ処理を出来ずフリーズ。過去に移動した地点に向かってのレイシフトが出来なくなったことを伝えておく」

 

 レイシフトが出来ないということを知った時、多くのサーヴァント達が愕然とした。中には膝を突く人たちも多く、そこまでレイシフトが出来ないことが残念なのかと伝えた本人が驚いていた。息抜きがてらにレイシフトをするという贅沢が出来なくなった程度で大げさだと思ったが、中にはレイシフト先で狩りや買い物を楽しんでいたサーヴァントも少なからずいたので仕方のないことだと納得する。

 

「最後に三つ目。今回の騒動。いや、騒動を越えて人理焼却に匹敵するこの事件を起こしたのは。カルデアに所属していたエリートチーム、通称Aチームの面々だということが判明した」

 

 最後の伝えたこと。それは、カルデアにいたマスターが我々を裏切り、あろうことか未来を消して何かを為そうとしている事実だった。これはまだ断定できた情報ではない。だが、あの時の電話の主や、世界が無になった時に聞こえた男が残した名前。キリシュタリア・ヴォーダイムという名前から検索した結果。そういう結論に至った。告げられた三つ目の事実にサーヴァント達は動揺を隠せない。当然だろう。こんな事実を突きつけられて戸惑わない人なんて、どこぞの英雄王くらいのものなのだから。だからこそ。そう、こんな状況に陥ったからこそ彼らは立ち向かわなければならない。

 

「レイシフトは実行不可、カルデア組はどことも知れぬ虚数空間へと逃げ、世界の歴史は文字通り白紙となった。だが、まだ俺たちには戦う術がある! 戦う理由がある! 少なくとも俺はそう思っている! だから……だからこそ! この場を借りて今一度。貴方たちに助力を請いたい!」

 

 頭を下げて眼前に並ぶ一騎当千の英雄たちに黒鋼は助けを請う。人理焼却を防ぐ旅を終え、魔術王の元から逃げてでも生き延びた魔神柱たちの討伐。本来はそれで役目を終えるはずだった彼らに再び力を貸して欲しいと頼る。厚顔にも程があるとは思ったが、これから先の戦いにサーヴァントという強力無比な助っ人は必須。勿論、拒否する権利は向こうにある。それを覚悟の上での相談だったが、答えを聞く以前にまずは黒鋼の頭が思いっきり叩かれた。

 

「あいたっ!?」

「やはり馬鹿か貴様は! 何のために余達がここに残っていると思うのだ! 別に現世を愉しみたいからとか、マスターと一緒に居たいというだけではないのだぞ!」

「いやネロ公、その発言は色々とおかしいから」

「そうだ! というか赤い(わたし)よ! 我が大切なマスターの頭をそんなに強く叩くでない! 記憶が抜け落ちでもしたらどうしてくれるのだ!」

「大丈夫です、記憶が消えたのでした安静に生活を送れば良いのです。その場合、貴方たち二人は出入り禁止になりますので予めご了承ください」

「「何故余達が出禁になるのだっ!?」」

 

 赤い衣装と白い衣装に身を包んだ同姓同名の二人のローマ皇帝。ネロ・クラウディウスが信じられないと言わんばかりに目を剥いて驚きを露わにする。むしろそっちの方が理解不能だとナイチンゲールが溜め息を漏らし、そんな三人をブーディカが宥める。そんな当たり前の風景だが、そう言ってくれたことに少しだけ安堵する。いや、彼女達を筆頭とした多くのサーヴァント達ならばそう言ってくれるだろうと心のどこかで期待していたので。それが現実になって安心したと言うべきか。そして、そんな彼の頭を誰かがガシガシと乱暴に撫でる。

 

「う、お。おっ?」

「まったく、貴様はまこと阿呆よな。そも、世界を終わらせるのであれば話は別だが。世界を白紙に戻した上で己が望んだ世界を第一とする世界など言語道断。醜すぎて反吐が出るわ。この(オレ)が見定める世界にそのような不純物など不要。怒りのあまり魔術師の真似事をやめ、英雄王に戻るやもしれん」

「そんなことになれば敵は大誤算だろうな。英雄王と言えば、星の数いるサーヴァントの中でも頂点に君臨する者の一人だ。まったく、誰を敵に回してしまったのか理解できていないと見える。付け加えると爪も甘い。我らがマスターも、そして彼らも。こうした逆境から乗り越える時が一番強いと言うのにな」

 

 頭を撫でているのはキャスターのギルガメッシュ。そして、赤い外套のエミヤが元気づけるように背中を叩く。そういったことにあまり耐性の無い黒鋼はされるがままになっており、何分かそのままでいた。その後、彼の肩に暖かい何かが乗っかかった。いきなりのことで対処できなかった彼だが、呻き声を上げながらも何とか踏みとどまった。乗った本人はそんな人の気も知れずに自由に髪を引っ張る。

 

「いたたたたた!? ちょ、ジャックか!? 人の髪引っ張るのやめろって、あいたたた!?」

「え~? だっておかあさん。つまらないことばっかり言ってるんだもん。わたしたち、おかあさんがそんなこと言わなくても力を貸すよ? だって、おかあさんのこと大好きだからね!」

 

 にっこりと天子の様な笑みを浮かべるジャック。本人にとってはいつもの何気ない一言だったのだろうけれど。それは、今ここに立っている彼にとってありがたいものである。こうなることを望んでいたとはいえ。こうして皆と共に一緒に戦えるのは心強い。とりあえず、頭に張り付いたジャックを引き剥がした後。深呼吸を何度か繰り返してから彼は眼前のサーヴァント達と顔を合わせる。

 

「皆、これからもよろしく頼む! これより、我々の敵はクリプタ―を名乗る元カルデアのマスター達となる! だが容赦の必要は無い。彼らは彼らの野望を下に未来を白紙にした。ならば、こちらはこちらの意思でそれを迎え撃つ! 『人理継続保証機関 フィニス・カルデア アトラス支部』はその名の通り、支部としてカルデアの補佐に入る!!」

 

 珍しく断言する黒鋼の号令に、サーヴァント達はその意に賛同するかのように吼える。一騎当千、万夫不当の英雄たち。総勢200近くいるそれを敵に回したのだ。それなりのしっぺ返しを覚悟してもらおうと、黒鋼ともう一人のマスターが率いるサーヴァント達は顔も知らぬ敵に宣戦布告するのであった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

それはさておき。今回は対・クリプタ―戦ということもあり、とっておきのシステムを使う時が来た。年に二度くらいしか使えないとっておきたいとっておきの一つ、SSR(最高レアリティ)サーヴァント確定召喚ガチャである。

 

「前回の俺は今頃、俺は玉藻さんを引こうとして三蔵ちゃんを呼んでしまった………すり抜けはいつものこととはいえ、そろそろ報われたい」

「なんだかんだいって星五サーヴァントを召喚してるんだし、諦めても良いと私は思うんだけど……」

「Be quiet!目当ての人を引けてない時点でそれは爆死も同然! 否、下手すると爆死より無残なことになってるんだよォ!」

 

 礼装目当てにガチャを回したら星五サーヴァントが来た。無心で無償石十連一回で目当てのサーヴァントが引けた。挙句、すり抜けでこちらが最も来て欲しい人(カルナ)を引かれた時など想像を絶する怒りの炎が沸き上がった物だ。遺恨無しでカルデアを滅ぼせたのなら確実に自分がやっていたと言ったことがあるところ見る限り、黒鋼も相当頭には来ているようだ。

 

「それで、今回はどっちを回すの? 一応三騎士と四騎士に分かれてるみたいだけど」

「当然四騎士だな! ここで去年引けなかった術ネロやメルトが引けた奇跡だよなぁ!」

「―――アサシンが来たら、ほぼ絶望的だけどね」

 

 さりげなくマスターの精神を抉るブーディカの発言に、言われた側は某病弱セイバーよろしく血が噴き出しそうなほどに顔を歪ませながら崩れ落ちる。今回の福袋召喚は去年の様にクラスを選択して回すことが出来ない。だが、その代わりにどちらの福袋にも期間限定のサーヴァントが排出される可能性があるという利点がある。といっても、黒鋼はどうもアサシンというクラスに好かれている傾向にあり。今のところ所持していないアサシンが最高レアリティ二人と、一つ手前の星四が一人のみというふざけたことになっている。

 

「だ、だが! 四騎士の福袋に入っているクラスはエクストラを含めれば六つ! 確率が二割を切っているなら勝てる可能はある!」

「いや、なんでそうやってフラグを作るの? 馬鹿なの、やっぱりネロ公並みの馬鹿なのマスター!?」

「ば、馬鹿じゃないし! 論理的、そう。ロジカルだし!」

 

 どこからどう見ても図星を突かれて動揺しているようにしか見えないが。回さない限り結果は付いてこないのも道理。フラグを作ったと揶揄してくるブーディカを振り切り、黒鋼は気合を入れた雄叫びを上げながらシステムを起動させる。

 ―――そして。やはりというか、当然というか。結局金色に輝くアサシンのカードを引いてしまったのである。

 

「な゛ん゛て゛た゛よ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!」

「だからフラグなんて作らないようにって言ったのに……よしよし、ジャックの宝具レベルが上がったらいいね~」

 

 黒鋼の頭を撫でながら宥めるブーディカと、それに存分に甘える情けない構図が見て取れる。本当にアサシンを引くとは思っていなかったし、どうせ別のクラスでも召喚済みの人の宝具レベルが上がるだけだろうと高を括っていたこともあり。本当にガチャに希望などないのだと放心していたマスターではあったが。目の前に現れた暗殺者を姿を確認した時、そういった思考が全て真っ白に染まった。その後に思った言葉はただ一つ。

 

 

 

 ―――あ、俺死んだわ。である。

 

 

 

 頭から足元にまで伸びたボロボロな黒頭巾。血に濡れた武骨な大剣の柄を両手で地に突き刺すように持った武人。否、その者は既に武人でなければ人でも在らず。暗殺者の頂点にして、人を殺すというただ一点において他の誰よりも優れた至高の暗殺者。その存在を、我々は畏敬の念を込めてこう呼ぶ。

 

 

 

「―――怯えるな契約者よ。“山の翁”、召喚に応じ姿を晒した。我に名はない。好きなように呼ぶが良い」

 

 

 

 冠位の暗殺者(グランド・アサシン)。アサシンの中のアサシン、キングハサンと―――

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「―――あ、俺死んだわ」

「研砥!? 落ち着こう! 翁が来たからって放心しないで! 頑張って!!」

 

 白目を剥いて思考を破棄しようとした黒鋼の意識を戻そうとブーディカがその肩を全力で揺らす。本人としても福袋でまさかのアサシン。そして、召喚されたのが“山の翁”というもう意味☆不明な超展開に追いつけておらず。徐々に瞳から光が消えて虚ろになっていく。それだけショックが強かったこともあるのだが、翁の声と先ほどの電話の相手が酷似していたことも原因だったりする。

 そんなマスターに呆れたのか。それとも律儀なだけか。召喚サークルの中央で待ち続けた翁は音もなく、文字通り一瞬で彼らと距離を詰める。至近距離で頭巾の下に在る顔―――本人には顔が無く頭蓋骨―――を覗き込む。一瞬で距離を詰められたことにも驚いたが。何よりいきなり人の顔をしていない者を見てしまった二人が突然のことで恐怖で身が竦む。だが、そんな二人を無視して翁は淡々と告げる。

 

「怯えるなと言ったはずだぞ、我が契約者よ。汝は異教徒ではあるが、信じるに足る者であるということはこれまでの足跡で証明されている。我が剣は契約者に捧げるものであり、晩鐘が汝の名を指し示さぬ限り。その行く先を守護せし者である。此れよりは、貴様の影よりその道程を見守るものとする」

 

 淡々と事実だけを述べ、翁は蒼炎を撒き散らしながら姿を消す。爛々と煌く青い火花は美しく散る。先ほど召喚した骸骨の武人、“山の翁”はこれから挑む戦いに必ず活躍するだろう。アサシンの中でも破格の火力、戦闘能力、カード性能。その全てが最高水準という冠位の暗殺者を誇るに相応しい力をあの御仁は備えている。召喚システムを確認し、本当にあの人物を召喚していることに成功していることを確認した時。黒鋼は笑いが隠せなかった。

 

「―――この戦い。我々の勝利だ!!」

「だからフラグを作らないでって言ってるでしょ!!」

 

 これ以上ないほどのドヤ顔を炸裂させたマスターに、ブーディカの容赦の無いツッコミが彼の頭を叩く。だが、そう言ってしまえるほどにあのアサシンを召喚したことに得られたメリットは大きい。それも、今回の福袋で期間限定サーヴァントを引き当てたという意味を重ねるとより価値は跳ね上がる。此処まで来るとアサシンクラスのサーヴァントをコンプリートするのはありかもしれないと思ったが、下総国ピックアップの時に呼べなかった段蔵はまだしも。いつ復刻がくるかもしれない謎のヒロインXを召喚するために石を貯めるのは気が引けた。

 そうして翁の召喚に成功した余韻に浸った後。今回のメインイベントその2。新年を記念した期間限定サーヴァントピックアップにシステムを再調整する。今回も去年、一昨年に匹敵する豪華ラインナップではあるものの。やはりというか最高レアリティのサーヴァントを引くのはかなりの石を必要とする。だが、今回ばかりは以前から少しずつ貯めてきた聖晶石。そして、この日の為に貯めておいた現金を大量の聖晶石への再構築に加え、呼符も三十枚近く用意した。準備は万端と言っても過言ではないだろう。

 

「それで、今回は誰をメインに引こうと思うの? やっぱり、新しく登録された『葛飾北斎』ちゃんかな?」

「あ~……アーツ寄りのフォリナーか。確かに引きたいところだが、ここはグッと堪えて彼女を引くことに専念するよ。これでも我慢してるからな。我慢してるからな!!」

「二回言わなくても通じるよ。それにしても、ようやくって感じだね」

 

 葛飾北斎……というより、彼の絵描きの娘であるお栄と呼ばれた少女がメインなのだが。その少女の近くに飛び回っている蛸こそが葛飾北斎という。またややっこしいことになっている。何でも、絵を描くためにいつぞやのアビゲイルと同じように外なる神と接触したようなのだが―――これはカルデアのマスターが見た夢の話の内容であり、黒鋼とは全く縁もゆかりもない話だ。性能的には目を見張るところあるので是非とも召喚したいところではあったが。ここは我慢してある人物の召喚を試みる。

 ―――その人物とは。いつぞやの深海電脳楽土にて最期まで不敵な笑みを浮かべたまま消え、終ぞ再開することができなかったある少女だ。刃物ヒールに鉄の棘、全てを溶かす毒の蜜。ここまえ言えば分かり切っているかもしれないが、敢えて名前を伏せることにする。ともあれ、今回のメインは彼女の召喚と。今まで何度も爆死してきたあの王様の二人である。それなりの石を用意したとはいえ、二人とも最高レアリティを誇るトップサーヴァントだ。どちらか片方の召喚に成功すれば御の字というのは理解してもらえると思う。

 

「それじゃ、とりあえず呼符からだな。とりあえず30枚一気に行くぞ!」

「ここで召喚出来たら石がかなり浮く……! 気合い入れてね、研砥!」

 

 ブーディカのエールに応えるように呼符を叩きつける黒鋼。一枚、また一枚と目の前で麻婆豆腐や逆行剣へと姿が変わっていく様は無残と言う他にない。途中で金色の光を纏いながら召喚されたサーヴァントもいるが、既に召喚済みのサーヴァントが顔を出した程度。未召喚のサーヴァントではないため、後で纏めて発表することにする。

 

「くっ、ここまで呼符を投げて星4サーヴァント一人のみか……! だが、俺は諦めない!」

「まだ石も残ってるしね。さてと、ぼちぼち呼符も尽きる―――?」

 

 あれだけ貯めたのにもかかわらず、あっという間に消えてしまった呼符の呆気なさに肩を落とす二人。だが、そんな二人の前に再び黄金の輝きが姿を現す。バチバチと甲高い音を立てながら出現した金色のカードに描かれたクラスはランサー。光を伴いながら徐々に形成されていくその姿を見た時、マスターは目を丸くした。

 ―――先端が金色に輝く三叉槍を持ち、インドの民族衣装に身を包んだ少女。優し気な表情と可愛らしく閉じられた瞳がゆっくりと開かれ、緊張しているのか深呼吸を一つしてから口上を述べた。

 

 

 

 

 

「こんにちは、カルデアのマスターさん。女神パールヴァティといいます。今回は清らかな少女の体を借りて現界しました。不慣れな点もあると思いますが、一緒に成長させてくださいね?」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「ぱ、パールヴァティさん来た――――!?」

「きゃっ! え、え~と……その、もしかしてお呼びじゃなかったですか――?」

「そんなことない! そんなことないよ! やったね研砥! これは早くメドゥーサを呼ばないと!」

 

 そう、女神パールヴァティといえばいつぞやの召喚に失敗してしまったサーヴァントなのだ。先ほど名前を上げたライダーのサーヴァント、メドゥーサが参加した聖杯戦争のマスターをしていた少女の体を借りて現界しているらしく。彼女としてはあまり戦って欲しくないとのこと。だが同時に、いつの日かこうやって一緒に同じ時間を過ごせたら良いのにと零していた。その時のガチャでは召喚に失敗したが、まさかこんなところで召喚されるとは。幸先が良いといっても問題ないだろう。

 

「とりあえず、今迎いの者を呼びましたので。その方にここの案内を受けてください。あと、訂正するとここはアトラス院なので、俺はアトラスのマスター。です」

「あ、それはごめんなさい。それじゃマスターさん。これからよろしくお願いしますね」

 

 ニコッと笑い、パールヴァティは召喚場を後にした。まさに美少女が浮かべるに相応しい笑顔に黒鋼の胸がとてつもなく痛んだ。同じ顔をしているBBとはえらい違いである。あれとしては心外だと憤慨かもしれないが、もう少し毒気を抜いた笑みは浮かべられないものか。

 

「何はともあれ、ここでパールヴァティか……。何だかなぁ。こう、少し違うというかだな」

「分からなくはないよ。だって彼女、パールヴァティやBBと顔がよく似てるからね」

 

 そうなのである。顔がほぼ同じなのに同一人物ではない人を召喚するというのはかなりややこしいことになっている。いや、新しいサーヴァントだから大歓迎なのだが。次はどうなることやらと思いつつ、未だに召喚を続けるサークルに僅かな期待を持ったが。その次に現れた金色のカードは騎乗兵、ライダーのカード。そこから現れた英霊の姿を見た時、黒鋼は今度はそっちかと溜め息を零した。

 光を伴いながら顕現したのは白を基調とした衣服を身に纏う、錫杖を片手に持った一人の女性。だが、外見とステータスに騙されてはいけない。杖を投げ捨てステゴロでの戦闘こそ彼女の全力。今のクラスは余りあるその力を封印した仮の姿。そう、美しい女性なのにもかかわらず少し残念系な女性の名は―――

 

 

 

 

 

「私はマルタ。ただのマルタです。きっと、世界を救いましょうね」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「―――今度は似た声帯ですり抜けたか……………!!」

「マスター? 先ほど、何やら私を不当に評価したような気配を感じたのですが。気のせいでしょうか?」

「うえぇ!? あーはい、多分気のせい? じゃにゃいですかね?」

「何で嚙み嚙みなんですか……ほら、男なんだからシャキッとしなさい!」

 

 何故か鉄拳制裁を喰らうと思って足が竦んでいたマスターを、マルタ思いっきり背中を引っ叩いて強引に立たせる。とても筋力Cとは思えないほどの衝撃。力を封印しているのは間違いないと確信しようと思った時、召喚場の扉が開いて新たな人物を招いた。ゆうに二メートル以上ある刀を腰ではなく背中に差した長刀使い、優雅にその長刀を振るうアサシン、佐々木小次郎である。

 

「マスター。新たな戦いを祝して酒呑童子を筆頭にして酒盛りを始めようと思うのだが、そなたもどうだ……? む、なんとマルタ殿ではござらぬか」

「げっ、出たわねエセ侍! なにもこんな早く再開しなくても良いのに……はぁ」

「はっはっはー。拙者も嫌われたものよな。まあ、今はあまり邪険に捉えてくれるな。先ほども言ったが、今の拙者はアイランド仮面でも佐々木小次郎でもない酒飲みにすぎぬ故な。ところでどうだマスター。偶には酒盛りにでも」

「小次郎? マスターはまだ未成年なんだから、そーいうのに誘わないの」

 

 愉快そうに笑い、こちらを酒盛りに誘おうとする小次郎をブーディカが窘める。それに少しだけ口惜しそう表情を浮かべる小次郎だが、黒鋼はその頬が少しだけ赤くなっているのを見逃さない。そういえば先ほど酒呑童子と言っていたが、もしかしなくてもそれが原因ではなかろうか。彼女の『果実の酒気』というスキルはラフムや魔神柱をも蕩かす能力を誇る。いつも涼やかな小次郎をも酔わせるとは、大江山のボス恐るべしといったところか。

 結局、酔っ払いになった小次郎をマルタが連れて行き。ついでに酒呑童子を止めてくると出て行ってしまった。小次郎も満更ではない様子で腕に挟まれていたので問題は無いだろう。…………数分後、マルタが「どこ触ってんのよこの酔っ払いィ!」と、恐ろしい声と何かが激突する音が聞こえたが。うん、恐らく問題は無いだろう。

 

「さてと、呼符でこれだけ引けてるなら少しは自信が付いてくるな。張り切って、十連ガチャの方に赴くとするか!」

「ここから本番だもんね。気合い入れ直していこー!」

 

 もう怖い物は何もないと言わんばかりに、今度は貯めに貯めた上に増やした聖晶石を投げる。無論、こと今回に至っては出るまで回すという禁断の手を使うのもやぶさかではない。十連、二十連、三十連と。湯水の如く聖晶石が呆気なくサークルに呑まれては消えていく。それはさながら当たる確率が低すぎるパチンコのよう。あれを狂ったように回し続けると言える今の状況は正直なところ人間として終わっている。

 

 

 

 ―――そうして、回し続けて何時間になっただろうか。正確にはまだ三十分程度だが、この時点でマスターは狂化状態から正気に戻っていた。現在の十連召喚数は七回。呼符を含めると百近い数を回したが、召喚されたのは星五ではなく星四ばかり。しかも、何故か今回に限ってカーミラやセイバー・ランスロットばかりが現れるという謎の引きだ。二人とも一気に宝具レベルが二段階上がり、戦力としては申し分ない。ないのだが、如何せん目的の人を引けない辺り黒鋼の運命力は低すぎる。

 

「……高レアは引けてるから、流れは来てると思うんだよね。うん、でも久しぶりに虹演出とか見たい………」

「それで別クラスだったら目も当てられないけどね……それで、どうする? まだ石に余裕はあるけど、今は撤退する?」

「む~………よし、次で通算で百回目を超えるからそれで一度撤退しよう。続きは、また後日にでも回すよ」

 

 山のようにあった聖晶石も一気に減り、今では当初の半分ちょいにまで少なくなってしまった。だが、黒鋼は恐れることなく石をサークルにくべる。鬼が出るか蛇が出るか分からないが、一応星五が引けたらそのガチャは撤退するという暗黙のルールがあるため。そこまでは回しておきたいというのが本音だ。今のところ悲劇の星四礼装一枚だけということにはなってはいないが、ぼちぼち起こりそうだなと戦々恐々としながらもシステムを起動させる。

 

 

 

 ―――直後、サークルから溢れる光が爆ぜた。

 

 

 

「なんとぉ!?」

「眩しっ!? なに、これ!?」

 

 虹色の輝きでも金色の輝きでもない。まるで某カードゲームの聖なるバリアーが発動したかの如く眩い光が召喚場内を照らし出す。まるで太陽の如き光の暴力が二人を襲い、徐々に収まっていく。一体何が起こったのかと固く閉じた瞳を開くと、この場にいた二人は息を飲んだ。

 光の原因。サークルの中央にて眩い光を抑え込みつつある一枚のサーヴァントカード。そのクラスに表示されたのは通常の七クラスに当てはまるものではなく、クラスに適応する者が数少ない特殊クラス。所謂エクストラクラスと呼ばれるものだった。

 

―――それは審判者である裁定者(ルーラー)ではなく。

―――それは世界を憎む復習者(アヴェンジャー)でもなく。

―――それは外なる神と繋がる者、降臨者(フォリナー)でもなく。

―――一つの人格から分かれ、確固たる自我を獲得した新たなる者。そのクラスの名は、アルターエゴ。今回の召喚で確認される唯一無二のクラスである。

 

光を伴いながら一人の少女の姿が形成されていく。異常なまでに長い刃物のヒール。そこから伸びるはヒールと同色の鉄の棘。黒衣に身を包んだ華奢な少女の顔はサディスティックな笑みを浮かべており、こちらを値踏みするような嫌な視線を送っている。その後、気付いたように鼻を鳴らしながら面倒くさそうに口上を述べた。

 

 

 

 

 

「快楽のアルターエゴ、メルトリリス。心底嫌だけど貴方と契約してあげる。光栄に思いなさい?」

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 ―――息ができなかった。これは本当に現実なのかと目を疑った。人形の様に華奢な少女は口上を述べたのにもかかわらず何も言わないこちらに疑惑の目を送っていたが、それを無視して頭の中で考える。確認のためにタブレットに表示される一覧の中にも彼女の霊基パターンが新たに登録されているのを確認して、ようやく黒鋼は確信を持って渾身のガッツポーズを決める。遂に、あの時に消えてしまった彼女を召喚できたのだと実感してくる。

 

「何かしら。何も言わないということは、別段私を呼ぶつもりはなかったと捉えていいのかしら? だとしたら不愉快にも程があるわね。今すぐ私の経験値にして―――」

「―――あぁ。そんなに好きならくれてやるよ。経験値」

 

 ヒールをこちらに向けようとするメルトリリスを止めず、黒鋼は腕を軽く上げる素振りを見せる。直後、尋常じゃない数の金色に輝く丸い球体や霊基再臨素材が出現する。それは圧倒的な数を以てメルトリリスを包囲し、数が数だけにその姿をも包み込んでしまう。これにはさすがのプリマドンナも驚いたのか、上げた足ゆっくりと下ろして愕然した。

 

「―――え、ナニコレ」

「お前を召喚した時の為に貯めておいたオール枠の金種火。スキル上げに必要なスキル石と各種再臨素材。加えて霊基再臨等で発生する育成費………その他諸々が、今のお前を取り囲んでいるものだ。喜べ少女よ、君の願いは今叶う」

「ちょっと、どこかの似非神父みたいな発言はやめ、きゃあ―――――!?」

 

 容赦などなく、慈悲もなく。ただただ一方的な育成がここに始まった。彼女の為にかき集めた資材の全てがメルトリリスという一人の少女に目掛けて吸い込まれていく。ギルガメッシュの『王の財宝』によるう全方位攻撃とまでいかなくても、一種のトラウマにはなるんだろうなと。隣に立っていたブーディカはそんなことを考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、後編もあるから見てネ!」

「まだ続くのこれ!?」

 




ではでは、早速後編へGO-----! でも、時間が時間ですから、休まれる方は休んでくださいね(投稿した時間が深夜0時)

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