カービィとエグゼイド――二人の戦士の奮闘によって、ゼロは敗北を喫した。
東京上空を覆っていた『闇』も消失し、全てのダークマターも共に消え去った。
だがしかし、それでゼロの増幅された執念までもが無くなることはなく。
微かに残留していた『闇』がゼロの思念に呼応し、それは生前の、あるべき姿を形成したのだ。
つまり、今、戦士達の眼に映る存在はゼロそのものではなく、言わば、怨念。
敗走による屈辱、その対象への憎悪、宇宙を支配したいという欲望。
ホムンクルスの肉体が朽ち果てたことで、その死と共にゼロを縛り付けていた拘束具もまた、なくなったのだ。
故に、剥き出しになったゼロの思念は、従順に、そして極めて単純に、宇宙の全てを無へと変貌させるという行為によって、かつて自らが心に抱いていたものを解消するべく動くだけである。
人の姿でないものに恐怖するのはなぜだろうか……そんなもの、自分に分かるはずもないというのに、永夢は、ぎょろりと向かれた眼に身を震わせた。
これまで人間という規格の中の枠組みに当て嵌められていたゼロの真の姿が露わとなり、改めて自分が相手取っていた存在の大きさを思い知らせる。
だが、臆してはいられない。負けるわけにはいかない。
ギュッと拳を握り締めて、永夢はゼロと視線を交わす。
その隣では、カービィが同じようにゼロを前にしながらも、地球を守るべく対峙の姿勢を崩していなかった。
敵意を察知したのか、浮遊する巨躯の球体がついに動き出した。
「「!!」」
刹那、放たれる閃光……それは一番近くにいた永夢とカービィを容赦なく吹き飛ばす威力を持っていた。
「うわぁあああああああ!!!」
問答無用で城の外へ放り出され、絶叫と共に落下していく。
このまま落下を続ければカービィはともかく、変身していない永夢は地面にキスしてゴー・トゥー・ヘヴン。
まさに地面と激突しそうなその時、虹色の輝きを纏った光が二人の腕を掴み、間一髪のところで救出に成功した。
光は二人を抱えたままふわりと地に降り立った。
永夢は、その光り輝く姿に見覚えがあり、あっと表情を驚かせる。
以前は一瞬しかその形態を確認できなかったが、紛れもなくそれは、永夢がよく知る人物であった。
「ゴースト……タケル君!!」
「久しぶり、宝生先生!」
光の正体――仮面ライダーゴースト ムゲン魂は仮面の下でニコリと微笑んだ。
「どうしてタケル君がここに?」
「あー、その話は後で。今はあいつをなんとかしないと」
気になることは山ほどある永夢だったが、ゴーストが指差す方に目をやると、そこにはより一層破壊活動を目論むゼロが、生命溢れる陸地へ向けて移動しようとしている。
このまま島の外へ出すわけにはいかない。
「お、追わなきゃ……!」
急く思いとは裏腹に、足を何度か前に進めたところで、永夢の体は悲鳴を上げ倒れてしまった。
「先生!」
変身を解いたタケルが慌てて支え起こす。
もともと傷ついた体でゼロと激闘を繰り広げた永夢の体は、既に限界を迎えていた。常人であればとっくに病院のベッドの上である。
「もうボロボロじゃないですか……」
タケルがそう言うが、永夢は止まろうはしない。無茶をすることはタケルにも多々あった為に強くは言えない。だが、これが友人達が戦いに赴く自分を見て感じていた思いと同質のものであるならば、是が非でも止めたくなるのが分かる。
永夢自身も、体が限界なのは一番よく理解していた。だが、そんな理由では潔く諦めるという結論には至らない。
かつてタケルが幼馴染を救う為に、一時的に変身出来なくなっていたにも関わらず、自らの命を賭してまで敵に立ち向かったように、彼にも守らなければならないものがあるのだ。
タケルの手を振り払って、なおも先へ進もうと、フラフラな足取りで歩いていく中で、永夢の白衣から何かがポロリとこぼれ落ちた。
「!」
いち早くそれに気がついたカービィは、それを拾い上げると、永夢の前へ走っていき、何かを訴えかけるように飛び跳ね始める。
「カービィ、いったい、どうし……」
永夢はカービィが持ったそれ――街でもらったトマトを見て驚く。
そう言えばすっかり忘れていた。しかし、生のトマトがなぜ今の今まで潰れもせず残っているのだろうか?
呆然としつつも、カービィからトマトを受け取ると、奇妙な違和感に脳内で疑問符を浮かべ、呟いた。
「これ、普通のトマトじゃない……?」
貰った時は、確かにどこにでも売っているものだったトマト。だが、なぜか今は大きく『M』とイタズラ描きされたような黒いマークが存在しており、なんだか若干、サイズも大きくなっているような気がした。
ふとカービィに視線を戻すと、何やらモグモグと口を動かす仕草で訴えかけてきている。
そのジェスチャーは、すぐに理解できた。
「食べろってこと?」
永夢は、カービィを模倣するように、トマトをそのまま一齧りする……。
「!!!!!????」
するとどうだろうか、永夢のボロボロだった体が、見る見るうちに健康体へと戻り、感じていた痛みと疲労は、すっかりどこかへ吹き飛んでしまった。
「えぇええええ!?あれ、なんで!?」
あまりの出来事に困惑する永夢、そしてそれを見ていたタケルも唖然とする。
カービィだけが笑顔で永夢からトマトを奪って、残りを食べると、同じようにカービィの体も元通りに。
それもそのはず、どういうわけかあのトマト、カービィの接触を受けて彼の故郷に存在する体力完全回復食料、マキシムトマトへと変化していたのだ。
これは友情を深めた奇跡か。
「でも、これで戦える!」
「!」
互いに頷き合うと、急いでゼロの下へと向かう……。
タケルは、あえて二人を追うことはしなかった。
今回世界を救うのは、自分ではない。
自分がおらずとも、二人ならばきっと絶望を砕くことが出来ると、心から信じているから…………。
道なき道を走り抜けていく二人を待ち受けていたのは、九条貴利矢だった。
気づいた永夢は彼の下まで駆け寄って、無事を喜ぶ。
「貴利矢さん!」
「よう。どうやら倒し損ねたみたいだな」
「うう、すみません。まさか復活するなんて……」
「別に責めちゃいねぇよ。それに、今から倒しにいくんだろ?こいつも持っていけ」
子犬のようにはしゃぐ永夢をたしなめつつそう言うと、貴利矢はゲンムから預かったガシャットを差し出した。
「これは……?」
「お前の力になってくれる筈だ。多分な」
一瞬戸惑う永夢であったが、快くガシャットを受け取り、信用の意を込めて強く頷く……。
貴利矢(正確には檀黎斗扮するゲンムだが)に託された未知なるガシャットを構え、永夢は変身する。
『大乱闘スマッシュブラザーズクロスエーックス!』
「変身!!」
任天堂から発売されているオールスター出演作品シリーズの中でも、まだ発売されていない新作ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ
『ガシャット!ガッチャーン!レベルアーップ!』
『俺もお前も~大乱闘!We're!スマッシュ・ブラザーズ!クロスエーックス!!』
誕生せし新たなるエグゼイド。
その名も仮面ライダーエグゼイド スマッシュブラザーズゲーマー レベルX
任天堂の数々の名作達をイメージしたカラフルな装飾を引っさげて、エグゼイドは決戦に臨む。
「…………」
「ん?どうしたカービィ?」
それを傍で眺めていたカービィは、何を思ったのか、エグゼイドのスロットホルダーからマイティアクションXガシャットを抜き取り……。
「はむ!ゴクン!」
――飲み込んだ。
「「な!?」」
エグゼイドと貴利矢の目玉が思わず飛び出そうになる。
「ちょ、ちょっとぉおおおおお!?俺のマイティ!!!」
「お、おぉう……確かに外国のキャンディっぽく見えなくないけども……」
何ということだ。新たなガシャットを手に入れたかと思えば愛用しているガシャットが代償に胃袋の中へ消えていく結果に。
エグゼイドは貴利矢を睨みつけて、『やっぱり信用するべきじゃなかった』と言葉にはせず、視線で訴える。
対し貴利矢は『自分は知らない!自分は悪くない!!』などと供述しており、互いの主張は平行線を辿った……。これは第三の目を用意して客観的に状況を判断してもらわねばならないだろう。勃発エグゼイドVSレーザー。今話執筆時期のニチアサ本編的に笑えない冗談である。
と、あくまで将来的に素晴らしい相棒漫才を繰り広げている間に、カービィの体に変化が起きていた。
頭部に生えるトサカのような髪。目元を覆うゴーグル。さらに胸部と思わしき部分にはゲームコントローラーのようなコマンドキー。
その姿を見て、誰もがカービィ版エグゼイドだと答えるであろう。
コピー能力『エグゼイド』
カービィがマイティアクションXガシャットを吸い込むことで誕生した、奇跡のコピー能力。
「う、うわぁああああ!!カービィがエグゼイドに!?」
「というよりは元キャラのマイティに近いな。背格好的に」
カービィは驚くエグゼイドの手を掴み、『さあ、行こう』と引っ張った。
いざ、最終決戦の舞台へ――――!
音声はダブルアクションゲーマーが原曲。