リアルがゴタゴタしたのと、活動報告のIS募集の方針転換でてんやわんやして遅れた番外編の投稿です。
この番外編は第一話でスルーされていた、「白騎士」の開発物語です。
今回はそのなかでも特に最初期、束さんの発明が認められて、今まさにJAXAで開発が始まろうとしている頃のお話です。
番外編~《白騎士》誕生秘話~開発開始直前のお話
正晴と義照が束、千冬と出会った日から数日後。
「・・・・・・だから!もう既に他のところから補正予算の承認は取り付けてあると言ってるだろう!!後は君が承認してくれれば直ぐに衆議院に出して可決に持ち込めるんだって!」
「そんな無茶苦茶言わないでください!今年の予算案は既にキッツキツなんですよ!これだけの金額を補正予算として計上したら他の党が手のひら返して攻撃材料にするのが目に見えています!」
「新しい技術開発のための先行投資と見れば安い部類だろう!?」
「マトモに開発できそうにない夢物語に金を出す余裕なんぞありません!!」
「現実にできる代物だからこそ、こうして君をかれこれ丸一日と半日近くは説得してるんじゃないか!」
義照は束と千冬を連れて、ノンストップで各所の説得を行っていたのだが、財務大臣の説得に極端に時間をかけてしまっていた。
この財務大臣、他の大臣が義照の説得に同意して予算案の承認をしてくれたのに、一人だけ粘っているのである。
「そもそも、現実に出来ると言ったのは村ノ瀬とか言う若造でしょう?、正直信用なら無いですね。」
「おまっ、正晴氏が理事長としているのには若すぎると言うのはわからんでもないが、若いとはいえ、JAXAの理事長だぞ!JAXA全体を馬鹿にしているのか!?」
「あんな若造を理事長としている時点で馬鹿にしないわけないでしょう!!!JAXAは思考が幼稚園児になったんですか!?」
「・・・・・義照さん、随分と長いこと話し合っているね、」
「余程激しい口論をしてるのだろう、」
義照と財務大臣の話し合いを廊下で聞いている束と千冬の二人は、自然と顔に怒りを露にしていた。
千冬は、財務大臣が束の夢を「夢物語」と断じた事に、束はISを設計したこのタイミングでは、自分自身が天才であると自負していたがゆえに、誰にも理解されなかったISに理解を示してくれた二人の男を、間接、直接的に罵倒している財務大臣の言動に押さえきれない怒りが込み上がっていたのである。
だが、そんな状況に大きな変化があった。
「財務大臣!さっきから好き勝手いっていますが、正晴博士を罵倒するのは防衛省の人間として大きく遺憾の意を示さざるを得ません!」
「どう言うことだ天ヶ瀬防衛大臣!軍が関わることではないだろう!!」
「大いに関係あります!最近、我が防衛省にて正式配備された新型の弾薬輸送車や、陸自内部で評判の新型調理器具を、専門家でも無いのに設計してくれたのは彼です!彼を侮辱するのならば、彼が設計した装備で活動している陸自隊員達の立つ瀬がありません!!」
「なっ!!」
「私もあーだこーだは言いたくなかったがもう限界だ、JAXAに対しての暴言はこれ以上聞き捨てならん、財務大臣が予算承認をしないのならば私は内閣から降りる!!」
「官房長官!?」
話が一気に傾きだした、財務大臣の失言にいい加減怒りのボルテージが限界突破した何人かの閣僚が首相への援護をしだしたのだ。
「ぐぐぐく・・・・・・仕方ありませんね、わかりました、先程の発言の撤回と、今年分の補正予算の承認を取り付けておきます・・・これ以上は無理ですからね?」
「そこは安心しとけ、内閣府とJAXAが合同で導き出した費用だ、これだけ出しつづければ3年以内には成果が出る。」
「はぁ・・・・・・大丈夫かなぁ・・・?」
さすがに官房長官の過激な援護には負けたのか予算案をしぶしぶ承認する財務大臣、一瞬だけガッツポーズをとる義照の姿がその手前にはあった。
財務大臣の心配するため息が木霊するなか、義照は廊下にいた千冬と束に会いに行く。
「義照さん、やっと終わったみたいだね、」
「本当に長かったな、これで予算はどうにかなるのか?」
「予算に関してはもう大丈夫だ、二人ともよく我慢できたな、財務大臣の言動には怒りを覚えただろうに」
義照が心配して二人に声をかける、事実、二人は今にも泣き出しそうになっていた。
「・・・大丈夫、義照さんがちゃんと教えてくれたからね、《立場の関係上、口が悪いから、話を聞こうとするんなら耐えてくれ》って」
「すまんなぁ、財務大臣が予算案における最期の壁だから、形はどうであれ納得せざるを得ない状況じゃないと、基本的に財務省の威厳に関わってしまうんだよ・・・」
「・・・まぁ、大事な話だから仕方無いな、」
「でも、悔しいなぁ、正晴さんや義照さんに認めてもらったのに、こんなに激しい罵倒を受けると、やっぱりなぁ・・・」
「ま、そこはもう気にするな、あ、そうそう予算案が通ったから、二人とも早速明日から調布のJAXA本部へ来てくれ、早速、開発メンバーと顔合わせ始めるから」
「え?」
「・・・・・・まさか、開発を2,3人程度で進めると思っていたのか!?安心してくれ、私と正晴理事長の推薦だ」
「いや・・・・・・あの・・・・・・その・・・」
束は言葉に詰まる、彼女はいかんせん他人に興味を持てない部類の子であったが故に、二人の推薦といえどもうまくやって行ける気がしなかったからだ。
「・・・・・・やはり、余程他人と接する機会がなかった感じだな、束さんは、折角だしこの機会にコミュ障を直しとくと良い、理事長が不和は抑えるらしいから、しっかりと今の自分と向き合うようにしてくれ。」
「・・・はい」
束は何も言い返せなかった、実際問題、冷静に自分の事を見つめれば相当なコミュ障である。
家族すら判別がギリギリで、千冬にそこを直せと鉄拳制裁されたこともある彼女の身からすれば、彼の言っていることは・・・・・・ISのプロジェクトがJAXAで開始されることが決定された以上、コミュニケーション能力の改善は今後の自分にとって必要になる事なのである。
「待ってくれ、私も一緒についてきて大丈夫なのか?、客観的に言えば私は単なる束の付き人だぞ?」
「・・・現状、束さんと、ISの事を一番よく知っているのは間違いなくそれらに一番近い存在である千冬さんだ・・・」
「そして何より、現状の束さんのコミュニケーション能力の限界の関係上、比較的マシな正晴と私がいるとしても、束さんが千冬さん無しで他の開発メンバーとうまくやって行けるかどうかは非常に大きな疑問点でもある、千冬さんには、開発に置いての主要人物でもある束さんのフォローをお願いしたいんだ」
「うっ・・・言われてみれば確かにちーちゃん無しだと現状の私ではキツいかも・・・」
(他人との会話で一人称に私を使えてるだけでもこの短い間で随分進歩したと思うが、言われてみれば現状の束には重荷か、)
「・・・了解した、どこまでやれるかは解らないが、束の夢が折角叶うのだ、やれるだけのことはやるさ」
「さーて、すっぽかしてたけど、未成年すっ飛ばしてまだ中学生である二人を働かせるわけなんだから、二人のご両親に話通さないとなぁ・・・」
槇田がそんなことを話していると、不意に千冬と束の表情が暗くなった。
「・・・・・・ん?どうした?何でそんな暗くなってるの?特に千冬さん」
あまりにも露骨な反応のため、義照でなくとも直ぐに解るが、義照は千冬の方が若干暗い顔をしてるのを見逃さなかった。
「・・・・・・そいえばさ、ちーちゃんには両親がいないんだったよね?」
「はぁ?」
「・・・私が物心ついたときに、弟を置き去りにして私の元を去ってっきりだな」
「・・・・・・それは本当か?、だとすれば、弟さんとたった二人でどうやって・・・」
「私が物心ついたときから親友でいたのが束だ、そんなわけで、束のご両親のご好意で色々援助してもらっててな……今のところは何とか二人で生活できている……と言ったところだ。」
余程言いたくはなかったのだろう、千冬の表情が極端に暗くなっている、だが、義照はこれに対し、簡単な質問を投げ掛けた。
「・・・千冬さん、束さん、
「いや・・・なんだそれは?」
「いえ、全く・・・私、もともとそういうのにまるで興味ないし・・・」
「・・・・・・・・・マジかっ!!、二人とも!少し待っててくれ!!」
二人からの返答を受けた義照は突如ケータイを取り出すと、何処かに連絡を入れ始めた。
「もしもし?情報大臣?大至急調べてほしい事があるのだが。」
「・・・そうそう、織斑千冬って子の家族構成その他
「何でそんなピンポイントかって?その子の両親が行方不明なのと、その子が生活保護等のセーフティネット全ての
「・・・だから!この6年前に整備しなおした「最低限の文化的な生活」のためのセーフティネット群が全部効果発揮せずに大変な事になってるんだよ!!」
「・・・それもついでにやってくれるのか?……解った、よろしく頼む。」(ピッ)
「義照さん・・・?」
「ああ、気にしないでくれ、ちょっとゴタゴタが発生しただけだ」
電話を切った義照、束は義照の真剣な表情に心配するが、彼は特に大したこともないように話す。
「明らかに私の家族の件で気を使ってもらったようにしか見えんのだが・・・」
「ああ、何、本来千冬さんのような状況の人に対して国がするべきセーフティ発動してなかったから、大急ぎで発動させるのと、ついでで似たような事例が他に起きてないか緊急で全国調査するってだけだ、ここら辺は国規模がやることだからね、気にしないでくれ」
「あ、ああ・・・」
(・・・多分私では、関わりようがない部分だな……)
束と同い年である千冬は、この時まだ中学生である。
義照が言ったことがいまいち理解できる年齢ではなかったが、今の自分には関わりようがない部分だとは察し、それ以上の追求を止めた。
「じゃあ二人とも、明日、取り合えずさっき言った場所でな、千冬さんは心配だったら弟さん連れてきても良いからな、」
「ありがとう義照さん、ではまた」
「義照さん、また明日~」
それ以上は特に話すこともなかったので、この日はそこで解散、翌日の顔合わせにて、本格的なスタートを切ることとなる。
~翌日~東京都調布市、JAXA本部建物にて~
「・・・うわ~、やっぱり緊張するなぁ・・・・・・ちーちゃんは大丈夫?」
「何とかな・・・・・・束、逆にお前は緊張しすぎだ」
「あははははは・・・」
JAXA本部前にやって来た千冬と束は、非常に緊張していた、まぁ、これから彼女たちがやることを考えれば当然と言えば当然なのだが。
「・・・ようこそJAXAへ!、二人とも、私が案内するからついてきてくれ」
「ま、正晴さん!?……お、お出迎え有難うございます……」
「束、緊張しすぎで声が小さくなってるぞ?」
「あっ」
「まぁ、束さんと言えども流石に緊張するだろうなぁ、むしろ千冬さんはよく冷静でいられるなぁと言いたくなってしまう・・・っと話がずれたね、案内するから此方へと付いて来てくれ」
やって来た直後、理事長たる正晴直々の歓迎を受け、驚きのあまり声が小さくなった束、気づいた千冬に指摘されてはっと我に返るが、その様子を多少心配しながら、正晴は二人を案内する。
ISで宇宙へ行くと言う束の抱いた夢、二人の男に見いだされたその夢が、遂に現実味を帯び始めようとしていた・・・・・・