兎に優しいIS世界   作:R.H.N

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やっとこさの亡国機業の出番です。

長くなる予定となったので幾つかに分けます。


~亡国機業~ファントム・タスク、その1

・・・・・・・・・ここは、この広くて狭い、そんな世界の何処かにある小さな国。

 

 

 

特徴を一つあげるとすれば、白色、有色、黒色の人々が、もう少し分かりやすく言えば、まるでアメリカのような多種多様な人々が民族の違いによって起こるであろう数々の軋轢を起こさず至極平穏に暮らしていることだろうか?

 

 

そんな国のとある港町、このところ晴天続きのこの街の港には、非常に大きく、似たような規模の造船所が二つ存在していた。

 

 

冷戦の時代、東西両方の陣営から狙われたこの造船所は、片方の造船所で東側の艦艇を、もう片方の造船所で西側の艦艇を生産するという裏取引を行うことで、国レベルで掛かってきた双方からの圧力をいなしつつ、冷戦の終結まで母国の中立を守り切ったという逸話がある。

 

 

その二つの造船所の丁度中間辺りに位置する小さな波止場にある飛行艇乗り場に、とある1機の飛行艇がやって来ていた。

 

「・・・まもなく~~~、~~~でございます、本機はこれより着水の体勢に移ります、着水後乗り場に接岸するまでは席からお立ちになら無いようお願いいたします、本日は【明成通運水上輸送】をご利用頂き、誠に有難うございます。」

 

 

機長のアナウンスの後、飛行艇は着水、微速で乗り場に接岸すると、そこからは多数の観光客が降りて来ていた。

 

 

「・・・・・・機長、ここで会えるという訳で間違い無いのですか?」

 

「はい、本日はあそこの建物にてお二人をお待ちしております」

 

「・・・そう、お役目ご苦労様」

 

「いえいえ気になさらず、これにて私は()の業務に戻りますので後はお二人にお任せ致します、総帥閣下のこと、宜しく頼みます。」

 

「了解したわ」

 

先に降りて現地を巡り始める他の観光客を他所に、機長と最後に降りた二人の観光客が機長となにやら怪しい会話を交わし、飛行艇を後にする。

 

「このような所にも【同志】がいるものなのですね・・・まさか明成通運の系列に我々の手の者がいるとは思いもよりませんでした」

 

「あら?オータムはあの機長が総帥直属の部下なのを知らなかったの?」

 

「え?そうなのですか!?」

 

「基本的に総帥及び副総帥の元へ向かうための徒歩以外でのアクセスすべては、ああやって直接関連会社に潜む形で、総帥直属の部下か更にその部下の監視網が固めているのよ、二人に何かあったら事だからね、貴方もIS装備企業での【表の顔】があるでしょう?基本的にはそんなかんじよ」

 

「・・・・・・じゃあ私が気がつかなかっただけで町中にいる人々の中にも・・・・・・?」

 

「いるかもしれないわよ?」

 

 

機長と話をしたのはオータムとスコールの二人であった。

 

彼女達は総帥への報告の為、わざわざ総帥の元へとここまでやって来たわけだが、彼女達を送った飛行艇の機長・・・義照の弟、義秋が経営する会社の一角である飛行艇輸送会社の社員の一人が自分達と()()であったことにオータムは衝撃を受けていたのである。

 

と、言っても当のオータム自身、日本のとあるIS装備開発企業に表の身分を置いていたりするのだが。

 

 

「さてオータム、話にあった場所に向かうよ」

 

「了解」

 

話が長くなるといけないので早いとこ総帥へと会いに行かねばならない、二人は先の機長に示された建物に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人がたどり着いたのは小さな釣り具屋、住宅街の裏路地の一角にあるこの釣り具屋は、ちょうど先の話にあった二つの造船所の中間あたりに位置している。

 

「・・・・・・空いてませんね」

 

 

「いや?空いてるわよ?」

 

「え?しかしドアにclosedと確かに」

 

「お邪魔するわよ」

 

「ちょっ!スコール!!」

 

見つけた釣り具屋のドアに映る「closed」と書かれた看板、しかしスコールはその看板を無視すると勝手にドアを開けて中に入っていってしまう。

 

【・・・・・・店内のお二方はパスワードを述べてください】

 

 

 

「・・・【鉤十字の悪魔は霧の海原を漂い、科学者は罪の終着点を知る】」

 

「・・・っと、【覇者は無限の果てに消え、奇術女帝は永の眠りに耽る】」

 

「「【伝説の探偵は闇に至り、そして、終戦の亡霊は未だ消えず】」」

 

 

「【・・・・・・スコール・ミューゼル様、オータム・クラウディア様と認証いたしました、どうぞお入りください】」

 

 

二人がドアを開けて中に入り、再びドアを閉めると、突然、何処からともなく女性の声がし始める。

 

 

特に動ずる事もなくスコールが女性の問いに答え、オータムも一瞬戸惑いながらもそれに続くと、部屋の壁の一部が突然の襖のようにスライドし始め、そこから古いエレベーターが出現してドアが開く。

 

スコールは突然のことに戸惑うオータムを促しつつ、二人でそのエレベーターの中に入った。

 

(エレベーターの見た目は旧式のドア手動型エレベーターを思い浮かべれば良いだろう、ぶっちゃけて言えばアレを自動化させた物である。)

 

「・・・驚きました、まさかこんな仕掛けがあるだなんて」

 

「そういやオータムは総帥にお会いするのは初めてなんだっけ?まぁこのように総帥閣下は基本、会うときに第三者に自分達の所在に気づかれにくくなる場所にいるのよ、さっきあなたに教えたパスワードも総帥の所へとたどり着く為に必要なパスワードのパターンの一つよ」

 

「・・・あれ?前スコールはここに来るのは初めてと言いましたよね?」

 

「総帥閣下は長居しない主義らしくてねぇ、前は別のところで会合したのさ、ここも総帥が使っている拠点の一つらしいよ?」

 

二人はエレベーターがゆっくりと降りて行く最中、黙っているのも何なので立ち話に花を咲かせることにした。

 

実のところここにやって来るのははじめてとなる二人、スコールは前に別のところで自分達の組織のトップ、【総帥】と呼ばれる人物に会ったことがあるのだが、この組織の構成関係上、仮にも一部隊の隊長であるスコールと違って末端の部下に過ぎないオータムはこれまで【総帥】に会うことがなかったのである。

 

 

「何でも総帥直轄の秘匿戦力があるとか・・・・・・!!?」

 

「・・・・・・スコール、これ全部我々の戦力なのですか?」

 

「・・・私も予想外だったわ」

 

この時、スコールもオータムも、ここにはこの組織の秘匿戦力があるというだけで詳細は知らなかったのだが、ここに至ってコンクリートの壁ばかりが見えていた旧式のエレベーター特有の隙間から、驚くべき光景が映されたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザバーン、ざぶーん

 

 

ザブーン、ざばーん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザバーン、ざぶーん

 

 

ザブーン、ざばーん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんな海軍戦力がいつの間に整えられていたなんてねぇ、総帥閣下はいったいどうやってこれだけの戦力を・・・?」

 

 

 

スコールが思わず唸るのも無理はない、エレベーターのある地点を中央とし、東西に別れて広がった視界の先には、ズラリと並び佇む凡そ25隻前後の軍艦の姿であった。

 

その殆どが紛れもなくここ数十年で設計された現代式の軍艦であり、冷戦期において建造された米ソの原子力潜水艦と思われる艦影に加え、現在においても最新鋭と言って等しいスウェーデンのコルベット艦《ヴィスビュー》級や、ドイツ海軍補給艦、《ベルリン》級と思われる船までもが見えたのである。

 

その質たるや恐ろしい物があり、現代日本の《あたご》型護衛艦やロシア海軍の《キーロフ》級原子力巡洋艦と思われる軍艦等、各国が現状主力としている戦力の一端が、そのままこの秘密ドックに集結していたと言える。

 

 

またそれらの主力艦の他にも、非武装ながら通信能力及び艦隊指揮能力に特化させた、いわば米太平洋艦隊所属揚陸指揮艦《ブルーリッジ》のような艦も佇んでいる他、挙げ句の果てにはアングルドデッキこそ無いものの、非常に巨大な緑色の航空母艦と思われる艦までもが、今すぐにでも出撃出来るであろう体勢でもってこの場に待機していたのだ、これだけの戦力をどうやってと言いたくなるのも当然の話であった。

 

 

「凄まじい戦力ですね、これだけで下手な小国とやりあえる位の戦力はある感じでしょうか?」

 

「しかし、当たり前の話とはいえ人が多いわね、総帥閣下はどちらにいらっしゃるのかしら?」

 

スコールの言うとおり、これだけの艦艇を維持するのには非常に多種にわたった技術を持つ人々が多数必要である。

 

当然、此所にはそのための人員が所狭しと活動しているわけだが、これだけ人が多いと肝心の総帥がどこにいるのかわからないのだ。

 

そんな事を言っていたら、エレベーターが降下を終え、ドアが開く。

 

 

「・・・・・・【第一実行部隊】隊長、スコール・ミューゼル様、及び同部隊所属、オータム・クラウディア様ですね」

 

「えっ!?今何処から!!?」

 

「・・・その通りよ、相変わらずヒヤヒヤさせるわね、フリージア」

 

「これも私の仕事ですので、ついででオータム様の疑問にお答えするならば、エレベーターのすぐ横に待機していただけ、とお答えさせていただきます。」

 

「ビックリした・・・脅かさないでくださいよ・・・・・・」

 

「これは失礼致しました、総帥閣下はこちらです、私にご同行願います」

 

エレベーターから降りた直後の二人の目の前にいきなり現れたのは、藍色の髪、透き通ったエメラルドに近い緑色の目をした軍服の女性であった。

 

スコールから【フリージア】と呼ばれた彼女は、二人に同行するように促すと、そのまま総帥の元へと二人を案内する。

 

 

二人がフリージアについて行くと、この秘密ドックの端の方に、他の人物が作業しているなかその作業風景を眺めながら絵を描いている明らかに場違いな人物が見えてきた。

 

「えっ?スコール、まさかあそこの絵描きが総帥閣下だったりしませんよね?」

 

残念ながらその予測の通りだよ、レディ

 

オータムが目の前の人物をみて疑惑の目線を向けつつスコールに訪ねる。

 

しかし、スコールがそれに答えようとする前に、目の前の人物はオータムの疑問に半ば自虐的に答えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長めの白髪、透き通った蒼色の瞳、そして明らかに場違いな釣り師の服装と絵具、そして頭にポンと置かれた船長帽子が特徴の、見た目的には初老と思われる男性こそが、スコールとオータムをこの場に呼び出した二人の組織の・・・【亡国機業】の総帥、つまりはトップなのであった・・・・・・

 

 

 

 







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