兎に優しいIS世界   作:R.H.N

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~第一章、「白き騎士と兎を支えた男達」~
兎さんと二人の男


 

 

 

・・・・・・この日、一人の少女がとある発明品を学会にて発表、提唱した。

 

 

 

宇宙のあらゆる環境で動くことが可能な宇宙服・・・・・・の代わりとして考案された操縦者の体を覆うパワードスーツ状の宇宙空間用作業機械。

 

 

通称、「インフィニット・ストラトス」

 

略称「IS」

 

宇宙空間での活動に関して革新的な機構が多数搭載された新時代の宇宙服として提唱されたのだが、余りに革新的すぎて実現性が薄いと思われたのか、或いは他に理由があるのか、発表は成功したとは到底言えず、殆どの人はこのISの存在に対して見向きすることさえなかった。

 

 

・・・・・・そう、()()()()である。

 

 

 

そんなことも露知らず、IS開発者、篠ノ之 束(しののの たばね)は自分の産み出したISが認められなかった事に対し、悔し涙を浮かべていた。

 

 

「束・・・・・・・・・」

 

 

IS開発の協力者で、ただ一人束の追いかけた「夢」を知る同行者、織斑 千冬(おりむら ちふゆ)も束へとかける言葉がなく、二人して黙々と片付け作業をしていたその時、二人の目の前に声をかける人の姿があった。

 

 

「えーっと・・・君が束さんであっているのかな?」

 

「っ!?」

 

突然束に話しかけた若い白衣の男性、となりには正装した40半ば頃と思われる男の姿があった。

 

 

突然話しかけてきた人物を確認した千冬は驚きのあまり硬直するのだが、当の束の方は興味無さげに男を見ると、「・・・何?わざわざ束さんを笑いに来たの?」といわせんばかりの視線を向ける。

 

 

「あ、ヤバイやっぱ第一印象ミスったっぽい」

 

 

「だからこのタイプの子はコミュ障でFAだからさっさと話し切り出した方が良いと言ったんじゃ無いかぁ!!」

 

 

「いゃなに、まーさか私のネームバリューガン無視されるとは思わなくって・・・・・・しかも見た感じ付き添いの人はともかく当の本人はオマエの事も知らないパティーンくせえぞ。」

 

 

「ファーwwwwwwww」

 

 

「なにやってんの?どうでも良いから束さんさっさと二人に消えてほしいんだけど。」

 

 

「Oh・・・・・・」

 

 

二人組は元から束に用があったようで、話しかけに対してセメントで対応されたことにショックを受けたようだが、んなことどうでもいい束は更なるセメント発言を繰り返す。

 

 

「ねえねえ、話聞いてる?さっさと消えてほしいんだけど。」

 

 

「・・・・・・たば」

 

 

「・・・ふざけすぎたか、そこまでセメントされる精神状態の悪さからすると、流石に出直す必要がありそうだな、第一印象最悪にしちまったから次会えるかどうかわからんが。」

 

 

「やっぱりベタな挨拶するよりJAXA理事長と総理大臣のネーム使う方がよかったか・・・申し訳無い、適当なタイミングで出直すので、持ち直されたらまたお会いできればと思っています、篠ノ之 束さん、」

 

 

このセメント対応ではまともに話に持っていくのは厳しいと判断した二人は、普通出しちゃいけない身分を示しつつ、出直しとばかりにその場を去ろうとした、

 

 

「・・・・・・・・・待って!!!」

 

 

「!!!」

 

次の瞬間には束が二人を()()()()()、突然の来訪者に固まっていた千冬がフォローを入れようとして起こったその出来事は、かつて自分がぶん殴ってまである程度修正する必要があった彼女のコミュ障ぶりからは、到底考えられないものであった。

 

 

「・・・・・・今の言葉は、本当?」

 

 

束は非常に恐る恐る彼に聞き出した、彼女の言うことは半ば尤もなことである、凄まじいご身分の人が身バラシしてきたのだ、本当かどうか疑いたくなるのはよく理解できる。

 

 

ただ、メタ視点的に言えばせめて自分の住んでる国の政治首班と自分の夢にもっとも近いお偉いさんの名前と顔くらいは知ってた方が良いのではないか、とかは思ってしまうが。

 

 

「束・・・・・・私が保証しよう、そちらの二人は間違いなく、日本国総理大臣、 槇田 義照(まきた よしてる)氏と、JAXAの理事長、村之瀬 正晴(むらのせ まさはる)氏だ・・・多分束の夢を叶えるのに一番近い人物だと思う。」

 

 

「ちーちゃん・・・・・・。」

 

 

千冬のフォローが入る、流石に二人が首相とJAXAの理事長ともなれば、一般人(なおその後)の千冬ならば顔と名前くらいは知っている、まぁそこはむしろ、知っていたからこそ出会い頭に硬直してしまったわけでもあるのだが。

 

 

「束さん、貴方の夢その宇宙服……ISで宇宙へと行きたいと言う思い、私と彼と、この目でしっかりと拝見させていただきました。」

 

 

「つきましては貴方と話をさせてほしい、その純粋な夢を叶えるのに必要な()()()()()()………そのためのな。」

 

 

「「この通り、宜しく頼めないだろうか?」」

 

 

槇田は深いお辞儀をして束に頼み込んだ、正行もまた、槇田と同じく一礼している。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

束は一瞬、自分の身に何が起きたのか理解できなかった、だがしかし理解するにつれ、徐々に感情が噴出し始めるようになる。

 

 

 

「・・・はい・・・此方の方ごそ・・・よろしくお願いじまず・・・・・・!!」

 

 

「束・・・・・、よかったな。」

 

 

この時、束の顔から流れていた涙は、その時までのISが()()()()()()()()()()()()()()によるでなく、ISを()()()()()()()()()()()()()によるものへと変化していた。

 

 

自分の夢を追い求める一番のチャンスがやって来たのだ、束は嬉し涙で顔を綻ばせながら、二人の男の頼みに答えることとした。

 

 

それから数日の後、JAXAはこれまでの宇宙船による宇宙開発の他に、新たな予算を組むことで新しい有人宇宙開発プラットホームとして、インフィニット・ストラトス、ISの研究を開始すると発表、JAXA理事長が研究の総責任者となり、ISの提唱者、篠ノ之 束を開発における責任者として招聘するなどの大胆な新時代宇宙開発計画を発表した。

 

 

それからわずか10日足らずでIS開発のための補正予算案が成立し、開発責任者として束が招聘、早くも新時代へのプロジェクトはスタートすることとなり、宇宙開発における新しい風として全世界の注目を浴びるようになる。

 

 

新機構の数々が技術的に困難な代物があったこと、予算は割けたが人員は本人の束の意向もあり志願制でそれほど集まらなかったり、そもそも束が当時中学生であったが故の勤務における法律上の問題もあり、開発は順調とは言えなかった。

 

 

それでも、後に天才と称される束と、槇田首相、正晴理事長が自身の伝で招聘した何人かの技術者の協力もあり、理論構築が済んでいて試作品を製造する所からであったISは、試作品の完成までにそう長く掛かるものではなかった・・・・・

 

 

 

 

そして、試作の試行錯誤の末、ISが開発開始されてからちょうど2年後のとある日の事である・・・。

 

 

 

「起動確認、PIC、絶対防御、コア、その他もろもろ、システムオールグリーン。」

 

 

「束さん、これは・・・・・・」

 

 

「・・・・・・まだわからないよ、関節とかを含めて何度も何度も動かしてみないと。」

 

 

「だな、首相到着にはまだまだ時間はあるし、細かい動作確認も済ませてしまおう、千冬さん、引き続きお願いします」

 

 

 

「了解した、取り敢えず動かせるだけ動かしてみるぞ。」

 

 

 

 

 

 

数十分後・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・どうだ?」

 

 

「・・・・・・うん!!」

 

 

「・・・・・・そうか!!」

 

 

「本検査をもって《白騎士》計画は完遂されたと見て大丈夫だよ!」

 

 

 

「「「・・・・・・ついに完成したぁーーー!!」」」

 

 

 

 

 

 

提唱者、篠ノ之 束とJAXA職員達の意地と執念、そして国から提供された資金などの援護により、インフィニット・ストラトス第一号、後に「白騎士」と呼ばれるソレは、JAXAに成された小さな専用工廠において、ついに産声を上げたのであった。

 

 







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