side、千冬
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
試合が中止になった。
アリーシャ、純香、カレン、私と、それぞれの決着を意味した最後の一撃を遮ったのは独軍が出した戒厳令。
放送を聞けば、何でも会場の近くに突然巨大なロボットが出現したらしい。
正直な話、会場警備を統括していたのがオージェ事件のアルバン元帥で無ければ信じられない内容だが、かといって、一夏達の危険を放置してまで非常事態を無視するわけにもいかない。
だがその前に、私たちファイナリストの間に流れているこの沈黙を何とかしなければ
「・・・試合中止かぁ、こりゃ参ったねぇ」
「・・・緊急事態ねぇ、まさかこのタイミングで試合の流れがぶった切られるとはねぇ・・・・・・・・・」
「あらあら純香さん?怒りが顔にお見えですわよ?」
「そういうアンタもだけどね」
・・・と思っていたら揃って怒気を放ち始めた、まぁ正直私もこんな形で試合中止ともなれば怒りたくなるが。
「そんなことよりも取り合えずは避難が優先だろう?正直各々の機体がこの有り様ではどうにもならんだろうし」
「ですわね、試合の邪魔をされたことは業腹ですが、今は取り合えず身の安全を確保しませんと」
「仕方ないか・・・あ、そうだ、じゃあ後で機体がどうにかなったら今度元凶ボコしに行かない?決勝邪魔された腹いせになるけど」
避難優先でそのまま解散になろうとしたのだが、ここでアリーシャが元凶への応酬を提案してきた。
「・・・私は反対はしない、都合が会えば軍人として今回の件を見過ごすわけにもいかない」
「私も構いませんわ、機体がこんなでもなければこのまま外へ出て元凶のロボットとやらに一撃加えたいくらいですもの」
「私も可能であれば・・・だが賛成だ、こんな無粋なマネされたとなれば流石に腹の虫が収まらんからな」
・・・・・・まぁ、可能ならば賛成するしかないな、折角「暮桜」では最後かもしれない晴れ舞台を邪魔された上に、私だけでなく一夏や束達まで巻き添えにしてるのだからな。
この後、私は三人と別れ束達のところへ戻るのだが、暮桜が正直もう保たない。
まぁなんだ、試合中、暮桜に無理をさせすぎてしまったなぁ・・・・・・・・・。
まぁまずは何が原因であれ、約束を果たせなかったんだ、一夏に謝っとかないとな・・・
side、束
「はるるん!外で何が起こったの?何でこんなタイミングで大会中止になんてなるの!?」
「・・・・・・わからん、だが事態が事態だ、戒厳令が発令された以上、退避するしかあるまい」
どうしてこうなっちゃんたんだろう?
ちーちゃんの試合に決着がつくと思われた、まさしくその瞬間の大会中止・・・・・・
正直何かの意図があったとしか思えないタイミングでの中止は、それと同時に会場に未曾有のパニックも引き起こした。
さっきまで熱狂に満ちていた会場は今や外へ出ようとする人で溢れ帰り、幾つもの出入り口は皆一様にして人が詰まっていた。
「戻ったぞ、皆、」
「千冬姉!」
「千冬、決勝は・・・」
「一夏」
「千冬姉・・・・・・」
「・・・・・・ごめんね、お姉ちゃんのカッコいいところ、見せてあげれなくて・・・」
「暮桜」で決勝に臨んでいたちーちゃんが戻って来た、その時のちーちゃんの表情は暗いものではなかったけど、ちーちゃんが原因じゃないのに、いっくんに抱きついて、泣きながら試合前のいっくんとの約束を破っちゃった事をいっくんに謝っていた。
「ちふー、大丈夫?」
「・・・まぁ、な、何が起きたのかはよくわからんが戒厳令が出たんだろう?、状況はともかく今は退避優先にしよう」
「だね」
気を取り直したちーちゃん達と共に会場のゲートへと向かおうとした時、不意におかしな光景が目に映った。
ついさっきまで実況席にいたオーレンドルフ首相が一人、誰もいないアリーナに佇んでいる姿、そしてそこからまるで私を呼んでるかのように手招きしている姿だった。
side、正晴
「束!そっちはアリーナだぞ!?」
「なんかオーレンドルフさんが呼んでる、もしかしたら何かあったのかもしれないから様子見てくる!はるるんはちーちゃん達の避難お願い!」
「オーレンドルフ首相が?・・・わかった、無理すんじゃねえぞ!」
「うん!」
あれからしばらくの後、オーレンドルフ氏との合流のため束と分かれた後、千冬達と共に避難路を駆けていた。
暮桜を台車で運びながらの避難だが、そこで私達はは信じられないものを見ることとなった。
「・・・・・・なぁみとり、流石にこれは違和感すごいよな?」
「だね、さすがの私でも緊急時にこんな光景見れるとは思ってないよ」
「いったい何が起こってるんですかね?」
「一夏君、君割りと冷静だね?」
「まぁ、起こってる出来事自体は悪いことでは無いですからね、奇妙ではありますけど」
出入り口のゲートにたどり着いた私たちが見たのは戒厳令が発令されたパニックのさなか、軍楽隊の行進と同列かそれ以上の規則性をもって等間隔に並び、入り口へと向かう人々の姿だった
普通、こんなパニックの時はスタッフが主導しても出口はギュウギュウの雑多な詰め込み状態に至っているものなのだが・・・・・・ってか会場の軍やスタッフ達の誘導はテキトーにやってるような気がして機能してるように見えないぞ!?
「びっくりするくらいきれいな並びようだなオイ」
「順路に沿った並びでもここまできれいなのは早々ないんじゃないかなぁ?」
まぁしかし、それだけ規則的な行動のお陰で、自分達の予想よりも遥かに早くに避難が完了しそうなことに、1つの安堵を覚える。
その人混みの中に、実況席ごと縛り付けられた状態で輸送されているハロルド首相と、そのすぐ近くで担架に抱えられて運ばれている爆睡中のオーレンドルフ首相を見つけたのは、それからすぐのことだった・・・・・・。
Side、束
「オーレンドルフさん、どうしたの?避難は?」
「ああ、実は束さんと急ぎで話したいことができてね、事態が一刻を要するから、避難が間に合わなくなったときのために設計上安全地帯になってるここで話すことにしたんだ」
「え?どんな話?ってかいずれにせよ避難のあとでもできそうなんだけどなー」
オーレンドルフさんからの大事な話の為にここに呼び出された私。
確かにアリーナの非常事態に備えて、フィールドの中央は建物の倒壊が起こっても、大型の輸送ヘリが安全に離着陸できる地帯となるように天井が無かったりするけど、いかなる理由とはいえ今話す理由にはならない・・・
と、すれば・・・・・・話が急すぎてまさかとは思うけど。
「まぁなんだ、必要な情報を伝えきるためにも取り合えずここら辺を静かにしようじゃないか?」
「・・・っ!貴方誰?オーレンドルフ首相じゃないのは確かにみたいだけど」
直後、本性の一部を表したオーレンドルフ首相の偽物が手を挙げると、アリーナへの出入り口が全て遮断されたのが見えた。
「それに、こんなことして何のつもり?まさかとは思うけどはるるん達にまで」
「それだった、既に会場内で事が起こっとるよ、まぁ、避難を迅速にする
「・・・・・・くっ!」
「おわっと!?」
このままだと不味いと判断して一発殴りかかってみたけど、綺麗な身のこなしであっさりと避けられてしまう。
「ケータイもダメか・・・」
不味い、本当に不味い、はるるん達との連絡が遮断され、完全に孤立した。
「・・・・・・私をどうするつもり?、誘拐でもするの?」
「だから急ぎで話したいことがあると言ってるだろう!!、・・・・・・まぁいい、こうなるのは目に見えていたしな、ちと早いが・・・」
(ガサゴソガサゴソ)
私が出した質問に男はやけにめんどくさそうに答えた後、男はその変装?を解き始めた
「・・・え?、はるるん・・・・・・?」
そして、私が、変装を解いた彼がはるるんの姿にそっくりだと気づいて愕然とするのに、それほど時間はかからなかった・・・・・・
~続く~