モンド・グロッソ会場付近のとある居酒屋
決勝の幕が開けたその頃、モンド・グロッソの会場付近では、大会の観客席チケット抽選から溢れた人々が近くの飲食店に集まり、決勝戦の中継を見て大盛り上がりしていた。
「始まったな・・・おっ、偏差射撃かありゃ?えげつねぇな~オイ」
「何だあの機体、遠隔操作兵器飛ばしながら高速で移動して、おまけにビームをぐにゃぐにゃ曲げてるぞ、」
「ヤバイヤバイ!、スーの機体にビーム当たりまくってる!?」
そんなモンド・グロッソの中継で大盛り上がりする酒場の一つには、槇田元首相とアルバン元帥の他、純香の親友で若年ながらも在日米国軍司令兼、第七艦隊司令官と言うかなりの肩書きを持つ米国海軍ロレッタ・アークライト中将の姿があった。
彼らが見守る試合のスタートはと言うと、開幕と同時に《ブルー・ティアーズ》がビットを飛ばし巧みに操ることで、他の三機が動き出すと同時に全体に濃密なBT兵器の弾幕を張り出し、其への対応で行きなり戦況が動くこととなった。
《テンペスタ》と《轟天》が直ぐ様回避を行うのだが、ビットから放たれたビームが誘導兵器真っ青の速度でぐにゃぐにゃ曲がり、ホーミングしてくるせいで避けきれていない。
この中では比較的小柄で、機動力もあるテンペスタはそれほどダメージを負っていないのだが、武装が基本的に大型なせいで脚が早くても的のデカい轟天は持ち前の装甲で耐えるのに限界があり、早くも荷電粒子砲が一部使用不能になるダメージを受けるなど大きなハンデを背負うこととなってしまった。
その一方で、暮桜はと言うと、恐ろしい事に、ぐにゃぐにゃ誘導してくるレーザーを至極平然と避けていたのである。
「さすがはブリュンヒルデって所ね・・・・・・問題点の多いあの機体であそこまでの事をやってのけるんですもの」
「しかし、あの《ブルー・ティアーズ》、思念操作型の遠隔操作兵器とはいよいよガン○ム染みてきたな・・・・・・」
「軽傷で済むテンペスタもあれだけ貰っておいて武装の損傷で済む轟天も十分おかしいがね、それにしても、初動はイギリス代表が取ったのか、どう推移することやら」
三人はこうして戦況を見守るのだが、この後、不意に槇田が店の中から外の様子をチラ見した時、一瞬だけだが思いもよらないのを目にしたのである。
「・・・・・・!?」(ガタッ)
「ん、どうしました槇田さん?あっ、ちょっと待って!?」
槇田がいきなり席を立ち外へ向かう、店は前払いで丸一日分貸しきっているため、店の外へ出る行為自体は問題ないのだが、何分急すぎるのでアルバンも大急ぎで槇田を追いかけようとする。
「アルバン元帥!私は急な用事が出来た!暫く此処を離れる!!」
「ちょっと待って義照さん試合は!?」
「
「ちょっと待ってください!槇田さん!槇田さん!?」
・・・・・・が、結局アルバンの引き止めにも関わらず義照は何処かへと向かってしまった。
「・・・はぁ、あの人は相変わらず、か…」
「いけー!スーやっちゃえー!!」
「ロレッタさん・・・」
「そのままブリュンヒルデをボコボコのギッタンギッタンにしちゃえー!アハハハハハハ!」
「・・・ダメだ、酒が入ってるわコリャ」
仕方なく、アルバンは槇田を追いかけるのを諦め、いつの間にか酔っていたロレッタと共に店に残ることにしたのであった。
「・・・・・・こっちか?」
(あの時・・・あの時一瞬見えた男女、あれは間違いなく
(身長と髪の色に相違があったが・・・顔つきは完全に千冬と一夏君そのもの・・・)
(可能性的にはあり得ないと考えたい所が・・・・・・
義照が見かけた者は存外に重要な存在なのかもしれない・・・・・・
ここで視点は会場へと移る。
「ッチ!またビットが・・・流石はファイナリストとして此処に来た猛者達、私の全力を以てしてもこれ、ですか」
「そこのアンタが分身を作ったそばから迎撃してくれるお陰さんで、此方はマトモに攻撃出来てないけどね!やっぱ世代の壁は大きいね~!」
「その割には余裕そうだな、まぁお前の事だからこれぐらいは想定してるのだろうが」
「戦闘はほぼ中盤に差し掛かった所でしょうか?ブルー・ティアーズは段々とビットの数が減り始めて来ました、轟天はあれからバカスカ打たれてますが、多少の損傷とドリルとソーの回転速度が遅くなったように見える以外は特に変化がありません、テンペスタはティアーズのビットに分身攻撃を阻害されて思うように動けていない、暮桜は現在最も余裕がある様子ですが、武装の関係上まだ相手に攻撃を行えていません、回避に専念してるのを見るに、まだ機を伺ってる状態でしょうか?そろそろ好機を見つけたい所です」
槇田が何処へと向かった頃、試合は早くも中盤へと移っていた。
現在の各機のSEは暮桜が多少余裕を残している程度で、他は既に残り半分を切っており、それでいてハロルドの言うように各機が決定打を与える事が出来てない状態にいた。
「・・・・・・轟天、損傷率65%を超過、荒覇吐、緑神、出力低下、上部荷電粒子砲壊滅・・・・・・武装ユニット反転、戦闘方針変更、狂化状態へ移行、」
(来るか、純香・・・・・・ここからが本当の勝負所だな)
「ん、轟天の武装ユニットが全損したようじゃ・・・・・・いや・・・武装ユニットを反転させたぞ!?しかも何かごっついガトリングが見えとるぞ!?」
「・・・通常の戦法では勝利は不可能と判断、戦闘方針の変更を決定、緑神、最大展開」
「横向きの回転ソーが縦になって・・・?」
「ん?何であんなドリルを・・・まさか!?」
ここで武装を変化させた純香が、轟天のドリルを思いっきり天にかざした、その直後・・・
「・・・らああああああああああっ!」
ドガァ!
そのドリルは
「アーッ!、会場の地面を削らないでえええ!整備費用がアアアアアアア!!」
「何をするつもりかわからないけどやらせないよっ!」
「噴進砲掃射、ブースターへのエネルギー配分停止、荒覇吐、緑神へ再配分、」
純香による突然の凶行に実況のオーレンドルフが悲鳴をあげる、ドリルで何かしらのアクションを取ろうとしてる事を察したアリーシャと千冬が阻止行動に出るが、轟天から無軌道に放たれる大量のロケット弾幕と十文字上の縦向きに展開された四つの回転ソーに阻まれ接近出来ない。
「おわわわわっ!?まだこんな弾幕を張る能力がっ!?」
「やはり接近出来る状態じゃない・・・か」
「土竜戦法でも取るつもりなのでしょうか?しかし、だとすれば何でブースターを・・・・・・?掘るのが止まりました、こ、これは・・・・・・!」
「荒覇吐、機関砲射撃開始・・・ここからは耐久勝負よっ・・・!」
「成程、その戦法をとって来たか・・・」
「純香さん、凄いことやってるね・・・・」
「え?機体が独楽みたいに回ってるんですけど、どう言うことだ?」
状況を観客席で見ていた束達、純香が何をしようとしているのかにすぐ気づいた束と正晴、流石に一夏にはこの状況がつかめず困惑しており、二人からの説明が入ることとなった。
「ねぇいっくん、創作でよく使われてるドリルって穴堀りには向いてないって知ってた?」
「え?そうなんですか!?」
「まず、創作物のドリルって聞いてなに思い浮かぶだろうか?」
「え~っと、ジェットモグラかな?」
「実は、構造上の話で言えば、一夏君の言うサンダーバードのジェットモグラやウルトラシリーズのペルシダー、マグマライザー、ゴジラシリーズのMOGERAと言った地底戦車とかに使われているようなドリルだけだと、穴を掘るには問題が多すぎるんだよ」
「細かいことは夢がなくなるからバッサリ切り捨てちゃうけど、ドリルって機体を固定する手段が弱いとドリルを回す反動で機体の方がぐるぐる回っちゃうって言う問題点があるんだよー、知ってた?」
「確かアン○ンマンに出てきた地底戦車がドリル部分掴まれてこの欠点を露呈してた筈だな、どうでもいいことだが、」
「そうなんですか・・・・・・ってそれだと轟天もその例に漏れず機体がぐるぐる回るって事ですか?」
「間違いなく、
二人の解説が終わった頃、轟天は地面に突き刺さって停止したままのしたドリルを基点に高速で独楽のように大回転しており、そこからロケット弾と大口径機関砲の弾幕が展開されていた。
しかもロケット砲が無軌道にばら蒔かれているのに対して、回転して狙いもつけられない筈の中でなお、轟天の機関砲は恐ろしい精度で他の三機を襲っているのだ。
「またビットが一基・・・回転してるからと精度を甘く見積もりすぎましたわね」
「ハハハハッ!流石は日本の国家代表、ここからが本番ってね!それじゃあ私も本気で行こうか!」
(・・・まだ動く時ではないか、
「仕方ありませんわね、負担が凄まじいので余り使いたくは無かったのですが、この様子では私も本気を出さざるを得ない様子・・・」
轟天の変化に応じるかのように、テンペスタは分身の数を大幅に増やし始め、ティアーズは残っていた2基の他に、新たに8基ものビットを展開して来たのだ。
「うわぁ~何だなんだナンダなんだぁ!?テンペスタの分身がいきなり多数出現しました!ティアーズもビットを新たに大量展開、ってコレ最初の状態より数多いやん!この三機まだ本気を出していなかったんかい!?」
「轟天の行動に触発されてテンペスタとティアーズが本気を出したと言った所かのう、コレだからファイナリスト陣は恐ろしい」
「他の機体が無茶苦茶をやりだし始めましたが、暮桜には大きな動きが見えません、この状況でもまだまだ余裕があると言えるのでしょうか?そうともなれば、やはりブリュンヒルデは凄まじいと言えますね・・・」
(ワシにはとてもそうには見えんがのう、千冬さんは
「そろそろ終盤か・・・・・・」
「それじゃあ最終ラウンドと洒落込もうじゃない!!」
「さぁ!このティアーズのラストダンスを御照覧あれ!!」
「・・・荷電粒子砲の簡易修理完了、ロケットブースター使用待機へ移行、決戦へと移行する」
四人のファイナリストによる試合はいよいよ終盤へと移行しようとしていた・・・・・・
試合が終盤に移行した頃、会場からかなり離れた地点にある廃ビルの中で・・・・・・
「・・・スコール、そろそろ頃合いかと」
「よし、さっさと起動させちゃいな」
「了解、B班から残りも順次起動させて行きます。」
試合会場から離れた所にいくつかあるとある廃ビル群では、スコールと呼ばれた金髪の女性の指示で、今までに見たことのない巨大な緑色の顔つき片腕二足歩行ロボットと、二つの巨大なキャタピラと蒸気船の外輪みたいなものを両サイドに取っつけた青色のロボット、そして青色の魚みたいなものが、今まさにその姿を衆目に晒されようとし始めていた。
「しかしこんな骨董品、幾ら世界最強各のIS乗り達が消耗戦してるところに投入するとはいえ、他のISに瞬殺されそうですがねぇ、スコールは何でコレを此処に運び出すことに反対しなかったんですか?」
「オータム、確かにこれはそれなりに古い時期の代物よ?他の部下もコレを見て随分アレな反応するほどのね、だけどコレは《総帥》が直々に情報を探し出すレベルの代物で、良く良く調べると凄まじいオーバーテクノロジーがたくさん詰め込まれてるんだよ?」
動き出すロボットを辛口に評するオータムと言う女性に対し、スコールと呼ばれた女性は彼女の上司らしき人物を引き合いに出し反論する。
「スコール、相変わらずコレの話の時は良くコレを持ち上げますね?」
「・・・まっ、昔
「ロマン・・・ですか、女性の私には縁遠い話ですね」
「オータム、それは同じ女性である私に喧嘩売ってるの?」
「いっいえ!決してそんなわけでは・・・」
「・・・・・・ハァ、それにしても、アイツは私の事覚えててくれてるかなぁ?、まっ今は作業に集中するべきだね、オータム、作業が完了し次第此処を離れるよ!」
「了解」
「まもなく起動します」
「さぁ!ISに対応することしか考えてないドイツの軍人どもに新しい脅威と言う奴を教えてやるんだよ!」
「・・・スコール、あれらは自立してるので命令は聞き付けないのですが・・・・・・」
「雰囲気よ雰囲気!やることはやったし、全員此処から退避!急ぎな!」
中が空っぽになった幾つもの廃ビルの中でこっそり組み立てられ起動した前述のロボット群が起き上がり動き始める・・・・・・
今まさに、新しい脅威がモンド・グロッソの開かれてる町に解き放たれようとしていたのであった・・・・・・・・・
~続く~