兎に優しいIS世界   作:R.H.N

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モンド・グロッソ決勝直前

 

 

一夏と箒の剣道大会、その数日後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

~ドイツ、モンド・グロッソ会場にて~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはドイツのとある町にある競技アリーナ、今ここら一帯は大きな歓声と熱狂に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイハイ、こちらは引き続き実況のハロルドと」

 

 

 

「解説のオーレンドルフでお送りする、第二回モンド・グロッソ、バトルトーナメント中継です。」

 

 

 

「と言っても、もう決勝だけどな!それにしてもまさか俺ら首相二人組が実況解説をやることになるとは思いもよらんかったわ!」

 

 

 

そう、国際的なISの世界大会、通称「モンド・グロッソ」そこで行われているバトルトーナメントの決勝戦が行われようとしているのである。

 

 

この決勝戦を今か今かと待ち望むのは何もここの観衆だけではなく、この大会の中継を見ている世界中が同様である。

 

 

 

と、言うのも、今年のモンド・グロッソ、大方の予想では今年も「暮桜」に乗った千冬が総合優勝を難なく勝ち取るだろうと思われていたのだが、その予想を大きく裏切って、前回大会の時はそのとき既に総合優勝者が決まっていたこの試合の勝者が、そのまま本大会総合優勝者「ブリュンヒルデ」の称号を得ると言う大舞台になったからでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、とんでもない大舞台になりましたバトルトーナメント決勝戦!決勝戦へとコマを進めた今回のファイナリスト四人は、何れも本試合に勝利すれば、そのままブリュンヒルデの栄誉をてにすると言う大変な名誉が待ち受けておると言う強者揃いです!」

 

 

「前回大会は初代ブリュンヒルデが機体の特性上参加できない射撃部門以外を総取りして優勝を果たしましたが、今大会はこのトーナメント以外で行われた格闘、近接、射撃、機動の4部門を一つずつファイナリストが持っていくと言う事態になったからなぁ~、面白いことになりそうなのは目に見えておるのぉ~!」

 

 

 

「それでは各ファイナリストが入場するまでしばらくお待ち下さい!とは言っても、もう数分はかかるらしいけどな!」

 

 

首相とは到底思えないテンションの高さと口の悪さで実況を進めるハロルドとオーレンドルフの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってとある控え室、そこには今回もファイナリストとしてここにやって来た千冬と、束、正晴、みとり、一夏の姿があった。

 

 

 

「・・・さっ、いよいよ決勝だね!ちーちゃん!」

 

 

「・・・と言っても今大会の千冬姉の相手はすごすぎるのが多すぎるんだけどなぁ~」

 

 

「確かに凄いのが多いけど大丈夫だよ、この決勝が4機のISによるバトルロイヤルなのは知ってるけど、別段他の3機を纏めて相手しても勝てそうなくらいちふーは強いからね!」

 

 

「そう言うことだ、だから一夏は安心して試合を見守っててくれ、みとりは・・・まぁ、もうその呼び名も慣れてしまったし、良しとするか・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

決勝の控えでも緊張感の薄い状態でいる千冬達、そんな中、正晴のみが無言で《暮桜》の確認を行いながら不安そうな表情を崩せずにいた。

 

 

 

「・・・千冬」

 

 

「・・・正晴?」

 

 

「・・・・・・《暮桜》は持ちそうか?」

 

 

「・・・まぁ、この試合が終わるくらいまでは持つだろうな、それ以降は解らんが」

 

 

「そうか、今回大会のファイナリスト達の攻撃は前回大会の全般的なものよりも遥かに多彩な攻撃を仕掛けてくるぞ、行けるんだな?」

 

 

 

正晴が指摘している通り、実は今、千冬と「暮桜」は二つの不安点を抱えていた。

 

 

一つ目は、他の相手と比べての武装の少なさ、これは非常に単純な話、前回大会と比べると他の選手の機体も順調に強くなって攻撃手法も多彩になっており、第一世代かつ武装が刀一本の《暮桜》では手数に差が出てきている事で、もう一つは、《暮桜》の機体にガタが来はじめていた事であった。

 

 

と、言うのも、タダでさえ人外レベルであった千冬が、近頃の更なる成長に対して《暮桜》の機体動作速度が追い付かなくなり、それでも千冬が機体の限界以上の機動をし続けながら酷使していたツケが回って、束達の整備にも関わらず機体が限界を迎えようとしていたのだ。

 

(因みに、《暮桜》の機体強度は武装が刀一本であると言う代償の代わりに非常に強固なものになっており、《白騎士》より圧倒的に、現在の第三世代機では一番の機体強度を誇る《轟天》とでさえ機体強度だけなら本機は上である、それをそこまでボロボロにしてしまう程に、今の千冬のIS操縦者としての実力が凄まじい物になっていたのである。)

 

 

 

「大丈夫だ、ドリル戦艦が相手ならそのドリルを叩き切れば良い、旋風が相手ならば風を切り払ってしまえば良い、遠隔操作兵器が相手ならやられる前にそのすべてを切り落としてしまえば良い、だから何も問題は無い」

 

 

 

 

しかし、正晴の指摘に対する千冬の返しは明るく、非常に余裕のあるものであった。

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ試合だな、では行ってくる」

 

 

「・・・そうか、千冬がそう言うのならば大丈夫なのだろうな、よし!頑張って来い!」

 

 

「ちーちゃん!頑張ってね!!」

 

 

「ちふー!頑張りなさいよ!」

 

 

「・・・千冬姉!」

 

 

「一夏?」

 

 

試合に出ようとしたその時、不意に一夏が千冬を呼び止めた。

 

だが、緊張からなのか、上手く言いたいことを言おうとすることができない。

 

そんな一夏に、千冬は優しく語りかけた。

 

 

 

「一夏」

 

 

「千冬姉?」

 

 

「私は、ダメダメな人間だ・・・・・」

 

「みとりにしょっちゅう煽られて、何度か一夏に言われてしまったが、自分のズボラな部分は相変わらず抜けていないし、料理もやっと最近マトモになってきたばっかりだ」

 

 

 

「千冬姉・・・・・・・・・」

 

 

 

「だが、そんな私にも尊敬されている部分はある」

 

「だから一夏、これから見せる、そんな《お姉ちゃんのかっこいいところ》を見ていてくれないか?」

 

 

「・・・・・・わかった!」

 

 

 

 

「ありがとう、一夏、・・・では、行ってくる」

 

 

 

 

一夏の返事を聞いた千冬は、《暮桜》と共に

決勝の大舞台へと臨む・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・お待たせいたしました!さぁ~いよいよ、決勝戦のファイナリスト達の入場です!」

 

ハロルドの言葉を引き金に、会場は更なる歓声と熱狂に包まれる、そのすさまじさたるや入場の為に流れたドイツ軍の音楽隊の演奏が意味をなしてないほどである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、行って来ますわ」

 

 

「お母様、御武運を」

 

 

「カレン、無理だけはするなよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初に入場してきたのは、本大会初出場であっという間に射撃部門を制してこの舞台にやって参りました、英国国家代表、カレン・オルコット夫人と《ブルー・ティアーズ》です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さぁ、私の実力がブリュンヒルデや他の猛者達にどこまで通用するか・・・試させて頂きますわよ!)

 

 

愛する夫と娘に見送られ最初に入場してきたのは、なんとセシリアの母である、カレン・オルコット夫人と、完成して間もない最新鋭ISであり、原作ではセシリアが纏っていたあの「ブルー・ティアーズ」であった。

 

 

 

 

 

 

 

「完成したばかりの最新型と思われるISを使いこなしての決勝、他の選手が何れも歴戦の猛者達である中、実力をうかがい知れる機会が少なかった故に、未だに実力が未知数な状態じゃ」

 

 

 

「ハッハッハ!そりゃあそうだ!この機体が完成したのはつい数ヵ月前だからなぁ!、そこから数ヵ月の間秘匿するのは至難だったが・・・何とか成し遂げたと言うものだ」

 

 

「また、他は形は違えど接近戦を主体としているが、本機は遠距離戦主体機だ、それが試合にどう影響するかも見物・・・といったところじゃのう」

 

 

「お?そろそろ次のファイナリストが入場するぞ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「純香海将、行けますかい?」

 

 

「お陰様でコンディションは最高よ、後は実力をぶつけ合うだけ、なにも心配要らないわ」

 

 

「なら大丈夫だと信じさせてもらいましょう、海将、御武運を」

 

「任せなさい!それじゃ重造、いってくるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次のファイナリストは前回大会の射撃部門、今大会の機動部門覇者、南丞純香と《轟天》だぁーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

(千冬・・・今度は負けないわよ、コイツを十全に使えてなかったあの時とは違うからね、他の二人と一緒に突き倒してみせるわ・・・!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に入ってきたのは純香と乗機「轟天」、試合前なのでまだ本格稼働こそしてないものの、その巨大なドリルとソー、そして後部のロケットブースターに砲塔型の荷電粒子砲など、「艦」を感じさせるその威容は、見るものを圧倒するに足るものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず近付きたくない機体じゃのう・・・ドリルに回転ソーにガトリング・・・不用意に近づいたら穴だらけにされてしまうぞい、パイロットも前回大会では完成したばかりの本機であのブリュンヒルデと互角にやり合った純香海将じゃ、時の経った今大会なら前回大会のリベンジ達成もあり得そうじゃの」

 

 

「やはり右腕部のドリルと左の回転ソーが大きな威圧効果を有しています、彼女相手に接近戦を仕掛けるのは正直勇気が必要な所です」

 

 

 

「そいえば、誰も突っ込んでる様子がないけど、純香海将、前回は軍服そのままで来たけど今回は何故巫女服なんじゃ・・・・・・?」

 

 

「多分、あまり気にしてはいけないことなのでしょう、さて、三人目の入場です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ~てっと!ちょっくら行ってくるとしますかね!」

 

 

「姐さ~ん!今年こそブリュンヒルデをケチョンケチョンにしてくだせぇ!」

 

 

「姐さんの完全復活祝いのためにコンディションは最高に整えてあります!コレで他のやつらを薙ぎ倒してヘタリア言う奴等を見返してやってください!」

 

 

 

「わかってるわよ!ここまで支えてくれたアンタ達や、腕と目ェ治してくれた科学者さんのためにもやってやるからね!見てなさいよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三人目のファイナリストは前回大会ファイナリストにて、ブリュンヒルデにリベンジを誓った女性、彼女の駆る《テンペスタ》はいまなお風と共にあります!今大会格闘部門覇者、アリーシャ・ジョセスターフと《テンペスタ》、再び決勝の地へとやって参りました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(千冬・・・前にアンタに敗れてから、私はこの腕と目を失っても止まることは無かった!親切してくれた科学者の為にも、ここでリベンジさせてもらうよ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《テンペスタ》と共に三人目として入ってきたのは前回大会のファイナリストであり、千冬と同じく機体に単一仕様能力を持つイタリア国家代表アリーシャ・ジョセスターフである。

 

 

《テンペスタⅡ》の事故で片腕と右目を喪失したと報道されていたが、本大会ではその報道が嘘だと思われる程に元気な姿を見せての出場であった。

 

 

なお、入場前に彼女に声援を送ったのは《テンペスタ》を整備するイタリア軍の男性整備士達である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女はテンペスタの事故で腕を失ったとの情報を聞き付けていたんじゃが、ありゃ誤報だったか、まぁ情報源のイタリア政府には後で事情を聞くとするかのぉ~」

 

 

「それはともかくとして、彼女のテンペスタは機体こそ、両手のクローとハンドガンのみで戦い、武装と装甲の問題点はその高速機動で補う機動特化の格闘機ですが、彼女の有する風の分身のようなものを作り上げる単一仕様能力はまさしく驚異の一言!技に磨きが掛かっているであろう事を考えると他の選手が彼女の分身にどう対応するかが試合の勝敗に大きな影響を与えるでしょう!」

 

 

 

「武装がシンプルな分、《どう使うか》がポイントになる機体じゃからのう・・・前述の二機と違って第一世代機だから基礎的な機体ステータスがネックになるかのう、あ、そうそう、次で選手入場はいよいよラストじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いよいよやって参りました、最後のファイナリストにて前回大会優勝者、ブリュンヒルデ、織斑千冬と《暮桜》が入場致します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハロルドの実況に然り、回りの空気に然り、会場にて一瞬の静寂が訪れる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・行くぞ、」

 

 

短く一言、千冬は発した後に会場に入る。

 

 

会場は一瞬起こった静寂の後、入場してきた千冬を見てこれまでに無い歓声と熱狂に包まれてゆく・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で、入場の後、他の選手と向き合った千冬達の間では、今はただISを起動してるだけで、お互いの様子を伺いつつも非常に静かな状態で開始の時を待っていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・語ることはないか、」

 

 

 

「もう後数時間もしないうちに決着がつくだろうしね、ここまで来たら余計な事を語る必要は無いのサ」

 

 

 

「まぁ、今此処にいるのは四人のIS乗り、ってだけだから当然の話ね」

 

 

 

「実力行使まで縺れ込んだ頂点決め・・・語る物がまだあったらそれはソレで問題でしょう?」

 

 

「フフフ・・・・・違いない」

 

 

 

 

 

小声で簡単にやり取りした千冬達そのやり取りの後、試合が始まるまで誰一人として話すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まもなくオーレンドルフ首相の合図によって試合が開始されます、ファイナリストの方々は所定の位置に移動・・・・・・してるな、誘導の意味無いやん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまぁ試合開始とするかのう・・・」

 

 

「合図の準備、完了しました!」

 

 

「ご苦労じゃ、」

 

 

「え?オーレンドルフ首相?信号拳銃は?そしてその銅鑼は・・・あっ(察し)」

 

 

ついに試合開始の時がやって来た、開始の合図をとるオーレンドルフの目の前にはいつの間にか用意された銅鑼の存在、

 

 

 

 

 

そして・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「試合開始ッ!」

 

 

 

 

ゴォォォォォォォォォン!!

 

 

 

 

 

オーレンドルフが銅鑼を思いっきり蹴り、ついに大会最後の闘いの幕があがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・続く

 


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