やさぐれエリオとコミュ障キャロwithスカピョン一家   作:アタゴン

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前半は三人称、後半は一人称。
*で切り替え。


第1話 まだギリギリやさぐれてないエリオくん

すでに日は落ち夜の帳が降りあたりはほの暗い。

 

そこはとある管理外世界。

 

夜空に瞬く星たちの光が優しく照らす森で小さな炎が輝いている。

 

遠くに川のせせらぎが響く開けた場所に焚火がある。

 

火のそばには木の枝に刺された魚がありそれに見入るように座る小さな赤毛の少年がいた。

 

薄汚れた服を身にまとい、腹を割り開かれた魚たちが赤い炎に焼かれる様を身じろぎもせずにじっと見つめている。

 

そんな少年の肩がぴくりとはねる。

 

そして暫くするとがさがさと葉のこすれる音をさせながら少女が姿を現した。

 

髪は桃色でぼろぼろのマントを身に着けその小さな腕に果物を抱え、ふらつきながら少年に近づく。

 

その後ろから一匹の小さな竜が追いかけるようにして森から飛び出す。

 

「見て、エリオ君。こんなに採れたよ!」

 

「お帰り、キャロ。もうすぐ焼けるから夕飯にしよう。フリードもお帰り。」

 

「キュクルー」

 

満面の笑みを浮かべる少女に微笑みを返し、竜の頭を撫でた少年は再び焼いている魚に目を向ける。

 

異常な光景である。

 

幾ら次元世界の就労年齢が低いと言っても10にもならない子供達だけで野宿紛いのことをしているのはおかしい。

 

そう、彼らはその出自からして普通ではない。

 

出自のせいで親元から離れて二人と一匹で暮らしているのだ。

 

正確には引き離されて、となるが。

 

 

 

 

 

 

僕の名前はエリオ。

 

ファミリーネームはない。

 

エリオという名前も本当は僕に与えられたものではない。

 

僕のオリジナルにつけられた名前だ。

 

そう、僕はクローンなのだ。

 

それも違法な技術を持って造られた。

 

僕はそうとは知らず両親と幸せに暮らしていた。

 

しかし、幸せな暮らしを長く続けることは出来なかった。

 

僕を生み出した技術、プロジェクトFは成功例が少ないらしい。

 

クローニング自体は上手くいっても記憶転写や魔力資質に問題が出ることが多く、数少ない成功例である僕達を狙って違法な研究所の研究者達が僕の家を訪れたのだ。

 

そして両親は僕を捨てた。

 

研究者達は僕が違法なクローンで有ることを盾に取り管理局への通報をしない代わりに僕を手放せと脅しをかけ両親はそれに屈した。

 

親子の絆とはこの程度なのか?

 

それとも僕が偽物だからか?

 

どちらにせよ、もう他人なんて信じられない。

 

両親に捨てられ呆然とした僕を管理外世界に連れ出した研究者達は地下に造られた研究施設、その最下層の牢屋のような場所にぼくを放り込んだ。

 

頭の中で自問自答を繰り返していた僕を現実に引き戻したのは向かいの牢屋にとじこめられた少年だった。

 

拘束され、傷だらけになって呻き涙を流していた。

 

その光景は停滞した僕の精神に恐怖と言う衝撃を与え、恐怖は生への執着を生んだ。

 

次の日に研究者達が牢屋を訪れ、少年を拘束したまま連れて行った。

 

少年は帰って来なかった。

 

それを恐怖に震ながら見ていた。

 

連れて行かれた少年が縋るように僕を見ていた。

 

いや、あれは次は僕の番だという意味だったのかもしれない。

 

少年が連れて行かれた翌日僕の番が来た。

 

白衣を着た男が僕を牢屋から連れ出した。

 

その時連れて行かれた少年の姿が頭に思い浮かんだ。

 

目が、あの少年の目が僕を見つめている。

 

僕を見つめる目が憎悪を孕んでいる。

 

精神の限界だった。

 

僕を連れて行こうとする研究者に電撃を浴びせた後一目散に走り出した。

 

とにかく上へ、上へ。

 

無我夢中で走り続けた。

 

途中、捕まえようとする奴らもいたがそいつらにも電撃を浴びせる。

 

 

 

 

僕が幼子だからか、自失状態だったからかは知らないが特に拘束されていなかったのは幸運という他ない。

 

その研究所には研究者しかおらず脱出は容易だった。

 

しかし、研究所から逃げ出してからも安息の日々が訪れることはなかった。

 

広大な管理外世界は鬱蒼とした木々が蔓延っていて、研究所も森のど真ん中。

 

目の前に広がる森に飛び込んだ僕はあてもなく彷徨うことになり野生の厳しさを知ることになる。

 

襲いかかってくる魔獣達に電撃を浴びせ、川で優雅に泳いでいる魚達に電撃を浴びせ、気絶した魚達にさらに電撃を浴びせ食べた。

 

最初は魚への電撃加減がわからず爆散させたり、黒焦げにしたりと散々だったが獲った魚は残さず食べた。

 

命は無駄にできない。

 

夜は電撃で起こした火を焚いて眠る。

 

そんな生活に慣れてきた頃、電撃の魔力反応を辿ってきた研究者と護衛であろう魔導師達に遭遇。

 

電撃を浴びせて撃退する。

 

電撃浴びせすぎである。

 

電撃万能説を提唱したい。

 

魔獣対策の罠を設置していたのも幸いだった。

 

数日後に倉庫のようなものを発見。

 

入り口は電子ロックされていたので電撃を浴びせて壊すも幼い僕の力では電子系統が壊れて鉄の塊になった扉を動かせなかった。

 

提唱したばかりの電撃万能説を自らで覆すことに。

 

さらに数日後この世界を中継している密輸屋がやってきた。

 

どうやら僕が扉を壊したのはこいつらの食糧倉庫兼商品倉庫だったようだ。

 

目の前に食糧があったことを知ったときは眩暈がした。

 

とりあえず研究所の連中と一緒に来た魔導師からぶんどったデバイスと僕自身の戦闘力をネタに密輸屋とOHANASHIする。

 

しかし、僕の唯一の魔法電撃のアピールをしていると扉を壊したのが僕だとバレてしまった。

 

電撃ェ……。

 

襲いかかってきた密輸屋達に電撃を浴びせる。

 

近くに密輸屋達の使っていた転移魔法陣があったので使ってみるとどうやら船に転移したようなので失敬することにした。

 

操縦席を見つけるも当然動かせるはずもないので電撃を浴びせた。

 

オートパイロットが作動したのは運がよかった。

 

最初は快適な船旅を楽しんでいたが食糧と水が積まれていなかったことに気づき絶望。

 

トイレの水を飲むかどうか真剣に悩んでいる間に飢えと水不足で昏倒。

 

次に目を覚ました時には魔導師らしき連中に囲まれていた。

 

何も知らない子供を装っていると船の外に連れ出された。

 

外には豊かな自然が広がっていた。

 

飢えと水不足で理性に限界が迫っていた僕は魔導師達を振り払って森へ吶喊した。

 

「ワレワレハカンリキョクノ」とかなんとか言っていたがよく覚えていない。

 

水と魚でお腹をいっぱいにするも急な食事を飢えで弱った内蔵が受け付けなかったのか全て戻してしまった。

 

一人と一匹に出会ったのはそんな時だった。




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