Fate/Rising hell   作:mgk太

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狂人と断章

 バーサーカーのマスターはライダーとそのマスターを深追いしなかった。ライダーの一撃で動きが一瞬だけ封じられていたせいで反応が遅れたが、ヘラクレスならすぐに追いつけただろう。そのヘラクレスは、今は荒れたオフィスビルの地面に座って沈黙している。

 対してそのマスターは、ニヘラニヘラと笑っていた。

 

「ふぬん、流石は私のサーヴァント。すぅばらしぃ働きです! この調子なら、あのライダーの攻略は余裕でしょう。これで私が聖杯へ一歩近付いた! そうです! 聖杯を、万能の器を手にするのはこの私! この私以外にはあり得っまっせぇん!!」

 

 えひひひ、と腹の底から甲高い笑い声を漏らすバーサーカーのマスター・アーク。その様子は、狂人そのものだ。依然沈黙を守るヘラクレスより、余程狂っていると言えよう。

 しかし、狂人マスターから漏れだす魔力は異常な程に大きい。ヘラクレスをバーサーカーとして使役するのに十分な魔力___かのアインツベルンのホムンクルスにも匹敵するだろう。

 

「後は......セイバーですねぇ。最優と呼ばれしサーヴァントの姿は未だ拝めていない......どんな剣士なのか。私としては楽しみで楽しみで仕方ありません。貴方を楽しませてくれるといいですねぇ、ヘラクレス」

 

「ええ、そうだといいですね」

 

 狂人の独り言に、突如応えた人物がいた。

 何もないはずのオフィスビルに何の前触れもなく現れた、一人の女。

 しかし、狂人の方はさして驚いた様子はなく、ゆっくりと女の方へ振り向いた。

 

「おやおや、これはこれは。お久しぶりでございます! 実に、二日ぶりでありますねぇ、私たちはご覧の通り絶絶絶好調でありますが! 貴女様の方は如何でございますかぁ? サーヴァント・キャスターよ」

 

 サーヴァント・キャスター。

 そう呼ばれた女は、狂人の態度に狼狽えることなく、彼の歪んだ顔を見据えている。

 無表情の美しい顔からは、何を考えているのかさっぱり分からない。

 

「それで? サーヴァント・キャスターよ。今度はいかようでございますか? この不肖、私めに出来ることならなんっなりと申しつけくださいませ!!」

 

 そう叫んで地に膝を突く狂人。明らかに、敵のサーヴァントに対する態度ではないだろう。

 ならば、このマスターとキャスターは、何らかの共戦協定を結んでいるに違いない。

 

「いえ、これ以上貴方に頼むことはありません。貴方は、これまでの通り、遭遇したマスターとサーヴァントを片っ端から駆逐して下さい。その為に私が与えたヘラクレスなのですから」

 

「ええ! ええ!! わかっておりますとも!! 不肖私めがヘラクレスなどという大英雄を使役できるのは全て貴女のお力添えがあったからこそなのですから!! 故に! 貴女の僕として奉仕するのは当然の帰結だ!」

 

「そう、ありがとう」

 

 キャスターはあくまで素っ気なくあしらっている。

 眠ったように動かないヘラクレスだが、このサーヴァントを使役するには膨大な魔力が必要となる。そう、かのアインツベルンのホムンクルスでなければ耐えられないほどの魔力。

 この狂人マスターにそれほどの魔力が備わっていたのだろうか? 答えは否だ。

 彼の言う通り、ヘラクレスを使役できているのは、キャスターの援助があったから。

 キャスターは言う。

 

「それに、さっきのライダー。あのサーヴァントは逃して正解です。彼女にもこれから働いて貰わなければならない。その為に、私は監視役に徹底するとしましょう......それでは行きましょうか、マスター」

 

 マスター。

 そう呼びかけた相手は、キャスターの更に背後に立っていた。これには狂人は気づかなかったようで、驚いたように眼を剥いている。

 

「サーヴァント・キャスターのマスターですか。貴方、いつからそこにぃ?」

 

「ふん、■がお前如きの■■■感知できるわけがないだろう」

 

 キャスターのマスターの台詞は、一部ノイズが掛かったように聴こえない。狂人は首を傾げた。それにこのマスターは少し変だ。

 

「貴方......何者ですか? 私には貴方の魔力が見えません......いえ? それどころではないですねぇ。どうも、貴方の姿が定まらない。揺らいでいます。像がぼやけているようだぁ」

 

「認識阻害ですよ、気にしないでください」

 

 キャスターは特に気にかける様子はない。彼女にはマスターの姿がはっきり見えているのだろうか。

 

「行くぞ、■■の■■■。こんな■■に構っている時間など■■のだろう?」

 

「それもそうですね。では、バーサーカーのマスター。よろしく頼みますね?」

 

「ええ! お任せあれ! この私めの誇りに掛けて貴女に支え抜いて見せましょう!! アーク=エルメロイ=ファルブラヴの名にかけてぇッ!!!」

 

 そう高らかにアークが叫び終えた時には、既にキャスターとそのマスターの姿は消えていた。

 そして彼は、満足気に右手の甲を摩る。

 そこにはマスターとしての証、赤い刻印の令呪が刻まれている。

 

 きっちり、三画分(・・・・・・・・)、刻まれていた。

 

「ふふん、この聖杯戦争、やはり私たちの勝利ですねぇ......」

 

 アークは目を黒く輝かせ、右手の甲を自分の舌で、ひたすら愛おし気に舐め続ける。

 その狂人を止める者は、ここにはいない。

 

 ________

 

 接続確認。

 ユーザー名:vel 認証。

 

 プログラムの確認を行います。

 

 現在、全てのサーヴァント・マスターの召喚は終了し、戦闘フェイズに移行しています。本聖杯戦争、三日目までの脱落者、規定違反者はゼロ。滞りなく進んでおります。

 

 現在、観測地点753付近で戦闘が行われている模様。サーヴァント・アサシンとサーヴァント・アーチャーの霊器を確認。環境負担率は29.7%。許容範囲内です。

 

 他、目立った戦闘は見受けられません。

 確認は以上です。

 他にコマンドを実行する場合は、規定コードを入力して下さい。

 

 了承。それでは、引き続きプログラムを監視致します。

 

 残りサーヴァント数:8騎(・・)

 

 健闘を祈ります。

 




一章で出現、生き残っているサーヴァント一覧

???/ライダー
織田信長/アーチャー
???/アサシン
ヘラクレス/バーサーカー
???/キャスター

まぁアサシンとか分かっちゃうよね......仕方ない。

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