Fate/Rising hell   作:mgk太

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名無しのマスター 3

「お、お前が俺のサーヴァントだったのかよ!?」

 

「それはこっちのセリフよ! 貴方、今まで私のことほっといて何をしていたわけ!?」

 

 出会って速攻の取っ組み合いだった。

 殴りかかってきたライダーに遠慮なく頭突きを喰らわす。相手は結構な美少女だがそこら辺は関係ない。『俺』は男女差別はしない主義だ。

 

「ってぇ!?」

 

「ったぁ!」

 

 思ったより石頭だった。なんてやつだ。

 両者共に額を抑えて涙目で叫んだ。

 

「おまっ! 助けてやったんだから感謝しろよ! 令呪一回使ったんだぞ!」

 

「はぁ!? 元はと言えば、貴方が阿保だったから私が助けなくちゃいけなくなったんでしょう!?」

 

「じゃあ何で助けてくれたんだよ!」

 

「そ、それは......」

 

 言うなり大人しくなったライダー。ふっ、やっぱりツンデレだな、と『俺』は心の中でほくそ笑んだ。

 しかし、彼女を見ているとこちらまで気恥ずかしくなる。

 

「まぁいいよ、これでおあいこだ。これからは俺がお前のマスターだ。よろしくな」

 

「え、ええ。サーヴァント・ライダーよ。よろしくね」

 

  そういえば、と『俺』は最初から気になっていたことがあった。

 

「お前、真名は何なんだ? ライダーなら何かしら乗り物もってんだろ? それで今は逃げようぜ」

 

「私の真名は......言いたくないわ」

 

「言いたくないって......俺はお前のマスターなんだぞ? 別に俺に知られたって困ることはないだろ?」

 

「まぁ、そうなんだけどね……」

 

 どこか気まずそうに『俺』から目をそらすライダー。

 まぁ、言いたくないなら無理に聞くこともない。

 どちらにせよ、彼女の真名を知ったところで『俺』に出来ることはない。自分が魔術師かどうかも定まらないのだ。

 それに今は……。

 

 銃声が再び轟いた。

 

「アーチャー!」

 

 銃声は崖下からだ。そして___

 

「ふん、やはりお主がライダーのマスターか。随分と一人で寂しそうじゃったぞ、そこのライダー」

 

 崖下から飛んできたアーチャーは火縄銃を肩に担いで言った。

 ライダーは剣を構え、『俺』の前に立った。一応サーヴァントとしての使命は心得ているらしい。そして、それが自分に適応されることが少し嬉しかった。

 

「ライダー、あいつは何者なんだ。あの火縄銃のアーチャーは」

 

「あの火縄銃、日本風の装備、おそらくあのサーヴァントの真名は織田信長!」

 

 ___織田信長。

 日本、戦国最強クラスの将軍。

 その存在は知っている。

 

「そう! わしこそが真の覇王、またの名を、六天大魔王織田信長!」

 

 そして天へと一発。ドヤ顔で景気良く発砲した。

『俺』は正直にヤバイと感じ取ってた。

 彼女は弓兵として一級クラスのサーヴァントだ。対してライダーは……。

 

「な、何よ。何か文句でも?」

 

「いえ別に」

 

 ライダーは真名すら分からない未知数のサーヴァントだ。ライダーのくせに未だ騎乗しているところを見たことがないし、この状況でもサーベルを構えているところを見ると、本人もライダーとしての本職を全うするつもりはないらしい。

 不安な戦況だ、と感じている。

 

「まずいわね……あのアーチャー、かなり鬱陶しいわ」

 

 ライダーがアーチャーを見据えたまま言った。

 

「不利なのはオーラ見ただけで分かるけど……、まだ何かあるのか?」

 

「し、失礼なこと言ってくれるわね……まぁそれは後でぶん殴るとして。あのアーチャー、対ライダー兵器と言っても過言ではないわ」

 

「対ライダー兵器……」

 

 それはいよいよマズイのではないか?

 ライダーとアーチャー本来クラスの相性は互角のはずだが、織田信長に関しては例外らしい。

 

「どうする、ライダー。俺としては今すぐにでも撤退したいんですけど」

 

「そうね。あの将軍様が素直に逃がしてくれるのなら、そうしたいけど」

 

「是非もない。このわしが獲物を逃すとでも?」

 

「やっぱり!」

 

『俺』はライダーの華奢な背中を見つめながら唸る。

 弾丸のダメージを負っている彼女がどこまで闘えるか、今は彼女を信じるしかない。

『俺』は彼女に告げる。

 

「ライダー、隙を見て撤退しよう。それまで頼めるか?」

 

「ええ、やれるだけのことはやるわ。貴方には何も期待していないから大丈夫よ」

 

 大丈夫って一体何が大丈夫なのか……。それにしてもツン全開である。

 ともかく、ライダーは闘う気らしい。アーチャーは言わずもがな。

なら『俺』はタイミングを伺い、どうにかして撤退するチャンスを掴む。

 

「行くわよ___破れた御旗(ルーザーズ・フラッグ)!」

 

 ライダーの宝具は旗だった。

 地に刺さっている先が鋭く尖っている。槍のように扱うのだろうか。宝具を開放し、ドヤ顔で構えた。

 それに___

 

「ほう、その旗、魔力の強化をするようじゃの」

 

「流石、将軍様は気付くわね。詳しくは違うけど、大体そんな感じよッ!」

 

 旗の切っ先を向け、アーチャーに向かって一直線に突っ込んで行くライダー。アーチャーの弾丸をその旗槍で巧みに弾く。アーチャーは一度後方へ跳んだ。

 

「なんだ! やるじゃないか!」

 

 そう叫んだのも束の間、今度はアーチャーが反撃に出る。

 空中に浮かぶ火縄銃三丁。弾丸は単純に3倍だ。

 しかしライダーは尚もアーチャーを追って突進する。

 

「これでも喰らえ!」

 

 九回の銃声が重なり、一つになって鼓膜を揺らす。

 ダメだ、当たる! 『俺』は必死に逃げろ! と叫ぶも、彼女にそのつもりは一切ないらしい。彼女の突撃には流石のアーチャーも驚いたようで、「マジかよ!」と声を漏らした。

 

「ライダー!」

 

 一発目は心臓。旗の枝で弾く。

 二発目は右脚。跳躍し、躱す。

 三発目は跳躍を見越した空中。再び旗で防御。

 四発目は着地を狙った左脚。着地せず、旗を用いて棒高跳びのように避ける。

 五発目、六発目は両肩。腰を落として回避。

 七発目、八発目は腹部。旗を回転させ防御。

 そして九発目は顔面___

 

「はぁッ!」

 

 眩い紫電が空間を裂いた。

 雷光を纏った旗槍が最後の銃弾を阻む。

 

「なにっ!?」

 

 面食らったアーチャーは更に後ろへ飛び、火縄銃を構え直すが___

 ライダーはニヤリと笑って言った。

 

「貴方、後ろ、大丈夫なのかしら?」

 

  「ぬぁっ!?」

 

 アーチャーが立っているのは崖だ。あと一歩の所まで追い詰められている。

『俺』はライダーの予想以上の活躍に興奮していた。

 こいつ、強いじゃないか___

 それにしても、ますますライダーぽくない。これでは完全にランサーだ。ライダー改めツンデレランサーである。

 

「なるほど......お主、不完全なサーヴァントと思って油断していたわ。だが、もう心配しなくてよいぞ! ここからは全力じゃ」

 

 今度はアーチャーがニヤリと笑う。これが本気ではないとは薄々感じてはいたが、言われてはじめて恐怖を感じる。

 加えてライダーはかなり体力を消耗している。さっきの弾丸避けは神業に迫るシロモノだったが、その分多く体力も使ってしまったのだろう。

 そしてアーチャーが動いた。

 

「ライダー! 来るぞ!」

 

「分かってるわよ!!」

 

 森が更にざわめきだす。アーチャーを中心に何か、大きな力が渦巻いて行く。それが魔力だと、『俺』には分からないが、本能が危険を告げ、膝が震え、鳥肌が立ち、声が出ない。

 ライダーは旗槍を構え、険しい表情で唸る。

 

「なんて魔力量なの……。間違いなく宝具が来る! マスター、何かの陰に隠れて! 多分私じゃ防ぎきれない!」

 

「それじゃお前が!」

 

 アーチャーはあくまで敵のマスターの使い魔だ。慈悲も容赦も無い。あるのは、敵を殲滅せよというマスターの指示だけだ。

 そして展開される火縄銃。『俺』とライダーを取り囲むように銃口を提げている。

 数は三千。

 無限とも言える凶器が牙を剥く。

 

「三千世界に屍を晒すがよい。天魔轟臨! これが魔王の……ッお前ッ!!!」

 

「えっ?」

 

 詠唱が止まった。無数の火縄銃は虚空へと消え、アーチャーの意識は既にライダーには向けられていなかった。

 意味が分からず、唖然とアーチャーの顔を見ると、目線は『俺』たちのさらに後ろ、森の奥へ向けられていた。何か、いるのか?

 

「何だ……?」

 

「分からない。けど、将軍様は私たちは見逃してくれるみたいよ」

 

「見逃すというか、意識から外されているというか……」

 

 何と嬉しいアウトオブ・眼中。

 そして将軍様は、

 

「おのれぇぇぇぇぇ!!! 貴様、ただで逃がすかぁ!!」

 

 などと絶叫し、森の奥に火縄銃をぶっ放しながら突っ込んでいった。

 取り残された『俺』たち二人はあまりの急展開に茫然として棒立ちだ。

 

「えー。どゆこと?」

 

「はぁーっ、わっかんないわよ。あんな狂人アーチャーのすることなんて……。ていうか疲れたぁ。マジ死ぬかと思ったわ」

 

 膝を着いて地面に座り込んだライダー。本当に疲労は溜まっているらしい。サーヴァントでもそこは『俺』と同じだ。

『俺』も緊張が一気に解かれて、ライダーの横に座り込んだ。

 

「お前、なかなかやるな。さっきの回避術? すごかったぞ」

 

「あ、あ、ええ。あんなの当然よ。サーヴァントとして当然の身のこなし。私、軽量級だから」

 

「そうなの? それで、あの電撃みたいなのは? 魔術も使えるのか?」

 

「あー、まぁそんな所よ。そこまでのシロモノじゃないから期待はしないで頂戴」

 

 一通り褒めてやって好感度を稼ぐ。

 これからこのサーヴァントと上手くやって行くための通過儀礼みたいなものだ。けれど、実際さっきの闘いぶりには舌を巻いていた。

 

「んじゃ、とりあえず拠点作らないとな。いつまでもうろついていたら格好の餌食だ」

 

「それもそうね。私は今までずっとこの森で逃げ隠れしてたけど。誰かさんのせいで」

 

「あー……、すんません」

 

 彼女は俺の前を先導するようにズカズカと歩いて行く。どこか行くあてでもあるのだろうか。それにしても、移動にもやはり騎乗スキルは活用しないようだ。真名が分からないからはっきりとは言えないが、このサーヴァント、やはり乗り物を持っていないのではないか? 嫌な疑問が頭の中をグルグルと回り始める。騎乗しないライダーなんて冗談もいいところだ。

 

「何?」

 

「いえお気になさらず」

 

 しかしキツイ性格してるなぁ。

『俺』のタイプは年上の、優しくて包容力のある人なのだ。

 言ったら殺されそうなので黙って後ろについて行く。

 

「なぁ、やっぱり真名は教えてくれないのか? 立てられる作戦とかさ、そこらへん変わってくると思うんだけど」

 

 言うと、ライダーは一度だけ振り返った。

 その顔は、とても申し訳なさそうで、『俺』は思わず立ち止ってしまう。

 

「いや悪い。言いたくないなら別にいいよ。誰だって言えないことはあるしな」

 

 だからって真名を言わないはないだろうに、とは思っているが余計なひと言である。コミュニケーションは大切に、だ。

 ライダーは俺の言葉を聴いていたのかいないのか、何も言わずに歩き続けている。

 

 少しの間があって彼女は口を開いた。

 

「ありがとう。貴方、優しいのね」

 

「おう。俺は優しいぞ。強くはないけどな」

 

 本当は、自分のことなど何一つ覚えていないというのに。そんなことを言ってしまう自分が酷く醜く感じた。

 

「じゃああれは? お前が振り回してた旗は宝具なんだよな?」

 

「ええ、破れた御旗(ルーザーズ・フラッグ)って言ってね、私の自慢の宝具よ」

 

 破れたって......ご自慢の一品にしては景気の悪そうなネーミングだ。

 名前とは裏腹に結構実用的ではあるようで、アーチャーは「魔力を増幅させる効果がある」と言っていたし、この宝具を出してからライダーの動きは飛躍的に身軽になっていた。

 名前の由来が気になるところだが、そういうのは真名を聞いてからにしようと思う。

 なので、別の気になることを訊くことにした。

 

「なぁ、どこまで行くんだ? 拠点、あるのか?」

 

「ええ、森の外だから少し歩くわ。一応サーヴァントと鉢合わせしないか目を光らせておいて頂戴」

 

「森の外か。しかしこの森にも終わりはあるんだな」

 

「そりゃあ、まぁ、終わりはあるわよ。結構魔術的に複雑なの。どこのキャスターが仕掛けたのか知らないけどね」

 

 魔術的に複雑、というのは魔術の罠が仕掛けられているとかそんな感じなのだろうか?

 そう考えると足が少し竦んでしまうが、流石にライダーが罠について何も考えていないということはないだろう。 全く、嫌な話を聞いてしまった。

 

「まぁ、魔術的にって言っても、罠とかそんなのじゃなくて空間が継ぎ接ぎにされているだけなんだけど。割りとやっかいなのよねぇ、突然気配の無かったサーヴァントと鉢合わせ、何てことが起きちゃう」

 

「え? どゆこと? 罠じゃないのか?」

 

「だから、空間が継ぎ接ぎになっててね、森の中がランダムワープの迷路みたいになってるってこと。全く、どこのキャスターの仕業よ......」

 

「ランダムワープって、それこの森から抜け出すの無理なんじゃないか?」

 

「何も考えず走り続けたら永遠に出られないでしょうけど、ワープ地点からは魔力が漏れてるから、気を張っていれば気付くわよ。......ほら、そこ」

 

 そう言って、ライダーは森の少し奥の方を指差した。そこから魔力が漏れだすワープ地点があるらしいが、『俺』にはさっぱり分からない。こうやって魔力を感知できないところを見ると、『俺』はどうやら本当に魔術師ではなかったのかもしれない。

 ならどうして、この聖杯戦争に参加しているのか。ていうか、何故参加できたのかが謎である。

 


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