ストーカーの変態男に転生しますた   作:クワルカン

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6話

 ユウナちゃんが泣き止んだ後、2人ともまだ時間があるので一緒に遊ぶことになった。

 泣き止んでくれたことも、原作ヒロインと仲良くなれたことも嬉しいのだが少し驚いている。

 ユウナちゃんは、想像以上にお転婆だった。

 

「わぁ~い。シーモアさん。こっちこっち!」

 

 目の前のユウナちゃんは、体の周りに赤、青、黄、白、の四色の光の玉を浮かべ、子供とは思えない速さで走り回っている。原因は私だが。

 そもそも私の中には、子供は突然走り出し転ぶというイメージがあった。回復魔法を使えばすむ話だが、わざわざ痛い思いをさせることもないだろうと思い、"プロテス"を使った。"プロテス"は物理防御力を上げる魔法で、転んでも平気になると考えた。だが、ユウナちゃんは魔法が発動するときの、目の前に光の壁が現れるのが気に入ったらしい。もっともっととせがまれた。

 そう言われて調子に乗った私は、属性攻撃を防ぐ"バファイ""バウォタ""バサンダ""バコルド"魔法防御力を上げる"シェル"動きを速くする"ヘイスト"を次々に使った。結果として突然今までより速く走れるようになったユウナちゃんは、はしゃいでいる。

 

「……あれ?消えちゃった……。シーモアさん、もう一回!」

「ああ。いいとも」

 

 チートの方も使えば更に色々なことができるが、流石に自重している。

 

 

「……んん~。シーモアさん、おんぶぅ」

「はいはい。そろそろ、ユウナちゃんのお父さんの所に行こうか?」

「うん。あっちだよ」

 

 走り回って疲れたらしく、少し眠そうだ。眠ってしまう前に送り届けなくては。

 

 

 

「ユウナ!何をしていたんだい?」

「シーモアさんと遊んでたの。シーモアさん、すごいんだよ。こう、光るたまがくるくる~って!」

 

 この人がユウナちゃんのお父さんか。まあ、原作知識で知ってはいた。後の"大召喚士"ブラスカ。『シン』を究極召喚により打ち倒し、命を落とす人。

 

「はじめまして。シーモア=グアドと申します。ユウナちゃんが泣いているところに出くわしたので、少しの間一緒にいました」

「ああ。はじめまして。ブラスカです。その……グアドということは」

「ええ。ご想像の通りかと。ジスカル=グアドの息子に当たります。また、ご存知かもしれませんがグアド族と人のハーフでもあります。そういった事情もありまして、見過ごせませんでした」

「……なるほど」

「ねえ、お父さん。わたし、ねむくなってきちゃった……」

「うん?そうだね。少し眠るかい?」

「……ううん。シーモアさんともう少しお話したい……」

「だったら、ユウナちゃん。私はブラスカさんと話をしているから、その間お昼寝したらどうかな?後で起こしてあげるから」

「……おひるねしてるあいだにいなくなったりしない?」

「勿論」

「やくそくだよ?」

「ああ。約束だ」

 

 ……限界だったらしい。ユウナちゃんは直ぐに眠ってしまった。

 

「ユウナが、大分お世話になったみたいですね」

「いえ。放っては置けなかったので」

「……君にも似たような経験が?」

「……そうですね。グアド族には排他的な部分もありますから、幼い頃に少し」

「……ユウナは、泣いていたんですよね?」

「ええ。ですが泣いていた理由は、母親を失ったことであり、それを完全には共感できないであろう私は、ユウナちゃんを慰めるのではなく、目を背けさせることしかできませんでした」

「いえ。それだけでも十分です。ありがとうございました」

 

 ……この人は。自分も妻を亡くしたばかりだろうに。知ってはいたが、優しすぎるし真面目すぎる。いずれスピラの未来のために命を落とす人だ。そして、私はそれを知っていて、直接話して、良い人なのだと理解してなお、止めようとは思えない。

 止めようとして止まるはずもないが、その時がくれば、私はこの人の犠牲を許容するだろう。未来のためだと、無駄死にでは無いのだと自分に言い聞かせて。……反吐が出る。

 

「シーモア君は、ユウナと友達になってくれるのですか?」

「既に友達になりました」

「同情ですか?」

「……否定は、できません」

「そうですか……。これからもユウナをよろしくお願いします」

「良いのですか?」

「ええ。ベベルに住んでいますから、いつでも遊んであげて下さい」

「ベベルを訪れた際は、必ず」

「ありがとう。…………実は私は、召喚士となるための修行をしているんだ」

「……!」

「驚いたようだね。勘違いして欲しくないんだが、『シン』に復讐したいわけじゃないんだ」

「…………」

「ユウナが、君たちが生きる未来が平和なものであって欲しい。妻のような悲劇がなくなって欲しい。それが私の望みだよ」

 

 違う。あなたじゃ『シン』を滅ぼせない。そしてユウナちゃんは召喚士になる。……あなたじゃなくても良いのかもしれない。必要なのは「ジェクト」と「ティーダ」だ。召喚士は別人でも良いかもしれない。

 マダ、カエラレル。

 

「ユウナちゃんはどうするのですか?」

「……それが気掛かりだった。けれど君がいてくれるならば」

「無茶苦茶です!今日、会ったばかりの他人を信用するなど!」

「そうかな?私の目に狂いはないと思うけどね」

「召喚士など他の誰かが……」

「その誰かにも大切な人がいて、その誰かを大切に思う人がいる」

「それは……」

「それに私は、あの子に胸を張れる父親でありたいという願望もあるんだ。例えば、グアド族に君の居場所を作ったジスカル老師のように」

「っ、父は賭けに勝っただけです!それも負けても命を失うことはなかった!だが、あなたのそれは賭けにもならない!」

「そんなことはないよ。私も賭けてみるさ。っと、ユウナが起きてしまいそうだ。この話はここまでにしよう」

 

 私には、何も変えられない。なにも、変えられなかったんだ。この人はもう、覚悟を決めている。ああ。知っているさ。もう、揺らがない。

 

 

「……んん。あっ、シーモアさん。やくそく、まもってくれたんだ」

「……意外と信用がないな」

「ははは。そうでもないさ。おはよう、ユウナ」

「おはよう、お父さん。そうだ!シーモアさん、またあの光るたまだして!」

「光る玉?そういえば、そんなことを言っていたね。どんなものだい?」

「いえ、そう特別なものでもないですよ。"バファイ""バウォタ""バサンダ""バコルド"」

「わぁ~い」

「……こんなことに魔法を使っていたとは」

「問題は無いでしょう?」

「そうだけど……」

「ねえねえ、すごいでしょ?お父さん?」

「むっ。ユウナ。お父さんにも同じ魔法が使えるからね。いつでも言うんだよ」

「やったぁ」

「ブラスカ殿……」

「…………」

 

 そろそろ時間だな。

 

「では、ブラスカ殿。私はそろそろ。ユウナちゃん、またね」

「そうか。今日はありがとう」

「ううぅ。シーモアさん、またね。ぜったいだよ。やくそくだからね」

「ああ。友達との約束だ。絶対守るさ」

「うんっ」

 

 予定外の出会いはあったが、今回ベベルに来たのは正解だろう。今後、ベベルに来る回数は増えそうだな。

 

 原作まであと13年。私に何ができるのか?

 


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