龍燕達は中庭に来ていた。理由は簡単に説明をするならルイズとキュルケが才人にどちらの用意した剣を使わせるかを争った結果……吊された才人のロープを切り落とせば勝ちといったことになってしまった。
しかし、結果は当然の事キュルケが勝利し、勝ち誇るような笑みを浮かべ、身長の差から見下ろすようにルイズを見ていた。
可愛そうな才人を拘束しているロープを龍燕は短刀を使い解いていく。
「大変だな、才人」
「優しいのは龍燕だけだよ」
才人の声は涙声に近かった。
「…」
ロープを解き終えると龍燕は何かの気配を感じた。
「龍燕?」
龍燕の様子が可笑しいと感じたタバサは龍燕に近づく。途端、ルイズの目の前に巨大なゴーレムが現れ、ルイズを踏もうと大きな足を持ち上げた。
「きゃぁぁぁ!」
そこへ龍燕が瞬動を使ってで割り込み、ルイズを押したと同時に大きな足が龍燕の身体全体を覆い、踏み付けられた。
「し、龍燕?」
状況を読み取ったタバサの顔が変わった。ゴーレムの足元には少ないが確かに赤い液体…… 、血が流れているのが確認出来た。
地面に倒れ込んでいたルイズも龍燕が庇ってくれたことに気づくと杖を持つ手に力が籠もった。
「龍燕……」
するとゴーレムの上の方から女性の声が聞こえた。
「ありゃ?もう一人いったのかい?こりゃ早いね」
ゴーレムの肩の上に乗った顔をフードで隠した女性。
「まさか庇うとはね、…?」
気付くとゴーレムの足が熔解し始めていた。フーケはバランスを取ろうとゴーレムの手を地に付けた。近くにいたルイズは熱気に耐え切れずにその場から離れる。
「一体何が……!」
思考していると真紅の炎がゴーレムの足を貫き、宝物庫の壁にぶち当たった。
「まさか……いや、これは」
フーケは宝物庫に入り、宝を抱えて逃げ出した。
「一体何だったの?」
ルイズ達が熔け落ち、固まった元ゴーレムの足を見た。
「龍燕!」
タバサは必死に固まった土を掘り起こし始めた。それを見てキュルケとルイズ、才人も手伝う。土が熔けるほどの火力で貫かれたはずだったのだが、その土は火傷しない程度まで冷めていた。
「龍燕!しっかりして!」
タバサは龍燕を抱きしめ、必死になって呼び掛けた。身体は汚れているだけに見えたが頭を強く打ったらしく、頭部から出血していた。
その後、龍燕は保健室へ運び、寝台に寝かせ、先生に治療を施して貰った。が頭蓋に皹が入り、重傷だと言われ、タバサは泣き出してしまった。
「ミス・ヴァリエール、ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー。オールド・オスマンがお呼びです」
別の先生からの伝えにタバサは達は学園長室へ向かった。
SIDE 灼煉院 龍燕
(頭が痛む……)
朦朧とする意識の中、目を覚ますと額に手をやった。
「包帯?」
痛みを癒し火で治して寝台から下り、偶然通り掛かったコルベール先生に声を掛けた。
「すまない。タバサを見なかったか?」
「龍燕君?君は重傷で寝てたんじゃ?」
コルベール先生は俺の顔を見るなり驚いた顔を見せてきた。
「重傷?あれくらい軽傷だ。タバサは何処にいるんだ?」
「ミス・タバサならミス・ルイズ達と土くれのフーケを捕まえに行ったよ」
「なんだと。わかった、有り難う」
俺は瞬動で移動しながらタバサの気配を捜した。
SIDE タバサ
私の勇者が倒れた。
龍燕は死ぬかもしれない程の怪我をしてしまった。
私は馬車の上で震えていた。
でも、私は土くれ討伐の志願に一番に杖を挙げた。私は龍燕の敵討ちに行きたいと僅かながら心の奥底でもやもやとした感情が湧き出ていた。
(許さない。絶対に許さない)
杖を掴む手に力が入った。
SIDE OUT
SIDE ルイズ
龍燕は私を庇って……、私なんかを庇って大怪我を負ってしまった。
龍燕には助けられてばかりだと自分でも思う。何故自分が魔法を使えないかを教えてくれたどころか、魔法を一度でも使えるようにしてくれた。
初めて使えたあの時は、心の底から、言葉に出来ない程とても嬉しかった。
龍燕が死んでしまったらタバサにどう謝罪していいかわからない。謝罪なんかしても……。
SIDE OUT
「ここから先は徒歩で行きましょう」
ミス・ロングビルは馬車を止め、皆に伝えた。
皆は馬車から降りた。
今いる場所は鬱蒼とした森だった。昼間だというのに薄暗く、気味の悪い森だった。
何分か歩くと森の中に開けた場所、空き地といった風情に出た。広さは学院の中庭程あった。その真ん中に、元は木こりの小屋のようだった廃屋が建っていた。その近くには、朽ち果てた炭焼き用らしき窯と壁板の剥がれ落ちた建物が並んでいた。
五人はその廃屋の中にフーケがいると考慮にいれ、森の茂みに隠れて廃屋を見つめた。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話しです」
ミス・ロングビルは廃屋を指差して四人に伝えた。
しかし、その廃屋は人の気配を全く感じさせなかった。が、もしフーケがその廃屋にいたならこのまま一気に攻め入り、奇襲を掛けた方が一番の得策だ。
「皆さんは土くれがいるかも知れないあの小屋を見て来て下さい。私は近くを探索して来ます」
「わかりました」
ミス・ロングビルは森に入った。
「それで、あの小屋にどうやって近づくのよ」
タバサは地面に座ると杖を使い、作戦を地面に絵を書きながら説明を始めた。
まず、偵察兼囮が廃屋へ赴き、中の様子を確認する。
そして、中にフーケがいれば、これを出す。小屋の中に土ゴーレム作り出す程の土はない。
外に出さない限り、フーケはお得意の土ゴーレムは使えない。
そして、フーケが外に出たところを魔法で一気に攻撃。その時、フーケに土ゴーレムを作り出す暇を与えずに集中砲火、という作戦。
「で、その偵察兼囮は誰がやるの?」
才人が尋ねるとタバサは短く言った。
「すばしっこいの」
皆の視線が才人に向けられた。才人は溜息をついた。
「俺かよ」
才人はキュルケから貰った大剣を鞘から抜いた。
才人は羽でも生えたようにすっと一足で廃屋のそばまで近づき、窓へ行くとそこから中の様子を見る。いない?と思った才人は、皆へ腕を交差させていない事を知らせた。隠れていた全員が恐る恐る才人に近寄った。
「誰もいないよ」
才人は窓を指差して言った。
タバサはドアに向いて杖を振った。
「罠はないみたい」
そう言うとタバサはドアを開け、中に入って言った。その後をキュルケと才人が続く。
ルイズは外で見張りをすると言って外に残った。
廃屋に入った三人はフーケの手がかりはないかと調べ始めた。
そして、タバサがチェストの中から……『破壊の杖』を見つけ出した。
「破壊の杖」
タバサは無造作にそれを持ち上げ、皆に見せた。
「あっけないわね!」
キュルケが叫んだ。
才人はその破壊の杖を見た途端、目を丸くした。
「お、おい。それ…本当に『破壊の杖』なのか?」
才人が驚きながら言うとキュルケが頷いて答えた。
「そうよ宝物庫を見学した時、わたし見たもん」
その時、外で見張りをしていたルイズの悲鳴が聞こえた。
真っ先に動いたのはタバサだった。
タバサがドアの取っ手に手を掛けた時、天井が吹き飛んだ。天井がなくなり、フーケの巨大な土ゴーレムが廃屋の中を見下ろしていた。
「ゴーレム!」
キュルケが叫ぶ。
タバサは自分より大きな杖を振り、呪文を唱えた。巨大な竜巻が起こり、土ゴーレムにぶつがるが、風系統では土系統に相性が悪く、びくともしなかった。
続き、キュルケが呪文を唱えた。
杖から火が伸び、土ゴーレムを火炎が包むが全く問題にしていなかった。
それを見たキュルケは叫ぶ。
「無理よこんなの!」
諦めの言葉を吐くキュルケだったがタバサは杖を構え直した。
「無理よタバサ!」
「っ」
キュルケに止められタバサは外へ出た。才人はルイズの姿を捜した。
ルイズは土ゴーレムの背後に立ち、魔法を唱えていた。しかし、ルイズの、ただの爆発では全く効いていなかった。
ルイズに気付いた土ゴーレムは振り向いた。
「逃げろ!ルイズ!」
才人はルイズに向かって怒鳴った。
「いやよ!あいつを捕まえれば、誰ももうわたしをゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」
真剣な目でルイズは怒鳴った。
「あのな!ゴーレムの大きさを見ろ!あんなやつに勝てるワケねえだろ!」
「それに!」
ルイズは無意味とわかっていても何度も魔法を放ちながら言った。
「わたしを庇ってくれた龍燕の敵(かたき)よ!」
それを聞いたタバサは足を止めた。
「敵(かたき)………龍燕の」
タバサは振り返り、魔法を飛ばした。
「ちょ、タバサ?」
「敵討ち」
そう言ってタバサは言ってしまった。
タバサとルイズは移動しながら攻撃を始めた。続き、才人も攻撃を仕掛けるべく、土ゴーレムに近づく。
才人は土ゴーレムに一太刀を入れた、が剣が根本から折れ、同時にガンダールヴの力がなくなってしまった。
「あ、やべ」
急いで逃げようとする才人に土ゴーレムの大きな手が迫った。
皆、掴まると思った時、土ゴーレムの手は消えた。