雪風の青髪少女   作:【時己之千龍】龍時

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第06話 吸血鬼:中編 (改)

──村長の家

 

「では、詳しくお聞かせ下さい」

 

 客間に案内されたシルフィ達は村長と話しをしていた。

「最初の犠牲者は、わずか十二歳の少女です…。それから二ヶ月で九人。うち一人は王宮からいらした騎士様です。忌ま忌ましい吸血鬼は夜、何処からか家に忍び込む。血を吸われ干からびた姿を……朝、家族が発見するのです」

「「失礼─」」

 

 龍燕とタバサは同時に手を上げ、言葉が重なった。

 

「龍燕、どうぞ」

 

 タバサは手を下ろして龍燕に譲った。

 

「有り難う。村長は屍人鬼をご存知で?」

「ええ…村の皆も知っています。誰かが屍人鬼として手引きしていると、お互いに疑心暗鬼です……」

「でも確か屍人鬼には…」

 

 シルフィの発言中、扉が開いた。

 

「おじいちゃん…?」

 

 可愛らしい服を着た少女がいた。シルフィはその子を見て声をあげた。

 

「きゃあああ可愛い~~!!」

 

 すると驚いたのか少女は村長の後ろに隠れた。

 

「これこれ。エルザ、騎士様だよ。ご挨拶しなさい」

 

 エルザは小さく頷き、軽く礼儀正しく挨拶を始めた。

 

「…エ…エルザ…です」

 

 途端、シルフィは抑え切れなくなったのか、エルザに抱き着いた。

 

「なんて可愛いの~~~!!お人形さんみたい!食べちゃいたい~!!」

 

 エルザはビクッと身体を震わせ、固まってしまった。

 

「お戯れが過ぎます」

「あだだだだだ!!!」

 

 タバサはシルフィの耳をギリギリと摘み、エルザから引き離した。

 

「………」

 

 タバサがシルフィに耳打ちした。

 

「え、それは……」

 

 シルフィはゆっくりと村長の前に立ち上がった。

 

「屍人鬼には…吸血鬼に噛まれた跡があるの。村人の誰が屍人鬼かもわからない。調査の前にお二人の身体を調べさせて下さい」

 

 すると村長は顔を一変させた。

 

「儂は構いません。じゃが、エルザだけは堪忍してやってくれませんか?」

「堪忍してあげたいけどダメ。例外は許されないのね!」

 

 シルフィは手を人差し指を交差させて言った。

 

 黙っていた龍燕が喋り始めた。

 

「シルフィ様。少しお話が。タバサも」

「龍燕?」

「村長さん。すいませんがお話をしたいので別の部屋にいてもらえませんか?お話を終えたら呼びますので」

「あ、はい」

 

 村長はエルザを連れて出て行った。

 

「龍燕。何かわかったの?」

「意外と早く見付かった」

 

 二人は驚いた。

 

「誰なのね?」

「吸血鬼はエルザだ」

「屍人鬼はさっきの村長?」

「いや違う。普通の気配だ。多分正体に気づいていない」

 

 龍燕の説明にタバサは頷いた。

 

「シルフィ。タバサ。俺はスキがあれば話をしに言ってくる」

「一人じゃ危険なのね」

「わかった」

 

 タバサの了承にシルフィが驚いて振り返る。

 

「どうしてなのね?」

「シエンならきっと、どうにかできる」

 

 簡単な話しを終え、村長達に「検査はやめておく」とシルフィから伝え、村長は安直の息をついた。

 

 

 

 

 夕食になると村長は豪華な食事を持て成した。

 

「どうぞ、お食べ下さい」

 

 シルフィは大きな肉を手に取ってかぶりついた。

 

「生もいいけど焼いても美味しいの~!」

 

 シルフィのその発言に他の皆が驚く。気づいたシルフィは周りをみる。

 

「皆どうしたのね?」

 

 しかしそれに返事はなく、周りは静まり返ったようだった。

 

 シルフィはサラダに手を伸ばし、葉をフォークで刺し、口に運んだ。

 

「あむ、ん?うえい?!にっが~~い!!」

 

 シルフィは涙目になって給士に水を受け取り、すぐさま口へと運ぶ。

 

「この葉は苦いですけど、とても栄養が高くて……この村の特産物なんです」

 

 シルフィに言う給士だったが全く聞いていなかった。

 

「お代わり」

 

 タバサが空になったサラダ皿を持って給士に言った。

 

「俺にもお代わりを頼む」

 

 続いて龍燕も言うと給士は二人の皿を受け取り、台所へ行った。

 

「二人ともこんな苦いものよく食べれるのね?」

「好み」

「ああ、そうだな」

 

 そういうと給士は戻ってきて、それぞれの前にサラダを置いた。

 

「有り難う」

 

 再び二人はサラダを食べはじめた。

 

「私の分はおねぇ、…タバサにあげるのね」

 

 シルフィがそういうとタバサは頷いた。

 

 

 

 

 食事を終えると村長に部屋を借りた。しかし、部屋に入るとすぐにシルフィは寝てしまった。

 

「シルフィは言わなかったな。仕方ない」

 

 龍燕も少し休もうかと寝台に横になろうとした、その時だった。二階からエルザの悲鳴が響いた。

 

「エルザ!」

 

 龍燕はタバサと急いで二階に向った。龍燕の瞬間移動を使えば一瞬だが、従者という役で来ているため使わなかった。

 

 エルザの部屋を確認したタバサが言う。

 

「エルザ、いない」

「いや、廊下の奥の隅にいる」

 

 気配察知で龍燕は、廊下の奥で薄い布団で頭まで被ぶり震えていたエルザを見つけた。

 

「エルザ、何があったんだ?」

「男の人が窓から入って来たの。その男の人は…口から涎を垂らしていて、月の光りで光った牙が見えたの……。怖かった…怖かった」

 

 エルザは泣きながら龍燕に抱きついた。

 

「…そうか」

 

 それが嘘であることを龍燕はわかっていたが、口にはしなかった。

 

「村長。お話しが」

「は、はい」

 

 村長は慌てて返事をした。

 

「この村にいる女性、子供達をここに集めて下さい」

「どうしてですか?」

「守るところを一カ所に纏めれば守りやすくなります。また固まって少数にさえならなければ、屍人鬼も容易には近づけないでしょう。騎士シルフィードもそう思いますね?」

 

 龍燕は視線を村長からシルフィに移した。

 

「そ、そうなのね?」

 

 シルフィは突然言われたため言葉が疑問形になっていた。

 

「は、はぁ…わかりました」

 

 村長は急いで行った。

 

 龍燕は今だに震えているエルザの前に片膝をついた。

 

「皆で下に降りないか?」

 

 エリザは頷いた。

 

 

 

 

 

 次の日、村長の家には十人程幼い子から大人まで女性が集まった。

 

「数は……。これで全員なのか?」

「え、えと…他にもいるんですが…」

 

 村長は困ったような顔をする。

 

「まあ大丈夫だろう」

 

 エルザを中心に観察し、さらに気配察知を村全体に張っていれば、いるであろう屍人鬼を見つける事も出来るかもしれない。また屍人鬼自体気配を掴むことがなくても、村人の動きからも気づけるが……後者となった場合は対処に遅れる可能性は出てくる。

 

「村長さん」

「エルザちゃんは?」

 

 三人の幼い子が村長に話しを掛けた。

 

「多分自分の部屋だよ」

「「はーい」」

 

 二人は走って行った。

 

「あの…」

 

 残った一人の少女が龍燕の羽織りをくいくいと引っ張った。

 

「どうかしたか?」

「あの騎士様の従者なんだよね?」

 

 少女は酔いながらも食事をしているシルフィを見て言った。

 

「ああ、そうだ」

「私のお姉ちゃん、吸血鬼に殺される前にね、占い師さんちのお兄ちゃんとお出かけするってゆってたの。大人には内緒って」

「どうしてそれを俺に?」

「お兄ちゃんは騎士様の従者さんなんでしょ。それに…あの騎士様より強そうだったから」

 

 龍燕はシルフィードを見た。

 

(酔い潰れている騎士様を見たら……十人中十人、そういうだろうな)

 

 龍燕がそう思った時、少女の目から涙が流れた。

 

「お願い、お姉ちゃんの敵を取って……従者様…お願い」

 

 少女は泣きながら言った。龍燕はそのお願いに迷った。

 

「俺の名は龍燕だ」

「シエン?」

「この村から吸血鬼がいなくなるようにする。約束だ」

「うん」

 

 龍燕は少女と指切りを交わした。少女は涙を腕で拭うと笑みを残して友達のところへ走って行った。

 

「いなくなるようにする、か」

 

 敵を取るなら討伐だが、龍燕はできれば討伐は避けたいと思っていた。討伐したとしても、保護ということをしたにしても……いなくは、なるが。

 

「あいまいな約束をしてしまったな」

 

 

 

 

 

 


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