──村長の家
「では、詳しくお聞かせ下さい」
客間に案内されたシルフィ達は村長と話しをしていた。
「最初の犠牲者は、わずか十二歳の少女です…。それから二ヶ月で九人。うち一人は王宮からいらした騎士様です。忌ま忌ましい吸血鬼は夜、何処からか家に忍び込む。血を吸われ干からびた姿を……朝、家族が発見するのです」
「「失礼─」」
龍燕とタバサは同時に手を上げ、言葉が重なった。
「龍燕、どうぞ」
タバサは手を下ろして龍燕に譲った。
「有り難う。村長は屍人鬼をご存知で?」
「ええ…村の皆も知っています。誰かが屍人鬼として手引きしていると、お互いに疑心暗鬼です……」
「でも確か屍人鬼には…」
シルフィの発言中、扉が開いた。
「おじいちゃん…?」
可愛らしい服を着た少女がいた。シルフィはその子を見て声をあげた。
「きゃあああ可愛い~~!!」
すると驚いたのか少女は村長の後ろに隠れた。
「これこれ。エルザ、騎士様だよ。ご挨拶しなさい」
エルザは小さく頷き、軽く礼儀正しく挨拶を始めた。
「…エ…エルザ…です」
途端、シルフィは抑え切れなくなったのか、エルザに抱き着いた。
「なんて可愛いの~~~!!お人形さんみたい!食べちゃいたい~!!」
エルザはビクッと身体を震わせ、固まってしまった。
「お戯れが過ぎます」
「あだだだだだ!!!」
タバサはシルフィの耳をギリギリと摘み、エルザから引き離した。
「………」
タバサがシルフィに耳打ちした。
「え、それは……」
シルフィはゆっくりと村長の前に立ち上がった。
「屍人鬼には…吸血鬼に噛まれた跡があるの。村人の誰が屍人鬼かもわからない。調査の前にお二人の身体を調べさせて下さい」
すると村長は顔を一変させた。
「儂は構いません。じゃが、エルザだけは堪忍してやってくれませんか?」
「堪忍してあげたいけどダメ。例外は許されないのね!」
シルフィは手を人差し指を交差させて言った。
黙っていた龍燕が喋り始めた。
「シルフィ様。少しお話が。タバサも」
「龍燕?」
「村長さん。すいませんがお話をしたいので別の部屋にいてもらえませんか?お話を終えたら呼びますので」
「あ、はい」
村長はエルザを連れて出て行った。
「龍燕。何かわかったの?」
「意外と早く見付かった」
二人は驚いた。
「誰なのね?」
「吸血鬼はエルザだ」
「屍人鬼はさっきの村長?」
「いや違う。普通の気配だ。多分正体に気づいていない」
龍燕の説明にタバサは頷いた。
「シルフィ。タバサ。俺はスキがあれば話をしに言ってくる」
「一人じゃ危険なのね」
「わかった」
タバサの了承にシルフィが驚いて振り返る。
「どうしてなのね?」
「シエンならきっと、どうにかできる」
簡単な話しを終え、村長達に「検査はやめておく」とシルフィから伝え、村長は安直の息をついた。
夕食になると村長は豪華な食事を持て成した。
「どうぞ、お食べ下さい」
シルフィは大きな肉を手に取ってかぶりついた。
「生もいいけど焼いても美味しいの~!」
シルフィのその発言に他の皆が驚く。気づいたシルフィは周りをみる。
「皆どうしたのね?」
しかしそれに返事はなく、周りは静まり返ったようだった。
シルフィはサラダに手を伸ばし、葉をフォークで刺し、口に運んだ。
「あむ、ん?うえい?!にっが~~い!!」
シルフィは涙目になって給士に水を受け取り、すぐさま口へと運ぶ。
「この葉は苦いですけど、とても栄養が高くて……この村の特産物なんです」
シルフィに言う給士だったが全く聞いていなかった。
「お代わり」
タバサが空になったサラダ皿を持って給士に言った。
「俺にもお代わりを頼む」
続いて龍燕も言うと給士は二人の皿を受け取り、台所へ行った。
「二人ともこんな苦いものよく食べれるのね?」
「好み」
「ああ、そうだな」
そういうと給士は戻ってきて、それぞれの前にサラダを置いた。
「有り難う」
再び二人はサラダを食べはじめた。
「私の分はおねぇ、…タバサにあげるのね」
シルフィがそういうとタバサは頷いた。
食事を終えると村長に部屋を借りた。しかし、部屋に入るとすぐにシルフィは寝てしまった。
「シルフィは言わなかったな。仕方ない」
龍燕も少し休もうかと寝台に横になろうとした、その時だった。二階からエルザの悲鳴が響いた。
「エルザ!」
龍燕はタバサと急いで二階に向った。龍燕の瞬間移動を使えば一瞬だが、従者という役で来ているため使わなかった。
エルザの部屋を確認したタバサが言う。
「エルザ、いない」
「いや、廊下の奥の隅にいる」
気配察知で龍燕は、廊下の奥で薄い布団で頭まで被ぶり震えていたエルザを見つけた。
「エルザ、何があったんだ?」
「男の人が窓から入って来たの。その男の人は…口から涎を垂らしていて、月の光りで光った牙が見えたの……。怖かった…怖かった」
エルザは泣きながら龍燕に抱きついた。
「…そうか」
それが嘘であることを龍燕はわかっていたが、口にはしなかった。
「村長。お話しが」
「は、はい」
村長は慌てて返事をした。
「この村にいる女性、子供達をここに集めて下さい」
「どうしてですか?」
「守るところを一カ所に纏めれば守りやすくなります。また固まって少数にさえならなければ、屍人鬼も容易には近づけないでしょう。騎士シルフィードもそう思いますね?」
龍燕は視線を村長からシルフィに移した。
「そ、そうなのね?」
シルフィは突然言われたため言葉が疑問形になっていた。
「は、はぁ…わかりました」
村長は急いで行った。
龍燕は今だに震えているエルザの前に片膝をついた。
「皆で下に降りないか?」
エリザは頷いた。
次の日、村長の家には十人程幼い子から大人まで女性が集まった。
「数は……。これで全員なのか?」
「え、えと…他にもいるんですが…」
村長は困ったような顔をする。
「まあ大丈夫だろう」
エルザを中心に観察し、さらに気配察知を村全体に張っていれば、いるであろう屍人鬼を見つける事も出来るかもしれない。また屍人鬼自体気配を掴むことがなくても、村人の動きからも気づけるが……後者となった場合は対処に遅れる可能性は出てくる。
「村長さん」
「エルザちゃんは?」
三人の幼い子が村長に話しを掛けた。
「多分自分の部屋だよ」
「「はーい」」
二人は走って行った。
「あの…」
残った一人の少女が龍燕の羽織りをくいくいと引っ張った。
「どうかしたか?」
「あの騎士様の従者なんだよね?」
少女は酔いながらも食事をしているシルフィを見て言った。
「ああ、そうだ」
「私のお姉ちゃん、吸血鬼に殺される前にね、占い師さんちのお兄ちゃんとお出かけするってゆってたの。大人には内緒って」
「どうしてそれを俺に?」
「お兄ちゃんは騎士様の従者さんなんでしょ。それに…あの騎士様より強そうだったから」
龍燕はシルフィードを見た。
(酔い潰れている騎士様を見たら……十人中十人、そういうだろうな)
龍燕がそう思った時、少女の目から涙が流れた。
「お願い、お姉ちゃんの敵を取って……従者様…お願い」
少女は泣きながら言った。龍燕はそのお願いに迷った。
「俺の名は龍燕だ」
「シエン?」
「この村から吸血鬼がいなくなるようにする。約束だ」
「うん」
龍燕は少女と指切りを交わした。少女は涙を腕で拭うと笑みを残して友達のところへ走って行った。
「いなくなるようにする、か」
敵を取るなら討伐だが、龍燕はできれば討伐は避けたいと思っていた。討伐したとしても、保護ということをしたにしても……いなくは、なるが。
「あいまいな約束をしてしまったな」