雪風の青髪少女   作:【時己之千龍】龍時

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第10話 炎を纏いし者

 

 三人の前に炎を纏った人が舞い降りた。

 

 その人の身体は炎に包まれ、背には炎で出来た双翼。目や髪は燃えるような紅蓮の光りを放っていた。

 

「シエン……なの?」

「ああ。遅くなったな」

 

 土ゴーレムは左拳を龍燕に放った。

 

「危ない!」

 

 タバサは叫んだが龍燕はそれを軽々と受け止め、粉砕した。

 

 両腕を破壊された土ゴーレムは距離を置いた。

 

「凄い……。シエン。貴方って人間なの?」

「……人間だ」

 

 キュルケの問いに間を置いて龍燕は答えた。直後、龍燕に纏っていた紅の粒子が崩壊して消えた。瞳や髪も同様に、元の黒瞳黒髪に戻った。

 

「龍燕?」

 

 才人がポカンと口を開く。

 

「………精神力が切れた」

「「「え?」」」

 

 皆は驚いた。

 

 才人はキュルケに叫んだ。

 

「キュルケ!それをこっちに投げてくれ!」

「これを?」

 

 キュルケが抱えながら持っていた『破壊の杖』の事だ。

 

 キュルケは才人へ投げた。受け取ると、才人の左手の甲のルーンが輝いた。

 

「龍燕、下がって!」

「了解した」

 

 龍燕は才人の後ろへ下がった。才人は『破壊の杖』を組みはじめた。その『破壊の杖』を龍燕は見て口を開く。

 

「まさか……実弾か?」

「はい!」

 

 照準を土ゴーレムに合わせた才人は『破壊の杖』のスイッチを押した。『破壊の杖』から射出された弾は土ゴーレムの胸部辺りに減り込み、炸裂した。

 

「やったの、か?」

 

 土ゴーレムの弾けた時に出た土が煙の様に舞った。煙が晴れた時、土ゴーレムの上半部を粉砕していた。また、土ゴーレムはバランスを崩して後ろに倒れ、砕けた土は山になった。

 

「粉々だな。そういえばフーケは?」

「あ」

 

 フーケの事を思い出し、辺りを見渡した。

 

「サイト君」

 

 ミス・ロングビルが森から出てきた。

 

「破壊の杖です。あとフーケの姿が見えなくて」

「わかったわ。とりあえずそれは私が預かります」

 

 才人はミス・ロングビルに手渡した。

 

「ありがとう。じゃ」

「「!」」

 

 ミス・ロングビルは破壊の杖を肩に担ぎ、銃口を龍燕と才人に向けた。

 

「さっさと一カ所に集まりなさい。さぁ早く!」

 

 キュルケとタバサ、ルイズは龍燕達の方へ集まった。

 

「さぁて。シエンも力尽きて安心したところで、動かないで?破壊の杖はぴったりあなた達を狙っているわ。全員、杖を遠くに投げなさい」

 

 三人は杖を投げた。

 

「才人」

「なに?」

 

 龍燕は才人に声を掛けた。

 

「シエン!喋るんじゃないよ!」

 

 フーケは怒鳴るが龍燕は無視して続けた。

 

「あれは単発だろう?」

 

 龍燕の問いに才人はニッと笑い、頷いた。

 

「たんぱつ?何よそれ」

 

 フーケは顔を歪めた。

 

「まぁいいわ」

 

 破壊の杖のスイッチに手が置かれる。

 

 キュルケは観念して目を閉じた。ルイズも目を閉じた。タバサは龍燕の羽織りを掴んだ。

 

「タバサ?」

「……」

 

 タバサは何も言わなかった。

 

「大丈夫だ。あの筒からは何も出やしない」

 

 タバサは驚いた顔を見せたが頷き、掴んでいた手を放した。

 

「勇気があるのね」

「いや」

「違うな」

 

 龍燕はフーケに向かって歩き始めた。フーケは咄嗟に龍燕に向け、スイッチを押した。

 

 

カチン……。

 

 

「え」

 

 静けた場にスイッチの押された音が響く。が先程とは違い、何も起こらなかった。

 

「な、なんで?なんで発動しないのよ」

 

 フーケはスイッチを何度も押すが意味は無かった。

 

「さっき言っただろう?単発だと」

「どういう意味よ!」

 

 フーケは怒鳴った。

 

「才人。説明してやれ」

 

 才人は頷き、説明し始めた。

 

「それは俺のいた世界の武器だ。えっと、名前は確か『M72ロケットランチャー』だったかな」

「……ええと、単発というのは簡単に一度きり、だな。つまり、お前の持っている筒は何の役に立たない『ただの筒』になったんだ」

 

 龍燕は瞬動でフーケの背後を取り、首筋に手刀を入れ、気絶させた。

 

「精神力が切れたとしても、体力があればできる事をやればいい」

 

 気絶するフーケに龍燕は言い放った。

 

 次いで来た才人が破壊の杖を肩に担ぎ、皆に見せた。

 

「フーケを捕縛。『破壊の杖』の取り返しに成功。任務達成だ」

 

 皆から歓声が湧いた。

 

 

 

 

 

─学院長室

 

「君達はよくぞフーケを捕まえ、破壊の杖を取り返してきた」

 

 オールド・オスマンは三人に言った。

 

 才人、龍燕を除く三人は誇らしげに礼をした。

 

「フーケは城の衛士に引き渡した。そして破壊の杖は無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」

 

 オールド・オスマンは立ち上がると三人に近づき、一人ずつ頭を撫でた。

 

「君達の、『シュバリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。といっても、ミス・タバサはすでに『シュバリエ』の爵位を持っているから精霊勲章の授与を申請しておいた」

 

 三人の顔がパァと輝いた。

 

「本当ですか?」

 

 キュルケが驚いた声を上げた。

 

「本当じゃ。いいんじゃ、君達はそのぐらいの事をしたんじゃから」

 

 すると先程から元気がなさそうに立っている才人をルイズが見つめた。

 

「……オールド・オスマン。才人には何も無いんですか?」

 

 ルイズの言葉に黙っていたタバサが続けて口を開く。

 

「この任務はシエンとサイトの力があってできました」

「残念ながら、彼等は貴族ではない」

「いいですよ。俺は」

「何もいらない」

 

 才人と龍燕はニッと笑って言った。

 

 オールド・オスマンは二人を見て頷き、ぽんぽんと手を打った。

 

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り、破壊の杖も戻ってきたし、予定通り執り行う」

 

 キュルケの顔がパッと輝いた。

 

「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」

「今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意してきたまえ。龍燕、才人も楽しむといい。わしから送れる感謝とお礼と思っての」

「「はい」」

 

 五人は礼をして学院長室から出て行った。

 

「舞踏会か。やはり礼服がいいかな。才人はどう思う?」

「いいと思うけど。持ってるの?」

「ああ、予備もあわせて二着ある。一着貸すよ」

「いいの?」

 

 才人は驚いた顔を見せた。

 

「主役でその服より礼服がいいと思うぞ?」

 

 龍燕は苦笑して才人の着ているボロボロであちこち汚れている服を見た。

 

「あ…」

 

 龍燕はタバサに部屋を借りて、才人と舞踏会に備え始めた。

 

 

 

 

 

 


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