第01話 召喚
――魔法学院・広場
進級試験。それは進級の際使い魔の召喚をする試験だ。
その進級試験が最も重要視される理由として、『その使い魔の属性により今後の取得する属性を絞る』ということだ。そのため皆が慎重に儀式を進めている。がしかし一人……青髪の少女は違った。その少女の名は『タバサ』といい、偽名である。
そのタバサは儀式に不安を持っていた。その不安は『偽名で使い魔が召喚出来るだろうか?』ということ。彼女は頁をめくり、顔には出さず無表情でいるが、ずっと始まる数日前からそのことを気にしていた。
彼女の成績は先生からも評価しており、凄い使い魔を召喚するだろうと周囲の生徒からも思われている。
「ミス・タバサ」
この進級試験を担当している先生……ミスタ・コルベールが彼女を呼ぶ。
「ほらタバサ、アナタの番が来たわよ」
友人のキュルケにも促され、タバサは本を閉じて杖を握る。
「行ってくる」
タバサは一言、それだけを言い残して先生の方へ行った。
「では、やってみたまえ」
先生の言葉に頷き、タバサは小さく深呼吸をついてから自分の身長近くある杖を前に掲げた。
「我が名はタバサ。五つの力を司るペンタゴン。我が運命に従えし使い魔を召喚せよ」
教科書通りの呪文を唱えながら杖を振るう。すると目の前が輝いた。
「(成功……?)」
タバサがそう思いながら目を細めて見てみると、輝きは段々と小さくなり、何も無かった目の前に青と白の龍が現れた。タバサの二つ名、『雪風』に相応しい青い龍だった。
「凄いじゃない!風龍を召喚するなんて!」
キュルケがタバサの後ろから抱きつく。しかしタバサは自分の召喚した龍を見て、風龍ではないとすぐに気づいた。それから視線が龍からその足元に移った時、キュルケの顔が変わり、周りにいた生徒達も異変に気づいて顔を変えていった。気づいたタバサは龍の足元を見ながら呟いた。
「平民……?」
何故自分の使い魔の足元に平民がいるのか……いや、考えていくと『彼も使い魔として召喚してしまった
のだろう』と思った。
「コルベール先生」
どうすればいいかわからないタバサは平民から視線を変えずに先生を呼ぶ。
「この場合…どうすれば?」
人垣を掻き分け、コルベール先生がタバサに近づく。コルベール先生もその例外に「そうですねぇ……」と悩ませる。
「例外ではありますが……この神聖な儀式ですので続けましょう。その龍とそこで倒れている青年も、間違いなく召喚されていましたのできちんと契約を交わしてください」
「わかりました」
風龍と契約を交わした後、倒れている青年にタバサは近づく。
「ん……これは……血?」
変わった服の生地が黒だったため触れるまで気づけなかったが、生地に触れた手に赤い血が滲んでいた。そして青年を契約を交わしやすいように半身を起こしたときに、彼の背影にまだ小さいが確かに血溜りが出来ていた。それらから彼の出血はかなり出ているのがわかる。
タバサは儀式をすぐに終わらせて、止血して治療に入らないと死んでしまうと思い、呪文を唱えた。
「我が名はタバサ。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
契約のキスが交わされ、青年の左手の甲が籠手越しに輝く。
「先生、契約は終わりました。でも、彼が怪我をしているので保健室に」
「すぐに行きなさい」
タバサは先生に許可を得て、すぐに彼へ浮遊魔法をかけて保健室に連れて行った。
タバサは使い魔となった彼の変わった羽織や服を脱がして気づいた。
「これはどういう……こと?」
服や
疑問を頭に浮かばせながら棚から下ろしていた包帯の入った籠を魔法で元の位置に戻し、タバサは濡らした手ぬぐいで彼の血汚れた身体を拭いていく。
「これでよし」
片づけと洗濯を通りすがりのメイドに頼み、タバサは再び彼に浮遊魔法を掛けて自室に向かう。
自室に戻ったタバサは彼を自分の寝台に寝かせ、椅子で本を読み始める。しかし読書に集中できなかった。彼の異常なほどの回復力がとても気になった。もしかしたら人間に似ているだけで別の生き物かもしれない。でもそれは彼が目覚めないと分からないことだ。
「……ん、ここは……?」
彼が目を覚ましたのに気づいたタバサは、読んでいた本を閉じてテーブルに置き、彼に近づく。
「私はタバサ。貴方は?」
「…俺は
「しゃくれんいんしえん?」
「
タバサは一瞬おかしな名前だと思ってしまった。しかし彼が着ていた物などからここより遠くに住んでいて、それで文化などが違うなら互いに常識の違いもありえると思った。さらに着ていた物に関してはかなりの上物な生地が使われていた。それで彼が地位の高い者かもしれないとも十分に考えられる。
「身体の方は大丈夫?」
「身体か?……なんとも無いが」
そう、とタバサは頷く。
「うむ……俺の知る限り知らない建築方法だな。服装にしても知らない」
「ここはトリステイン魔法学院。そこで私は進級試験で使い魔召喚をしていた」
「使い魔召喚……つまり、それで俺が召喚された……と?」
「そう」
「魔法学院というのもいまいちよくはわからないが、進級試験で召喚ということは送り戻すことは想定していないかな?」
「……そう、ごめんなさい。私は……」
「その召喚というのは指定は出来なかったんだろう?でなければこういったことは起こらないはずだ」
そう言うと
「なら選択肢は少ないな。国に戻れるまでの間、世話になる」
それから
「結構汚れたな。清めの炎」
「それは何?」
「
「う、うん」
かなりすんなりと話が進んでいることにタバサは驚いた。それでも使い魔になってくれるようで同時に安心もした。
「使い魔としての仕事は三つある。一つ目は、使い魔は主人の目ととなり、耳となる能力を与えられる」
「目となり、耳となる……見えるか?」
「見えない」
「そうか」
見えたら凄いなと
「二つ目は主人の望むものを見つけてくる事」
「望むものを、か。それはたとえば?」
「……心の病を治す秘薬……いや、なんでもない」
本当に望むものをタバサは言ってしまい少し俯く。
「……三つ目は?」
「主人を護る事」
「それならできる。使い魔になったからには護り通す」
「そう」
タバサは立ち上がり、テーブルにかけていた杖を手に持つ。
「夕食をとりに行く、ついてきて」
「わかった」