約十年と長く旅をした龍燕は目的をいくつか達成したため、一度足を止めることを考えた。
今まで龍燕が旅をしてきたのには目的というのは、
一つ、魔法世界の村々を回って、討伐等の依頼を受けて報酬をもらい、得たお金の一部を明日奈の学費等にあて、残りは貯める。
二つ、政府側の弱みを見つける事。
三つ、元の世界へ帰る手がかりを見つけ出す事。
大きく言ってその三つである。
また、ずっと旅に出ていると明日奈が寂しくなるので魔法世界の珍しい食べ物等を土産に持って二、三ヶ月に一度明日奈に会いに行く。その時一週間程過ごし、旅の話しを聞かしたりしていた。
明日奈は中等部二年に上がる前日。
龍燕は中等部に上がった明日奈に土産を持ってタカミチに会いに待ち合わせの場所へ向かった。
「久しぶりだな、タカミチ」
「久しぶり龍燕」
久しぶりに会ったタカミチと喫茶店に入って話しを交わす。
「タカミチ。今日は頼みが会って来たんだ」
「僕に?」
珍しいなとタカミチは思った。
「帰って急になんだが……麻帆良学園中等部に明日奈が上がっただろう?俺はもうそろそろ旅をやめて、その学園で……できれば働きたいと思っていてな」
「麻帆良に?そうか。じぁ僕が学園長に聞いてみるよ」
「いいのか?」
「龍燕は僕の先輩だからね。学園長に聞くくらいはしてあげるよ。具体的には何の仕事がいいんだい?」
「そうだな」
少し龍燕は考え、口を開く。
「副教員か、警備関係かな」
「うん…そういえば夜間警備の人手が足りないとか言っていたな。わかった、学園長に聞いてみるよ」
「ありがとう」
勘定を払い、龍燕はまっすぐ明日奈に会いに行った。
待ち合わせの場所に着いた龍燕は、明日奈と会って一日、楽しく話しをした。
次の日、タカミチの案内で学院長室へ向かう龍燕。
タカミチが大きな扉の前で足を止めた。
「ここが学園長室だよ」
「わかった」
タカミチは扉を開けた。
学園長は椅子に座り、待っていた。
「うむ。君が灼煉院龍燕か。高畑先生から話しは聞いとる」
「初めまして。俺は灼煉院龍燕です、よろしくお願いします」
龍燕は丁寧に頭を下げた。
「うむ、君を採用する事に決めた」
「ん?面接…等はしないんですか?」
「人手が足りないのは事実じゃからの。それに君の事は色々とわしの耳に入っとる。戦後は旅に出て、村々で依頼を受けて回ってたとか」
噂になっていたのかと龍燕は思った。
「そうですか」
「で、君にだが。明日から2‐Aの副担任と夜間警備をしてもらいたいのじゃが。よいか
の?」
「はい」
龍燕は再び学園長を見る。
「明日、イギリスのウェールズから新しい教員が来る。その教員がそのクラスの担任となるので、副担任として支援してほしい。また、何かあればわしか、高畑先生に聞くといい」
「わかりました」
「では、明日の七時頃に来るのじゃ」
龍燕は頭を下げて学園長室を出た。