龍燕は下拵えを終えた魚を能力で点けた火で焼きはじめた。段々と魚は焼け、いい匂いが辺りに広がる。
「ん……いい匂いが…、あっ!てめぇ!」
匂いに起きた茶髪の男が龍燕に気づき、瞬時に飛び掛かった。神威は一瞬慌てていたが、龍燕は冷静にその男の額を指突きして転がした。
「待て、そう焦るな。もう少しでいいぐらいに焼ける」
龍燕はパチパチと焼ける魚を見ながら言う。
「痛てっぇ…指突きか?!」
茶髪の男は赤くなった額を手で押さえて言った。
「いきなりなにしやがる!」
男は龍燕を睨みつけ怒鳴る。龍燕は視線を魚から離さずに言った。
「いきなり?最初に襲ったのはお前達の方だろ?違うか?」
「……そうだったな」
龍燕は男の呟く様な声に忘れてたのか?と思った。
「お前、名は?」
「俺はナギ・スプリングフィールドだ。たしか龍燕って言ってたな。紅き翼に入んねぇか?」
「紅き翼……か」
龍燕はよく焼けたのを確認し、串を掴み取った。
「神威、どうする?」
龍燕はどうするかと神威に聞く。
「私は主の意向に従います」
そうかと龍燕は頷き、もう一つの焼き魚を火から取り、ナギに手渡した。
「わかった。とりあえず、協力者となって同行しよう。入るかは後々決める、でいいか?」
ナギは笑って龍燕から焼き魚を受け取った。
「いいぜ」
ナギと少しばかり話していると、ナギの仲間達が目を覚まし、皆で焼き魚を食べた。
焼き魚を食べ終えた後、龍燕は九天の書を出して頁をめくった。すると何頁か文字が埋まっていた。いつの間に埋まったのかを調べてみると、戦闘中に埋まっていた事に気づいた。
「頁、は……8頁か」
さらに九天の書を調べると20頁毎に守護騎士が現れる事がわかった。よく見てみると、更新している頁に掛かれているのは九天の書の説明のようだった。書かれる以前に比べると詳しくわかる。
龍燕は戦いで九天の書の頁が埋まるということにに気づいた。
次の日。龍燕達は景色よく、空気も美味い森と崖壁に阻まれた広い草原で昼食を食べる事になった。
昼食は詠春と龍燕がそれぞれに作った鍋だ。龍燕は煉と暁も出し、より賑やかになる。汁が出来き、具を入れ始めるのだが、詠春側の肉と龍燕側の肉の種類が異なり、火の通りが龍燕側の方の肉は野菜と火の通りが同じなのだ。
詠春はそれを見て疑うような顔をしていたが、すぐにそう思っていられなくなった。馬鹿が火の通りが野菜と違う肉を鍋にそれ一方を入れ始めたのだ。詠春が『この肉は野菜のあとで入れないと駄目だ』と言い聞かした筈だが、ナギは躊躇ゼロ、早く肉が食べたいと適当にどんどん入れていく。
その鍋は仕方なく見て、もう少しで煮えるなと皆が思っていた時、何かが空から二つ落ちてきた。
落ちてきたその二つは勢いよくそれぞれの鍋に当たり、宙を舞った。詠春と龍燕が思わず、口を大きく開き、固まった。
鍋は宙を回転しながら舞っているため、肉が飛び散り、重力に従って落ちはじめる。それをナギ、アル、ゼクトの三人は高速で、より多くの肉を捉え、自分の皿へ確保し、その場から退いた。
空を舞っていた鍋はあろう事か、煉と詠春に落ち、被った。
煉の惨状を見た龍燕はすぐに顔を変えた。煉は一瞬何が起きたかわからなったが自分の惨状に気づき泣きはじめた。隣にいた暁は、煉の惨状を見て慌て始める。
その時、何処からか誰かの声が響いた。
「食事中失礼~~~~ッ!!」
皆は声を頼りに振り返った。
「俺は放浪の傭兵剣士、ジャック・ラカン!!いっちょやろうぜッ」
崖の上で面白そうに笑い、見下ろす男がいた。
龍燕はその男がこの惨状をつくりだした張本人であると確認した。
「何じゃ?あのバカは」
「帝国の…って訳じゃなさそーだな」
ゼクトとナギは先程取った肉を食べながら、崖の上にいる男を呆れ顔で見る。
「……あいつか」
龍燕の呟きに皆が気づき、視線を移した時、そこに龍燕の姿はなかった。
「龍燕は何処じゃ?」
ゼクトが肉を食べながら龍燕を捜す。
「あ、もうあそこにいるぜ」
気づけばラカンと言う奴のところに龍燕が殴り込みに行っていた。
「くっ…行き遅れたか」
鍋を今だに被った詠春は肩を震わせながらラカンを睨んでいた。
「よくも、煉を泣かせたなっ!!」
龍燕はラカンに向け固打を放つ。ラカンは大剣で防ごうとしたが意図も簡単に折れてしまった。
「嘘だろ?」
ラカンは折れた大剣を捨て、すぐさま腕をクロスして防御をとるが、その防御ごと龍燕はラカンを吹き飛ばした。
「なっ?!てめぇ…一体なにモンだ?!」
ラカンは必死に攻撃を試みるが全て流される。または当たってもびくともしない。こんな奴は初めてだとラカンは思った。
戦いはすぐに終わった。時間にして5分もない。結果は龍燕の圧勝だった。
服のほとんどが灰になり、腰布のような状態に。身体も傷だらけのボロカスのラカンは今……龍燕に鋭い眼光で睨みつけられながら、煉の前で必死に土下座になり、額を何度も地面に叩きつけ謝っている。
煉は先程龍燕に清めの炎を掛けてもらったため綺麗になっている。
近くで見ている神威や紅き翼も凄く震えていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」
今だに謝り続けるラカン。龍燕はラカンの処遇を被害を直接受けた煉に任せた。とりあえず思い付くまで謝っててねとラカンに言ったため、ラカンはひたすら謝り続ける。
「決まった!」
ラカンが身体をピクッと震わせ、無言でゆっくりと顔を上げ煉を見上げる。
「煉、どうするんだ?」
ラカンは顔を青くしながら煉を見る。
「うん。ラカン……」
煉は満遍な笑みを浮かばせてラカンを見据える。ラカンは青を通り越し、顔色が蒼白になる。
「私達『煉双暁』の……騎士(下僕)になって」
「………え?」
ラカンは強制的に煉の、煉双暁の騎士(下僕)となった。