九天の王となった操炎者   作:【時己之千龍】龍時

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第2章 学園編
第10話 エヴァとの再会


 

 翌日の早朝。龍燕(シエン)は服装に悩んだ結果、普段着ていた特務機動隊課長用制服を纏って学園長室を訪れた。特務機動隊課長用といってもこの世界では胴着に羽織を羽織っている感じのだ。

 

「おはよう、龍燕先生」

「おはようございます」

「?お主は着物…というか胴着のようなものしか持っておらんかったのかの?」

 

 龍燕の格好を見て学園長は聞いた。

 

「ええと、はい。俺のいた国にはこういうものしかなく、今も持ち合わせてはいません」

「ん。わかった。周りに影響がでなければ、特別にそれで良しとしよう」

「ありがとうございます」

「ほっほっほっ。それにわしじゃって似たようなモノだしのぉ」

 

 学園長は自分の服装を見ながら行った。

 

 そこへタカミチ先生と明日奈、このか。あともう一人……。

 

「まさか、ネギか?」

「龍燕さん?」

「大きくなったな」

 

 龍燕はネギの頭を撫でた。

 

「あれ?知り合いかい?」

 

 タカミチは龍燕とネギを交互に見ながら言った。

 

「ああ。ん?って事は……」

 

 龍燕は学園長を見る。

 

「うむ。ネギ先生は今日から2‐Aの担任じゃ」

「ほう、ネギが」

 

 再び視線をネギに向けると明日奈が何故か嫌そうな顔をしていた。

 

「ん、どうしたんだ、明日奈」

「私は嫌よっ!さっき登校中に酷い事言われたし、酷い事されたんだから!」

「え、でもあれはほんと」

 

 ギロッと明日奈はネギを睨んだ。ネギは黙り込んでしまった。龍燕は随分変わったなと明日奈を見て笑ってしまう。

 

「ま、まぁ教育実習とゆーことになるかのう。今日から3月までじゃ。と。ところで…」

 

 学園長の視線がゆっくりと龍燕に向け、人差し指を立てた。

 

「龍燕君には彼女はおるかの?どーじゃな?うちの孫娘(このか)なぞ」

「ややわじいちゃん」

 

 学園長の突然の発言にいつの間にかその隣に移動していたこのかがトンカチでガスッとツッコミをいれた。学園長の頭からどくどくと赤い血が流れる、が学園長は平然とフォフォフォと笑っている。

 

「学園長。俺には心に思う人がいるので丁重にお断りいたします」

「む…そんなふうに言われたのは初めてじゃ。よし、次は正式に話し合いで」

 

 再びこのかのトンカチが振るわれた。

 

 

 

 

 明日奈達を先に教室へ行かせた後、龍燕とネギはタカミチに教室へ案内してもらった。

 

「何かあれば、僕は職員室にいますから言って下さいね。あ、あとコレ」

 

 タカミチは本をネギへ手渡した。

 

「出席簿だよ。じゃ僕はこれで」

 

 タカミチは職員室へ向かった。

 

「さて入るか」

「はい」

 

 龍燕は教室の引き戸に手を触れた時、違和感を感じた。よく見ると、戸と柱の間に隙間が空いていた。それを辿り、視線を上に向けると黒板消しが挟まっていた。その罠になんとバレバレなと思いながら、戸を引くと同時に落ちてきた黒板消しを掴み、足元の引っ掛け棒を跨ぎ、さらに天井から落ちてきた水入りバケツを右手の人差し指の先で底の中心を支え、飛んできた玩具の矢を左手の指の間で挟んだ。

 

 そして教卓の前に立った龍燕は、上に水入りバケツと玩具の矢を置き、口を開く。

 

「うむ、まぁまぁの罠だったな」

 

 教室内は何故か白けたが、龍燕の後を追う様に引っ掛け棒を跨ぎネギも教室へトコトコと入って来る。

 

「えー、今日よりこの組の副担任をすることになった、灼煉院龍燕だ。担当教科は特にない。よろしく」

 

 龍燕は簡単な自己紹介をして礼をし、ネギと場所を交代する。

 

「僕はこのクラスの担任になりました、ネギ・スプリングフィールドです。皆さん、よろしくおぬがっ?!」

「え?」

 

 ネギは礼の時に頭をおもいっきり教卓にぶつけてしまい、龍燕が驚いて声を漏らしながら振り返る。

 

「…大丈夫か?」

「はい…」

 

 赤くなった額を抑え、涙目になるネギ。

 

「か……」

 

 龍燕はどうしたんだ?と生徒達へ視線を向ける。

 

「「「可愛いーーっ!!」」」

 

 生徒達は突然声を上げ、龍燕は思わず耳を手で塞いだ。そして龍燕とネギを取り囲む様に生徒が押し寄せてきた。

 

「出身は何処ですか?」

「ウェールズの山奥で…」

「龍燕先生は?」

「ええと……すまないが答えられない、と言うより皆下がれ!」

 

 皆はえぇと不満そうに声を漏らしながら、それぞれの自分の席へ戻った。

 

「一度に言われても困るからな。誰か代表して、質問をしてくれ」

 

 龍燕がそう言うと、一人が手を上げた。

 

「うむ、名前を教えてくれるか?」

「私は朝倉和美。よろしくね。まず担任のネギ先生から聞きますね」

 

 朝倉はネギに質問をし始めた。

 

 

 

 

「はい、ありがとうございますネギ先生。じゃ、次に副担任の龍燕先生に質問します」

「ああ、答えられる範囲でな」

「では出身は?」

「出身地か、すまないが答えられない」

「そうですか、では!」

 

 朝倉は声を上げ、真剣な顔で龍燕を見る。次はそんな真剣になるものか?と思いながら真剣な顔で朝倉を見据える。

 

「龍燕先生!ずばり、彼女はいますか?」

「……」

 

 予想外な質問に口が開かなかった。龍燕は教室内を軽く見回す、……エヴァンジェリン?(龍燕は今気づいた)と目があったがすぐに逸らした。

 

「ずばり、彼女はいますか?」

 

 さらに朝倉はおして言ってくる。

 

「……いないな」

「ではっ!この教室内に好みの方はいますか?」

「好みか…」

 

 龍燕は教室内を見渡す。エヴァに顔に再び目線を止めてしまったがすぐに視線を逸らした。

 

「…さて、どうだろうな」

 

 視線を逸らしたのを逃さずに見ていた朝倉は目を光らせて言った。

 

「今、逸らしましたね?いたんですか?」

「……どう、だろう…な」

「そうですか。質問は以上です」

 

 朝倉はニヤリと笑いながら席に着いた。龍燕はネギより質問数が少ない感じがしたがまぁいいかと次に移った。

 

 

 

 

 その後龍燕は職員室に戻りネギの初授業となったが、生徒内で喧嘩が起こりまともな授業にはならなかったらしく、職員室へ戻ってきたネギは溜め息を着いていた。

 

「大丈夫か?ネギ」

「はい、大丈夫です」

 

 龍燕はネギを心配そうにみる。

 

「まぁ最初は誰だって上手くいかないものさ。俺だって最初は難しいと思った事はある」

「龍燕は教師をやったことがあったの?」

「正確には『戦技教導官』だがな。俺は自分の国にいた頃、戦い方や体作りを中心に教えてたんだ」

「戦い方…と体作り、ですか」

 

 ネギは?を顔に浮かばせた。

 

「まぁ内容は随分と離れているが、何かを教えるという点では同じだろう。日に日に経験を積んでいくといい」

「はい」

 

 ネギは笑った。龍燕は励ますことが出来たなと思いながら笑い返した。

 

 

 

 

 放課後。龍燕は学園長にエヴァの住んでいる家を教えてもらい、向かっていた。

 

「この辺り……だろうか」

 

 龍燕は学園長に貰った地図を見る。そして周りを見る。龍燕は溜め息を着いた。

 別に龍燕が地図を読めない訳ではない。また日本語は羅暁語とほとんど同じだったから読むことにも問題はない。問題があるとすれば学園長の地図の方にあるのだ。

 

「何故線と丸しか書いてないんだ……」

 

 広い学園内を歩いていると、目の前に独特な耳いや、アンテナを着けた生徒が歩いていた。

 

「あの子は…俺の受け持つ組の、茶々丸と言っていたな」

 

 龍燕は茶々丸に近づいた。気づいた茶々丸が振り返る。

 

「あ、龍燕先生こんにちは。これからお帰りですか」

「こんにちは。これからエヴァの家に行きたいんだが知らないか?学園長から貰った地図があるんだが……線数本と丸しか書いてなくてな。全くわからんのだ」

 

 そう言って例の紙を見せた。

 

「……確かに…これだけではわかりませんね。では、私が案内します」

「ありがとう。茶々丸、だったな」

「はい。茶々丸です。これから丁度マスターのところへ向かうところでしたので。気にしなくても構いません」

 

 龍燕は茶々丸のいうマスターというのに気になったが案内してもらい、エヴァの家に着いた。

 エヴァの家は森の中に建てられていた。

 

「茶々丸に会えてよかった。こんなところじゃ明日か、それ以上掛かったかも知れない」

「いえ」

 

 茶々丸にお礼を言いつつ、龍燕は茶々丸の後を歩き家に入った。家の中は大量の手製と思われる異様な人形が沢山飾られ、他にも魔法薬の様な物も並べられていた。

 

「では、マスターをお呼びしますので少々お待ち下さい」

「了解」

 

 茶々丸はペこりと頭を下げ、階段を上り二階へ行った。その数秒後、ゴトンと物音がしたかと思ったら、足音が響き、エヴァが下りてきた。

 

「遅い!何をしておった!」

 

 エヴァは下りて来るなり龍燕に怒鳴りつく。

 

「……何の事だ?」

 

 龍燕は訳がわからず?を浮かべた。直後龍燕はエヴァの拳を顔面へもろに受けてしまった。

 

「っ?!」

 

 しかし、自ら拳を当てたエヴァ側が痛かったらしく半歩下がってから再び怒鳴った。

 

「き、貴様っ!どれだけ頑丈な顔をして……いやそれより、約束の三年を無視して私の前にのこのこと現れるとはいい度胸だ!」

「三年……?」

 

 龍燕は考えるが約束した覚えは全く無かった。

 

「何の事だ?」

「呪いだ!登校地獄の呪い!貴様が解くはずだったのだろうが!」

「呪いって何の事だ?何故俺が解く筈と?説明してくれ」

「しらばっくれるつもりか!ナギから貴様が呪いを解きに来ると聞いていたぞ!?」

 

 ナギが?と龍燕が驚いた。

 

「そんな事全く聞いて…、まさか……ナギの奴、伝えたつもりで忘れたのか?!」

 

 そう言って龍燕はあいつならありそうだなと額に手を置いた。

 

「ナギめ……いい度胸だ……おい!私の呪いを今すぐ解け!それから奴を追いかけてしばき倒してやる!」

「すまないが……俺が解ける前提で言っている様だが、正直解けるかわからんぞ」

「なんだと?!貴様は魔法使いではないのか?」

 

 エヴァの問いに龍燕は首を振って答える。

 

「全く違う。俺は剣術と体術と能力中心だ。そっちの魔法に関しては全く、専門外だ」

「そっち?そっちとはなんだ!」

 

 エヴァは訳がわからず、龍燕に怒鳴る。

 

「まぁとりあえず魔法はそんなに詳しくはない」

「そ、そんな……馬鹿な………」

 

 エヴァは力が抜けた様にへなへなとその場に崩れた。

 

「くぅぅうぅ!」

「ん……」

 

 そして次にエヴァと目が合った瞬間……龍燕は気がつくと荒野に立っていた。

 

「ここは…精神世界か」

「貴様……本当に『灼煉院龍燕』なのか?貴様が本物か……確かめてやろう!氷神の戦槌!」

 

 エヴァの真上に軽く二十メートルを越える氷塊が形成された。

 それはまるで、満月のように丸い氷塊だった。

 

「待っぅぎぇ?!」

 

 不意の攻撃に龍燕は咄嗟に防御の体勢をとるが、それをまともに喰らってしまい、地面に減り込んでしまった。

 

 

 

 

 


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