第01話 九天の王
遺跡、と言っても見た目的判断だが。周りは石造りの部屋、……と鎖に縛られた本?
「なんだ、この本は」
龍燕は立ち上がり、壁に設けられた台に置いてある本に近づく。
本は紅を基調とした表紙に、黒十字が描かれていた。
「これは……遺失物、か」
龍燕がその本の前にたった時、本は輝き、浮きはじめた。
『封印を解除します』
本が龍燕より高い位置まで浮いた時、本を留めていた鎖が弾け飛んだ。
『解除…終了。起動します』
本は器械音声を発しながら頁が物凄い勢いでめくれていく。
『主の名を、教えて下さい』
「主?」
『はい。あなたが、我が主です』
突然の事に龍燕は、頭で理解するのに10秒近く掛かった。
「……俺の名は、龍燕。
本の頁が全てめくり終わると、初めの頁に戻り、その頁に字が刻まれ本は閉じた。そしてその本から紅に輝く、楕円の光りが飛び出した。
「我が主。我らに、名を与えて下さい」
光りから先程の器械音声とは違う、別の声が出だ。
「お前の名を?」
「はい。私と、本は名を持っていません。どうか我らに、名をください。そして契約の言葉をお願いします」
龍燕は一度目を閉じ、口を開いた。
「我、
龍燕は一区切りして続ける。同時に龍燕は何か、温かなモノが全身を覆うように感じた。
「我、灼鳳羅燕の名の下に、汝に名を贈る。我が半身の名を。
紅に光っていた楕円の光りが粒子となって塵と吹かれた。中から姿を現したのは、簡単な作りの紅の胴着を着た、身長30cm程の少女だった。
「契約は交わされました。我が九天の王よ、現れることを長くお待ちしておりました。我がその身は一片に至るまで主のモノです。未来永劫。貴方のためだけに存在します」
「よろしく、九天。神威」
龍燕はよくはわからなかったが、九天と神威の情報が頭に入って来る。精神の一部が繋がっているようだった。
「神威」
「はい主」
「ここは何処かはわからないか?」
「私はまだ目覚めたばかりでわかりません。お役に立てず、申し訳ありません」
神威は応えられず、残念そうな顔をする。
「そこまで落ち込むな。確かに目覚めたばかりのお前にわからないな」
龍燕はそういい、神威は周辺空域に察知を掛けはじめた。
「察知か。何かわかったか」
「はい。詳細な事はわかりませんでしたが、ここから外への道程はわかりました」
「よくやった。神威」
龍燕は神威の頭を撫でて褒めた。神威は顔を少し赤く染めて照れる。
「ありがとうございます、主」
龍燕は九天を
神威の案内のお陰で迷路の様な遺跡を僅か10分足らずで出る事が出来た。
「神威のお陰だ。あんな迷路の様な道程、俺一人じゃ時間掛かってたよ。ありがとう」
「いえ、私は主の……我らが九天の王のためだけの騎士ですから」
「そうか」
遺跡の出口は森の中…詳しくいえば地面にあった。その遺跡は龍燕達が出たと同時に消えてしまった。
その後龍燕は森の中を歩きながら九天の書を調べた。調べようとすればすぐに頭の中に九天の書の記録が流れ込んでくる。九天の書の構築は未完成ということに気づいた。
九天の書は、日に日に頁を埋めて行くようだ。その日がどのくらい埋まるかはそれぞれ違いがあるらしい。
「ん」
龍燕は誰かの気配を感じた。同時に神威も常時展開している察知に反応があった。
「主、何人かがこちらに向かってきます」
「この気配は……魔力か」
高い魔力を持つ者が近づいてくる。
「如何致しますか?」
神威が龍燕に聞く。
「いや…もう考える暇は無いようだ」
気づけばすぐ後ろに何人か立っていた。
そしてその先頭の男が声を掛けてきた。
「おい!そこのお前!」
龍燕はゆっくりと振り返る。
「何かな?」
「お前、一体何者だ?」
先頭の茶髪の男が龍燕に聞く。その者達を見るかぎり盗賊や山賊には見えない。
「…九天の王、灼煉院龍燕だ」
「王…ですか?」
「まぁなったばかりだがな」
「そんなこたぁどうでもいい!俺と勝負しろ!」
突然茶髪の男は駆け出して来た。
「やる気か」
その後に茶髪の男の後ろにいた奴らも動き出した。
「…数は四人か」
龍燕は攻撃態勢に移った。
30分後。龍燕は何故襲って来られたかはわからなかったが、襲ってきた四人を能力を使わずに返り討ちにして気絶させた。
龍燕の腹が鳴る。考えてみると、まだ何も食べていなかった事を思い出す。
「むぅ…腹が減ったな。神威、近くに食べれそうなモノがあるかどうか見てくるから、そこの奴を見ててくれ」
「はい、わかりました」
龍燕は見張りを頼んで食料探しに出た。