試合は一試合目を終えた次の日からは一日二試合というペースで進んだ。
予選は能力無しでも余裕な戦いで今のところ勝ち進んでいた。しかし、次の予選決勝の相手で情報が入った。相手は英雄の一人らしいのだ。
「英雄か。能力を使わんとだめか」
予選決勝前の試合は、相手は普通だという様に魔法を使って来た。しかし、威力もそこまで無く、速さもないが英雄とまでいう人だから強いんだろう。
「相手の力次第で決めよう」
龍燕はそう決めた。
アリシアにいつも通り暁を護衛につかして予選決勝の場へ向かった。
予選決勝の場へ踏み込むと剣を持った男と仮面を付けた人がいた。
『とうとう来ました、Dブロック予選決勝試合!』
アナウンスが会場内に流れた。
『西方はここまで目立つ魔法を使わず勝ち上がって来た新人拳闘士、灼煉院龍燕選手。二人組で戦う試合で唯一一人で勝ち進めるという拳闘士です』
『東方は紅き翼の一人、ベテランをも越えた英雄拳闘士のジャック・ラカン選手!』
すると会場内に喚声が上がった。
『では!Dブロック予選決勝試合!始めて下さい!!』
龍燕はゆっくりと歩き、近づいた。対するラカンは跳ね上がり、空中で構えた。
「ラカン、適当に右パンチ!」
強烈なパンチが龍燕をたたき付け、そこを中心に砂埃が高々と上がった。
「安心しろ。寸止めだ」
親指を立てて決め台詞を言うように言った。
「新人相手にちとやり過ぎたか」
ラカンはそういうが、声を出して笑うその顔に本当に思っているのかと疑うものは多いだろう。
砂埃が晴れると、地面には巨大な拳の形に凹んでいた。しかし、龍燕の姿がそこにはなかった。
「いない?(……まさか跡形も無く潰しちまったか?)」
背中に冷や汗が流れ、徐々に焦り始めるラカン。
途端、ラカンの背後に龍燕が現れた。
「お前と似た感じに行くぞ。……シエン、超適当に右烈掌!」
龍燕は本来一点集中して繰り出す烈掌を文字通り適当に、集中無しで放った。
英雄ラカンは吹き飛び、先程凹んだ地面に更に大きく深く手の掌の形に減り込んだ。それを見たもう一人の仮面の男はあっさり墜ちたラカンを見て慌てた。
「(ラカン殿をこうもあっさりと……強い、いや強過ぎる…)」
するとラカンがスゥと立ち上がった。
「…ハハ……ハハハ…」
ラカンは笑い始めた。
「ハハハハハッ―――ハッ……」
気の狂った様な笑いが辺りに響くと、糸が切れたように静まる。すると龍燕は一瞬にして何かの力に当てられた。
「この力は……魔力、か?」
龍燕の視界からラカンが消えると背中に衝撃を受け、地面にたたき付けられた。
「なんだ今のは」
龍燕は立ち上がると続き、ラカンが急接近し、拳を繰り出してきた。
「(つ、強い…)」
龍燕はラカンの攻撃を全て受け流し、距離をとった。
「さすが、英雄と言われるだけあって強いな」
「ハッ!その攻撃を一撃目以外全てを受け流すおめぇもすげえよ」
距離を取った龍燕は動きを止める。
「これからは『力』を使わせて貰う」
「やっぱりな」
ラカンはニヤリと笑った。
「隠してんだろ?出しな。出し惜しみすんじゃねぇよ。思いっ切り来な」
「ああ。改めて、行くぞ」
龍燕は瞬動でラカンの背後に周り、固打を繰り出すがラカンはそこにカウンター、左肘を突き出した――が虚空を突いた。
「!、グッ…」
龍燕の掌打はラカンの右腹を捉えていた。
「眞炎流掌技奥義之貮『震鉄・烈掌』!」
「ガハッ?!」
ラカンは吹き飛び、周りを覆う魔法防壁を貫通し、壁に減り込んだ。
砂埃が立つ壁からはラカンは立って来なかった。気配は感じたので気絶したようだった。
「次は…」
龍燕は仮面の人を見ると手を振り、「…………辞退します」と負けの宣言をした。
『か、かか勝ちましたァ―――!英雄ジャック・ラカンに新人拳闘士、灼煉院龍燕選手圧勝ォ!本選進出決て―――いッ!!』
アナウンサーは勝利した龍燕にインタビューを始めた。
「まずお名前から改めてお願いします!」
「龍燕。灼煉院龍燕だ」
「龍燕選手はこの大会で優勝して賞金を手に入れたら何に使われるんですか?」
「賞金を手に入れたら旅費にする予定だ」
「旅費ですか。期待が高まります」
アナウンサーは大きな声でいい、観客も凄く喚声が湧いた。
予選決勝戦が終わり、龍燕はアリシア達と合流した。
「龍燕お兄ちゃんってすっごく強いんだね」
さっきのラカンとの戦いを見ていたアリシアが興奮しながら話しを掛けてきた。
「まだ完全には出してないがな」
「え?本気じゃないの?」
アリシアは驚いた顔で聞く。
「まだ相手はいるんだ。ここで本気を出したら後が危なくなる」
「ふーん。そんなんだ。ねぇ龍燕お兄ちゃんって本気出したらどのくらい強いの?」
「そうだな……」
龍燕は考える。例える相手がいない。いてもアリシアは知らないだろう。なら、出来ることになる。
「星は潰せるな。軽く」
「星は潰せるってどういう意味なの?」
難しかったのか顔に?を浮かべるアリシア。
「……簡単に言えば、星を壊す事ができる……かな?まぁしないがな」
「そんな事が出来るの!?」
跳びはねそうなくらいアリシアは驚いた。
その後、龍燕は受付に行き今後の流れを教わり、部屋へと戻ると夕食を食べた。量はいつもより多かった。
「ええと、明日は会場の準備で休みと言っていたな」
龍燕は頭を掻いた。
「アリシア」
ソファーで暁と話しているアリシアを呼んだ。
「なぁに?」
「明日は休みだから遊びに行かないか?」
パァーとアリシアの顔に笑顔に染まった。
「うん!」